虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/05/09(日)12:52:19 No.800961664

    「あら…」 トレーナー室を訪れたキングヘイローはすぐに自らの相棒が動画に夢中になっているのに気づいた レース研究かと思って彼の背中越しにノートPCに目をやるが 映し出されている観客の服のセンスが妙に古い かれこれ20年以上は前に撮影されたもののようだ 「ごきげんようトレーナー。随分と古いレースを見ているのね」 「おっと、すまないキング、来てたのか…」 「ええ。これって中京競馬場よね?高松宮記念みたいだけれど」 「そうだな。君の次回のレースだが同時にこれは俺にとっての初期衝動でもある」 「初期騒動…?」 「丁度いい、トレーニングにも関わってくる話だからキングも見てくれ」 席を譲られキングが座るとトレーナーがレース開始まで動画を戻した 一斉に駆けていく当時のウマ娘達。逃げ、先行と集団が形成されていき、そして… 「トレーナー。この7番、黒鹿毛のウマ娘なんだけれど」 「お、気づいたか」

    1 21/05/09(日)12:52:33 No.800961736

    「ええ。短距離で差しウマは多くないから余計に目立つのね、位置取りが素晴らしいわ とはいえ随分と位置が後ろに見えるけど…」 キングヘイローの危惧したように順位は14着と後方 しかしレースが終盤に差し掛かった所で彼女は急速に順位を上げていく 「…驚異的な末脚ね…まさかあの位置からのスパートで1着になるなんて」 「このウマ娘の得意技だな。終盤にかけての加速は君にも通じる所がある」 言われてみればキングが好調で、かつ前に幾人かのウマ娘がいる際の走りは動画の少女と共通点があった 「これ、私にも出来ないかしら…」 「まあこの動きにはいくつか問題点もあってな…」 「ふぅん…随分とこの娘にご執心なのね」 「え?ああまあそうだな」 途端うろたえだすトレーナーに王の心に嗜虐心が生まれる 先程トレーナーは初期騒動、と言っていた 「ひょっとして、この人が初恋の人だったりするの?」 「ハハハ。自分の母親に恋する奴はいないだろ」

    2 21/05/09(日)12:53:15 No.800961943

    「まあ、母さんが選手だったと知ったのは中学生に上がってからだったかな…」 子供ながらに肩車され走る母親の上から見る景色は楽しかった、とトレーナーは言う 彼が小学生に上がる前に彼女は病気で他界 その後たまたま家に残っていた彼女の現役時代の姿から 自らもまたスプリンターを目指したと彼はキングに語ってみせた 「ただ短距離走の花形はやっぱり世間ではウマ娘でさ…それでも俺、ヒトの中では早い方だったんだぜ? 県大会でも優勝してな。でも親父は『これでお前がウマ娘に生まれていればな』なんて言ってて」 「どこも一緒ね、子供の気持ちや憧れなんて親は理解できないものよ」 しきりに頷く彼女にトレーナーは苦笑しつつ足をまくって見せた 彼のむき出しになった膝にある古い手術後にキングが思わず息を呑む

    3 21/05/09(日)12:53:25 No.800961996

    「それで俺もムキになって無茶してな。結果がこのザマさ」 「貴方これ…夏の合宿の時は平気だったの?私に付き合って山のコース回ったじゃない」 「激しい運動じゃなければ大丈夫さ。実際平気だったろ それもリハビリのお陰だけど、その最中病院で見ていたのが君達ウマ娘のレースでさ 例え自分が走れなくても、同じウマ娘なら母さんと同じ景色が見れるんじゃないか、そう思ったんだ」

    4 21/05/09(日)12:53:47 No.800962113

    「それが…貴方の、トレーナーとしての初期衝動という訳ね」 「ああ。君が改めて君だけの一流を目指すと決めたから、俺も最初の気持ちを思い出したいと思って見てたんだ」 「うん…」 「で、ここからが本題だ。母さんの動きというか短距離での差しウマの動きを見て分かっただろう?」 「ええ。中距離や長距離のような仕掛け方をしていては加速が間に合わない …貴方のお母様の場合は稀有な例だと思うわ」 「そうだな。これは普段から使うようなスパートの駆け方じゃない おそらくこれは差しでバ群に揉まれたりして後方になってしまった時のいわば保険のような走りだな」 トレーナーが腰を上げ、そしてホワイトボードにマグネットを貼っていく 「さておさらいだキング。菊花賞での君の後半での位置取りと、そして黄金世代二人の位置だな」 三着に終わった苦い敗北の経験だが、目をそらす事無くキングは改めて分析を行っていく

    5 21/05/09(日)12:53:58 No.800962164

    「…この時の私は先頭を行くスカイさんしか目に入っていなかった」 「だな。結果位置取りに失敗し手をこまねいているうちにスペシャルウィークからも差された」 差しウマが差される。これ以上の屈辱があるだろうか 「キングに同じ失敗は無いわ」

