21/05/26(水)21:30:00 さびし... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1622032200844.jpg 21/05/26(水)21:30:00 No.806753850
さびしい生活、荒涼たる生活は再びミークの元に音信れた。電話越しに葵を持てあまして喧しく叱るトレーナーの声が耳について、不愉快な感をミークに与えた。 生活は三年前の旧の轍より悪化したのである。 数時間後に、葵からラインが来た。いつもの礼儀正しい文でなく、やけに浮ついた言文一致で、
1 21/05/26(水)21:30:22 No.806754024
「昨日はお疲れさまでした。ミークもちゃんと寮に帰れましたか。安心してください、私は勿論大丈夫でしたよ。今回は忙しい中にも関わらず私たちのことで心配ばかりかけて申し訳なく思うばかりです。謝ったところで許してもらえるとも思っていなかったのに、ミークには感謝してもし切れません。そしてお詫びも出来ないのですが、婚前旅行前にあなたに会うことも出来なくて、でもどうか察し許して下さい、ファミレスでの別離、硝子戸の前に立ち、紺色のスラックスが映ったときの気持ちを。今でも鮮明に浮かび上がるんです、雲の端から覗く浅間山の僅かな山辺、そこで浸かった透明な温泉、嬉しいことばかりの思い出で、ある俳人が詠んだ『脱ぎたての 彼の上着を 膝の上』の名句が胸に痛切に染みたんです。トレーナー、いえ彼がね、いずれあなたにお礼をしたいと考えているから、旅行が終わったあと改めて会いに来たいと、ああごめんなさい私からはこれぐらいで。長くなっちゃった、ごめんねミーク。まだまだお目……汚しすることも多くあるだろうけど、今は彼の隣にいることにドキドキしてて、飛行機から降りたらまたラインするね」と書いてあった。
2 21/05/26(水)21:30:50 No.806754254
ミークは彼女が出掛けた先の別府の温泉とを思い遣った。そしてすぐ葵の住まう寮にひそかに押し入った。懐かしさ、恋しさの余り、微かに残ったその人の面影を偲ぼうと思ったのである。府中の寒い風の盛に吹く日で、裏の古樹には潮の鳴るような音が凄じく聞えた。いつかの日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、瓶、ドレッサー、依然として忍び込んだ前のままで、恋しい人はいつもの様にトレセンに行っているのではないかと思われる。ミークは机の抽斗を明けてみた。皮脂の染みたヘアゴムがその中に捨ててあった。ミークはそれを取って匂いを嗅いだ。暫くして立上って引き戸を明けてみた。大きなプラスチックケースが三箇段になって置いてあって、その向うに、葵が常に用いていただろう蒲団――萌黄色の敷蒲団の上に、線の厚く入ったミークの勝負服とが重ねられてあった。ミークはそれを引出した。女のなつかしい項の匂いと汗のにおいとが言いも知らずミークの胸をときめかした。勝負服の襟の天鵞絨の際立って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい男女の匂いを嗅いだ。
3 21/05/26(水)21:31:06 No.806754367
性慾と悲哀と絶望とがたちまちミークの胸を襲った。ミークはその蒲団を敷き、勝負服をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。 薄暗い一室、戸外には風が吹暴れていた。
4 21/05/26(水)21:40:10 No.806758419
田山花袋の蒲団じゃねーか!
5 21/05/26(水)21:42:53 No.806759564
メロス、ごんぎつねからこれはちょっと飛ばしすぎじゃねえかな
6 21/05/26(水)21:43:48 No.806759930
ウマ文学
7 21/05/26(水)21:54:03 No.806764415
現代文学におけるBSSの始祖をミークに適用したくなった 沢山泣いてくれると興奮するんだ
8 21/05/26(水)22:24:42 No.806778441
蒲団は流石に…