ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/05/09(日)12:15:38 No.800951710
あまり知られていませんが、トレセン学園にはトレーナー以外にも 教官と呼ばれる方がいらっしゃいます。 まだ入学仕立てのウマ娘たちを教導する役割を負ってますが、 三十人近くのウマ娘をまとめて面倒見ることになるので、 必然的にその教え方は基礎固め一辺倒になり、 ウマ娘たちの最初の躓きとなることが多いです。 そもそも教官はトレーナーライセンスを持ってない方も多いですし。 つまり「トレセン学園に入学やった! 入学したらトレーナーさんに ついてもらって毎日が楽しい!」なんてのは夢のまた夢で、 最初は「とにかく基礎トレで力をつけて模擬レースで トレーナーに目をつけてもらう!」ってことですね。 まさにマチカネマチキタルフクコナイです。
1 21/05/09(日)12:15:51 No.800951774
とは言え、教官といっても千差万別。 中には「君はこの距離が向いている」「君はこの走りが向いている」 「君は考えて走れ」と、軽い助言でウマ娘を伸ばしてくれる 優秀な人もいます。 まあ、その人は。 目付き悪い口もキツい顔も怖い妻帯者ということで、 サッパリ人気はないのですが。 諸事情あって、わたくしマチカネフクキタルはその教官と 仲良く(?)させていただいているのです。
2 21/05/09(日)12:16:13 No.800951850
「うぇぇぇぇぇえ……きょーうーかーんー」 教官はじろりと私を睨みます。 別に怒ってはいないと長年の経験で理解しているのですが、 入学したてのウマ娘にこの表情は酷だと思います。 『不機嫌そうな芥川龍之介』とはよく言ったものです。 「何かねフクマチ君騒々しい。君はまだ基礎トレの途中のはずだが」 「すいません関口おじさんみたいな呼び方やめてくれます?」 いや別に嫌いじゃないですけど関口おじさん。 一緒にされるのはちょっと。 「口に馴染んでいて言いやすいのだよ。それで? 泣きついてきたということは、何かあったのか」 何かありましたとも。 「……シラオキ様が……」 「ふむ。君の信仰するシラオキ様がどうかしたのかね」
3 21/05/09(日)12:16:24 No.800951909
「そんな神様に有り難みはない、って。 クラスメイトに言われたんですよぅ」 その子はわざわざトレセン学園の卒業生名簿を片っ端から確認して、 シラオキというウマ娘について調べ上げたらしい。 「その子が言うには――」 シラオキ、というウマ娘は確かにいた、という。 だが、名前が知られていないのは知られていないだけの理由がある。 単純に、弱かったのである。 「日本ダービーで二着で……」 「それは充分に凄いことだろう?」 「後は函館記念とか……」 48戦9勝。 48回レースに出場したのは、それはそれで凄いことだが。 昔はこういう連闘もよくあったらしい。
4 21/05/09(日)12:16:39 No.800951972
「少なくとも信仰に値するウマ娘ではなかったと? なるほど。成績から考慮すれば、もっと凄いウマ娘はいるか」 教官はふむ、と顎に手を当てる。 「反論できなかったんですよー……ううー……ふんにゃかふんにゃか……」 「その適当な詠唱は止めろと言っているだろう。 で、それを僕に聞かせてどうしろと?」 「いやあ、教官ならその……こういうのに的確な反論してくれるかなって」 「あのなあ、セキフク君」 おっとこの教官、徐々に私の要素を消し去ろうとしてません? 「――シラオキ様の成績など問題ではない。 君が信じていることが重要なのだ。いいかね。この世に――」 不思議なことなど、何もないのだよ。
5 21/05/09(日)12:16:52 No.800952022
教官はそう言って、手にしていた古本をようやく机に置きました。 私はかしこみかしこみかしこまり、拝聴開始でございます。 「そも、君はシラオキ様という名前をどこで知った?」 「え?」 そう言えば、どうして知ったのだろう。 答えは……。 「な、なんとなく?」 「だろうね。君とシラオキは年齢も離れているし、 それこそ伝説中の伝説、シンザンのように知られている訳でもない。 君が彼女を知るには、誰かに教えられたかあるいは、」 予め、何となく知っていたとしか考えられない。 「なのに、君は子供の頃からシラオキ様シラオキ様と拝んでいたな」
6 21/05/09(日)12:17:02 No.800952062
