21/04/20(火)02:39:01 #4 翌... のスレッド詳細
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21/04/20(火)02:39:01 No.794524736
#4 翌日。副長はユーロネルフの一行と第3新東京市方面へ発った。随行にはシゲルとマコトが付いている。ジオフロントとか、旧本部跡地を査察するらしい。私はそれには付いて行かず、別ミッションに参加する。 空は昨日とは打って変わり、抜けるような晴天。暑くもなく寒くもなく、航空基地のだだっ広い滑走路を吹き抜ける風が、陽射しの熱を散らしてくれる。爽やかで最高。格納庫の前で待っていると、基地入口の方から車が近付いてきた。 「マヤさーん」 手を振ると、車内からも手を振り返してくれるのが見えた。伊吹整備長だ。赤木副長で忙しくて目が行き届かくなかってからこっち、副長が見ていた分野を一手に任されている、事実上の技術トップだ。何かこだわりがあるらしくて、整備長のままだけど。 マヤさんの車に続いて、でかいトレーラーがやってきて格納庫の前にぴたりとつける。停車すると、運転席から見知った顔の女性が降りてくる。 「スミレさん。お久しぶりっす」 「ご無沙汰してます。北上さん」
1 21/04/20(火)02:39:32 No.794524799
ヴンダーの操艦手だった長良スミレさん。アネゴっぽい風貌と、丁寧口調のギャップは健在。今は物資輸送とかで色んな乗り物を毎日ぶん回しているらしい。続いてもうひとり、モジャッとした頭の男が下りてきた。 「北上さん、お久しぶりです」 「よっ、クマヒデキ。あんたも来てたの」 「多摩です。いや、なんでわざと間違えるんですか!?」 早速、格納庫から荷を積み込みにかかる。と言っても、重機を動かせるわけでもない私は見てるだけ。昨日ユーロの訪問団が乗ってきた軍用機と一緒に積まれてきた荷物を受領して、格納庫に置いてもらうのが今日の私の仕事だった。昨日の協議では色々とユーロ側にサービスしてあげたけど、なにもタダでやったわけじゃない。初めからこれを貰うのが前提の話だったってわけ。 優秀なヴィレのメンバーによって手早く、けれども慎重に荷物がトレーラーに積み込まれると、私達は基地を後にした。私はマヤさんの車に同乗して移動だ。走り出してすぐ、マヤさんが私の爪に気付いてくれた。 「それがあのレジンで作ったネイル?すごい綺麗にできてるわね」 「分っかります?私も自分の才能に驚くっていうか」
2 21/04/20(火)02:39:53 No.794524831
改めて両手の爪を眺めて悦に入る。艶といい形といい膨らみといい、完璧っしょ。 「でもそれ、簡単には取れないけど。大丈夫なの?」 「え?」 なにそれ。どういうこと。 「ヴンダーでも、装甲の細かい傷を応急処置する時にも使ったものだから、ちょっとやそっとでは取れないわよ」 「えっ」 「特殊な薬液に浸せば綺麗に落ちるけど」 「あ、よかった」 「劇薬だから、指も一緒に溶けるわね」 「えっ」 「高温で熱しても溶けるけど」 「はい」
3 21/04/20(火)02:40:11 No.794524864
「指も一緒に炭化するくらいの温度ね」 「…」 「だから現実的には、物理的に削り取るしかないかなあ」 「ええ~…」 「だから頼まれた時、よくやるわねって思ったんだけど」 「先に言って下さいよぉ~!」 その後はしばらく口を開く元気が出ず、窓の景色を眺めるしかなかった。道中は思っていたより人の生活が戻ってきてるみたいだった。陽は高く上り、川や森を輝かせている。そうこうしている内に車はどんどん人里から遠ざかり、山奥に入っていく。 私達の行き先は、とある山中にあるネルフの秘匿施設。目的はネルフの情報資産のサルベージ。ネルフ本部はとっくの昔に崩壊してて、ヴンダーも失った私達はとにかく情報も機材も足りなくて仕事が進まない。ネルフが抱えていた膨大な情報を使えるようになれば、色々と捗るはずっていう目論見だ。 道は未舗装になり、トレーラーが通れるか不安になるくらい細い道も乗り越えてようやく着いた先に、突然コンクリート造の駐車場が現れた。そこに十数人が集まっている。どれも見知った顔、ヴィレのメンバーだ。脇の岩壁にはトンネルが黒々と口を開けている。なんでも廃鉱山の坑道らしい。
4 21/04/20(火)02:40:31 No.794524894
