虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/04/18(日)18:11:54 No.794064511

    「むっふっふっふ~、もう少しで温泉ですよっ温・泉!」 国道から宿までの桜並木が綺麗だと聞き折角だから見ながら歩いてみる事にしたが段々めんどくさくなってきた。国道から見える範囲では舗装されていたしそこまで急にも見えなかったが段々勾配はきつくなり更に舗装も無くなりダートになる始末。この坂道はキツいぞ。素直に迎えを頼めば良かったと後悔している。 靴に重い蹄鉄をつけているような自分と違い、桜が両脇を固める山道を鮮やかなステップを踏むマチカネフクキタル。 「いやはや!まさか福引でかの高級温泉宿のペア旅行券が当たるとは!」 先導しながら鼻息荒く語り始める。 「この山は景勝地というだけではなく霊験あらたかなパワースポットとしても有名でして!学業成就商売繁盛春風駘蕩その他もろもろの効能が得られると!」 足取りもさることながら普段からよく回る舌が今日は一層増して軽快にくるくると回る。 「胡散臭すぎる…。つーかそれ効能じゃなくてご利益って言わないか?」 呼吸を整えながら返答する。

    1 21/04/18(日)18:12:20 No.794064650

    「そもそもこんな山奥の温泉宿、それも宿泊客が1日数組しか受け付けてなくて価格帯もそれなりに高い所であれば元々社会的に成功してる、あるいはしそうな金銭時間体力的にも余裕な奴しか来ないだろ」 むむーと拗ねた顔をこちらに向けてくる。 「そこまで不満ばかりとは、私一人で来れば良かったんですか?」 「俺たち2人で当てたから俺にも権利があるだろ」 トレーナーさん!2人で!2人で回しましょう。2人の手を重ねて回せば黄金の回転となり昇竜するかのごとく運気はうなぎ登り!さぁ、いざ!と怪しげな口調にとりあえず付き合って周りからクスクスと笑われる事に耐えながら回したら本当に当たったのだ。あの時のコイツと来たらトレーナー白書に『ウマ娘のドヤ顔』と写真を載せても良いほどのドヤ顔を披露し挙句の果てにこれは2人で常に手を繋いでいれば運気の波に乗りっぱなし楽々目的地まで運んでくれるのでは?と変な理由をつけてこちらの手を狙ってくるもんだから手ではなく顔にアイアンクローで応えた事まで思い出した。 「トレーナーさん。もしよろしければ?」 下から覗き込むフクキタルに気がつく。 「私がお荷物をお持ちいたしましょうか?」

    2 21/04/18(日)18:12:44 No.794064797

    「いや、このくらい」 せいぜい1泊する程度だから軽装ではあるし何よりいくら相手がウマ娘とはいえ荷物を持ってもらうのはかっこ悪い。 「ではでは!せめて元気の出るおまじないを」 はらほれーひれはれーなうまくさらだだん・かん! どこからか大幣を取り出し謎の祈祷を始める。好意なのはわかるし誰も見ている人はいないだろうが恥ずかしいからやめてくれ。 「あと少しなんだろう?」 ぽんと頭に手を置く。一応こちらを心配しての行動だとわかってはいるので感謝の意を込めてそのまま撫でる。 「お前と来るのを楽しみにしてたし頑張るよ」 するとぬっふふふと奇っ怪なうなぎみたいな動きをし出した。

    3 21/04/18(日)18:13:10 No.794064929

    「ムヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」 挙句の果てに魚類を飛び越え妖怪みたいな笑い声まで始める。 「もう、トレーナーさんったら~。照れ屋さんの恥ずかしがり屋さん~」 身体に加え左手までくねらせる。段々めんどくさくなってきたので髪をぐしゃぐしゃと乱す。 「ふぎゃっ!」 「さあー行くぞー」 さっきの祈祷のお陰かは分からないが何となく元気が出たので歩き始める。 「なんて事を!!髪一つ一つのはね方が風水を意識した幸運ヘアーを乱すとは!不幸になったらどうするんですか~!?」

