21/04/25(日)03:21:23 #9 第3... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1619288483008.jpg 21/04/25(日)03:21:23 No.796130988
#9 第3村の棚田は、上に行くほど遮る木々が少なくなって、夕陽が眩しくなる。今日は快晴だったからか、目が開けられないほど陽射しが強い。もうちょっとマシな場所なかったわけ?と言いたいけど、今更どうしようもない。あの疫病神と話がしたい、あんまり人目がないところで、とサクラに頼んで、お兄さん経由で時間と場所を決めてもらったはいいけど、もう少し条件を加えればよかった。 着くと、そいつは田んぼの脇の斜面に、膝を抱えて座っていた。 「待たせたわね」 声をかけると、いえそんなには、と応じて立ち上がろうとする。 「いいよ。座ったままで」 そう言って再び座らせて、私は同じ斜面の、少し離れた場所に座る。あっちを立たせると見下されるし、こっちが立ったままだと疲れる。棚田を登っただけなのに、ちょっと息が上がってしまった。少し息を整えていると、
1 21/04/25(日)03:21:46 No.796131017
「そのネイル、綺麗ですね」 予想外に褒められて、とっさに言葉が出ず、かろうじて 「ん」 とだけ返した。慌てて手を見る。もうだいぶ時間が経ってて根本にかなり隙間があるけど、遠目にはまだ綺麗に見えるのかも。 「あんた、今日も村で雑用みたいなことやってたの」 いきなり本題に入る気にならなくて、雑談めいた話題を振った。頼まれてお年寄りの方を車椅子で村のあちこちに連れて行ったとか、手が足りないから田んぼの雑草を抜いたとか、そんな事をやり取りしたけど、すぐに会話は途切れる。私は覚悟を決めて切り出した。 「前にも言ったと思うけど」 「あんたの乗ってた初号機でニアサーが起きて、私の家族や沢山の人が死んだ。それについて、あんたはどう思ってるのか、聞かせて」
2 21/04/25(日)03:22:02 No.796131047
私が誰なのかはサクラを通じて伝わってるはず。だから、必要なことだけ聞いた。相手も前提を飲み込んでたみたいだったけど、 「自分がやったことなのに、僕は誰からも罰を受けなかったんです。そのせいかは分からないけど、どうすればあんなことにならずに済んだのか、今も考えます」 ちょっと意外な返事が返ってきた。 「え。あんたは、ニアサーを起こしたのが自分だと思ってる?」 思わず聞き返す。 「僕はあの時、綾波を、零号機のパイロットを助けられれば、世界がどうなってもいいと強く思ったんです。ニアサーが起きたことは、そのことと無関係じゃない気がしてるんです。本当かどうかは分からないけど」 マコトが言ってたように、ニアサーは結果だ、というのは間違ってない。葛城艦長が言ってたように、こいつがいなければ、あそこで人類は滅んでいたのも間違いない。私も記録を見てそう思った。 そういう理屈のフィルターを通せば、自分は無実だって考えられるはずだ。人工的に、再生水を作るみたいに。なのに、こいつはそれをしていない。
3 21/04/25(日)03:22:18 No.796131067
「ミサトさんが届けてくれた槍のおかげで、エヴァのない、エヴァががなくても良い世界になりました。それ以上、エヴァのパイロットだった僕に出来ることはもうありません」 「でも僕がニアサーを起こしたことは、なかったことにできない。あなたの家族や、トウジやサクラさんのお父さんや、沢山の人を死なせてしまったことも、なかったことにできない。許されるのかも、償えるのかも分からない。でも、生きていくしかないです」 「死んでいった人達のためにも」 言い終えた横顔を見ると、視線は正面をじっと見つめていた。自分を正当化はしないってことか。なんとなくそれで十分な気もした。けど、 「そんなこと言ったって、実際はのうのうと生きてるだけでしょ。私はそれがどうしても許せないし、気が済まないの」 自分が溜め込んだ淀みを掻き出すように、あえて言った。それはもう、私の本心というか、意地だった。 「それはおっしゃる通りです。でも、あなたの気が済むようにすれば、僕は償ったことになるんでしょうか」 言うと、急にこっちを見つめてきて、ドキリとした。 「どうしたら、僕のしたことは償えますか」
4 21/04/25(日)03:23:07 No.796131142
そんなこと出来るわけないですよね?なんてタカをくくった言い方じゃない。深刻に、切実に、償う方法を知ってるなら教えて欲しいと。本気で救いを求めるような眼差しで私を見ていた。そいつがずっと抱えてきた、底の見えない苦しみを覗き込んだような気がして、私は目を逸らした。 「そんなの分かんないし、決めらんないよ。私は神様でもないし」 「ですよね。すみません」 寂しそうに笑いながら、顔を背ける気配がした。仮に今すぐ死ねと言ってこいつが死んでも、私が明日から晴れやかに暮らしていけるとは思えない。放っておいても、こいつは苦しみを抱えて生きていく。だから、私に出来ることはもう何もない。 風が吹く。風は目の前の稲を揺らし、遠くから蝉の声を運んでくる。 「もういいよ。この話は。でもさ」 ただ、気に食わないことがある。私は草を払って立ち上がり、見下ろしながら言い放つ。
5 21/04/25(日)03:23:23 No.796131173
「さっきあんた、自分はもうやり切ったみたいな事言ってたけど、あんたら親子が滅茶苦茶やったせいで、この世界は全然片付いてないから。おじいちゃんの車椅子押したり、田んぼの草取りとかしてる場合じゃないから」 「あんたもヴィレの一員なら、もうちょっと役に立ちなさいよ」 言うとそいつは、目を見開いて、心底意外そうに訊いてきた。 「ヴィレの一員って、僕ですか」 「他に誰がいんの。碇シンジ」 気まずいような、恥ずかしいような沈黙が流れる。 「戻ってくるまであんたが何をしてたか知らないけど、頭は鈍くないみたいだし、何かしら出来る仕事があるんじゃない」 「はい。一応、学位は取りました。2つほど」 「はぁ????」 意味わかんない。これだから非常識の塊は。まあでも、使えるなら何だっていっか。
