ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/04/03(土)09:35:08 No.789282206
キラキラは、夢のまた夢。 私もそのキラキラの中にいたはずなのだけど、今は記憶を疑い記憶に疑われてる。 私は本当にスターウマ娘だったんだろうか。 私は、あの大歓声に笑顔で応えられるようなウマ娘だったんだろうか。 それともあれは夢だったのだろうか。 いいや違う。 あれは確かに、私が叶えた夢だったのだ。 ダービーも、春と秋の天皇賞も、それからジャパンカップも私は勝った。 その結果に今の私なんて、関係ない。 「わー!すごいすごい!みんな速いねー!」 でも娘には、昔の私なんて見せられない。 走ることを止めた後は楽しみなんて食べることばかりで、みるみるうちに太った私。 そんなウマ娘があのスペシャルウィークだなんてこと、当の私自身が信じられないことだから。
1 21/04/03(土)09:35:24 No.789282261
娘はいい子だ。 だらしのない母親や、私の身体目当てで一晩寝ただけの父親とは違う。 きっとお母ちゃんのおかげだろう。 「ねえねえ!お母ちゃんもあそこで走ったことあるんでしょ?」 「う、うん…ちょっとの間だけどね」 「すっごーい!じゃあじゃあ、いつかは私もあそこで走れるようになるよね?」 「うん。──なら出来るよ」 私がそんなことを思っていても、娘にとって母親はやはり私。 胸を張って母親だなんて言えないのに、私はこの子の母親であることから逃げられない。 逃げてしまえたらどんなに楽だろうか。 お母ちゃんにこの子をすっかり任せた方が、きっといい子に育ってくれるだろうに。 でも出来ない。 力尽き、託すしか出来なかったもう一人のお母ちゃん。 その無念を思うと…いや、そもそも私は娘が可愛くて可愛くて仕方ないんだ。 なのに母親であることを捨てるだなんて、出来るわけがない───。
2 21/04/03(土)09:36:09 No.789282416
「お母ちゃん。かけっこしよ?」 「うん」 娘はまだ小さい。 だからすっかり鈍った私の脚でも、軽くちぎってしまえる。 「ま、待ってぇ」 私は意地悪だから待ってあげない。 大人げないというか、先頭であることに対するつまらないプライドだ。 一番がいい。 誰が相手でもいいから勝ちたかった。一番になりたかった。 「ふふ、また私の勝ちだね」 「ぶー!なんで!なんでそんな身体のお母ちゃんに勝てないの!?」 娘は勝負に対して間違いなく私より真摯だ。それに才能もある。 そんな娘に私が勝てるのは、過去の財産があるからだ。 昔の私が手に入れたもの。その残り滓が、私をこの子相手に先着させている。 …そんなものがいつまで通用するんだろう。
3 21/04/03(土)09:36:25 No.789282456
「もういっかい!お母ちゃん、もういっかい走ろ!」 「うん、いいよ」 私が娘にしてやれることで一番なのは、こうして一緒に走ることだけ。 私には、それだけだから。 …走ることから逃げ出してしまったウマ娘が、今また走ることを求められているのはとんだ皮肉だ。 それでもいい。 だって私、走るのが楽しい。 単に勝ててるからという理由だけではない。そう、競う度に娘がどんどん差を詰めてくるからだ。 まだ追いつかれたくない。 そう思ったら自然と食事に気を使うようになっていたし、トレーニングも再開した。 あの人がいてくれたら、もっと上手くやれるだろうに。 ああ。私ったらまたもしもの物語を思い浮かべてる。 あの人の手を取って、その夢を背負わせてもらいながら走る日々を。自分から投げ出してしまったものなのに、どうしようもないくらいに切望してる。
4 21/04/03(土)09:37:03 No.789282578
スズカさんが羨ましい。 ピークを過ぎても、衰えというものを感じさせない威風堂々としたその姿。 あの人の愛バと言えばやはりスズカさんだ。 流石は私の好きだった人。 今は、大嫌い。 走るのが楽しくて楽しくてたまらないというあの顔を、私は見ていられない。 それから、そんなスズカさんを…昔のように走れなくなっても、変わらず期待に満ちた目で見ているトレーナーさんのことも、大嫌い。 ああ、二人とも大嫌いだ。 だいきらいで、だいすきだ。 だから…だからこそだ。 なるべくなら、その姿を目にしたくはない。
5 21/04/03(土)09:41:00 No.789283459
ツペチャーン…
6 21/04/03(土)09:50:15 No.789285474
いい…
7 21/04/03(土)09:51:10 No.789285742
この娘がトレセン学園に入学したらきっと…
8 21/04/03(土)10:00:24 No.789287573
デブスペちゃんはマンガのあれみたいな体型なんだろうか
9 21/04/03(土)10:03:55 No.789288155
ドロドロトレセン学園!