    4 21/04/18(日)18:13:31 No.794065050

    後ろから抗議の声が聞こえてきたがなんだそりゃ?初めて聞いたわなどと戯言を交わしながら宿へと向かった。 福引で当てることがなければまず縁のなかったであろう豪華な部屋でそれにふさわしい豪華な夕食に舌鼓をうち、個室についている露天風呂は無視したままそれぞれ一旦それぞれ大浴場へ。 部屋についている露天風呂は大凶!場合によって大吉!とフクキタルは言ってたがどんな場合かは触れないでおく。 御利益があるかはわからないが温泉を堪能した後、夜の散歩は吉!夜道を照らす灯りと桜は輝かしい未来を暗示しているのです!という良いこと風のフクキタルの言にも押されライトアップされている桜を2人で見に行く。 昼間の明るさとは違うどこか怪しく美しい景色が目に入る。光に照らされた薄紅色の桜が綺麗だからか周りの夜闇を一層暗く感じる。 「桜といえば…」 桜に心奪われてどこか夢現の中フクキタルが話し始める。 「とある姉妹の神様が同じ人に嫁ぐ事になり、桜の神様は美しかったのですが、もう1人は醜い岩の神様だったので送り返されたそうです」

    5 21/04/18(日)18:13:54 No.794065152

    一際大きな桜の木の下に佇みぽつんと呟く。 「姉妹なのに1人は選ばれて、もう1人は選ばれなかった…」 ごうと吠えるような音が遠くから聞こえた。墨の様な夜空の涯てから冷たい風が足元を掠めていく。桜の枝が騒ぎ立し落ちた花びらを風がまた攫っていく。花びら達はそのまま桜色の波となり彼女を覆っていく。 「フクキタル!!」 思わず叫び手を伸ばし花の帳を掻き分ける。目の前には変わらずキョトンとした彼女がいた。 「どうしたんですか?トレーナーさん?」 「あ、いや…」 お前がそのまま桜に融けて消えてしまいそうだったからと言えずに口篭る。 風に揺れる桜達のざわめきが心をかき乱していく。

    6 21/04/18(日)18:14:11 No.794065245

    その後特になにか怪しい事があった訳でもなくフクキタルと部屋に戻り、思い出話やとりとめのない話に花咲かせ、ではおやすみと特に何も引っかかる事も無いままそれぞれの布団に入った。 ふと目を覚ましスマートフォンの時計を見るとあれから1時間ほどしか経ってない。歩き疲れたはずなのになぜか再度寝付くこともできない。はたと思い付き折角だからと寝てるフクキタルを尻目に個室についている露天風呂に入った。 「あぁ、幸せだな」 時々自分の動く水音と風の音以外は静かな夜中。 ぼうっとして、フクキタルと一緒に入ればとよぎるがいや流石にそれはと振り払ったところ部屋と露天風呂を繋いでいる扉が開かれタオルを身体に巻いたフクキタルが入ってきた。 「は?フクキタル?」 「ハイ!マチカネフロハイルです!」 コンヨクスルじゃないんだーとか塵ほどどうでもいい思考が通り過ぎていく。ちょっと待ってこっちタオル巻いてないんだけどそっちズルくない?一応湯が濁っているからとはいえ。思った以上に異性の前で裸って心細い。人生まだまだ知らないことは沢山ありますね。

    7 21/04/18(日)18:14:29 No.794065356

    「トレーナーさん、出会った頃からいまに至るまでトレーナーさんにはお世話になりっぱなしですので。これは良い機会と思いせめて背中を流させて頂こうかと!」 「いや、流石にそれは恥ずかしいから勘弁してくれ」 え、これが場合によるの場合なの?と動揺しながらも何とか返事をする。 「で、ではせめて」 と言ってそのまま近づき、すぐ目の前でちゃぽんと湯船に浸かる。 「あの、私は、その、い、一応女の子ですので本当はこういうことをするのは恥ずかしいのですが、か、覚悟を受け止めて頂ければ!」 1度深呼吸をし、呼吸を整え 「好きです、トレーナーさん」 真剣な表情。この表情に誤魔化す事なんて出来なくて

    8 21/04/18(日)18:14:44 No.794065439

    かまわん、続けたまえ 、   ∧_∧ 、 ⊂(´・ω・`)つ-、   /// /___/:::::/   |:::|/⊂ヽノ|:::|/」 、/ ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/ | /______/| | | |--------------|

    9 21/04/18(日)18:14:49 No.794065463

    「俺も、お前の事が好きだ…」 つい口から言葉が漏れる。 「トレーナーさん…」 今まで聞いた事のない熱っぽく湿った声。そのままフクキタルの顔が近づいてくる。唇と瞳に目を奪われたままあともう少し…。 「むぎっ!」 「駄目だ」 柔らかい唇に指を当てて止めた。 「な、なにゆえ!?夜は短し恋せよウマ娘、清水の舞台からのバンザイアタックを袖にするとは!いったいどういった了見ですか!?」 ふぎーっと威嚇しながら抗議してくる。