「まあそんなこともあったようななかったような……ふんにゃか」 笑って誤魔化す。 「――アグネスタキオン君を知っているだろう?」 唐突に話題が切り替わる。 「え? うん、まあ。名前だけは」 アグネスタキオン、マッドな科学者。 レースにも出ずトレーナーのスカウトも断り、 日々を研究に明け暮れているとかなんとか。 「彼女はおおよそ、大抵のウマ娘に対して隔意がある。 実験対象に感情移入するようでは科学者失格、という想いが あるのかもしれないな。だが、そんな彼女にも例外がある」 ダイワスカーレット。 中等部に所属する、ウオッカと並んで注目を集めるウマ娘だ。 「アグネスタキオン君は彼女に対しては甘い。 ダイワスカーレット君の方も彼女に懐いているようだ」
7 21/05/09(日)12:17:14 No.800952114
「ほえー……いや、シラオキ様と何の関係が?」 「この二人に限らず、ウマ娘たちには何の関係もないのに、 ウマが合う、ということがたまにある」 他にも、と教官は幾人かのウマ娘の名前を挙げた。 シンボリルドルフとトウカイテイオー、 メジロマックイーンとゴールドシップ。 「でもそれは――偶然でしょ?」 「ところで君は、この神様を知っているかね?」 教官がスマホの画像を見せた。 奇妙な顔だった。面長で、大きい鼻。 牛みたいだけど、それよりもっと細い。 「全然知らない」 「これはインドの神でハヤグリーヴァ。 意味合いはウマの首、だ」 「ウマ娘のウマ?」
8 21/05/09(日)12:17:31 No.800952178
「……と言われているが。なぜこんな顔なのか、 インドの学者にもとんと見当が付かないらしい。 考えられるのは――元々、ウマ娘とはこういう顔だったのでは」 まあ、日本に仏教のバ頭観音として伝来するにあたり、 普通のウマ娘の顔に置き換えられたのだが、と教官は言う。 「いやいや、いやいやいや。 これじゃあ、ただの化け物では?」 「化け物とは神様に失礼だな、フクフク君。 君のご先祖様だったかもしれない神様だぜ」 「怖っ! ご先祖様怖っ!」 「バチが当たるぞ、セキグチ……マチカネ君」 ニヤリと教官が笑う。機嫌の良い芥川龍之介みたいであり、 つまり別に笑っても魅力的というよりは怖さが先走る。 つくづく、こんなのと結婚したあの人が分からぬ。 あともう関口君って言ってますよね。
9 21/05/09(日)12:17:41 No.800952219
「君は並行世界(パラレルワールド)について、 聞いたことはあるか?」 「んー……SF的な奴だよね? ここの世界とは別の、もしもの世界的な」 「そうだ。僕が考えるに―― 君たちは、その並行世界の影響を多分に受けている。 そう思考するのが自然なのだ」 しん、と不意に教官室に沈黙が満ちた。 「ど、どうしてですか?」 「その世界では、恐らくウマ娘とは別種の生物だ。 そしてそちらの世界では、ウマ娘たちは親子か姉妹なのだ」 「マジですか」 「だから順番が逆なのだろうな。 仲が良いから姉妹ではなく、そちらの世界で姉妹だからこそ 仲が良い」
10 21/05/09(日)12:17:55 No.800952285
違う世界。違う場所。 そこはウマ娘が違う形で存在していて。 待てよ。ということはつまり、 「シラオキ様は――」 「君の先祖である、という可能性が高いね。 あくまで並行世界での話で、それを前提とするならばだが」 「うー……そりゃ、おに……教官の言うことなら、 私は信じるけどぅ」 「シラオキというウマ娘の成績は、それほど劇的ではなかった。 ならば、どうして君はシラオキ様に導かれたのか」 「どうして……って言われても」 「それは、シラオキ様が並行世界――要するに向こう側では、 優秀な因子の与え手だったからだろう」 「……因子?」 はて、それはどこかで聞いたような。
11 21/05/09(日)12:18:10 No.800952345
「デビューを果たしたウマ娘に稀にあることだが。 天啓のようなものを受け取るらしい。体感した彼女たちが言うには、 血の繋がりのような、強いものを感じることがある、と。 禅で言うところの豁然大悟(※悟りを得ること)に近いとか――」 シラオキ様は本人の成績はともかくとして、 そういう因子の授け手としては優秀だったはずだ、と教官は結論づけた。 そうかもしれないが、私の信仰対象に向かって酷い言い草である。 「つまり君は、シラオキというウマ娘から何かしらの因子を継承している。 と言っても、それでどうにかなる訳ではないが……。 ……どうした?」 待てよ、と私は教官の言葉を思い返す。 「教官教官。ということは、私の崇めるシラオキ様って、 もしかして他にも因子を授けているウマ娘がいる?」 そう尋ねた瞬間、教官は私にとって見慣れた顔をした。 滅茶苦茶苦い、渋い表情である。
12 21/05/09(日)12:18:26 No.800952417
