虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

21/05/29(土)02:22:38 1月4日... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

21/05/29(土)02:22:38 No.807526420

1月4日。 新春の冷たい空気と、正月のとぼけたような静かな街中。 正月休みも早々に切り上げ、トレーナーは出勤し、自室で各書類に眼を通していた。 普段は若いウマ娘の声が広がる学園内も、正月休み中とあって、自然と静かである。遠くで走るパトカーのサイレン音すらよく聞こえる程度に。 そんな最中、トレーナー室のドアが開いた。 「おっちゃん?」 と、開いたドアからひょっこり顔を出したのは、彼の教え子のアイネスフウジンである。 彼もフウジンの姿を確認すると、手を軽く上げ反応する。 フウジンは何もニコニコしながらトレーナーの元に歩み寄り、 「あけましておめでとうございます」 と一言。 深々と頭を下げるフウジンに対して 「こちらこそ」 と軽く頭を下げるトレーナーである。

1 21/05/29(土)02:22:57 No.807526470

顔を上げたトレーナーに 「見てよ、おっちゃん!」 とアイネスフウジンが満面の笑顔で話しかけ 「お年玉が増えました!」 と、目の前にお年玉袋を広げて見せた。 朝日杯でフウジンは一着を取ったのだが、それは瞬く間に親戚や近所の人にも伝わった。 親戚から電話が掛かってくるわ、近所を歩けば『おめでとう!』の嵐。 彼女に浴びせられた祝福の意思は、こうして『お年玉』という形で、目に見える収入となって現れたのだった。 「そうか、良かったな」 と、いつもの淡々とした調子で応えるトレーナー。 そんなトレーナーも、フウジンの見えないところで大喜びしている。彼女の前で感情をあらわにしないのは、彼の大人としての意地だった。 「機嫌がいいところアレだがな、次のレースの話をしてもいいか?」 「うん!」 フウジンの様子を見て、トレーナーはソファに座るよう促す。 フウジンとトレーナーはソファに向かい合って座った。

2 21/05/29(土)02:23:18 No.807526545

「皐月賞を目指す」 というトレーナーに 「いいんじゃない?」 あっさり全肯定するフウジン。 それに頷くと、トレーナー話し出す。 「ただ皐月賞に一直線に登録は出来ない。皐月賞に登録するにはトライアルレースの弥生賞で三着以内。それで優先登録権が得られる。だから、弥生賞で3着以内。これが目標だ。それと」 「と?」 「この二つのレースは芝2000mだ。お前は今まで本番では1600m迄しか走ったことがない」 「そうだね」 「だからこのレースに出てもらおうと思ってる」 そう言ってフウジンの前に出された出バ登録書には 『共同通信杯 芝1800m』 と書かれていた。

3 21/05/29(土)02:23:33 No.807526591

「1600と2000、それを埋めるためにまずは肩慣らしだ。ただこのレースで伸びる200m。この距離で苦労するようなら、弥生賞への参戦も見直そうと考えてる」 そう話すトレーナーに 「うん、わかったの・・・!」 と鋼のような意志を持ち、フウジンは応えたのだった。

4 21/05/29(土)02:23:57 No.807526648

2月上旬、共同通信杯が開催された。 レースの最終局面、実況が叫ぶ。 『さぁ第四コーナーを抜けて最後のストレート!さぁ、アイネスフウジン、後ろを見た!まだ後ろを見る余裕がある!まだスパートを掛けない!さぁ後続がスパートを掛けてくる!アイネスフウジン、軽く加速した!先頭は桃色の勝負服!差を広げた!差を広げた!!!決まった!勝ったのは1番アイネスフウジン!!!』 アイネスフウジンは逃げ切った。 5バ身差の圧勝だった。 「なんだこれは・・・」 あまりの事に戸惑いの声を上げるトレーナー。 多少苦戦しても勝ってくれるとは思っていたが、ここまでの圧勝になるとは予想すらしていなかった。 走り終わったアイネスフウジンが、白い歯を見せながら、ターフの中からトレーナーに手を振っていた。 嬉しい戸惑いを抱えたまま、トレーナーも手を振り返すのだった。

5 21/05/29(土)02:24:45 No.807526779

2月。共同通信杯を終えて、トレーナー室にて二人はレースを回顧する。 「余裕だったな」 「そうなの」 レースを振り返って思ったのは、予想以上の手応えのなさだった。 「今日からどうするの?」 「そう、だな・・・」 少し考えるようにトレーナーは首に手を当てる。 何せ共同通信杯で課題が見つかるかと思ったら、一切見つからなかったのだ。 「・・・弥生賞は、3月に入ってすぐだ」  「うん」 「・・・とりあえず、皐月賞を目指してスピード中心のトレーニングをしよう」 「うん!」 二人はそうしてトレーニングを始める。 もう弥生賞も余裕だと思った。また圧勝できると思った。 このときは、そう思っていた。

