虹裏img歴史資料館

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21/05/17(月)01:11:01 寝間着... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1621181461357.jpg 21/05/17(月)01:11:01 No.803562254

寝間着を着たフランシュシュのメンバーが、布団に座って分厚いファイルを囲んでいる。純子がいつものようにピッキングで幸太郎の部屋に侵入した時、開いたままで置かれていたので黙ってガメてきた。 ページに挟まっているものは、プリンター印刷、ブロマイド、雑誌やチラシの切り抜きもあれば、カラーコピーも多数。私的な写真と思しきものもいくらかある。 まこと年代も種々も雑多な収集品であるが、どれもフランシュシュのメンバーの顔が写っている点は共通していた。 セーラー服を纏って口笛吹き吹き、船の舵を取るたえ。雑誌の表紙でメンチを切るサキ。 フライパンを振り回してネズミと追いかけっこしているたえ。縮小版のポスター、ブロマイドの中にいる純子。 動画のキャプチャーで気丈に振る舞い、宣材の中で笑顔を見せる愛。アメリカの荒野で大ナタを掲げて鳥を追いかけ回しているたえ。 テレビ雑誌のインタビューを受けるリリィ。何処とも知れぬ座敷に座る、ゆうぎりのセピア色の姿。 巨大なアムールトラを絞め落として死闘を制したとおぼしき空手着のたえの写真で、ファイルのページは終わった。

1 21/05/17(月)01:11:17 No.803562321

さくらを除いた皆がファイルから顔を上げ、純子が最初に口を開いた。 「私たち、本当に生きて、それぞれの時代にいたんですね」 「ちょっとした歴史博覧会ねえ」 「なつかしかったー!」 「わっちの写真まであるとは、まったく仰天でありんす。どなたから譲り受けんしたのやら」 「ウー…」 そんな仲のいい会話を他所に、さくらはページを何度もめくって、訝しげに目を細めている。 「うーん……」 さくらが唸った。自分の写真が見当たらない。サキがさくらの異変に気付いて振り向いた。 「どした? さくら」 「私の……」 写真だけなか、と続けようとした瞬間、扉が勢いよく開いた。 「ファイルがなーい!」 入ってきた幸太郎が絶叫した。そしてさくらの手にあるファイルに目を留めて、すぐさまひったくった。 「返せコラ」

2 21/05/17(月)01:11:58 No.803562488

「返せ言われて返す奴っちゃおるか」 サキがファイルをひったくり返した。 「返せ!お前らゾンビィが興味を持つのは生肉だけで充分なんじゃい!」 幸太郎は即座に奪い返した。 「アイドルやけんゾンビと違う!い、い、か、ら、見せー!」 「嫌じゃ!」 「ごがー!」 「ぐぼー!」 「ちょっと!」 争う二人の首がギギギと回って、愛の方を向いた。 「それはなんなの」 「何って。いくらハリウッド直伝特殊メイク免許皆伝の俺でも、萎びたグリーンフェイスを元通りにするにゃ色々資料がいるんです」 「たえの写真も資料かよ」 「はーいそうでーす」 一厘の躊躇いも感じられない堂々とした肯定を前にしては何も聞けない。しかしさくらには聞きたいことが別にあるので、普通に幸太郎に聞いた。

3 21/05/17(月)01:12:45 No.803562683

「えーっと、それなんですけど、私の写真とかは……」 「え?無いよ」 「は?」 「だから、無いよ?」 「ちょっと待って、さっき資料がいるって」 「やかましーい!」 幸太郎がまた絶叫して、さくらの髪がバタバタとはためいた。 「お前みたいな伝説もついとらんその辺のゾンビィの生前の写真なんか俺サマが手に入れられるわけがあるかーい!そんなん個人情報よ?プライバシー侵害よ?だいたいそんなヒンヤリ米ナス顔をこうチョチョイのヌリヌリっとするだけの話でお手本を見ないとなんも出来んような巽幸太郎サマじゃないわい!調子乗んな、このボンクラゾンビィー!」 このように逆ギレして捲し立て始めた幸太郎には手がつけられない。呆れたサキがつい手の力を緩めた隙に、幸太郎はさっさとファイルをひったくって出て行ってしまった。 扉が乱暴に閉じられた後、さくらが近くのガラスを眺めて顔を撫でた。 「私、米ナスみたいな顔と?」 「どっちかってーとピータンだな」 「大して変わってなくない?」

4 <a href="mailto:おわり">21/05/17(月)01:13:15</a> [おわり] No.803562806

本棚にファイルを戻すと、幸太郎は長い長いため息をついた。 さくらの写真は本当に自分の手元にはない。残していない、と言うべきだろうか。 あの日に渡された、卒業アルバム。ページを繰って見つけた彼女は、ほとんど笑ってはいなかった。どのイベントの写真でも、目立つことのないように、自分を見せることを避けるように、縮こまっていた。 あれらの写真にいた学生こそが、自分が共に過ごした源さくらなのだと、アイドルを目指したさくらだと、どうして受け入れられようか。 開くこともなくなったアルバムがどこかへ消えてしまうには、十年は充分すぎる時間だった。だが。 「無くたって構わないんだ、俺は」 あの時に見た笑顔は、忘れられるようなものではないのだから。

5 <a href="mailto:s">21/05/17(月)01:14:25</a> [s] No.803563141

たえちゃんの過去が明かされると聞いたのでシーズン1視聴後に書いてたのを完成させました

6 21/05/17(月)01:18:55 No.803564307

よかったい…

7 21/05/17(月)01:19:53 No.803564552

資料なんてなくても頭に焼きついてるのよかよね…

8 21/05/17(月)01:38:19 No.803568724

よか…よか…

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