    10 21/04/18(日)18:15:09 No.794065562

    「お前が、フクキタルじゃないからだ」 彼女の表情が急に冷めていく。 どうして… 唇を指でなぞりながらフクキタルでは無い何かが問うてくる。 分かったんですか? フクキタルとはとうてい同じ声帯とは思えない冷静な声。 「勘。伊達にアイツと3年過ごしてないさ。」 菊花賞の時も働いてくれた俺の勘は今回もギリギリの所で働いてくれたらしい。 「お前は…何だ?」

    11 21/04/18(日)18:15:59 No.794065823

    今度はこちらから質問する。 「何とは?私はフクキタルのあ……いつも見守っているシラオキ様です」 何か誤魔化されている感じはするがとりあえずいつもフクキタルに啓示を与えてくれるシラオキ様らしい。 「フクキタルはどうした?目的は?」 「私は今フクキタルの身体を借りているだけで本人は眠っている状態です」 シラオキ様が胸に手を当てる。普段のフクキタルがしそうにない艶っぽい動きに不意打ちを食らう。 「そして目的は、アナタとフクキタルがじれったくて。少しは背中を押してやろうと」 なんてお節介な神さまなんだ。 「フクキタルは貴方に好意を向けてますが気付いてない訳ではありませんよね?」

    12 21/04/18(日)18:16:17 No.794065928

    「…気付いていない訳では無い…」 好意みたいなものを向けられているのは分かってはいるが如何せんそれがどういう種類なのかまでは自信がないし年の差もあるし応えるのは正直恥ずかしい…。 「一応俺なりにフクキタルの事を大切に思っているのは示してるつもりだ…」 絶対に本物のフクキタルがしない死ぬ程呆れたっていう溜息と冷たい眼差しを向けてくる。やめて、開運どころか新しい扉の方が開かれちゃう。 「アイアンクローをかますのが貴方の愛情表現ですか?」 「ちがわい!アイアンクローされる原因はフクキタルがやらかす時だろ。つーかいい加減返せよフクキタル」 本当は、大事なパートナーの為にもっと怒っても良いはずだがフクキタルの事を心配しているのは嘘ではないようでどうにも強く出ることができない。 「ふむ。では、貴方がフクキタルに対する愛を語って頂ければこの身体は返しましょう」 なんだその試練というより無茶ぶりみたいなやつと思いつつもそれしかないのであればと答えてみる。

    13 21/04/18(日)18:16:35 No.794066050

    「えーとなんだ、自己肯定感低いけど必死に頑張る所」 「王道な所から攻めてきましたね」 「へこむ時だってあるし調子乗って失敗することだってあるけどな。負けてきます!って言い切ってレースに挑めるやつなんてなかなかいねぇよ。」 「あと時々笑顔にドキッとする」 「常にではないのですか?」 「ムフフフーって顔もレースに勝ったあと良くしてたから好ましいっちゃあ好ましいがろくでもないことしでかす時もあの顔なんだよ!けどまーアイツの笑顔、つーか表情は豊かで見てて飽きない」 「確かにフクキタルは本当に可愛いですからね」 うんうんとシラオキ様がフクキタルの顔で真面目にフクキタルの可愛さについて頷いている。なんなんだこれ。 「実はあいつのマシンガントークが好きだ。聞いていないと物足りない」

    14 21/04/18(日)18:16:55 No.794066159

    本人ではないとはいえ段々恥ずかしくなってきたので正面にいる偽フクキタルから顔を逸らす。 「くじ引きでレース決めた事もあったけど最後までやりとげたしな。巫山戯てるって言われるかもしんないけど、どんな運命でも受けて立つって言いきった時カッコいいと思った」 「バレンタインもクリスマスの時もロマンの欠片もなかったけど気兼ねなく2人で過ごす事が出来てすっごく楽しかった」 「あー、あと滅多にないけど怒った時の顔が可愛い」 好きな所を思うままに挙げていくがなんで他人にあれこれ言わなきゃいけないんだ。婚前の身内への挨拶かなんかか?だんだん腹立たしくなってきて、 「つーかいちいち挙げていったらきりがねぇよ。俺はフクキタルの全部を好きになったんだよ。欠点も含めて何もかも。だからいい加減フクキタルの身体を返せ」 …と言いながら逸らしていた顔を戻す。 さっきまでの偽フクキタルは既にそこにはおらず、耳がピンと立ち、お顔が真っ赤になって…。勘とかいらない、本物の方だこれ。 「あ、あ、あの、寝てたら気がついて夢でシラオキ様ではなくトレーナーさんが私に…」

