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    21/04/03(土)19:03:27 No.789421084

    昔話の続きをしましょう。 雨上がりの日の空の下、緑葉の付く大きな桜の木の元で、私達は初めて話をしたのです。 トレーニングの後、私達はクールダウンのために歩きます。あの日から、私達は並んで歩いていました。正しくは私が彼の歩調に合わせていたのですが。 しかし、いざ話をしようとしてもネタが思いつきません。どうしたものでしょうか。 そこで彼にあれこれ聞いてみることにしました。 初めての質問は今でも覚えていますよ。 「あなたの名前は何ですか?」 一か月と半月は共にトレーニングした仲というのに互いの名すら知らなかったのです。 彼は答えてくれました。 彼の名には『翔』の文字があります。 地道に走る彼からは想像できぬ字です。

    1 21/04/03(土)19:04:45 No.789421519

    いろいろ他にも聞いてみました。 やはり私と同い年のようでした。 来る日も来る日も彼に問を投げかけます。 彼はほとんど答えてくれました。 一つ一つ彼のことを明らかにしていきます。 トレセン学園は競技に出るウマ娘を専門としますから、恋バナが特殊です。私達の間ではトレーナーさんと担当ウマ娘の関係なんか頻繁に飛び交いますが、反比例して同い年の男の子の話なんか本当にまれなのです。そんな事情がありましたから、私は優越感に近いものを感じていました。 まだ幼い自分です。

    2 21/04/03(土)19:05:20 No.789421695

    特に印象深かったのは『彼の高校』と『彼の部活動』でした。 彼曰く、その高校から川まで毎朝走って来ているとのこと。 少し調べましたら優に五キロはあります。 つまり往復十キロ以上。 それに加えて私を必死に追いかけるのですから彼のタフさは想定の範疇を超えていました。 部活動に関してはバスケ部とのこと。陸上部なんかではなかったようです。スタミナが必要とのこと。 そのときの彼は何故か先のことしか見ようとしない目をしていました。

    3 21/04/03(土)19:06:13 No.789421981

    … … … あれこれ喋る彼女の手元に僕はニンジンジュースの入ったグラスを渡す。 彼女は訝しげに手に取りながらも特に気にすることなく口につける。 一瞬のスキを突き僕は担当のウマ娘、つまりパートナー  に話の続きを始める。 … … … 昔話の続きをしよう。

    4 21/04/03(土)19:07:15 No.789422274

    彼女の名を聞いた時、もし彼女ではなかったら一生消えない溝が生まれていただろう。 彼女の名前は『メジロライアン』。 当時トゥインクル・シリーズなんか詳しくもない自分でも、一人や二人顔が浮かぶ『メジロ』の名。 ニュースなんかで取り上げられる淑女の意味を成す家。 名家の中の名家。 彼女は『メジロ』の雰囲気なんか出さなかったから身構えることができなかった。 そんな事言えば彼女に嫌われると思って口にも顔にも出さないよう力を込めていたけれど、今思えばベストだったのだろう。

    5 21/04/03(土)19:07:39 No.789422415

    彼女は絵に描いたような美少女スポーツマンであった。 銀髪の混じった短い髪からはボーイッシュな印象を受けるが、十分に手入れされた髪と にこやかな目と口はなるほど年頃の乙女である。キリリとした態度から育ちの良さをにじませながら、誰とも話せるようなフランクさを見せる。そして何よりも体全体の筋肉のラインが滑らかな曲線を描いていることに気づかないことができようか。見事洗礼されたそれは、無駄がなく、それを保持する者に柔軟な力強さを与える。引き締まりすらりとした体が僕の目の前を走る。

    6 21/04/03(土)19:08:23 No.789422645

    走る姿は流麗で、僕のクラスのウマ娘達とは比べ物にもならない。 そんな彼女に一種の尊敬の念を抱いていた。 彼女は何度も僕のことを聞いてきてくれた。 僕は恥ずかしくて聞き返せなかった。 それでも、そんな彼女が居てくれると居心地の良いもので、彼女への返答はなるべくしようと決めていた。 (豊満な胸に目がいかないよう顔ばかり見ていたけれど、そのせいでピコピコしている耳がかわいいことに気づいてしまったなんて言わないでおこう)

    7 21/04/03(土)19:09:17 No.789422945

    あれは七月だったか。彼女からデビュー戦があると話してきた。 彼女の軽やかな走りは何度も見ていたけれども全力の姿は見たことがなかった。 見たいという欲求。それは思いのほか大きかったようですぐに爆発した。自然と口から日時と場所の情報を求める。 彼女は意外そうにしながらもすぐ笑顔になって答えてくれた。 彼女の頬の血色が良くなった。 当日、慣れない足取りで会場へ向かう。 観客は所狭しと並ぶ。 しばらく待つとすぐ彼女の番となった。

    8 21/04/03(土)19:09:45 No.789423103

    選手としての彼女を初めて見た。 パドックに立ち、ゲートに入る。 すぐにゲートは開かれ、選手達は一斉に走り出す。 何人ものウマ娘達が一つのゴールを目指して走る。 レースはすぐ最終コーナーへ。 彼女は後ろの方であった。 大丈夫かと素人らしい不安がよぎる。

    9 21/04/03(土)19:10:27 No.789423323

    そんなものすぐに打ち消された。 直線に入った時、彼女は身体をこれでもかと前に傾かせる。 最も適切な位置なのであろう、足の力を全て推進力へと生まれ変わらせた。 足の回転速度はみるみる上がる。 しかし体幹は素晴らしいものでブレを最小限に抑える。 腕は足の回転に合わせて振り、肘は直角を維持、手の先までピンと張る。 それが彼女の全力である。

    10 21/04/03(土)19:11:21 No.789423590

    彼女は先頭を目指し加速する。 集団は抜かれ先頭は抑えられ、彼女は一番星となった。 流れ星の如く走る姿に僕が虜にならないことがあろうか。 自分の目は彼女を捉えることしかできなかった。 目を限りなくズームさせ笑顔で手を振る彼女に向ける。 脳裏で流れ星である彼女の走りを何度も何度も 思い浮かべる。 彼女は『メジロ』のウマ娘であると言った。 『メジロ』の名の証明は一瞬でなされた。 走る姿には隠された威厳が姿を見せていた。 一瞬彼女の手の揺れが鈍る。 彼女は僕のレンズを覗いていた。

    11 21/04/03(土)19:40:39 No.789433647

    いつ見ても爽やかだ…

    12 21/04/03(土)19:58:47 No.789440566

    私イチオシの怪文書、完結まで頑張って欲しいですね