ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
21/04/03(土)09:06:08 No.789277523
「トレーナーはさ、失敗とか挫折とか……そういうのってある?」 藪から棒に彼女に問われて、思わず頭が止まる。 慌てて考え直したが、恥の多い人生を送った身分。丸々自分が原因でないものを数えても、それなりの数だ。女の身分であるから、それなりに怖い思いもしている。二十と五年ほどではあるが、失敗も挫折も、毎年積もっていくばかりだ。 「……無数に?」 結論、そのように答えることとなった。 それを聞いたテイオーは、目を丸くした。そんな事ある?と言わんばかりの顔だ。 確かに彼女は、人生においても王道を歩む身分であろう。覇道かもしれない。基本的に成功してしまうタイプだ。 まだまだ子供っぽく、一度の失敗が大きな傷となる可能性も大いにあるが、私の見立てでは割合ちゃんと吸収するタイプであると思う。 そんな彼女にしてみれば、私のような失敗のミルフィーユの上になんとか立つ者のことは分からないであろう。正直、分からなくて構わないし、分からないでいて欲しい。
1 21/04/03(土)09:06:26 No.789277570
トウカイテイオーは人々を照らす側で良いのだ。日陰者は日陰者として、彼女の及ばぬ所で無駄を省く作業だけをすればよい。実際、ずっとそのようにやってきたではないか。 ふと気付くと、先程までソファでだらしなくしていた彼女がすぐそばに立っていた。その顔はなんだか不満げな、しかし決意に満ちた顔。 「じゃあさ、トレーナー。もしもだよ。もしもボクが挫折したらさ、きちんと手伝ってよ」 それはもちろん。そう言う前に、右手を取られる。 そうするとどうだろう。彼女が、テイオーが、私に傅くように、片膝をついた。 「トレーナーがまた挫折して、どうしても立てなかったらさ、ボクが引っ張ってあげるから。絶対だよ」 見上げてくる顔は日頃の彼女とは違って、射した西陽に照らされた事も相まって、まるで王子様のよう。 ボーイッシュなタイプではあるが、これほど印象が変わるものだろうか。脈の跳ねる音が、抑えられない。 「は、はい……」 頷くのと、一言が精一杯である。 次の瞬間、どんなもんよという、普段の彼女の顔が見えた。 それすらも綺麗に見えるほど、今の心情は掻き乱されていた。
2 21/04/03(土)09:08:55 No.789277915
こんなテイオーが挫折しかけていたトレーナーの恋を応援した事に気が付いてメンタルボロボロになるの 良いと思います