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21/05/27(木)22:15:01 No.807110524

「おお、素晴らしい!夢の外でも狩人とは!」 飾り気のない控え室である。 扉を開くなり、あなたの愛バは大仰な身振りであなたを出迎えた。 あなたは狩人であり、そして今は彼女の専属トレーナーだ。 “この宇宙”に狩人はおらず、だがあなたは招かれた。 少女の渇望、勝利と速さへの執念が蹄鉄を震わせ、その音色は遥か別次元へのしるべとなり、しかしそれを知るべくもないあなたは常のように、気まぐれに小さな鐘を鳴らした。 そして断絶を越えたあなたは、かつてない奇妙な“狩り”へ身を投じる事となったのだった。 あなたは、あなたを呼んだ狩りの主、目の前の少女を見た。 この世界には存在しない動物である馬、うち別世界の名馬たちの魂を継ぐ少女たち、ウマ娘。 魂を血の遺志と呼ぶならば、名馬たちのそれを継ぐ少女たちは、きっと獣に近く、また限りなく遠い者だろう。 あなたははじめて彼女たちの存在を知った時、かつて古都にいた頃を思い出した。 吹雪の中、あなたを廃城へと連れた双馬と、そして聖剣を振るい続け狂った狩人の成れの果てを。 彼らはみな悪夢に囚われていたが、しかし彼女たちの見る夢はそうしたおぞみと無縁のものだ。

1 21/05/27(木)22:15:35 No.807110785

狩人は血に酔い、やがて血に狂い、やがて人を失う。 ウマ娘は速さを競い、勝利を渇望し、だが人らしくあり続ける。 あなたの瞳にはウマ娘が、そして彼女の事がとても眩しく映った。 「けれど、けれどね。レースは巡り、そして終わらないものだろう!」 あなたは面食らった。 だが彼女の、こんな様子は常の事だ。 よくわからないままに、とりあえずあなたは一礼する。 対し彼女もまた、しかし芝居がかった大袈裟な返礼をした。 「ああ、トレーナー君!我が従者、あるいは我が騎士。麗しき無二の狩人よ!」 あなたは全く表情を変化させず、眉すら動かす事なくその視線に怪訝の意を乗せた。 右目は彼女を見つめ、左目は宇宙をじっと見ている。 彼女は変わっていたが、あなたも大概狂人だった。 ただ、違いがあるとすれば彼女のそれは演技じみていたが、あなたは素で狂っている。 狂気を自覚してなお狂気の内にある、つまりあなたは真性の狂人である。 そんな狂人を前に彼女はふと微笑み、そして朗々と語り出した。

2 21/05/27(木)22:16:17 No.807111128

「夢を。夢を見たのさ。ボクが燦然たる勝利を飾り、しかる後に次なる栄光を掴み取らんと、君と共に新たなる旅路に臨むその様を!おかしな話だとは思わないかい?君に導かれ、数多の苦難を乗り越えてきたこのボクが勝利する光景など、夢見るまでもないというのに!」 あなたは絶句した。 これから試合だというのに居眠りとは、なんとも肝の座った事である。 まして己の勝利をまるで疑っていない。 輝かしい未来を確信しているのだ。 無論彼女にはそれを実現する力があり、共にその力を磨いてきたあなたは、彼女の次に彼女の心を知っていた。 覇王の風格を疑うべくもない堂々たる態度を前に、あなたは思わず賞賛をあらわにする。

3 21/05/27(木)22:16:45 No.807111334

試合開始の時が近付く中、あなたは懐中をまさぐろうとして、しかし部屋の時計を見やり星見盤を掲げる。 あなたの愛バと、そしてあなた自身への試練の時が迫っていた。 堂々たる彼女を前に、悪夢の中で久しく見なかった太陽をあなたは幻視する。 「いざ、存分に見惚れてくれたまえ!勝利の女神も夢中にさせる、このテイエムオペラオーの駆け抜ける様を!そして君の愛バが、勝者の舞台で舞い踊る姿を!」 あなたは微笑んだけれど、しかし彼女はすでに背を向け歩き始めていた。 あなたは彼女を一礼で送り出した。 彼女の獲物は、この競争で必ずや勝ち取るであろう勝利だ。 狩りの成功は、もはや疑うまでもない。 あなたは狩りの主がその狩りを全うする様を見届ける事なく、懐中から空砲を取り出した。 束の間逡巡し、けれどあっけなくあなたは引き金を引いた。 斯くて空砲は撃ち鳴らされ、共鳴は破られる。 あなたが再び夢を見た時、そこは見慣れた血と汚物の広がる街だった。

4 21/05/27(木)22:17:46 No.807111836

ふと、あなたは足を止めた。 薄汚れた窓硝子に、あなたの姿が映る。 金糸の刺繍に彩られた、ごく貴族的な衣装。 覇王の従者に相応しかろうと思い、血生臭い装束を避け選んだものだった。 それ以上のことはない。 だが結局は、血塗られた狩装束のひとつにすぎなかった。 あなたは従者の装いをやめ、着慣れた装束に袖を通す。 従僕を騎士と呼び習わせば、せめて名誉があるものだろうか。 あなたは彼女を想い、けれどすぐに頭の隅に追いやった。 輝かしき三年は、だが長い夜の夢にすぎなかったのだと。 言い聞かせるように狩帽子をかぶり、そして武器を手に取った。 騎士の武器ではない。 ただ殺し、ただ狩るためだけのノコギリだ。 また、獣狩りの夜がはじまる。

5 21/05/27(木)22:17:57 No.807111923

それきり、彼女を思い出す事はなかった。

6 21/05/27(木)22:18:45 No.807112310

けれど、けれども。 もしも願いが叶うならば、いつか悪夢の終わる時―― su4882501.png

7 21/05/27(木)22:19:46 No.807112752

よきトレーナーになったな

8 21/05/27(木)22:21:46 No.807113636

'O sole suo(あなたの太陽)…

9 21/05/27(木)22:23:49 No.807114690

かねてうまぴょいを畏れたまえ

10 21/05/27(木)22:29:41 No.807117486

ああ...ずっとそばにいてくれたのか...我が師導きの円弧よ....

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