6 21/05/29(土)02:25:13 No.807526852

3月1日。夜。 「ただいまー」 「お帰りなの」 美穂寮にて。同室のウマ娘が帰ってきたのを出迎えるアイネスフウジン。 短く整えられた髪、引き締まった筋肉質の体。彼女の名はメジロライアンという。 「最近遅いね、ライアンちゃん」 「うん!弥生賞が近いからね!」 「あ、そうか、ライアンちゃんも出るんだっけ・・・」 「そうだよ、フウジン」 少し怪訝な顔をして 「フウジン、ひょっとして忘れてた?」 「そ、そんなことないの!!」 「本当に~?」 「ほ、ホントなの!!」 そうからかい合い、顔を見合わせて笑い合う二人である。

7 21/05/29(土)02:26:14 No.807527014

「フウジンはいいね」 「何が?」 首をかしげるフウジンに対して、 「だってもうG1取ってるじゃん」 と、困った笑顔で返すライアン。 メジロライアン。実力が十分にあるにも拘わらず、いまいち勝ちきれないウマ娘。 そしてその思いが、努力の量に結びついていることを、フウジンはひしひしと感じている。 「そんなことないの」 と困ったように返すフウジン。 そして 「明日も早いからもう寝るの」 といい、 「あ、ごめんね!」 とライアンが返す。

8 21/05/29(土)02:26:25 No.807527052

逃げるように布団の中に入るフウジンは、布団の中で思った。 (このままで、このままで大丈夫なのかな・・・) 窓の外には、季節外れの春の嵐が迫ってきていた。

9 21/05/29(土)02:27:04 No.807527146

3月上旬。 弥生賞が中山競バ場で開催される当日。 前日、猛烈な雨が降り、当日は晴れたにも拘わらず、バ場の発表は不良だった。 中山競バ場の控え室にて 「不良、か」 と、トレーナーは険しい顔でつぶやいた。 アイネスフウジンも、いつもと異なるトレーナーの様子を見て、容易に話しかけることが出来ずにいた。 しばらく考える様子をしたトレーナーだったが 「いいか、フウジン」 と話し出す。

10 21/05/29(土)02:27:35 No.807527231

「今日はバ場のいい場所を通れ」 「はい!」 「お前の脚質から言って・・・不良バ場はかなり相性が悪い」 怪我の危険性もある、と言いそうになって、彼は口から言葉が出るのを押しとどめた。 「あとは・・・いつも通りに走ってくれればいい。レースの展開さえ握れば、お前が負けることはない」 「わかったの!」 元気よく返事をするフウジン。そして 「ねぇ、おっちゃん」 「何だ?」 「大丈夫、今日も勝ってくるの」 と笑顔を見せるフウジン。 「分かってる」 とトレーナーは返す。表情の硬さが若干取れたように、フウジンには思えた。 「じゃ、行ってくるの」 「あぁ、気をつけろよ」

11 21/05/29(土)02:27:56 No.807527284

短いミーティングが終わり、アイネスフウジンは控え室を後にする。 一人残されたトレーナーは、椅子に座って天井を仰ぐのだった。

12 21/05/29(土)02:28:24 No.807527355

そして弥生賞が始まった。 『さぁスタートしました。若いウマ娘達、一斉に掛けて行きます』 一斉に飛び出すウマ娘達。不良バ場の芝から泥が勢いよく巻き上がる。 (うわ...) いつもとは違うぬかるみに戸惑うアイネスフウジン。脚が滑りそうになるのを感じながら、視線をバ場に移した。 (外側・・・外側がまだマシそうなの・・・) そう判断すると、内側に入らず、芝が十分に残る外側を走り始める。 『アイネスはどうだ?アイネス無理には行きません!桃色の風神が微風のように掛けていきます!』 そう、実況の言うとおり、彼女は無理をしなかった。慎重に、ライン取りを見極めながら、足下が滑りにくい場所を探り駆けてて行く。 そして 『アイネスフウジン三番手!バ場のいい所を通って第一コーナーに向かっています!』 第一コーナーに入る手前、三番手につけた。

13 21/05/29(土)02:29:10 No.807527468

そのままレース運びを慎重に進める彼女だが、この時点でいつもと違うことに、フウジンもトレーナーも気づいていた。 先頭に立てていない。レース運びの主導権を握れていない。 (このままじゃ、まずいぞ・・・) とトレーナーが顔をしかめるつかの間、 『ここで!アイネス行きました!アイネスフウジン果敢に行きました!行くと言っていたアイネスフウジン、今日も行きました!!!』 アイネスフウジンが先頭に立った。そして第三コーナー手前までさしかかるが、しかし 『さて第三コーナーにかかります!アイネスフウジンのリードはそれほど大きくありません、体半分くらい!』 いつものリードを彼女は作れずにいた。 相変わらず外側を通り、内側には他のウマ娘達が続いている。 そして展開は変わらず、第四コーナーを抜け、遂に最後の直線に入った。 『さて馬場のいいところを通ってアイネスフウジン!そのインコースを通って後続が追い上げて参ります!各ウマ娘、直線の追い比べであります!』 (もうここしかない・・・!ここで、突き放す!!!) アイネスフウジンが加速しようと、脚部に意思を集中させる。

