ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/04/10(土)04:32:23 No.791362260
私が甘やかす。彼が甘やかす。私が甘やかす。彼が甘やかす。 水が海から雲になるように、そしてまた小川に落ちるように。それはずっと続くものだと信じていました。そうなるように努力することは…努力と呼ぶようなものではありません。それは何にも代えられない幸せでした。 幾度のレースに勝ち、その度に彼との時間を過ごす。 たまに、思うことがありました。いつかは私も衰えて、彼にトロフィーをあげられなくなる。その時、彼は許してくれるかしら?多分許してくれると思います。よく頑張ったって撫でてくれると。 でも、万が一、もしも許してくれなかったら?彼が、離れていってしまったら?と。 …それでも、幸せは無くならない。この走り続けた時間は、最高の宝物であるはず。 私はなんの疑いもなくそう思っていました。その日の朝までは。
1 21/04/10(土)04:33:13 No.791362308
横断歩道でウマ娘が転んだ。 珍しいがあり得ない事ではない。彼女が大きなセミの脱け殻を拾って、それを太陽に透かしながら歩いていた事も含めて。 その横をトラックが通過していったのも、全く珍しい事ではない。 だがその通過する前後に強烈なスキール音が響いて、トラックをかすめながらスポーツカーが突っ込んできたのは極低確率な不運と言うしかなかった。 ウマ娘は生来臆病で、危険に関する反応が早いのだが、尻餅をついたままではどのような反応も取れなかっただろう。そこに一人の男が文字通り飛び込んできてその勢いのまま、彼女を抱き起こしていなければ。 全てはスーパークリークの100メートル前方で起こった。トレーナーが居るのには気付いていた。彼女には後ろ姿だけでも、一キロ先だって彼を見分けられる自信がある。手鏡で髪型を確認する。登校中のウマ娘はまばらで、その向こうの彼に今日はどう声をかけようかと思いながら足を早めようとした直前に、そのスキール音を聞いた。 彼女は走った。 どの重賞の時よりも、あのJRAのラスト1ハロンよりも、人生で最も速く走ったが、間に合わなかった。
2 21/04/10(土)04:33:52 No.791362335
「…なぁ、クリーク」 T字路にあるベンチの背もたれに、全力でもたれ掛かっていタマモクロスは、15分ぶりに声をかけたが、隣の彼女はハンカチで嗚咽を堪えようとして、堪えきれてないないままだった。 右の方で『手術中』の赤色灯が薄暗くなりかけた廊下を照らしている。 「泣くなや。あんたの男が見たら心配するで」 「タマちゃん…」 何か言いかけて、また体をくの字にして泣く作業に戻ったクリークを、ため息をついて眺めながらタマモクロスは言う。 「そない自分を責めるなや。魔王クリーク様で間に合わんかったんなら、他の誰でも間に合わんかった。神様は意地悪ちゅうこっちゃ」 「でも、私が…私が、前髪なんか気にせず、すぐトレーナーさんの所に行っていたら…」 「たられば、なんて人生にあらへんで」 渋い顔をしながらタマは鼻を鳴らした。 『手術中』の灯りが消えた。
3 21/04/10(土)04:34:35 No.791362382
手術室の扉が開いて、手術着の医師に家族と思しき人々が近付く。 「妻は、妻は無事ですか!?」 「…難しい手術でしたが、成功です。元気な女の子ですよ」 安堵の歓声を横目で聞きながらタマモクロスは言う。 「赤ちゃん生まれたんやって。見せて貰うか?」 「……」 クリークはその姿勢のまま無言で首を振った。
4 21/04/10(土)04:35:20 No.791362417
記者の取材を受けた野橋刑事(47)はこう語った── 「イヤ……私も刑事やって長いですけどね…あんな現場は初めてですわ イヤイヤ、あの…ウマ娘の皆さんを疑う訳じゃないですけどね…なんですか、トレーナーさん? 倒れたウマ娘をこう…抱き上げて、突き飛ばして、そこに突っ込んできた車を…『蹴った』ってんだから── 普通の神経じゃないですよね…うん、アスファルトに足型が残ッてましたから、ウマ娘のではないと、鑑識が。そりゃ足も砕けるでしょうけど…それで済みますか普通… いやまあ、吹っ飛んだトレーナーをランニング中だったウマ娘が受け止めたからってのもありますけどねぇ…なんというか…人間離れというか…。ウマ娘のトレーナーさんって、そのくらい頑丈じゃないと勤まらないんですかねぇ?
