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21/05/16(日)23:13:09 私の担... のスレッド詳細

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21/05/16(日)23:13:09 No.803521375

私の担当バの名はゴールドシップ。 トゥインクルシリーズで目覚ましい活躍をし、URAファイナルズの初代優勝バにも輝いた、すごいウマ娘である。 そんな特別なウマ娘たる彼女のトレーナー、つまり私のことだが、私もある意味で特別なトレーナーではある。 「ほらトレーナー、アタシの体にしっかりしがみついてな!また転んじまったらゴルシ様の寿命が3光年は縮んじまうからな!」 「ああ…いつもすまない…いずれ白杖も使えるようにするから…」 「おいおいトレーナー、冗談はよっちゃんイカだぜ?同じ白ならアタシの白のほうが断然お得だろうが!なんせ杖は喋んねーし歩かねーしランダバも踊ってくんねーんだぞ?」 「しかし…君をこうして盲導犬代わりにするのは心苦しくて…」 「あんだよー、トレーナーは反抗期かー?ねり梅みたいに甘ずっぺぇ青春が訪れたのかー?」 「いや…そういうわけではなくて…」 「だったら黙って掴まってな!おらもっとぎゅっとだよ!シャコ貝みてーに腕に食いつくんだよオラァ!」 私は、目が見えない。 自業自得の不摂生を重ね、URA優勝の日に光を失ってしまった、盲目のトレーナーなのだ。

1 21/05/16(日)23:13:31 No.803521511

彼女は、私の拒否などお構いなしに世話をしてきた。 まず、退院したその日に「なあトレーナー。明日からトレーナーん家に住むからよろしくー」と言い、トレーナー寮に無理やり押しかけた。 さすがに男女が一つ屋根の下はまずいと思い、理事長に電話してみたが、彼女はただ一言『許可ッ!!』とだけ返し電話を切った。 一週間経ったある日、唐突に「今日からお前の食事はこのビストロゴールドシップが手掛けてやるぜ!」と言い、手料理を振舞うようになった。 ちなみに、三日に一回はロシアンルーレット料理が出る。 一月経ったころには「よートレピッピー。この目覚まし時計をいくら針を戻しても時間が戻んねーんだよ!責任取ってトレピッピの産まれたままの姿見せてくれよー」と、有無を言わさず私の入浴に付き合うようになった。 風呂が狭くて物理的に二人以上湯船に浸かれないことが不幸中の幸いだったと思っている。 そうして3か月も経ったころには、私の生活は全てゴールドシップによってプロデュースされてしまっていた。 本来ならば彼女に遠慮した方がいいのだろうが、彼女の手助けがありがたいのも事実であり、ついつい流されてしまっている。

2 21/05/16(日)23:15:01 No.803522050

しかし、このままでいいはずがない。 彼女はものすごい才能を秘めたウマ娘なのだ。 私の世話ばかりして、無為に時間を費やしていていいはずがない。 ある日、日課の添い寝をしようとした彼女に向けて、覚悟を決めて言い放ったことがある。 「なあゴールドシップ。こんなに俺の世話をして、レースの方は大丈夫なのか?」 「あん?藪から棒にどうした急に。びっくりしすぎてゴルシちゃん思わずトレーナーを抱きしめちゃいそう☆」 彼女はいつもみたいにおどけて誤魔化そうとする。 だが、今日ばかりは煙に巻かれるわけにはいかないのだ。

3 21/05/16(日)23:17:03 No.803522784

「悪いが真面目に聞いてくれ。これは…本当に大事な話なんだ」 「…………」 私の真剣な様子を見て、彼女は軽口を止めてくれた。 少し、強張った衣擦れの音が聞こえたので、姿勢を正してくれたのだとわかった。 「…正直君の助力はとてもありがたい。だけど、トレセン学園生である以上、君の本分はレースで勝つことにある。こうして俺の世話ばっかりして、トレーニングの方はちゃんと出来ているのか?」 「そりゃあ…やってねーけど…アタシみてーな超トレセン級のウマ娘はそんぐらいでちょうどいいハンデになんだよ!心配すんなって!」 「しかし、いくら君が規格外だとしても…俺みたいな重荷を背負っていては宝の持ち腐れだ…だから…俺を君の担当から…」 外してくれ、そう言おうとした。 しかし、その言葉は突然唇を覆った暖かい感触によって遮られた。 ───キスをされたのだと、目が見えずとも本能で理解できた。

4 21/05/16(日)23:17:22 No.803522890

「ご、ゴールドシップ!?君は一体何を…!?」 「オイオイ、これだけされてまだわかんねーのか?クソボケなのはハヤヒデの専売特許だろーが」 「でもっ…!こんな…!!君はまだ学生で、俺は盲目の役立た…」 「だからさぁ…ちょっとトレーナーの眼が見えねえくらい、このゴルシ様にとっちゃあ荷物でもなんでもねーよ!!勝手にいなくなろうとしてんじゃねーって!!」 彼女は、少し震えた声でそう言うと、私の頭をしっかり抱きしめた。 まるで、大事な宝物を離すまいとするように、胸元にすっぽりと収め、両腕で包み込んだ。 「お前がアタシから目ぇ離しちまったから、代わりにアタシがお前から目ぇ離さないようにしなきゃいけないんだ」 「勝手にトコトコ歩いて行って、迷子になられちゃ困るんだよ。アタシの傍から離れようとすんなよ…」 「お前はあれだ…アタシにとって錨みてーな存在なんだよ」 「お前がいるから安心して冒険できるし、お前がいなくちゃゆっくり腰を落ち着けらんねーんだよ」

