21/05/22(土)00:32:17 ヤンデ... のスレッド詳細
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21/05/22(土)00:32:17 No.805145528
ヤンデレについて学ぶことになりました。 六月といえば、ジューンブライドです。花嫁の月ですから当然ながら私、紺野純子が所属しているアイドルグループフランシュシュにもそれに応じた仕事が舞い込んできます。しかし、今回の仕事は羊に紛れた狼のように毛色が違いました。 佐賀のバラエティ番組で、フランシュシュがヤンデレになったというショートドラマを演じるのです。しかし私は昭和のアイドルなのでヤンデレという単語が分かりません。 仕方ないので、愛さんがお手本を見せてくれることになりました。 相手役が必要とのことでしたので、サキさんが巽さんを簀巻きにして持ってきてくださいました。
1 21/05/22(土)00:32:31 No.805145639
「何をするんじゃい!?」 雑魚サングラスが喚いていましたが関係ありません。飲んだくれた分だけ、身を粉にして働いていただかなければなりませんので。 「サキあたりが男役をやればいいじゃろうが」 巽さんはぶつくさ文句を垂れ流しています。そこに愛さんが冷たく言い放ちました。 「ヤンデレってのは相手を傷つけかねないんだし、相手役はできるだけ思い入れがないほうが良いでしょ。フランシュシュのメンバー相手にできないわよ」 「あ、思い入れがない……」 それを聞いた巽さんは納得したような顔をしつつ、少しだけ……いや、かなり、だいぶ傷ついた顔をなさいました。 薄々勘付いていましたが、本当に心が硝子ですね。薄氷みたいな心を抱えながらわざと嫌われるような言動をして生き辛くは無いのでしょうか……。 「じゃ、やるわよ」
2 21/05/22(土)00:33:18 No.805145929
「おかえり」 少しだけ笑みを浮かべた愛さんが、部屋に入ってきた巽さんを出迎えます。巽さんは仏頂面で頷きました。しかし、それが虚勢であることはもはや周知の事実です。可愛いですね。 「……ああ」 巽さんは仏頂面のまま、ジャケットを愛さんに投げ渡しました。愛さんは笑顔のままそれを衣紋掛けに取り付け、巽さんの手をそっと取りました。 「ほら、ご飯冷めちゃうわよ」 なんと理想的な新妻でしょうか。ちょっと興奮してきました。しかし、巽さんは仏頂面のままです。なんて罰当たりな方でしょう。今更ですね。 「うわー!! 純子ちゃん愛ちゃんの新妻すがたやけん!! やらしかー!! ぶへへ」 私の隣ではさくらさんが嬌声を上げています。なんてはしたないのでしょう。これが平成ですか……。いやらしいですね。 「純子はん、よだれが出てるでありんすよ」 おっとキノコの出し汁が……。私は差し出されたハンケチで頬を拭うと、二人の芝居に目を向けました。
3 21/05/22(土)00:34:07 No.805146249
視線の先では愛さんが理想的な新妻を演じています。はて、どこがヤンデレというものなのでしょうか。 巽さんはテーブルに並んだ食事に目を丸くしていました。ダッサイグラサンに隠れて目は見えませんが。 「……お前が作ったのか?」 「当たり前じゃない」 どうして巽さんが愛さんの手料理を食べているのでしょう。分不相応では無いでしょうか。 「幸太郎さん?」 さくらさんもそう言っています。何をしているのでしょうかこのグラサンは……。 雑魚グラサンは恐る恐る豚の生姜焼きに口をつけると、意外そうに片眉を上げました。 「美味いな……」 「そうでしょ? 頑張ってるアンタのために作ったんだから」 そう言って愛さんは幸太郎さんにあすなろ抱きをしました。 ……。 ……。 ……。
4 21/05/22(土)00:34:25 No.805146338
はぁ? 「あああああ愛ちゃん!?」 「落ち着きなよ……」 さくらさんがとんでもない顔で二人を睨み、リリィさんがそれを諌めています。しかしこれは仕方ないでしょう……? 伝説の平成アイドルが仮にも男にあすなろ抱きをしているのですから動揺しないほうがおかしいはずです。 これがヤンデレというやつですか。ヤンデレとは変態の隠語だったのでしょうか。 しかし愛さんは一味違いました。 「アッアッアッ……」 「アンタはとても頑張ってる……」 壊れたおもちゃの様になったグラサンのいやにたくましい喉元に、ネイルをつけた爪を添えました。妙な色気を感じさせる光景に私は目を離すことが出来ません。 愛さんがニッコリと口元を歪め、ささやきます。 「毎日浮気に精を出してるもんね」 「……エ」
5 21/05/22(土)00:34:55 No.805146509
