21/05/09(日)23:14:05 「ごめ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1620569645182.jpg 21/05/09(日)23:14:05 No.801189795
「ごめん、キング。やっぱり久しぶりだったのもあってなかなかうまく行かなかったよ」 「でも、これなんていいわね。次は期待しているわよ」 机に広げられたポジを拡大鏡で見るキングはその写真の数々を眺めながら嘆息する。出来はともかく、ポジをまじまじと見た時の感動は自分も覚えているので微笑ましく感じる。 「それにしても、フィルムって不思議ね。デジタルカメラならいくらでも取れるのに36×本数のフィルムのポジ?はすごく魅力的に感じるわ」 数枚指差した写真を覚え、ハサミで切り出しマウントする。フィルムプロジェクターにセットして壁に映し出し、ピントを合わせると、走るキングの姿がピリッと結像される。空の青、芝生とキングの勝負服の緑。肌が鮮やかに映し出せる。やはりこの素直なコントラストは、ベルビア50の力、晴天の合わせ技だろう。 「今度、写真を撮っているところを見たいわ。レースを見に行きましょう」 目を輝かせながら写真に見とれるキングに、了解したとその意見を受け入れた。
1 21/05/09(日)23:19:15 No.801192070
「あなた、準備はできた?そろそろ行くわよ」 点検済みの荷物を持ってキングとバ場に出かける。ポジションをとり、席でカメラを取り出して準備を始める。80-200mmF2.8D。いわゆる大三元の望遠ズームをF5に取りつけ、晴れていることからいつも通りベルビアの50を装填する。連写はシャッタースピード2000で秒10コマ。しかし流し撮りをすることと、フィルム節約のために指切りでワンカット3枚がせいぜいだろう。レースのスタート前に今日狙うウマ娘をキングと相談して決める。しかし、人が写真を撮っているところなんてそう面白い見世物でもないだろう。次回のキングのレースの予行練習のつもりで、ずしりと重たいF5のグリップを握りしめた。
2 21/05/09(日)23:25:21 No.801194703
レーススタート。序盤から逃げるのはセイウンスカイ。やはり、とカメラの出番が近いことを察し、ファインダーを覗き込む。視野率100%、大きなペンタプリズムからもたらされる良好な視界から事前に合わせておいたピントをさらに追い込み引き伸ばされたセイウンスカイの輪郭をはっきりとさせる。彼女の走る向きを確認しつつ、なるべく水平に追いかけてまずは一発シャッターを切る。夢中でシャッターを切っていると、あっという間に36カットは使いきられ、オートワインダーでフィルムが巻き上がる音を聴きながら、勝利したウマ娘への拍手に加わった。
3 21/05/09(日)23:29:30 No.801196445
帰り道、キングはといえば、押し黙っている。やはり、面白くなかったのだろうか。断らなかったとはいえ見たいと言い出したのはキングではあるが、少し申し訳なさも感じる。 「ねぇ、あなた。その、これからはキングだけを撮りなさい?」 言い出しにくそうに、隣を歩くキングは声をあげた。 「今日のあなた…すごく真剣に…キングじゃない子を見てたから…すごく調子が狂うの。だめ、とにかくだめ。撮るなら私だけにして」 素直に受けとるなら、キングは嫉妬しているということになるのだろうがそれを自分から言い出すというのは憚られる。何かうまい言葉というのも見つからずに、少しより道をしようかと切り出した。
4 21/05/09(日)23:33:18 No.801198033
「何をしてるの?」 公園のベンチで一応持ってきたF2に85mmF1.8のレンズをねじ込む。フィルムは入ったまま。カウンターは残り1/3程度残ったリバーサルフィルム。アイレベルファインダーに照度計は装備されていないのでスタジオデラックスをポケットに入れて、ちょうどいいロケーションを探した。 「キングの写真が撮りたくなったから付き合って欲しい」 その言葉が先ほどのキングへの返事になるかはわからなかったが、耳をぴくっと動かし尻尾がゆらゆら揺れているところを見ると間違いはないのだ、と思いたい。
5 21/05/09(日)23:40:11 No.801200530
「こう…でいいかしら?」 「うん、そこで。ちょっと失礼」 順光の赤い光のなか、キングの顔の前にスタジオデラックスをかざし、スイッチを押す。セレン式の受光素子はISO400…プロビアに対して適正なシャッタースピードを表示する。もちろん全て鵜呑みにはできないが指標にはなる。絞りは全開放。夕焼けの中薄いピントで甘くキングを撮るにはシャッタースピードは少し遅めのようだ。長焦点のレンズだからキングが少し慌てる程度に離れた位置から狙う。 「ちょっと!?そんなに遠くで撮るの!?」 戸惑うキングの表情は可愛い。一枚もらおう。しゃこっ、とミラーが動き、それより少し高い金属シャッターの落ちる音。キングの耳にはその音がよく聞こえたのだろう。いきなり撮られて怒り出すキングに謝りながら、短時間ではあるが二人きりの撮影会が始まった。