5 21/04/10(土)04:35:53 No.791362447
ああ、その車?署の前にあったでしょ?ジョン・ウイックの愛車みたいになったやつが。それです」 後に月間トゥインクルに感動の逸話として小さく載ったその記事は、読者に夢記事も大概にしろと言われた。
6 21/04/10(土)04:36:29 No.791362479
その時クリークは走った。走った。彼女のトレーナーが女の子を助けて、突き飛ばして、後ろ足で車を蹴るのも眼前に見た。そして車がわずかに減速したのも。クリークは走ってきた勢いのまま車に体当たりした。その反動で電柱にこすれた車を持ち上げた。周りのウマ娘たちもそれを見て車に体当たりしたり押さえつけたりした。後でみんなが警察に怒られた危険な行為であったが、車は5メートルくらい進んで止まった。運転手はクリークと同じくらい蒼白の顔をしていた。みんな素人で加減を知らなかったので、車は滅茶苦茶になっていた。 クリークの怪我は肩の亜脱臼と爪割れだけだったが、手当てよりお説教が長かった。警察官と先生と、理事長も珍しく怒っていた。 怒ってもらって有り難かった。
7 21/04/10(土)04:37:11 No.791362524
彼の病室の前に立つ。 タマちゃんが強引に引っ張ってきた。『ウチはこれからバイトがあるんや!ええ加減にせぇ!』とプリプリしながら去っていった。本当にいい子だと思う。私とは大違いだ。 ノックを三回すると、「どうぞ」と声がした。その声を聞いただけで、また泣きたくなった。だめ。泣いちゃだめ。 涙を堪えながら入る。彼はベッドで、両足はギブスで覆われていた。ベッドの側にはウマ娘と、彼女のトレーナーがいた。二人は私を見ると、再度トレーナーさんに深く頭を下げてから、私にも頭を下げた。私は何か言うべきだろうと思ったけど、彼女が泣きそうになったままなのを見ると、何も言わずに会釈をしていた。その方がいいと思った。
8 21/04/10(土)04:37:52 No.791362564
二人が出ていくと、私はトレーナーさんの隣に座ろうとした。無理だった。 「クリーク」 飛び付いた私は彼の首に手を回してわんわん泣いた。彼は時々私の名前を呼びながら、髪を撫でてくれた。私の、私のトレーナーさん、私のひと、私のいちばんだいじなひと。よかった。生きてる。これより大事なものなんて無いのに、私は本当にばかだと思う。 「もう、もう危ないことはしないでください、横断歩道で飛び出すのもだめ、だめですからね!」 「わかった」 「いいえ分かってません!どうせまた、同じようなことがあったらやってしまいます!私のトレーナーはそういう人ですから!生きててよかったぁぁ!うぁぁぁぁん!!」 とにかく酷い有り様だけど、でも、本当に嬉しかった。これより嬉しいこともないと思った。
9 21/04/10(土)04:38:51 No.791362617
「君が入ってきた時」 病室で、彼の手を握りながらクリークがうつむいていると、不意にぽつりと言われた。 「…はい?」 「怖い顔をしていたから、怒られるのかと思ったよ」 「まあ…」 たしかに、泣かないように眉間に力を入れていた気がして、クリークは少し赤くなった。目元はもう真っ赤だったが。 「何か怒られるようなことをしたんですか?」 意地悪い口調でクリークが聞くと、 「君以外の女の子を抱き締めた」 彼がそう言って、彼女はまた、まあ、と驚いた。確かに、抱き締めたには違いない。 「悪いトレーナーさんですね」 「その通りだ」 彼は笑って、痛ッ、と顔をしかめた。 「…本当に、ずるくて、愛バを心配させる、とても偉いトレーナーさんです」
10 21/04/10(土)04:39:38 No.791362656
クリークはその胸に彼の頭を抱いた。 「クリーク?」 「ずるいです…怒れるわけ、ないじゃないですか……」 ぎゅっと抱き締めながら頭を撫でる。 「いいこ、いいこ……」 彼がしばらく、されるがままになっていると、クリークは不意に言った。 「…トレーナーさん、私ね、欲しいものがあるの…」 「…何だろう」 「首輪です」 「えっ」 彼が身を震わせて驚いた。彼女は言う。 「クリークに付けてくださいな。それで、どこに行くにも連れていってください。もしも誰かが危ないときには、私が代わりに助けますから」
11 21/04/10(土)04:43:50 No.791362924
なんかこの...ちゃんとした日本語なのにちょこちょこ追いつけない感じ イイハナシカナー?