「……エ」 瞬間、空気が凍りつきました。その雰囲気の中で見ると、愛さんの笑顔がどうにも恐ろしく見えます。それを直に受けている巽さんは生きた心地がしないでしょう。もう死んでますけれ……いえ死んでいませんね……。純子ちゃん失敗♪ 「アンタいっつもさくらと一緒だもんね……」 「幸太郎さん私のこと好いとっと!?」 「さくらはん!! これはお芝居でありんす!!」 ゆうぎりさんの張り手がさくらさんへ飛びました。恐ろしいですね。それよりも恐ろしいものが私の目の前で展開されているわけですが……。 「エッアッアッ……」 「私が気付いてないとでも思ってたの……? アンタが浮気してる事に」 「コウタロウサンシテナイヨ……? ウワキ……」 もはや巽さんの化けの皮がベリベリと剥ぎ取られています。最近はもう無いも同然でしたが、これでは佐賀のことを悪く言えないほどの風前の灯火ですね。
6 21/05/22(土)00:35:35 No.805146739
愛さんは巽さんの耳元に口を寄せて、そっとささやきます。その際、彼女は爪を当てていない方の手で、ねっとりと巽さんの顎をなで上げました。それは自分の匂いを擦り付ける愛撫のようにも思えました。破廉恥です。 「アンタさくらのことが大好きだもんね……」 「コウタロウサンシテナイヨ……? ウワキシテナイ……」 「幸太郎さん私のこと好いとっと!?」 「さくらはん!!」 もう横の地獄絵図は無視しましょう。無視無視。 私は目の前のポルノに集中いたします。 「なんで私のプロポーズを受けてくれたのか……」 「俺シテナイ……」
7 21/05/22(土)00:35:57 No.805146868
「分かってる。私ってアンタにとって都合のいい女なんだよね」 「エ、チガウ……」 愛さんは腕に力を込め、きつく巽さんを抱きしめます。幸太郎さんの頬に爪が突き立てられているのが見えました。そのとき、愛さんは縋るような顔をしていたようなことを報告致します。流石の演技力ですね……もはや演技に見えません。私も見習わなければ。 「私もそれでいいと思ってた。都合のいい女でって……」 さめざめとした、痛みを吐き出すようなセリフの数々は、文字通り血を吐くようでした。もう死んでいるので血なんて出ないはずなのですが。 私達の視線は、愛さんの演技に釘付けにされていました。相手を責める言葉の数々にインクの如く滲む自己嫌悪は、最早演技の枠を超えています……。 ……。 ……。 ……。 演技ですよね?
8 21/05/22(土)00:36:31 No.805147068
「でも駄目だった」 愛さんは笑いました。しかし、その笑みは先程までの優しげな、嘘らしい物ではありません。歯をむき出しにした獰猛な、それでもどこか寂しげで、むき出しの心が見える哄笑でした。 「アンタが好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないの」 「ア、ハイ……」 もはや巽さんに抗う術はありません。ですが、これは仕方ないでしょう……。演技とはいえ愛さんの演技は鬼気迫るものがありますから。 演技ですよね? 愛さんは溜息をふ――――っ……と巽さんの耳元に吹きかけます。これがヤンデレというやつですか。お茶の間に絶対出せないでしょう。 何がフランシュシュですか。これじゃあ不倫チュッチュだぁ。
9 21/05/22(土)00:36:59 No.805147214
「でも、それはアンタだって同じよね。好きが止められないんでしょう?」 そう言って、愛さんはテーブルに手を伸ばします。愛さんは嘘みたいに優しい手付きで、ナイフを手繰り寄せました。 巽さんが刺される。反射的にそう思いました。しかし、私の予想を愛さんは遥かに越えていきました。 彼女はナイフを巽さんに握らせると、切っ先を自身の胸元に当てたのです。 光を反射する金属は雷のように、彼女の胸元に迫っています。巽さんは慌ててナイフを引こうとしますが、彼女の指先が刃に当てられていることに気づいてしまいました。 押すことも、引くことも出来ずに巽さんはただ、その裁きを留めることしか出来ないでいるのです。 「だから、殺してよ」 愛さんが言いました。 当然とでも言いたげに。 「アンタが殺してくれれば、納得できるから」
10 21/05/22(土)00:37:34 No.805147420
刃は真直ぐと愛さんの心臓を見据えています。ほんの少し進めば、撃ち抜くのでしょう。しかもそれを操っているのが他ならぬ愛さんだというのだから不思議な話です。 「お、おまえは……」 巽さんが泡を吹きながら口を開きます。崩れきった虚飾の仮面をかき集め、なんとかしようと必死にあがいています。それが堪らなく滑稽であり、無様であり、愛おしいと感じてしまうのは、決して私だけの感情ではないのでしょう。 「お前はゾンビィだから心臓刺されたくらいじゃ死なんわい」 「死ぬわ」
