21/05/27(木)01:38:47 その時... のスレッド詳細
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21/05/27(木)01:38:47 No.806845434
その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。 そして玄関には ADULT MOTEL 西洋休憩所 WILD HORSE 目白軒 といふ札がでてゐました。 「葵さん、ちやうどいゝ。こゝはこれでなかなか開けてるんだ。入らうぢやないか」 「おや、こんなとこにをかしいですね。しかしとにかく何か性戯《ぷれい》ができるんでせう」 「もちろんできるさ。看板にさう書いてあるぢやないか」 「はいらうぢやないですか。わたしはもう何か下の口で喰べたくて倒れさうなんです。」
1 21/05/27(木)01:39:41 No.806845628
※書き忘れましたが、長くなります。 二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦《れんぐわ》で組んで、実に立派なもんです。 そして硝子《がらす》の開き戸がたつて、そこに金文字でかう書いてありました。 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」 二人はそこで、ひどくよろこんで言ひました。 「こいつはどうだ、やつぱり世の中はうまくできてるねえ、けふ一日なんぎしたけれど、こんどはこんないゝこともある。このうちは休憩所だけれどもたゞでご馳走《ちそう》するんだぜ。」 「さう、さうですねえ。決してご遠慮はありませんといふのはその意味でせう。」
2 21/05/27(木)01:40:15 No.806845756
二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になつてゐました。その硝子戸の裏側には、金文字でかうなつてゐました。 「ことにひとの方や桐生院さまは、大歓迎いたします」 二人は大歓迎といふので、もう大よろこびです。 「葵さん、ぼくらは大歓迎にあたつてゐるのだ。」 「わたしたちは両方兼ねてますから」
3 21/05/27(木)01:40:50 No.806845891
―中略―
4 21/05/27(木)01:41:42 No.806846087
「いろいろ注文が多くてうるさかつたでせう。お気の毒でした。 もうこれだけです。どうかからだ中に、壺《つぼ》の中の塩をたくさん よくもみ込んでください。」 なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどといふこんどは二人ともぎよつとしてお互にクリームをたくさん塗つた顔を見合せました。 「どうもをかしいぜ。」 「わたしもをかしいとおもいます。」 「沢山の注文といふのは、向ふがこつちへ注文してるんだよ。」 「だから、西洋休憩所といふのは、わたしの考へるところでは、来た人に休ませるのではなくて、来た人を食べて、休ませてやる家《うち》とかういふことなんです。 これは、その、つ、つ、つ、つまり、わ、わ、わたしたちが……。」がたがたがたがた、ふるへだしてもうものが言へませんでした。 「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるへだして、もうものが言へませんでした。 「遁《に》げ……。」がたがたしながら一人のトレーナーはうしろの戸を押さうとしましたが、どうです、戸はもう一分《いちぶ》も動きませんでした。
5 21/05/27(木)01:42:04 No.806846191
奥の方にはまだ一枚扉があつて、大きなかぎ穴が二つつき、銀いろのホークとナイフの形が切りだしてあつて、 「いや、わざわざご苦労です。 大へん結構にできました。 さあさあおなかにおはひりください。」 と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきよろきよろ二つの眼玉《めだま》がこつちをのぞいてゐます。 「うわあ。」がたがたがたがた。 「うわあ。」がたがたがたがた。 ふたりは泣き出しました。
6 21/05/27(木)01:42:32 No.806846322
すると戸の中では、こそこそこんなことを云つてゐます。 「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないやうだよ。」 「あたりまへさ。マックイーンの書きやうがまづいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかつたでせう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」 「どつちでもいゝよ。どうせわたしたちには、骨も分けて呉《く》れやしないんだ。」 「それはさうだ。けれどももしこゝへあいつらがはひつて来なかつたら、それはアタシたちの責任だぜ。」 「呼ばうか、呼ばう。おい、トレーナー、早くいらつしやい。いらつしやい。いらつしやい。お皿《さら》も洗つてありますし、菜つ葉ももうよく塩でもんで置きました。 あとはあなたがたと、菜つ葉をうまくとりあはせて、まつ白なお皿にのせる丈《だ》けです。はやくいらつしやい。」
7 21/05/27(木)01:42:44 No.806846360
「へい、いらつしやい、いらつしやい。それともサラドはお嫌ひですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげませうか。とにかくはやくいらつしやい。」 二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしやくしやの紙屑《かみくづ》のやうになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるへ、声もなく泣きました。 中ではふつふつとわらつてまた叫んでゐます。 「いらつしやい、いらつしやい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるぢやありませんか。へい、たゞいま。ぢきもつてまゐります。さあ、早くいらつしやい。」 「早くいらつしやい。マックイーンさんがもうナフキンをかけて、ナイフをもつて、舌なめずりして、トレーナー方を待つてゐられます。」 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
8 21/05/27(木)01:42:54 No.806846408
そのときうしろからいきなり、 「わん、わん、ぐわあ。」といふ声がして、あの白熊《しろくま》のやうなウマ娘が二|疋《ひき》、扉《と》をつきやぶつて室《へや》の中に飛び込んできました。 鍵穴《かぎあな》の眼玉はたちまちなくなり、ウマどもはううとうなつてしばらく室の中をくるくる廻つてゐましたが、また一声 「おぐりん。」「たまん。」と高く吠《ほ》えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸はがたりとひらき、ウマどもは吸ひ込まれるやうに飛んで行きました。 その扉の向ふのまつくらやみのなかで、 「ですが、わたくしには、一心同体の。」といふ声がして、それからがさがさ鳴りました。 室はけむりのやうに消え、二人は寒さにぶるぶるふるへて、草の中に立つてゐました。 見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あつちの枝にぶらさがつたり、こつちの根もとにちらばつたりしてゐます。 風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
9 21/05/27(木)01:43:06 No.806846467
ウマがふうとうなつて戻つてきました。 そしてうしろからは、 「トレーナーさん、トレーナーさん、」と叫ぶものがあります。 二人は俄《には》かに元気がついて 「おゝい、おゝい、こゝです、早く。」と叫びました。 緑帽子《みどりばうし》をかぶつたたづなさんが、草をざわざわ分けてやつてきました。 そこで二人はやつと安心しました。 そしてたづなさんをふたりでたべ、途中で十円だけ目白饅頭を買つて学園に帰りました。
10 21/05/27(木)01:43:16 No.806846518
しかし、さつき一ぺん紙くづのやうになつた二人の顔だけは、学園に帰つても、お湯にはひつても、もうもとのとほりになほりませんでした。 注文の多い休憩所 終わり
11 21/05/27(木)01:45:04 No.806846924
たづなさんが何したって言うんだよ……
12 21/05/27(木)01:50:10 No.806848002
>たづなさんが何したって言うんだよ…… 命の危険が去ってムラムラしてたのかなと・・・
13 21/05/27(木)02:04:57 No.806850719
すまねぇ古文はさっぱりなんだ
14 21/05/27(木)02:06:20 No.806850942
銀座カリーの箱に書いてあるやつ
15 21/05/27(木)02:06:46 No.806851005
このでけぇイーハトーブが......
16 21/05/27(木)02:29:55 No.806854230
>宮沢賢治が何したって言うんだよ……
17 21/05/27(木)02:30:47 No.806854341
ナチュラルに人と桐生院が分けられている
18 21/05/27(木)02:33:23 No.806854650
桐生院は人に非ず?
19 21/05/27(木)02:37:31 No.806855096
なんで昔風の書き方再現してるの…
20 21/05/27(木)02:37:58 No.806855136
>このでけぇイーハトーブが...... まあ確かに岩手県は最大の県だが…