虹裏img歴史資料館

1 21/03/14(日)21:12:28 No.783455945

　赤木博士のサルベージに合わせ、碇くんを送り出した。葛城指揮官なら、みんなの中なら、きっと大丈夫。もう会えなくなるのは寂しいけれど、私はエヴァの中でしか生きられない。エヴァと離れることが碇くんの幸せだから、碇くんが幸せになれるなら、私は大丈夫。決意をもって、初号機の操縦桿を握る。 　『……お願い』 　碇くんがネルフに連れてこられてから、私はもう初号機とシンクロできなくなっていた。それでも、覚醒した初号機は私の願いに応え、希望の船を飛び立たせる。AAAヴンダーにいるのは私だけじゃない。元ネルフのみんながいる。2番目の子が点火し、赤木博士のマギが制御し、葛城指揮官が道を示してくれる。今度こそ、みんなとの絆を守る。碇くんの幸せを守る。延び続ける髪も気に留めず、一心に初号機を使い続けた。

2 21/03/14(日)21:12:50 No.783456088

　エヴァ第13号機によって起こされたニアフォースインパクト。そして、碇司令の目的だったアナザーインパクト。結局、碇くんはまたエヴァに乗り、より深い傷を負ってしまった、人を辞めた碇司令がヴンダーに降り立つ。13号機が初号機を引き摺り出す。みんなとの絆も、これで終わり。私はまた、何もできなかった。 　『綾波』 　名前を呼んでくれたのが嬉しかった。顔を見れたのが嬉しかった。もう二度と、会うことはないと思っていたから。 　『ごめんなさい。碇くんがエヴァに乗らないように、できなかった』 　『いいんだ。今までありがとう。後は僕がやるよ』 　私では碇司令をどうにもできない。使徒と戦っていた14年前もそうだったように。碇くんは少しだけ大人になった顔で操縦席に座る。なぜだか懐かしい、土の匂いがした。心のどこかで望んでいた再会。欲しかった言葉。やっと、重い重い枷が外れたような気がした。 　『お願い』

3 21/03/14(日)21:13:37 No.783456393

　『綾波、残ってるのは君だけだ』 　碇くんはお父さんと戦い、向き合って、その肩を叩いて越えていった。2番目の子とも、最後の使徒とも、ちゃんと分かり合えた。碇くんは外の世界でみんなの優しさを見つけ、みんなの幸せを守った。それが自分の事のように、嬉しい。後は、みんなが届けてくれたガイウスの槍──ヴィレの槍を使うだけ。 　『私、ここに残る。ここがいい』 　『でも、もう一人の君は自分の居場所を見つけたよ』 　私の中に、別の私の記憶があることに気づく。ゼーレのエヴァに乗っていた私。碇くんを拒絶した私。生きたかった私。仕事をして、お風呂に入って、エヴァに乗らない世界を知った私。そして、碇くんの前でLCLに還った私。そうだった。碇くんはその時も、私は私だと言ってくれた。 　『マリさんが迎えにくるんだ。僕は大丈夫だよ』 　溢れてくる、望み。エヴァとも、ネルフとも関係ない私自身の願い。またあそこに行きたい。またあの中で生きたい。そうだった。稲刈り、してみたかった。ツバメ、もっと抱っこしたかった。"好きな人と、もっと一緒に"── 　『本当に？』 　──槍を使えば、碇くんはどうなる？

4 21/03/14(日)21:14:22 No.783456669

『……綾波には敵わないや』 　少し、ばつが悪そうな表情。 　『時間がないんだ。第三村もいつまで持つかわからない。もしかしたら、もう──だから、僕は僕の責任を取るよ』 　羽根のようなガイウスが、槍そのものの形状に変化する。ゆっくりと初号機に近づいていく穂先。人の意志が作り出した新たな槍が、新たに世界を変えようとしている。他ならぬ碇くんの意思によって。 　『だめ』 　『……ありがとう。でも、綾波はずっと頑張ってくれてたじゃないか。今度は僕の番だ。僕が命に代えても、綾波がエヴァに乗らなくてもいいようにする。だから』 　『駄目。私は碇くんと、好きな人と、もっと一緒にいたい』 　エヴァの無い世界はきっとすごく幸せなのだろう。第三村での暮らしはすごく幸せだ。でも、碇くんの犠牲の元に成り立つ幸せなんて、私は耐えられない。知ってしまったからにはもう戻れない。手を引いて、抱き締める。願いは一つ。ただ、君のそばで。 　『綾波……それでいいの？』 　『うん。これでいい。これがいい』 　『……わかった。僕も、綾波が好きだよ』 　ネオンジェネシス。槍が初号機を貫こうとした時。そっと、誰かに背中を押された。