    15 21/04/18(日)18:17:40 No.794066391

    お互い動揺で何も言えないまま時間が過ぎる。 「あ、上がります!!」 とフクキタルが湯船から飛び出しスズカもかくやという速度で急いでかけていったが上手く減速しきれずに扉にそのままカートゥーンのごとくふぎゃっとぶつかった。 「フクキタル!」 「だ、大丈夫、大丈夫です!」 と必死に大丈夫と繰り返しながらそのまま部屋に戻って行った。 あーこれどうしよう。年下にストレートな告白とか超恥ずかしい。緊張で口からおみくじ出ちゃいそう。あれこれ言い訳というか取り繕い方を考えていたがいい加減のぼせそうだったので風呂からあがるも出来るだけのろのろと服を着てから部屋に戻る。 部屋は灯りがついており、布団の上でフクキタルがち顔を手で覆いながらちょこんと座っていた。

    16 21/04/18(日)18:18:07 No.794066537

    「え、えっとあ、これ夢ですよね!だってトレーナーさんが私に、好きだなんて…」 顔を覆ったままこちらに聞いてきた。 どうしよう。お前はお前じゃない誰かに身体を乗っ取られていてそいつから解放するために好きなところを挙げてたとか荒唐無稽な話、言い訳にもならんしそもそもフクキタルを好きだっていう気持ちは… 「夢じゃない。本当だ。好きだ、フクキタル」 2回目、今度こそ本当の告白。 うつむき顔を手で覆う彼女からポトポトと泪が零れている事に気がつく。 「ごめん、やっぱりキモかったか?」 「違います!違うんです。ただ嬉しくてエヘへ…。その、私なんかがトレーナーさんに選ばれるなんて信じられなくて…」 泣きながら笑顔を向けてくる。

    17 21/04/18(日)18:18:23 No.794066608

    どうしていいかわからなくて、気の利いた台詞も思いつかなくて、ただ愛おしくて放っておけなくて抱き寄せる。 「トレーナーさん…」 そのまま無音が訪れる。互いの体温を交わしたままどちらも一言も喋らずただ時間が過ぎていく。 とりあえず慰めようとしてやったけどどうしよう?拒否されないしあっちもこっちに身体を預けてきてまるで寝てるような…スピースピーって寝てるじゃん。 ゆっくりと身体を離すとニュホへへへへと笑いながら寝ていた。 なんだか拍子抜けしてとりあえず寝かせるかと布団に寝かせる。 「離れないでください、トレーナーさん…」 一瞬鼓動が跳ね上がったが寝言のようだ。 こっちの台詞だ。どこかに行こうとするな。身体を乗っ取られるだなんて今まで1番ド肝を抜かれたわ。鋼の糸で結ばれてるって言ったのはそっちだろ、とか色々言いたくなったが

    18 21/04/18(日)18:18:51 No.794066798

    「まったく、人を逆指名してきた癖に、今ではこっちが目が離せないよ」 俺も運命だと思ってるよと添えて毛布をかけた。 次の朝はなかなか目を合わせられず、ぎこちないまま朝食を食べ、こちらの気まずい雰囲気に何かを勝手に察した受付の目を背に受けてチェックアウトする。 「あーあの、トレーナーさん!お手を拝借~」 「よーっ」 「あー!!違います!違います!えーと、…手を繋ぐと運気が~とかそういうのではなくてその…」 赤くなりながらもこちらから目を逸らさない真剣な表情。 「私、マチカネフクキタルはトレーナーさんの事が好きだから手を繋ぎたいんです!!!」 「俺もだ」

    19 21/04/18(日)18:19:11 No.794066888

    答えて、そっと手を差し伸べる。 フクキタルの顔がぱっと輝いて手を取ってそのまま向き合って2人で笑い合う。 来る時はあれだけ悪態をついた坂道も好きな人とこうしていられるなら悪くない。春風の中に「やれやれ」と優しい呆れた声が聞こえた気がした。

    20 21/04/18(日)18:19:49 No.794067110

    悪霊早く成仏して

    21 21/04/18(日)18:20:30 No.794067345

    おいデジタル!しっかりせぇ!