6 21/05/09(日)23:45:12 No.801202349
甘酸っぱい・・・
7 21/05/09(日)23:46:49 No.801202951
「写真って、いいものね」 上機嫌なキングに藪から棒にどうしたの、と訊ねると。 「だって、あなたがキングだけを見てるって、はっきりとわかるもの」 人を撮影するなら、まあそれはそうだろう。 今日日、リバーサルフィルムの現像を請け負ってくれる店は少ない。後日郵送でラボに依頼するとして、役目を終えたカメラの入った鞄を背負い直しながらキングと家路につく。 「それにしても、お腹が空いたわね。どこかで食事していきましょう?」 「そうだね。何を食べようか」 取り留めもない話をしながら食事にありつこうと商店街の方に足を向ける。ふと、立ち止まった彼女の方を振り向くと、そこには笑顔のキングがいる。 「ねえ、私にもカメラ、教えて頂戴?あなたの写真は、キングが撮ってあげるわ」 逆光に陰ったキングの表情を見て、フィルムを使いきってしまったことを強く後悔、するのであった。
8 21/05/09(日)23:47:53 No.801203323
おしまい リバーサルフィルム久々に使いたいなーとキングとイチャイチャしてえというはなしでした
9 21/05/09(日)23:49:26 No.801203808
憂鬱な日曜夜にキング怪文書が並んでありがたい…
10 21/05/09(日)23:50:05 No.801204033
一流の怪文書は安眠に繋がり健康にいい
11 21/05/09(日)23:51:01 No.801204323
うわ同じスレ画で被ってたのか申し訳ない
12 21/05/09(日)23:51:49 No.801204610
カメラの描写が細かくていいな… 元々趣味でやってた?
13 21/05/09(日)23:52:00 No.801204654
撮った写真ウンスに渡したら ちょっと拗れそうで楽し…いや怖い
14 <a href="mailto:【前日譚】">21/05/09(日)23:57:19</a> [【前日譚】] No.801206498
「あなた?ちょっと借りたい資料が…なにしてるの?」 部屋の片付けをしているところに丁度はいってきたキングは部屋の惨状を見てため息をつく。見ての通り片付け中だよ、と答えると、キングは何かを見て興味を抱いたようだ。 「これ…カメラ?」 久々に動かそうと出してあったカメラを見つめるキング。ああ、割りと古いカメラだから気になるのかと片付けの手を止めてキングに向き合った。 「写真を撮ってたのね。どんな写真?というか見せなさいな!あなたがどんな写真を撮るのか興味があるわ!」 すごい食いつきようだが少し気恥ずかしい。しかし、自分の写真を見たいというキングの言葉が嬉しく、棚からお菓子の缶を取り出した。
15 21/05/10(月)00:01:09 No.801207904
この前靴修理してたトレーナーかな?多趣味!
16 21/05/10(月)00:04:01 No.801208972
「……?写真を見せてくれるんじゃないの?」 「写真だけど……?」 プリントした印画紙は嵩張りすぎるため実家に預けていた。手元にあるのはポジとデータだけ。どうせ見せるならポジの方が喜んでくれると思ったのだが、そもそもポジ自体を知らないのか。 一枚を手に撮って、外の光に透かす。ようやくそこで意味がわかったのか、キングは尻尾をピンと伸ばして弾んだ声をあげた。 「ちょっと、なによこれ、綺麗じゃない…!」 注意深くマウント化したポジを手に取るキング。ちょうどいいことに、見せたかった67のものだ。すごいすごい、と写真自体というよりはポジを見て喜んでいる。若干複雑な気分ではあるが、ポジの良さが伝わるのはとても喜ばしいことで、あれこれと質問責めにしてくるキングの疑問を解消するにはややしばらくの時間を要し、おだてられるままに自分のレース写真が欲しいというキングの望み通りに、久々にカメラを握ることとなったのだ。
17 21/05/10(月)00:05:46 No.801209631
青春
18 21/05/10(月)00:08:49 No.801210753
自分で撮った写真のポジを見るいいよね…書きながらより写真撮りに出掛けたくなった キングとのイチャイチャは健康にいいのでもっと増やしたい 付き合ってくれてありがとでした
19 21/05/10(月)00:10:40 No.801211444
赤字ギリギリまで臨場感あふれる怪文書だな!
20 21/05/10(月)00:12:04 No.801211936
一流の怪文書は健康に良い…