    6 21/05/09(日)12:54:08 No.800962218

    「そこまで気負う必要は無いさ。でも自分が何故負けたのか?は貴重な経験だ 皐月賞と日本ダービーで二冠を取れていた分、君や俺にも驕りがあったんだろう。あの二人には感謝しないとな」 「おばか。悔しくないの?」 「悔しいからこそ、次に生かせるだろ? …なあキング。君は優しくて思慮深い。敗北した相手の涙に胸を痛める事ができるウマ娘だ それは同時に周囲に広い視野を持っていて本来冷静なレースメイクができるという事でもある 高松宮記念まではその読解力を更に伸ばすトレーニングをしていこう」 「…分かったわ」 「いい返事だな」 「けれどそれだけでは足りないわトレーナー…」 「うん?」 「貴方のお母様の走り。これも並行して身につけましょう」 「気持ちは嬉しいがキング。それは無茶だ。高松宮記念まで大した時間が無いんだぞ?」 「私はキングよ?キングヘイロー。一流のウマ娘だもの。そして貴方だって一流のトレーナーでしょう? だからやりましょうよトレーナー!『どうだ親父俺の育てたウマ娘は凄いだろ』って言ってやるのよ!」

    7 21/05/09(日)12:54:19 No.800962288

    「キング…」 一瞬だけ寂しそうな顔をしたトレーナーだったが 彼女の見せてくれた意気込みに肩を掴み、そして頷く 「ああ。やろう、ただし妥協は無しだ。いいな?」 「勿論よ!おーっほっほっほ!さあ、私達の新たな門出よ。目の物を見せてやりましょう!」 そして見事視野を広げ、後続からのスパートを身に着けたキングヘイローは スプリンターへの転向を見事に成功させ 更には安田記念への出場を表明。世間を賑わす事となったのである そして高松宮記念の翌日、愛知を走るレンタカーの中に なにやら緊張した面持ちのキングヘイローとトレーナーの姿があった

    8 21/05/09(日)12:54:29 No.800962334

    「ね、ねえトレーナー…何もこんな直ぐじゃなくて良かったんじゃないの?」 「レース前はキングも乗り気だったじゃないか」 「だからって昨日の今日よ?それに…私ジャージなんだけど! 貴方のお父様に会うというなら、もっと私ちゃんとした恰好で心の準備をしてから… それに菓子折りの一つも用意していくべきじゃないかしら!?」 「あ、悪いキングちょっとそこで買い持ちしていくから待ってて」 「ちょっとお!?」 完全に浮足立っているキングをよそにトレーナーはスーパーへと立ち寄ると やがて買い物を済ませ彼女の待つ車へと戻ってきた 「すまないがこれ、持っててくれるか」 「これ、って…お酒とお花?」 「ああ。親父はこの酒が好きでさ」 一升瓶と、そして片方は花束だった カーネーション・アイリス・金盞花・スターチス・竜胆、そして、菊 「あ…」

    9 21/05/09(日)12:54:42 No.800962396

    「よう。久しぶりだな、親父。母さん」 その墓は小さな寺の一角にひっそりと佇んでいた 軽く持っていた桶でトレーナーが掃除を済ませ、そして花を添える 「相変わらず苦労してるけどなんとかトレーナーをやれてるよ。今日は教え子を連れてきたんだ …キング。いつまで泣いてんだよ…」 「なんで亡くなってるって教えてくれなかったのよぉ…」 「悪い。いや、折角キングがやる気になってるのに水を差すのもどうかと思ってさ」 「おばかぁ…」 優しく撫でるトレーナーに宥められ、漸く気を取り直したキングもまた墓に手を合わす 「親父とは最後まで分かり合えなかったけどさ…今はこの子が俺の夢なんだ」 ぴん、と耳を立てたキングが目を見開いてトレーナーの方を見るが彼は気づかない 尚も墓に語り掛ける彼の横顔を見て瞳を潤ませた後、再び彼女もまた墓に向き直った 「そっちからレースが観れるかは分からないけどさ。なんとかやってみるよ またキングの気が向いたら報告しにくるから」 「気が向いたらって何よ!」

    10 21/05/09(日)12:55:09 [オワリキャップ] No.800962556

    「ははは。次は安田記念。その次は…おっと、この後は秘密な。二人共驚くぞ」 やがて二人は墓の手入れを終えその場を後にする キングだけが一度振り向き、そしてぺこり、とお辞儀をすると 再びトレーナーの元へと駆け寄り隣を歩き始めた やがて彼女達は一年後、正真正銘の一流のウマ娘とトレーナーとなり 世代のキングとして名を遺す事になる 様々な距離のレースに出場したキングヘイローだったが スプリンターとしての彼女を大きく助けたのはレース後半、後続からの驚異的な伸びである 電光石火とも謡われた その技の名前は電撃の煌めき かつて王の片割れに夢を見せたウマ娘が得意とした走りである。

    11 21/05/09(日)12:57:34 No.800963233

    いい…

    12 21/05/09(日)12:58:55 No.800963652

    これは一流...

    13 21/05/09(日)12:59:47 No.800963939

    好き…

    14 21/05/09(日)13:01:07 No.800964319

    ご両親にご挨拶…これはもう結婚報告では…?

    15 21/05/09(日)13:08:11 No.800966358

    なるほど母の日だったな

    16 21/05/09(日)13:10:45 No.800967087

    孫の姿を見せられないなんて…

    17 21/05/09(日)13:19:52 No.800969739

    心が満たされていく!

    18 21/05/09(日)13:20:26 No.800969891

    >「ははは。次は安田記念。その次は…おっと、この後は秘密な。二人共驚くぞ」 >世代のキング (あっこれはシニア三冠獲ってますわ)

    19 21/05/09(日)13:21:43 No.800970219

    なんか色々感想があるんだけど良いとしか言えないくらい良い...

    20 21/05/09(日)13:23:19 No.800970666

    これはお母様も二人を快く迎える

    21 21/05/09(日)13:25:31 No.800971263

    >電光石火とも謡われた >その技の名前は電撃の煌めき 元ネタをおくれ!