虹裏img歴史資料館

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21/04/24(土)17:14:24 「うぅ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1619252064335.png 21/04/24(土)17:14:24 No.795901097

「うぅ~……ぐぬぬぅ……」 マチカネフクキタルがトゥインクルシリーズ、URAにおいて成績を残した3年からほんの少し経った日のことである。 その日は土曜ということもあり、自室に収まりきらなかった開運グッズの手入れのため、自身のトレーナー室に午前中から居座っていた。 瀬戸物のたぬきや木彫りのなにか、見るからに怪しい壺などを一つづつ丁寧に拭く。どれも彼女にとっては大事なものである。 だが時折、フクキタルの眉間には皺が寄る。というのも、この部屋の主であるトレーナーも部屋の整頓をしていたのだ。まるで当てつけのように。

1 21/04/24(土)17:14:42 No.795901193

トレーナーの住まいはトレセン学園が設ける独身寮だ。だが、その部屋の収納はなかなかの物で、押入れの中には冬物の衣類を追いやるようにダンボールと大小様々な箱がぎっしりと詰め込めるだけのスペースが用意されていた。もちろん、その中身が今までのレース用の資料や記録だということはフクキタル自身も良く知っていた。 トレーナーのおっさん臭い掛け声と共に押入れの中から取り出されたダンボールを床に置けば、結構な埃が部屋に舞う。 その埃はゆらりゆらりと揺蕩い、やがてフクキタルが磨き上げた水晶らに小汚く降り積もっていった。 これではせっかくの招き猫も一気に辛気臭くなる。内心フンギャロホンギャロと喚きながら、また一つ一つ埃を拭き取っていく。 しかしURA後の温泉旅行でトレーナーと一心同体となったフクキタルにとって、このいたちごっこは二人で居られる言い訳でもあった。 そう気づいた後は埃舞う光景もどこか愛おしく思えてしまい、結局は「……別に言わなくてもいいですかね」、と奇声をあげずにいた。 そんな中、ふとトレーナーが床に積み重ねた箱の中で目についたものがあった。

2 21/04/24(土)17:15:06 No.795901331

橙の和紙をあしらった縦長の化粧箱。箱の作りから見て、どうやら日本画やアジアンチックな何かだろうとフクキタルは見当をつける。 (むむむッ!いかにも高そうな化粧箱。まさかコレは……トレーナーさんの開運グッズ!?) 思わずフクキタルはほくそ笑んだ。なんせ普段からやれ壷を買うなグッズを売れと散々言ってくるくせして、もしコレが開運グッズなら「自分もちゃっかり買っているじゃないですか!」とトレーナーを弄り倒せるネタとなる。そしてその理由が私のためだったらなら、気持ちはマタズニコノフクワケアタエタルである。 (しかししかし、このサイズですと……掛け軸でしょうか?にしては箱の長辺が短い気もしますし……)

3 21/04/24(土)17:15:36 No.795901492

箱を眺めるにつれ好奇心が募っていく。ちらりとトレーナーの方を見る。 こちらに背を向けながら、せっせとダンボールの中の書類を整理している。こっちを見る素振りは一切ない。 そして視線を箱に戻し見つめること数秒、フクキタルはそれにゆっくりと手を伸ばした。 手に取った瞬間にずしりと来る重さが手に伝わる。黒檀や石のような、密度のあるもののそれだ。 ならば中身は木彫りのなにかか、はたまた水晶の置物か。一心同体の二人にとって福来たるモノであれと期待を胸に箱に手をかける。 しかしその中にあったのは、縦長の木箱。一見奇妙なそれは、香り立つ墨の匂いによってフクキタルもよく知る道具であることを知らせた。

4 21/04/24(土)17:15:56 No.795901621

縦長の木箱の蓋を開ければ、中にあったのは石硯である。しかし、目前にあるそれは一般的なものとはかなり違う形をしていた。 通常の石硯を縦に繋げたような長さの硯を手に取る。それの中央部には墨を溜めるための墨池がなだらかに谷を描き、両端には墨を磨るための平たい墨堂がしっかりと設けてある。石材は恐らく坑仔岩。両方の墨堂には美しい蕉葉白が見られ、長辺にはそれぞれ雲のような意匠があしらわれていた。 本来、硯には一つの墨池に一つの墨堂で十分である。しかし目前のそれは、まるでこの硯を挟み向き合うように墨を磨るような形をしていた。 だがフクキタルはこの石硯の意味をすでに知っていた。ウマ娘としてではなく、字と向き合ってきた一端の者として。