「すっげ~。MAGIの外部記憶が、こんな山の中に」 思わず声が出る。 ネルフやヴィレの情報システムの中核だったMAGIシステム。ネルフ本部にあったMAGIはサードで、松代にあった2号機は3号機実験で、コピーはヴンダーと一緒に消えてしまった。でも周辺システムのひとつだった、MAGIが扱った情報を蓄えるアーカイブ的な外部記憶システムは、このトンネルの奥にあって破壊を免れた。とはいえ14年間手つかずだったシステムはまともに動かない。だからユーロから譲り受けた機材群を組み込んだり入れ替えたりしながら、システムを再起動させるのだ。 「さあ!ここからは一気に片付けるわよ。手の空いている者全員でユーロの機材搬入とチェック。夕方には最初の組み込みまで行くからね!」 うわ~、整備長のゲキ、久々に聞いた。なんか懐かしいな。 「全系の再稼働は3日以内を目標。全工程はなんとしても1週間以内に終わらせる。かかれ!」 整備長の叱咤にみんなが、ハイ、と答えて、精鋭のメンバーが動き出す。こういう仕事は久々でなまってるかもしれんけど、まあなんとかなるっしょ。
5 21/04/20(火)02:40:48 No.794524933
結局、システムとして完全稼働させることが出来るまで、2日。 それを一旦バラしてトレーラーに積み込むので、1日。 第3村にほど近いヴィレの拠点へ運び込むまで、1日。 トレーラーからコンテナを運び出し、再度組み上げて稼働させるまで、2日。 なんとか1週間以内でやり遂げた時には、本当にもうクタクタだった。マヤさんからは 「お疲れ様。あなたやっぱり、先輩の秘書をやらせておくには勿体ない腕ね。こっちの仕事がしたかったらいつでも声をかけてちょうだい」 とか、お褒めの言葉っぽいのを頂いた。秘書よりは向いてるかもしれないけど、キツさが身にしみた直後だったので、考えときます~って言うのが精一杯だった。 そうしてネルフの色々な情報にアクセスできるようになって、物事が急速に捗るようになった。設計、仕様、ルール、問題の解決策、実験データ、様々な記録。しばらくその情報資産の精査をしていた私は、ある記録を見つけた。対使徒迎撃作戦の詳細。第3新東京市を襲った使徒を迎え撃った時の発令所でのやり取りと、断片的な映像がセットになったもの。秘匿性はトップレベル。
6 21/04/20(火)02:41:09 No.794524979
この記録を見つけた時、私の中で、ある気持ちが湧き上がった。 誰もが日々の暮らしに必死な今の世界では、目の前のこと以外はあっという間に忘れられてしまう。使徒のことも、エヴァのことも、忙しい日々の中で急速に過去のことになっている。ヴンダーに乗り、ネルフと戦ったこと。ヴィレに入るまでのこと。そして私の家族のことも、自分の中ですら色褪せた思い出になりつつある気がしていた。 ニアサーが起きるあの日とそれまでに、私の住んでいた場所で、何があったのか知りたい。 記録の閲覧を赤木副長に願い出ると、珍しくちょっと考え込んだ後、 「今のあなたには必要なことかもしれないわね」 と言って、ロックを解除してくれた。 私はそこから数日間、かつてのネルフが使徒と戦った記録と向き合うことになった。(続)
7 <a href="mailto:s">21/04/20(火)02:43:55</a> [s] No.794525268
北上さん中心にシンエヴァその後を想像してみる話その4です 今回までが前半といった感じです 前回までのはこちら fu36273.txt
8 <a href="mailto:s">21/04/20(火)02:46:52</a> [s] No.794525623
今回から直接レスに書く形に戻しました こっちの方が読みやすいかなというのと ファイルを2個あげるのが若干面倒だった…
9 21/04/20(火)04:17:34 No.794532274
ええよー
10 21/04/20(火)04:27:10 No.794532691
こういうちゃんとしたSSをここで読めるのありがたい…
11 21/04/20(火)04:28:02 No.794532736
爪…
12 21/04/20(火)06:59:39 No.794538611
長良さんの出番が一瞬で終わった…!
13 21/04/20(火)07:18:33 No.794539858
グッバイ指!
14 21/04/20(火)07:18:47 No.794539873
やっぱ印象薄いよねあのモジャ公…
15 21/04/20(火)07:19:51 No.794539960
>やっぱ印象薄いよねあのモジャ公… 舞台挨拶で初めて名前を知りましたよ私は
16 21/04/20(火)07:28:08 No.794540598
素直に続き読みたいわ… 置く場所とか次上げる時間とかは決まってるの?
17 21/04/20(火)07:51:59 No.794543079
大体深夜から朝方にかけて 全部出来たら前二作みたく渋に上げるんじゃなかろうか