「君は敦子と違い、普段は鈍い癖にこういう時は冴え渡るな」 「うへへへへなるほどー! つまりシラオキ様の名前を広めれば、 私のようにシラオキ様に共鳴するウマ娘さんが現れる可能性が高いと! シラオキ様の凄さを知る、凄いウマ娘さんたちが出てくると!」 はぁ、とため息をついて――中禅寺秋彦は私を睨む。 「シラオキ様を憑物落としする羽目になるのは御免だぞ、僕は」 「やっぱり私が大切?」 「いいや。一銭にもならないし疲れるだけだと分かっているからだ。 その癖、不愉快な結末になるのは見えている」 「ふぅん、そうなんだー」 「それから、教官室でもその雑な口調は止め給え。 愚妹だと周囲に知られたくない」 「ふんぎゃろ!? それひどくない!?」 実妹に向かって何たる言い草か、この実兄は。
13 21/05/09(日)12:18:53 No.800952546
「酷いものか。君の出鱈目な呪文だか祝詞だか奇声だかを 教えたのが、僕などと勘違いされては神社の沽券に関わる。 どうしても妹だと触れ回りたければ――」 兄は机からどさりと、三冊ほどの古めかしい本を取り出した。 「うちの神社の祭事に関する本を全文暗記してからだな」 「びゃー!」 私は脱兎の如く逃げ出した。 「扉はちゃんと閉めたまえ、マチカネフクキタル」 最後の最後に、そんな兄の声を背中で受ける。 「分かってますよぅ、ありがとー兄さーん!」
14 21/05/09(日)12:19:11 No.800952628
――そして後日。引退者も含めて『シラオキ様』という 名前に心当たりのあるウマ娘がゾロゾロと出てきた末に、 一大宗教になるとは、この時の私には想像もつかなかったのです。 もちろん兄から大説教を喰らわされました。
15 21/05/09(日)12:19:37 No.800952734
ステマ 「中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。」 三巻まで発売中 中学教師をする京極堂が人死にのない謎をサクサク解いていくよ! マチカネフクキタルが神社の娘だったのでクロスしてみたが 京極堂トレースむずい
16 21/05/09(日)12:30:10 No.800955524
そういやこの世界の牛頭馬頭ってどうなってるんだろ
17 21/05/09(日)12:33:32 No.800956371
クオリティ高くてやべぇな…
18 21/05/09(日)12:36:53 No.800957281
ハヤグリーヴァとか久々に聞いたな ウマ関連の神様とか気にはなるよね
19 21/05/09(日)12:38:11 No.800957603
>そういやこの世界の牛頭馬頭ってどうなってるんだろ 牛頭馬頭の牛頭はままだろうけど馬頭は別の生き物になってるんじゃないか
20 21/05/09(日)12:39:11 No.800957877
まるで亜細亜が全部沈没してしまったかのようなスレ画だと思ったらフクキタルだった
21 21/05/09(日)12:40:34 No.800958254
キングとカワカミさんはまあ…カワカミさんニッチなとこ攻めるなくらいなんだけど
22 21/05/09(日)12:41:50 No.800958598
ところどころフクキタルじゃなくて関口くんじゃねーか!!って所あるけどもしかして笑いどころだったりする? 敬語で喋るアネキタル憑依ネタ来るかなとちょっと身構えた
23 21/05/09(日)12:42:05 No.800958663
むう…榎木津とゴルシのタッグ…
24 21/05/09(日)12:45:53 No.800959744
あーモルカーみたいに既存の馬が全部ウマ娘になってる訳じゃないもんな…
25 21/05/09(日)13:02:29 No.800964680
インドの神様なら異形の頭でもインドだしってなりそうな
26 21/05/09(日)13:12:02 No.800967474
ガネーシャなんて実父に首切られて適当に象の首くっつけられた適当な神様だもんな
27 21/05/09(日)13:12:02 No.800967475
ウマ娘が別世界の名前と魂を引き継いでいる=ブロワイエが実名で存在する世界がある という意味だから俺たちが生きてる世界だけで考察しようとしたって圧倒的に材料が足りないんだ
28 21/05/09(日)13:13:22 No.800967871
ミ-クや他のモブウマ娘も他の平行世界では実在の名馬だったわけだからな…
29 21/05/09(日)13:19:23 No.800969594
競走馬ハッピーミークの戦績が気になりすぎる…どうやったらあんな適正判定されるんだ
30 21/05/09(日)13:19:58 No.800969759
京極堂だけあって長いな! その分読み応えあるが
31 21/05/09(日)13:20:38 No.800969955
馬魔という女の姿をした妖怪もいるし知識があればこれで一本SSが書けるかもしれん