ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/05/16(日)23:55:00 No.803536590
降り注ぐ大粒の雨がアスファルトで弾けて飛沫を上げる。 さくらと愛は、その様子をスーパーの軒先から茫然と眺めていた。 お菓子目当てになけなしの小遣いを握り締め屋敷を飛び出した僅か数分後のことである。 「……雨ね」 「雨やね……」 「天気予報は?」 「見とらん……」 「折り畳み傘とか」 「持っとらん……」 「……私たちって」 「もっとらん……」 顔を見合わせ、嘆息。 「どやんす? 近所やけん走れば誰にも見られんかも……」 「近所だからこそ気をつけるべきだと思う。勘付かれでもしたら終わりなんだから」 クールな愛の判断も事態の解決にはなんら寄与しない。いよいよ途方に暮れたその時だった。
1 21/05/16(日)23:56:39 No.803537167
「あーめあーめふーれふーれ母さんが~♪」 「……待って愛ちゃん、なんか聞こえん? 歌、みたいな……?」 「じゃーのめーでおーむかーえ嬉しいな~♪」 「このさいたまスーパーアリーナを満員にできそうな歌声は……!」 「ぴっちぴっちちゃっぷちゃっぷじゃいじゃいじゃーい!!」 「幸太郎さん!」 「なんなの!?」 雨粒のカーテンを掻き分けるようにして巽幸太郎が二人の前に現れた。 への字に結んだ唇が、これでもかとばかりに不機嫌さを主張している。 「もしかして迎えに来てくれたとですか?」 「屋敷を出ていくお前らが窓から見えたんじゃい。そしたら雨が降ってきたから仕方なくな」 「アンタもたまには気が利くのね。で、傘は?」 「俺が持っとるんじゃーい!」 「そんなの見りゃ分かるわよ! そうじゃなくて、私たちの分の傘は?」 「……………………………………………………アッ」
2 21/05/16(日)23:57:44 No.803537600
「もしかして……傘一本しか持ってきとらんとですか!?」 「……思ったより、もっとらんかったな……」 「そういうのいいから。なんなの? バカなの? アンタただ雨の中お散歩してるだけの人じゃない」 「だーうっさいのー! 迎えに来てもらってなんじゃいその態度は! あわてんぼうのサンタクロースがおるならあわてんぼうのアイドルプロデューサー巽幸太郎さんがおっても別にええじゃろがい!」 ひと頻りがなり立てると、後には雨音だけが残る。 幸太郎に悪気がなかったことも、どうやら多少は反省していることも二人には分かった。 やがて気まずい沈黙を打開すべく、幸太郎は手にしていた傘を畳むとさくらに握らせた。 「仕方がない、これはお前らが使え。俺は走って帰る」 そして踵を返した幸太郎の鍛え上げられた臀部を、さくらが受け取った傘で強かに打ち据えた。 「ンヒィー!?」 「幸太郎さん……いくら私でん怒りますよ」 「さくら、次私ね。傘貸して」 「待たんかい!! 待って……ください……お願いですから……」 「あのね、アンタが風邪でもひいたら意味ないでしょうが!」 「そうですよ! 生きとる人はもっと体ば大事にしてください!」
3 21/05/17(月)00:00:31 No.803538603
「お、俺は帰ったら熱ーいシャワーを浴びるからいいんじゃい……どっちみち傘は足りんのじゃろがい……」 踏んだり蹴ったりの幸太郎は、もうすっかり声に迫力がなくなってしまった。 しかし言っていることには一理あるので、また元の木阿弥かと思われたが、愛があるものに注目した。 「いいこと考えた。アンタ、ちょっとその上着脱ぎなさいよ」 「は? なんでじゃい」 「それ、私とさくらぐらいなら一緒に入れそうじゃない?」 言うが早いか、愛は幸太郎の上着をひったくり、自分とさくらの頭から覆い被せた。 「ほわっ、ほわわ!? どどやんどやんどやんすやんす!?」 「ね、ピッタリでしょ? で、帰って熱ーいシャワーを浴びるのも私達」 「いや俺の一張羅がずぶ濡れになるじゃろがい!」 「うっさい。もう決めたから。行こ、さくら!」 「あああ愛ちゃーん!?」 「待たんかいゴルァー!」 走り出した愛、引っ張られるさくら、追いかける幸太郎。 結局三人揃ってずぶ濡れになり、帰宅後には誰から風呂に入るかでもう一悶着あるのだが、それはまた別の話である。
4 21/05/17(月)00:03:54 No.803539813
さく幸愛!さく幸愛じゃないか!
5 21/05/17(月)00:07:54 No.803541194
平成トリオ令和ではじめて見た
6 21/05/17(月)00:12:32 No.803542903
あっよか…
7 21/05/17(月)00:20:01 No.803545452
3人で入りなんし!!!
8 21/05/17(月)00:27:57 No.803548233
三人とも失われた青春をとりもどしなんし!!
9 21/05/17(月)00:32:23 No.803549827
愛幸さくはいくらあってもよいとされる
10 21/05/17(月)00:42:35 No.803553511
この組み合わせはなんでもない日常ほど刺さる