12 21/04/10(土)04:44:50 No.791363002
失わなくてよかったね…
13 21/04/10(土)04:45:11 No.791363027
「首輪とはな…」 彼は呆れたように言った。 「駄目ですか?」 「俺としては、指輪を買ってくれと言われるかと…」 言いさして、彼は跳ね起きるようにクリークから離れた。真っ赤になった顔を見つめる、彼女も赤くなった。 「…あの、指輪って、そういう指輪…なのかしら…」 「いやっ…あの、勿論いいが、今はまだ…段階を……うん?」 言いかけて、トレーナーは考える。まだ、踏むべき段階があるだろうか。 実家への挨拶……それはもう最終段階では? クスクスと、やっといつものように笑って、スーパークリークは言うのだった。 「どちらの輪っかでも、喜んでお受けしますからね」
14 21/04/10(土)04:45:19 No.791363040
クリークがおかしくなったで…
15 21/04/10(土)04:46:10 No.791363084
元からおかしいで…
16 21/04/10(土)04:46:40 No.791363114
よし!いつものプレイだな!
17 21/04/10(土)04:47:12 [s] No.791363132
クリークと首輪プレイしたりされたりという話を書きたかった話です エミュがまず難しいすね…タマちゃんは関西弁で済むからいいなぁ
18 21/04/10(土)04:47:33 No.791363153
>なんかこの...ちゃんとした日本語なのにちょこちょこ追いつけない感じ >イイハナシカナー? 精進します
19 21/04/10(土)04:49:17 No.791363233
>倒れたウマ娘をこう…抱き上げて、突き飛ばして、そこに突っ込んできた車を…『蹴った』ってんだから── やっぱり神の子なのでは?クリークファンは月間トゥインクルを読みながら訝しんだ
20 21/04/10(土)04:49:38 No.791363256
首輪はおかしいんとちゃうか? なぁウチの感覚がおかしいんか?
21 21/04/10(土)04:49:57 No.791363277
魔王の相方に相応しい超人だなこのトレーナー…
22 21/04/10(土)04:50:47 No.791363329
クリーク育成始めたらなんかナデナデしながら発光してるし…なんか思うてたのと違う!?となったのが最初にある 気がついたらタマちゃん驚かす走りするようになったり…トレーナーさんはもしかして甘やかされる度に強くなるのでは?
23 21/04/10(土)05:20:50 No.791365170
クリークが狂ってるっていうのは若干齟齬があると思う 彼女の根っこはワガママで甘えたがりって感じがしてくる
24 21/04/10(土)05:21:30 No.791365208
よく読み返したら車ふっ飛ばしたのトレーナーのほうなの…
25 21/04/10(土)05:27:41 No.791365549
実際にんじん畑の収穫で担当ウマ娘のパワーがトレーナーに影響してるし…
26 21/04/10(土)05:28:46 No.791365609
ウマ娘のトレーナーが常人じゃないのは基本だからな…
27 21/04/10(土)05:30:33 No.791365721
ジョン・ウィックの車って廃車同然ってことか...
28 21/04/10(土)05:33:02 No.791365865
ウマ娘の目の前に出ることは車の前に出るも同義であり そんなウマ娘を相手にできるトレーナーなんだから車を止められる 不思議なことはない
29 21/04/10(土)05:35:24 No.791365998
…もしかして出産手術のほう交通事故と関係ないな?
30 21/04/10(土)06:48:39 No.791369777
>>倒れたウマ娘をこう…抱き上げて、突き飛ばして、そこに突っ込んできた車を…『蹴った』ってんだから── >やっぱり神の子なのでは?クリークファンは月間トゥインクルを読みながら訝しんだ いやいや夢記事だよこんなの
31 21/04/10(土)08:20:27 No.791378235
クリークはトレーナーを甘やかしとるんやない 逆に甘やかされとるんや
32 21/04/10(土)08:20:48 No.791378292
長い!
33 21/04/10(土)08:28:34 No.791379296
>…もしかして出産手術のほう交通事故と関係ないな? トレーナーが助けたウマ娘の出産のように読めたけどよく見たら特にそうと明記されてない…?
34 21/04/10(土)08:28:37 No.791379306
ハリウッド映画みたいな台詞回しをする二枚目トレーナーだが 家では赤ちゃんプレイがデフォルトかと思うとなかなか来るものがある
35 21/04/10(土)08:41:39 No.791381087
>クリークは走ってきた勢いのまま車に体当たりした。その反動で電柱にこすれた車を持ち上げた。周りのウマ娘たちもそれを見て車に体当たりしたり押さえつけたりした。 暴走してる… >理事長も珍しく怒っていた。 ウマ娘にしかない膂力でこういうことをやってはいけないんだとか種族の未来を考えた怒り方してそう
36 21/04/10(土)08:44:37 No.791381528
これ途中で合法的に車に対して暴力的行為してもいいから混じってるウマ娘いない…?