5 21/05/16(日)23:17:37 No.803522983

とくんとくんと、ゴールドシップの心臓の鼓動が良く聞こえる。 少しばかり上ずった声で、鼻をすすりながらしゃべる彼女を、私は初めて見た…いや、『聞いた』。 「……よーするに、だ。アタシが走ってなきゃトレーナーが心配でたまんねーんだろ?だったら一つ約束してやんよ」 「次のレース…そうだな、テキトーに宝塚でいいか。それに出て、トレーナーのつまんねー個人レベルの問題を吹っ飛ばしてやるよ」 「前に言ったろ。お前の人生、ゴルシ様が面白くしてやるって。次の宝塚は、誰も忘れられない伝説のレースにしてやんよ」 「だから…もうアタシから耳を離すなよ。1秒後にはどうなってるか、アタシにもわかんねーんだからな」 ………………その夜、私とゴールドシップは、一心同体の関係になった。 精神的にも、肉体的にも、彼女は私にとって離れ難い、特別な存在になったのだった。

6 21/05/16(日)23:18:19 No.803523248

そして、さる6月の終わり。 大勢の歓声に包まれる阪神競バ場に、私はいた。 『あーっ!?なんということだゴールドシップ!何を思ったかゲート内で立ち上がりガッツポーズを決めて出遅れたぁー!!』 『前人未到の三連覇を期待した観客たちから大きなため息が漏れています!!およそ10バ身以上離れてしまってはもう巻き返すのは難しいでしょう!!』 …おそらく彼女のことだから、何かやらかすだろうとは思っていたが…まさかこう来るとは思わなかった。 ふと、関係者席にいる他のトレーナーがひそひそと陰口を漏らしているのが聞こえた 「やっぱり、あのトレーナーの世話にかまけているからいけなかったんだ…」 「勝つ自信がないから、ああやって奇行を起こして負ける理由を作ったんだろうなぁ…」 「そこまでしてであの役立たずの経歴を守ろうとしてるのか?さっさとあいつをクビにして自由にすればいいのに…」 そんな口さがない同僚の声が、鋭敏になった私の耳に入ってくる。 だけど、今はもう、私は何を言われても気にしない。なぜなら───

7 21/05/16(日)23:18:32 No.803523317

『さあ第4コーナー回って最後の直線!!先頭に躍り出たのは…………えっ?うそっ、なんということだ信じられない!?』 誰もが信じられなくとも、私は、私だけは何があっても彼女を信じているから。 そんな彼女が私を信じてくれているのだから、もう何を言われても大丈夫だ。 『ご、ゴールドシップだぁー!!信じられない!!あれだけの出遅れを巻き返し、並みいる強豪を押しのけて来たのは8枠15番のゴールドシップ!!』 『とんだエンターテイナー!!こんな展開見たことない!!今、ゴールドシップが先頭を抜き去った!!』 『速い、速すぎるぞ!!もう誰も彼女に追いつけない!!今、黄金の旅路を乗り越え、ゴールドシップが大差でゴールポールを過ぎ去りました!!』 『前人未到の宝塚三連覇!!しかも、こんな不利な立ち上がりで成し遂げるなんて、誰もが信じられないものを見てしまいました!!』 実況はそんなことを言っているが、私にはしっかり見えた。見ることが出来た。 他の何も見えなくとも、ターフを駆け抜ける彼女の真っ赤な勝負服姿は、しっかりと思い浮かべることが出来た。

8 21/05/16(日)23:19:01 No.803523491

係員の介添えを借り、なんとかウィナーズサークルにたどり着いた私の傍に、レースを終えた彼女が近づいてくる。 「うぇーいうぇーい!」と楽しそうに寄ってくる彼女の声を聴いた私は、今までの経験から思わずドロップキックを警戒してしまった。 だけど、いつまで経ってもGⅠ勝利のお約束は訪れず、「それーっ!」という掛け声とともに天高く抱きかかえられた。 私には見えないけど、きっと彼女は得意げな顔をしているんだろう。 口には出さないけれど、彼女はここにいる全員にこう宣言したいのだろう。 ───どーだ見たかヤロー共!これがアタシのトレーナーだ!!世界で一番の、ゴルシ様だけの宝物だ!! だから、私も得意げな顔をするのだ。 この場の皆に伝わるように、精いっぱい得意げな顔をして、心の中で宣言するのだ。 ―――どうか皆さん私の分も見てください。これが私の大事なウマ娘です!宇宙で一番の、担当ウマ娘ゴールドシップです!

9 21/05/16(日)23:19:51 No.803523804

これは他のウマ娘の面子ボロボロだな……

10 <a href="mailto:s">21/05/16(日)23:20:27</a> [s] No.803524020

タウラス杯で増えるゴルシを見てたら前に書いたゴルシ曇らせ怪文書の続きが出来ました ゴルシに振り回されながらもお世話されたい気持ちをこめたら少ししっとりしました

11 21/05/16(日)23:20:44 No.803524132

良い…

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