21/05/08(土)18:50:38 東京優... のスレッド詳細
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21/05/08(土)18:50:38 No.800663941
東京優駿 それはウマ娘なら誰もが夢見るG1レースの最高峰。幾千の願いが潰え、幾万の夢が塵へ消えていった芝2400m。毎年5月の下旬に行われるこの大会に、桜花を走ったオレがいた。 観客動員数は聞いた話じゃ12万人。一年で最も応援人数が多いこのレースに、ティアラ路線を進んでいたオレがいた。 勿論意外過ぎるメンバー入りにパドックじゃ 「ティアラのお嬢様が何故」 「ダイワスカーレットに桜花賞で負けて気でも狂ったか」 「女王の出る幕はない」 なんて散々な言われようで……そりゃそうか。 普通に考えて中長距離が狙える奴はクラシック3冠を、マイル中距離ならトリプルティアラを。それが王道で本筋。オレがやってることはまさしく邪道。 なんせ誰もやったことがないし、何よりやろうと考えたことすらない試みだ。 スカーレットがこの場にいたら「バカねウオッカ、あんたはあんたが思っている以上にバカよ」とか言いそうだ。なんだあいつ、オレの想像の中でも辛辣だな。傑作だぜ。 ナーバスになりそうな気分を落ち着かせるため、控室で頭を冷やす。散々な物言いをする観客やら他出走バだったが、実際に正論だ。
1 21/05/08(土)18:51:26 No.800664195
ぶっちゃけここまでくりゃ胸を借りる勢いで流してもいい。クールに行こうぜ。相棒ならそういうだろうか。 「開始時間15分前だ。準備終わったか」 「んあ……相棒」 見計らったのか、控室のドアを開けながらオレの中でずっと話題の相棒が入ってきた。こんな大一番だっていうのに涼しい顔をしている。 そういや前にバイクのレースに出てたとか聞いたっけ。本番には強いタイプなんだろうか。 バイクは好きだけどあんまレースには詳しくないからか、相棒がどんなレースに出ていたとかも実は知らないでいる。 一度聞いても「所詮俺の過去だ。お前の今に必要ねぇよ」とあしらわれてしまった。一々言葉がかっけぇのズルいよな。流石トレセン学園ファン感謝祭企画トレーナーコンテスト男性部門2位なだけはあるぜ。 「どうしたウオッカ。今更緊張か?」 「当たり前だろ。流石にあんな数の観客見たら誰だってこうなるって……。相棒は何で平気なんだよ」 「さぁな」 軽く鼻で笑った相棒は持ってたペットボトルを渡してきてくれた。 スポドリを若干薄めたような味がする。体温より若干低く、ナーバスなメンタルには飲みやすい飲料水で、こういう所は流石トレーナーだな。
2 21/05/08(土)18:53:54 No.800664918
「作戦はいつも通り第四コーナーまで体力温存。そっからの直線を一気にかけろ。逃げのペースは気にすんな」 「お、おう」 「怖い相手はダービー前哨、京都新聞杯1着のハピネスポケット。皐月ウマのトライアム。皐月3着のカワイフェニックス。クラシックを競った奴らだ。距離適性はお前よりもある」 スタミナもあるだろう。と、強豪ウマ娘の説明も淡々と行う。 ライバルの顔ぶれにこっちは気が遠くなりそうだというのに、相棒の顔に強張りはまるでない。胆が据わりすぎだろと言いたくなるほどクールで安心できる。この人がトレーナーで助かったと思った。 「なぁ相棒」 「あん?」 「オレ、勝てっかな」 だからだろうか、常にかっこよくあるため鍛えてたつもりだったオレは、相棒に泣き言を垂れた。あふれ出た不安はとどまることを知らず、一つ、また一つと相棒めがけて吐き出される。 「周りは場違いだってさ」 「あぁ」 「オークスの日程は1週間前だってよ。気分は寝坊助サンタクロースだぜ」 「へぇ」 「いっそ胸を借りてかるーく流してやろうかなってさ。記念になるかもしんないし。ほら、こういう時こそ、クールに行こうぜって」 「ほぉ」
3 21/05/08(土)18:54:54 No.800665231
「なんだよ相棒、何かないのかよ」 「そうさなぁ。あえて言うなら……御託は済んだか?」 「えっ」 意外な返答に、オレは相棒を見上げる。表情一つ変わらず見下ろすジャージ男。 ただでさえ188㎝とデカい相棒は椅子に座るオレに対して覗き込むように立っていた。 案外こういう時、トレーナーって優しい言葉をかけるんじゃないのか? マックイーンは確か「君の足に軽やかな風を」とか言われて膝にキスされたとか聞いたんだがどうやら相棒は違うらしい。 「負ける理由を探して冷めた態度をとる奴と、泥水啜ってでも勝利に縋る奴と、どっちがクールか、いつものお前ならわかってんだろ」 「……ん」 「まずは一旦落ち着け。掛かってんぞ」 相棒はそういうと、オレの両頬に手を添えた。互いの額がくっつく。突然のことで心臓が今までなったことがないくらい早く強く打ち付けられる。余計に落ち着かない。喧嘩売ってんのか? 「……あ、あっあ」 「お前の強さは直線での加速力だ。前にも言っただろ。バイクの直線加速はF1よりも戦闘機よりも速いってな……。 お前の足は最高だ。誰よりも芝を踏みしめ、誰よりも大地を蹴りぬき、誰よりも前へ駆ける」
4 21/05/08(土)18:56:55 No.800665894
投げかけられた言葉がオレの中で何度も巡り、頭の中がふわっとしてきた。真剣な瞳がオレを射抜き、いやでも気づかされる。 この人はオレの勝利をまるで疑ってなくて、オレはどうしようもなくこの人を好きになったんだ。と。 バクバクと打ち付けていた心臓が、打って変わって嘘のように鳴りを潜め、代わりに勝ちたいという欲望が触れた額からにじみ出てきた。 最初は日本ダービー勝ったらかっけぇだろうなっていう曖昧な目的だったってのに何だろうな。相棒にどうしてもダービーの勝利を届けたくなって、これだけって気持ちが膨らんだ。 溢れかえった思いが自然と口から零れ落ちる。本音が肺からむせ返るように思いの丈を相棒に打ち明けた。 「……勝ちたい」 「おう」 「勝って、相棒をダービートレーナーにしたい」 「あぁ」 「オレ、相棒の最高の愛バになりたい」 「ったく」 何をいまさらと苦笑しながら相棒は一度オレの優しく抱きしめると、再び顔を近づけてきた。迫ってくる相棒に若干恐怖し目をつむっていると、髪をかき分けられた先に快感が走る。それは数秒とない静寂。だけどオレには十分すぎるご褒美で……。
5 21/05/08(土)18:58:15 No.800666386
額に愛を注がれた。 「……はぇ」 「行ってこい。勝ったら残り全部お前にやる。俺の過去もな」 その日、オレは誰よりも早くゴール板を走りきり、のちにスキップするように駆け抜けたと称された。うん、浮かれてたんだよ。
6 21/05/08(土)18:59:05 No.800666685
ウ…ウワーッ
7 21/05/08(土)18:59:50 No.800666943
ウワーッ!!
8 21/05/08(土)19:01:18 No.800667449
>「行ってこい。勝ったら残り全部お前にやる。俺の過去もな」 ウワーッ!