10 21/04/03(土)10:14:35 No.789289868
トレーナーさんとスズカさんは結婚してそうだなこの世界
11 21/04/03(土)10:19:44 No.789290750
週末は家族でレース場にいったりしてるんだろうなぁ…
12 21/04/03(土)10:24:33 No.789291550
贅肉を無くしていく私の身体。 「見違えたね、スペ」 「…そうだね」 走るための身体作りは至って順調。 娘に追いつかれそうな私だったが、ここ最近は差を広げつつある。 「娘相手に大人げないよね」 「ううん。そんなことねえべさ」 娘との真剣勝負。 それはもうかけっこだなんて呼べない、一対一のマッチレースだ。 ついには実家の敷地にちゃんとしたコースまで作って、直線だけじゃないレースが出来るようになった。 ああ、絶好調だ。 ここ最近、気分はすごく高揚しているし脚の動きもよくなっている。 現役復帰とまではいかなくとも、きっといい走りが出来る。 「お母ちゃん。今日は負けないからね」 気合十分な娘が私を出迎える。私は望むところだと頷いた。
13 21/04/03(土)10:24:45 No.789291585
──スタート。 ハナを切るのはいつだって私。 終盤までに差をつけて、差しに来る娘から逃げ切るのだ。 この走りが出来ているから、私はまだ一度も娘に負けたことがない。 追い比べになったら、きっと私に勝ち目はない。 私の脚に往年の切れ味はない。 末脚での勝負になれば私は間違いなく負けるだろう。 私と娘。走りの違いは、さながら人生の縮図だ。 昔得たもので差をつけて、あとは振り絞るだけの私。 これから多くのものを得るであろう娘。 そう、生き方が現れている。 どう生きていくか。その姿勢がそのまま走り方となり、脚を動かしている。
14 21/04/03(土)10:25:17 No.789291688
最後の直線。 まだ差がある。果たして娘は私にどこまで追いつけるのか。 「私、もう負けたくない!」 娘が叫んだ。 一瞬、目を後ろに向ける。かなりあった差がみるみるうちに詰められていく。どうして。 いやだ。 いやだ。私、まだ負けたくない。 負けたくないよ。 私は必死に脚を動かす。 でも私の脚は、もうあんな風に動いてくれない。そもそもあんな風に動かすための走りもしていない。 おねがいやめて。おねがいだからまだ、まだ…追いつかないで。
15 21/04/03(土)10:28:46 No.789292269
ウマ娘の子供を持ったかつてのトレセン学園生は子供に追い付かれたくないって気持ちを持つものなのかもしれないな…
16 21/04/03(土)10:33:44 No.789293066
──やったあ! 娘が勝った。 娘が、勝ってしまった。 どうしてだろう?私、娘の成長を喜ばなきゃいけないのに、悔しさが邪魔をしちゃう。 悔しさのあまり、怒鳴るように名前を呼んでしまうかもしれない。 でも、それはダメだから。 娘の走る喜びを、私が奪っちゃいけないから。だから。 「おめでとう、──」 だから、だからこうして祝ってあげるの。 よく頑張ったね、これからもいい走りをしてねと願ってあげるのが、私のすべきことなんだ。 だから、だから。 この仄暗い感情は、どこかに捨ててこなくちゃ。
17 21/04/03(土)10:34:43 No.789293225
コワイヨー
18 21/04/03(土)10:41:38 No.789294387
学生の頃の明るいスペちゃんが懐かしいよ
19 21/04/03(土)11:02:05 No.789298008
…あのレースから数年。 私はもう敵わないからと言って、ついに娘と走るのを止めた。 あれだけの連戦連勝だったのだ。 連戦連敗をして返してあげるのが道理というものだろう。 …それでも嫌なものは嫌だった。 私は勝ちを譲りたくなかった。 たくさんあった勝ち星はみるみるうちになくなっていき、やがてイーブンに。そして巻き返せるかという話になったところで、私はもう止めようと言った。 折れたのだ。衰えるばかりの私と益々栄えていく娘との対比は、私の心を折るには十分すぎるものだった。 「お母ちゃん…」 「私が──にしてあげられることなんて、もう残ってないから」 そんな捨て台詞を吐くと、私はまたターフから逃げ去った。 自分はもう走りたくないのだと言い聞かせて。
20 21/04/03(土)11:14:25 No.789300215
スペちゃん…