11 21/05/22(土)00:37:55 No.805147516
しかしそんな仮面も愛さんに対しては風前の佐賀県でした。 「アンタは愛を殺せるの」 もはや彼女の顔には何の表情も浮かんではいません。巽さんにメイクを施され、生きていた頃と変わらないはずのその顔は、ゾンビィとしての顔よりもずっと死んでいるように見えました。 「あ……」 最早どこにも救いを無くした巽さんの口から、涙混じりの吐息が零れ落ちます。それに対して、熱くて粘ついた興奮が湧き上がるのを、誰が咎められるでしょう? 幸太郎さんの震える唇が、僅かに開きます。 その果に待っているのは誰だったのでしょうか。 私達が知る前に、愛さんはナイフを手放してしまいました。 「こんな感じ。皆分かった?」 その瞬間、ふ、と何時もの空気が帰ってきました。
12 21/05/22(土)00:38:26 No.805147693
「愛!! お前メチャ気合入っとったなぁ!!」 そう、サキさんが言います。 「リリィびっくりしちゃった」 そう、リリィさんが褒めます 「ほんに、愛はんは芸達者でありんすなあ」 そう、ゆうぎりさんが嘯きます。 「大丈夫ですか幸太郎さん」 そう、さくらさんが囁きます。 「彼奴ビビりすぎ」 そう、愛さんがわらいます。 皆様、とてもお上手です。
13 21/05/22(土)00:39:09 No.805147955
ただ一人、お上手ではない人が椅子に座って放心しています。 それを見た時、私は心の底からゾンビィになってよかったと思いました。 化けの皮を被り続けて成り下がってしまう化物は、いずれは真実と虚飾の境目すら解らなくなってしまったのですから。 なんとも、哀れなことです。 「……次は私が練習したいです」 紺野純子でした。
14 21/05/22(土)00:42:32 No.805149098
su4868688.txt 今まで書いたもの 弱い幸太郎が書きたかっただけです ゆうぎり回たのしみですね 以上です。
15 21/05/22(土)00:43:48 No.805149538
よえー幸太郎よえー
16 21/05/22(土)00:44:21 No.805149712
>何がフランシュシュですか。これじゃあ不倫チュッチュだぁ。 純子結構余裕あるな…
17 21/05/22(土)00:44:30 No.805149752
>何がフランシュシュですか。これじゃあ不倫チュッチュだぁ。 語彙センスが昭和!
18 21/05/22(土)00:45:05 No.805149919
いやでもこんなんに勝てる男いないよ!
19 21/05/22(土)00:46:17 No.805150294
◯◯◯
20 21/05/22(土)00:46:45 No.805150437
愛ちゃん世代的に失楽園見てそうだ
21 21/05/22(土)00:46:59 No.805150515
愛ちゃんやーらしか!
22 21/05/22(土)00:47:04 No.805150543
ダシにされるさくらはんに悲しい現在
23 21/05/22(土)00:49:22 No.805151175
>私は目の前のポルノに集中いたします。 ここ好き
24 21/05/22(土)00:50:26 No.805151495
……演技ですよね?
25 21/05/22(土)01:01:18 No.805154541
>……演技ですよね? 言うわけ…ないでしょ?
26 21/05/22(土)01:06:52 No.805156029
迫真の演技すぎる… 生前はグループ主演のクソドラマとか出てたんだろうな
27 21/05/22(土)01:08:32 No.805156462
あーーーーーー。
28 21/05/22(土)01:09:16 No.805156679
7話で純子ちゃんと愛ちゃんの怪文書に飢えてたのでありがたい…
29 21/05/22(土)01:10:36 No.805157022
こわ~…
30 21/05/22(土)01:10:56 No.805157121
純子のヤンデレとか洒落にならんけん…
31 21/05/22(土)01:13:33 No.805157844
巽に刺されたらゾンビでも愛は死ぬ 巽に刺されたら愛は死ぬ
32 21/05/22(土)01:28:11 No.805161761
これはポルノですね間違いない いいものを見た
33 21/05/22(土)01:28:17 No.805161781
>熱くて粘ついた興奮 好きな言い回しだ
34 21/05/22(土)01:30:17 No.805162251
ゾンビというかフランシュシュは巽幸太郎を精神的に弄るのが好き