5 21/04/24(土)17:16:19 No.795901748

ふと、背を向けていたトレーナーがフクキタルの方に目をやった。一瞬、息を呑んだかのように見えたがすぐにまた背を向け、いつもの声色でフクキタルに背中で語りかけた。 「あぁそれな。面白い形してるだろ?」 しかし、フクキタルの返事はない。トレーナーの口からも続く言葉はなかった。 トレーナーとフクキタルだけの一室。先程までのふんにゃかはぴはぴとした雰囲気は何処、いつの間にか緊張感が漂う。

6 21/04/24(土)17:16:43 No.795901876

しばしの沈黙に堰を切るように、先に口を開いたのはフクキタルであった。 「……『匈〈キョウ〉』字に勝る字をなんと心得ますか」 トレーナーの動きがカッチリと止まる。同時に、トレーナーは自身の背中にフクキタルの視線を強く感じていた。 急激に上がった脈拍を前に落ち着こうと鼻で大きく息を吸い、口から吐く。 しかし一向に落ち着かない。しかたなく覚悟を決め、彼女に向かい合うように居直った。 瞬間、目前のフクキタルの表情にトレーナーは思わず目を見張り、体が強張った。 一文字に閉じた口端は仄かに上がっているが、その眼は一切笑っていない。 緊張感や焦り、そして期待を必死に押さえつけながらも、隠しきれないそれらは眼力としてトレーナーに刺さる。 URAファイナルの決勝でも見たことがない、初めて自分に向けられた「闘いたい」という意思。 そしてその熱量を前にしたせいか、トレーナーも自身の口端が上がっている事に気づいた。 どうやらこちらも隠しきれてないようだ。ならば答えるしかない。 「……『勽〈ブン〉』と心得る」

7 21/04/24(土)17:17:07 No.795902014

フクキタルの眼が見開かれた。同時に、口端はさらにぐいと曲がり、彼女の耳はピンと伸び、軽く髪の毛が逆立つ。 だが、自身の急いる姿に気づいたか、彼女は息を長く吸い、ゆっくりと吐いた。 自身の目前にいるのはいつものフクキタルではない。書家であり闘字の勝負師として、その闘志をぶつけようとしている。 そして、フクキタルはトレーナーを見つめ、こう告げた。 「トレーナーさん。ぜひ一手、お手合わせをお願いしたく存じます」

8 <a href="mailto:n">21/04/24(土)17:17:40</a> [n] No.795902187

以上です。 書道段位持ちのフクちゃんなら闘字の存在知ってそうだし、スピリチュアルに傾倒する理由の補強として嗜んだ過去ありそうだなーと思って書きました。 実際の闘字シーンは文才と教養がないので無理です。 リスペクト文献:『文字渦』 (著 円城塔、新潮文庫) より、「闘字」

9 21/04/24(土)17:18:47 No.795902565

書家としてのフクちゃん見てみたい

10 21/04/24(土)17:22:41 No.795903791

自分の尻尾の毛筆とか作ってんのかな

11 21/04/24(土)17:24:42 No.795904539

フクの書道設定活かしてる人初めて見た

12 21/04/24(土)17:26:54 No.795905292

達筆なフクいいよね

13 21/04/24(土)17:27:21 No.795905443

>自分の尻尾の毛筆とか作ってんのかな この後トレーナーに送りそう

14 21/04/24(土)17:31:25 No.795906714

文字禍の二次創作はじめて見た

15 21/04/24(土)17:57:51 No.795915521

内容はいまいちよくわからなかったけどかっこいいフクがかっこよくてよかったのでよかった

16 21/04/24(土)18:00:40 No.795916407

書闘家のフクちゃんの気迫は別人だな… ところで一心同体したんですね?

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