6 21/04/25(日)03:23:41 No.796131203
「ふーん。じゃあ差し当たって私のパシリでもやってもらうから」 手を差し伸べると、思ったよりずっと大きくて力強い手が握り返してきた。そのまま立ち上がらせる。 「もっとマシな仕事はないんですか?」 「何いってんの。破格の待遇っしょ」 言って、手を離す。夕陽はとっくに山に隠れ、残光が田んぼの脇道を薄く照らしている。 まあ、ネイルの良さが分かる男が一人くらいはいてくれないと、むさ苦しくて仕方ないじゃんね。心の中でそう呟くと、帰るために歩き出した。 汚れた水は水蒸気になり、空に登って雲を作り、雨となって降り注いで、山から清水として湧き出す。 疫病神が起こした悲劇も、私の怒りも憎しみも、沢山の人を介して、気の遠くなるような時間をかけて、いつかはただの記憶の断片になるのかもしれない。めぐり回る水のように。(終)
7 <a href="mailto:s">21/04/25(日)03:28:31</a> [s] No.796131620
北上さん中心にシンエヴァその後を想像してみる話その9です 前回までのはこちら fu36379.txt 一応これで終わりです…が渋にあげる時にその8.5を追加すると思います これまで深夜や早朝にも関わらず反応をくれた「」には本当に感謝してますありがとう! 次書くものもあるけど短いからここに書くかどうかもう少し考えます
8 21/04/25(日)03:36:34 No.796132366
よかった 重い女さんは吹っ切れてたんやな
9 <a href="mailto:s">21/04/25(日)03:43:51</a> [s] No.796132987
>よかった >重い女さんは吹っ切れてたんやな おっと… #8.5はスミレさんのことを書きます にしても「」スミレさん好きすぎない?
10 21/04/25(日)04:00:57 No.796134400
あのシンちゃんならほんとにこんな感じのこと言いそうだなってなった にしても裏宇宙すげえな 本人主観にない知識も授けて学位まで取らせてくれるのか…って一瞬思ったけど ユイさんに次ぐインテリのマリさんもいるからその辺はマリさんでコントロールしたんだろうか
11 21/04/25(日)04:06:28 No.796134773
大検とかじゃなくて学位か
12 21/04/25(日)04:08:56 No.796134937
>あのシンちゃんならほんとにこんな感じのこと言いそうだなってなった >にしても裏宇宙すげえな >本人主観にない知識も授けて学位まで取らせてくれるのか…って一瞬思ったけど >ユイさんに次ぐインテリのマリさんもいるからその辺はマリさんでコントロールしたんだろうか あーそこはそういう印象になっちゃいますよね… 次に書くやつのネタなので詳しく書かんとこって思ったんですが 渋にあげるやつで説明足しときます
13 <a href="mailto:s">21/04/25(日)04:12:42</a> [s] No.796135195
メ欄忘れてた でも説明ばっかになるのもアレだから学位って表現自体無くすのもありかな… ありがとうございます
14 21/04/25(日)05:08:01 No.796137989
完走お疲れさまー!すごく楽しかった!渋で続きとの事だから頑張って探してみる!
15 <a href="mailto:s">21/04/25(日)05:18:13</a> [s] No.796138439
ありがたい… ありがたい… 北上さんのタグを付けるので余裕で見つかると思います
16 21/04/25(日)05:22:19 No.796138639
このシンジの独白聞いてると破を見た後に思ったことを思い出して懐かしくなるな… もしあの時綾波と一緒にみんなの元に帰ることを強く願っていたとしてもニアサー起きたんだろうかな
17 21/04/25(日)05:27:39 No.796138852
消えかけた浜辺から駅を出るまでマイナス宇宙の中を10年二人旅してきたとかだったりして いろんな並行世界を飛び回りながら大学生やってたり
18 21/04/25(日)05:28:07 No.796138866
そこはほらパパの方が一枚上手だから
19 21/04/25(日)07:22:53 No.796144843
>「そのネイル、綺麗ですね」 シンちゃんはこういう事サラッと言う!
20 21/04/25(日)07:31:07 No.796145472
そういや前作をここにあげた時はわたしのシンジくんだったのが渋だとわたしのワンコくんになってたけどあれはこだわりかな 個人的にはネルフのワンコくん→ヴィレのワンコくんと来てわたしのシンジくんに帰結したのが凄く良かったので少し残念でした…
21 <a href="mailto:s">21/04/25(日)07:41:50</a> [s] No.796146448
>そういや前作をここにあげた時はわたしのシンジくんだったのが渋だとわたしのワンコくんになってたけどあれはこだわりかな >個人的にはネルフのワンコくん→ヴィレのワンコくんと来てわたしのシンジくんに帰結したのが凄く良かったので少し残念でした… えっホントに ちょっと後で確認します にしてもよく気付きましたね…
22 21/04/25(日)07:48:17 No.796147103
ミドリちゃんの部下になるシンちゃん見てぇー!