14 21/05/29(土)02:29:47 No.807527559

『さぁ、アイネス頑張るか!?横に広がった!!!6人、いや7人広がった!!!』 しかし彼女が走っているのは外側だ。内側に他のウマ娘達の末脚が切れ込んでくる。 『最後の坂の追い比べ!!!200を切りましたッ!!!!!』 (負けるわけには・・・ここで負けるわけにはいかないのッ!!!) 懸命に加速するアイネスフウジン。しかし、不良バ場がねっとりと彼女の脚に絡みついてくる。 明らかにいつものスピードが出せずにいた。 (どうして・・・どうして・・・!!!) あがくアイネスフウジン。その様子を見たトレーナーは自分の指示をひどく後悔していた。 (良バ場を選びすぎたんだ・・・外側をずっと通ってきただけ、距離も長く・・・スタミナの消耗も激しい) そうこうしているうちに 『内を通るようにヴァイスストーン!!!ヴァイスストーン、いい脚だ!』 ヴァイスストーンが迫り、内側から肩を並べてくる刹那、後ろからとんでもないプレッシャーを感じるアイネスフウジン。

15 21/05/29(土)02:30:16 No.807527622

その正体はすぐに分かった。 よく知っているウマ娘。 努力と諦めないことをいつまでも辞めないウマ娘。 力強い差し足。 メジロ家の誇りを掛けた、強い強い意志に裏付けされた、その正体は 『さらにメジロライアン!!!メジロライアンもいい脚で突っ込んできた!!!』 メジロライアン。 (ライアンちゃん・・・!!!!!) そう彼女が思ったのも一瞬だった。 メジロライアンの末脚はあっという間に後続を引き離し、そして 『メジロライアン抜けた!!!メジロライアン、ゴール前に立った!!!』 先頭に立つメジロライアン。 その勢いのままに、メジロライアンは、ゴール板前を駆け抜けた。 『アイネス、沈んだッ!!!!!勝ったのは、メジロライアンですッ!!!!!『アイネス!ゴール板前失速しました!!!』 アイネスフウジンは、弥生賞で4着だった。

16 21/05/29(土)02:31:26 No.807527792

レースが終わり、アイネスフウジンは控え室に戻ってきた。 「おっちゃん・・・」 泥だらけの勝負服。しっとりと湿りきった勝負靴。その顔にいつものアイネスフウジンの明るさはなかった。 翡翠のような瞳に、ビー玉のような大粒の涙を浮かべ 「ごめん、あたし・・・負けちゃったの・・・」 と力なくつぶやいた。 「あぁ・・・俺のせいだ・・・。俺の作戦ミスだ。指導不足だ。」 トレーナーもうつむき加減にそう言い放つ。 その言葉を聞き、その場で泣き崩れるアイネスフウジン。ぼろぼろと、大粒の涙が床に降り注ぐ。 「ごめん、ごめんなさい・・・おっちゃん、ごめんなさい・・・!」 顔を両手で覆うアイネスフウジンの肩に手を置き 「すまない・・・すまない・・・!」 とトレーナーは伝えきれない思いを吐露する。 アイネスフウジンの悲壮な叫びが、部屋いっぱいに響く。 それは季節外れに訪れた嵐の残り香のようだった。

17 21/05/29(土)02:31:54 No.807527844

こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する

18 21/05/29(土)02:32:14 No.807527906

どこまで距離伸ばす気だよ!

19 21/05/29(土)02:39:04 No.807528821

ステイヤーズステークス並みじゃないのかこれ

20 21/05/29(土)02:44:26 No.807529554

これ以上はもうPixivに行った方がいいレベルの長距離だと思うんですけど

21 21/05/29(土)02:46:34 No.807529836

文章でツインターボする人のどれほど多いことか…

22 21/05/29(土)02:52:48 No.807530631

海外遠征しろ

23 21/05/29(土)02:54:19 No.807530874

5000m位走ろうとしてませんか

24 21/05/29(土)02:55:13 No.807531027

モンゴルダービーいけるよ!

25 21/05/29(土)02:58:16 No.807531463

スティールボールランしろ

26 21/05/29(土)03:09:59 No.807532690

楽しく読んでるよ。続きが楽しみだ

27 21/05/29(土)03:11:56 No.807532898

スルッと読めて長いのに気がつかなかった

28 21/05/29(土)03:13:22 No.807533025

お前の失礼を待ってた

29 21/05/29(土)04:01:44 No.807536695

お前は最高のステイヤーだよ

30 21/05/29(土)04:20:39 No.807537798

もうお前来月のジェミニ杯も走れるくらいスタミナあるだろ

31 21/05/29(土)06:14:26 No.807542407

>こんな話を私は読みたい >文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する おい待てェ 楽しみにしてんだから無理はするなよォ

32 21/05/29(土)06:31:04 No.807543187

フルマラソンしてくれ

↑Top