5 21/03/14(日)21:15:09 No.783456962

　エヴァの世界が終わっていく。すべてのエヴァンゲリオンが消え、インフィニティのなりそこない達がヒトに還る。赤い大地は緑に、赤い海は青に。一つになった魂は、再び不安定で不完全な形に。アディショナルインパクトのトリガーとなった、エヴァンゲリオン・イマジナリーも例外じゃない。マイナス宇宙が崩壊する。私の存在が薄れていく。それでも恐怖はなかった。碇くんがそばにいるから。 　『ギリギリセーフ！』 　突然、無色の海に降ってきた機械仕掛けの神。もう随分懐かしい声。2号機の人、改め、ヴィレとして共に戦ったエヴァ8号機パイロット。私も隣の碇くんも、着地で起きた大波を被った。 　『マリさん！』 　『ありゃ、先越されちゃったにゃん。ま、生きてりゃいっか。迎えに来たよ！お二人さん！』 　手を差しのべるマリを見届けたように、最後のエヴァンゲリオンが消えて無くなる。 　『ありがとう』 　『おやおやぁ～？一体誰の影響かにゃ？』 　『すっごく愛想良くなったじゃん！オリジナルにはまだまだ勝てないけどにゃん』 　『それでいい。私は私だから』

6 21/03/14(日)21:15:56 No.783457306

　『碇！生きとったんか！』 　『お帰り、碇。式波も先に帰ってる』 　『うん。ただいま、トウジ。ケンスケ』 　マイナス宇宙が消え、全てが終わった後。私達はそのままセカンドインパクトの爆心地──南極に放り出された。時間がかかってしまったが、いつかのような長い旅を経て、ようやく第三村に帰って来ることができた。旅の道中で出会った人々が、ずっと同行していたマリが、渚くんが、何より碇くんが助けてくれたお陰だ。私はエヴァに乗ることが全てだった。エヴァに乗ることでしかみんなと繋がれなかった。だが今は、エヴァが無くなっても消えない絆が私を導いてくれる。 　『お前はよくやったで碇。この村を守ったのはお前や。ホンマ、ありがとな』 　『みんなのお陰だよ。それに、僕はトウジにも救われたんだ。あの時は食べなくてごめん。ありがとう、トウジ』 　『……でっかくなったなぁ碇！おし、今日は呑むで！ワシの奢りや！』 　『ちょ、ちょっとまってよ！……綾波、マリさん、カヲルくん！後で！』

7 21/03/14(日)21:16:37 No.783457601

　鈴原くんと相田くんに引っ張られ、たくさんの人混みの中に消えていく。村が広がり、人口が倍以上になった第三村は総出で私達を出迎えてくれた。 　『行っちゃったね』 　『シンジくんを追っかけなくいいのかにゃ？姫に取られちゃうかもしれにゃいよ～』 　『碇くんは大丈夫』 　みんな碇くんのことが好きだから。私は今までも、これからもずっと一緒にいる。だから大丈夫。段々畑を見下ろすと、豊かに実った稲が秋風に揺られている。何とか稲刈りには間に合ったようだ。もう一人の私に仕事を教えてくれた、村の女性達が口々に言う。 　『本当に、よく帰ってきたねぇ』 　『まったく突然居なくなっちゃって、心配したんだから！』 　『ごめんなさい』 　『生きて戻ってきてくれれば何でもいいのよ！』 　『明日からまた手伝ってねぇ。人がたっくさん増えたから、いくら働いても働きたりないよ！』 　『うん』 　ここが、エヴァに乗らない私の居場所。

8 21/03/14(日)21:17:11 No.783457851

　『そっくりさん、お帰り！……また、会えたわね！』 　ツバメを抱えたヒカリが、涙ながらに言う。慣れない人だかりにぐずり気味のツバメ。近づいて、指で頬を撫でる。ツバメは笑って、小さな手で私の指を握り返した。 　『おまじないだから』 　『やっぱり、私よりよく懐いてる。そっくりさんがいないと、夜泣きが増えて大変だったんだから！』 　『うん。"おはよう"』 　今日も、今日からも、一緒に生きていけるように。"おはよう"は、そのおまじない。 　『碇くんが名前、決めてくれた』 　『そうなの！じゃあそっくりさんはもうおしまいね。何にしたの？』 　『私は──』

