虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

21/04/07(水)07:26:55 No.790511498

事務が山のように重なっている事は、私にとって救いだった。 「おはようございます」 後方で聞き慣れた声がする。アイドルとしては到底許されないほど暗いトーンの挨拶。 叱責の声が出なかったのは単純に忙しかったからでもあるし、それが限界だと知っているからでもある。 ボロボロの身体と心を引き摺って、彼女は今日も傷付きに来る。正直、かける言葉が見つからなかった。 「……あぁ。おはよう、にちか」 笑顔を作るプロデューサーさんの声も明るくはない。無理に無理が重なって、いよいよ症状として出てきている。 にちかの仕事を一つ取ってくるのは、他のどの娘よりずっと大変な事で。なのに彼は、それを何より優先して取り組んでいた。 「プロデューサー……」 「大丈夫。……にちかは大丈夫だ。にちかはやれる。にちかは可愛い。にちかはアイドルだよ、これからも。にちかは──幸せになるんだ」 心にもない言葉で紙の翼を取り繕って、二人は今日もまだ飛べている。 そうして傷付くお互いの姿に傷付けられて、やがて一緒に堕ちていく。 祈る事しか出来ないフライトは、不細工な紙飛行機を見ているようだ。 不意にそんな比喩が浮かんで、外の風が止んだ。