9 21/03/14(日)21:17:24 No.783457949

『"綾波"！トウジがご飯作ってくれたんだって！一緒に食べようよ！』 　碇くんが、呼んでる。 　『……じゃあ、行きましょうか。綾波さん』 　『うん』

10 21/03/14(日)21:18:52 No.783458560

いいじゃないか…！

11 21/03/14(日)21:19:22 No.783458759

ありがとう…本当にありがとう…

12 21/03/14(日)21:19:36 No.783458864

これはLMS補完計画…

13 21/03/14(日)21:19:53 No.783458983

じゃねえやLRSだめんご

14 21/03/14(日)21:20:31 No.783459242

さすが休日だ夜中まで待たなくても怪文書「」が来る

15 21/03/14(日)21:20:46 No.783459337

これは…ナイスLRS…

16 21/03/14(日)21:21:33 No.783459674

これでもいい いいんだ

17 21/03/14(日)21:22:39 No.783460152

ありがとう

18 21/03/14(日)21:23:49 No.783460631

俺はこのLRS SSであと10年は生きられる 本当に有難う…

19 21/03/14(日)21:24:34 No.783460981

よかった…こないだのぬのやつはﾊﾟｼｬｯてたから…

20 21/03/14(日)21:26:57 No.783461984

いつパシャるかとビビりながら読んでたけど良かった…

21 21/03/14(日)21:27:25 No.783462184

シン綾波√ENDは精神の健康に良いのでもっとやって欲しい

22 21/03/14(日)21:27:32 No.783462249

怪文書で仕事してそうな腕前を感じる

23 21/03/14(日)21:28:13 No.783462528

ごめんほんとに観たかったifが観られてちょっと涙出てきた

24 21/03/14(日)21:30:19 No.783463435

あらやだあたしなんで泣いてるのかしら年ねぇ

25 21/03/14(日)21:32:40 No.783464477

>『うん』 この返事を聞きたかった

26 21/03/14(日)21:37:02 No.783466330

シンジのヒロインはやっぱり綾波だなぁ

27 21/03/14(日)21:40:17 No.783467748

ありがたい…

28 21/03/14(日)21:41:57 No.783468450

これだよ...求めていたものは！

29 21/03/14(日)21:46:51 No.783470586

ご馳走様です

30 21/03/14(日)21:47:06 No.783470684

よかった…

31 21/03/14(日)21:48:45 No.783471429

これを書かずに入られなかった「」の魂を感じられて泣いてしまう

32 21/03/14(日)21:49:47 No.783471904

>『お前はよくやったで碇。この村を守ったのはお前や。ホンマ、ありがとな』 本質からズレるけど俺これがすっげえ聞きたかったんだ… ありがとう…

33 21/03/14(日)21:50:47 No.783472321

やっぱ村のシーンが一番心に残る

34 21/03/14(日)21:51:40 No.783472669

綾波…稲刈りをしろ… 脱穀と精米もしていいぞ…

35 21/03/14(日)21:53:45 No.783473598

第三村の人たちが急にいなくなったそっくりさん探すシーンとか無くて本当に良かったと思っている もしあったらと想像するだけで胸が締め付けられる

36 21/03/14(日)21:55:03 No.783474167

もういっぱいあるけど もう一つ増やしましょう (Can you give me one last kiss？) 忘れたくないこと

37 21/03/14(日)21:56:04 No.783474629

>もういっぱいあるけど >もう一つ増やしましょう >(Can you give me one last kiss？) >忘れたくないこと 名曲過ぎる…

38 21/03/14(日)21:56:38 No.783474871

この結末にはゲンドウもにっこり

39 21/03/14(日)21:56:43 No.783474914

ツバメ君が男の子だとしたら これから成長していくにつれて女性のストライクゾーンめちゃくちゃ狭くなりそうだね

40 21/03/14(日)21:57:11 No.783475103

この世の終わりでも 年をとっても 忘れられない人

41 21/03/14(日)21:59:11 No.783475886

2021年ですよ！？

42 21/03/14(日)21:59:57 No.783476184

子供を産んでおばちゃん達になっていくんだね... 変わらない暮らしになるんだね…

43 21/03/14(日)22:02:44 No.783477308

いい分岐だ

44 21/03/14(日)22:05:51 No.783478663

公式がゲンドウとの確執にケリを着けてくれたおかげで安心して成仏できる感じだ