虹裏img歴史資料館

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21/03/14(日)05:10:26 まるで... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1615666226536.jpg 21/03/14(日)05:10:26 No.783227124

まるで精密部品を作る機械のようにフォークとナイフが正確な動きをする。 彼女の操るそれには確かな教育とそれを守る律儀さが顕れていた。 「ディープはたくさん食べる割にはなんだかお行儀がいいんだな」 対面へ座る彼女へそう言うと、ディープインパクトは見る見るうちに今まで見たこともない表情をした。 林檎のように頬を赤らめ、行き場のない視線を皿の上に落とす。丁寧に切り分けられたカツレツが乗っていた。 「ご、ごめん。もしかして気にしていることだった?」 「いえ…その…。でも言われたことはあります。お嬢様の癖に大食らいだと。…そんなに私は垢抜けないでしょうか…」 恥ずかしそうに彼女は俯き、囁くように言った。 だがそれについては否定できない。彼女は所作の端々から楚々とした育ちの良さがいつも滲み出ていた。 今の食事だって主菜、副菜、白飯にスープとそれぞれを交互によく噛んで口にしている。ご飯の盛り方は山のようだったが。 実際に箱入りのお嬢様なのだそうだ。彼女の姉は身体も大きく性格に荒っぽいところがあったためか、余計にそうして育てられたらしい。 この子の物知らずでやや天然なところはまさにそれらしさがあった。

1 21/03/14(日)05:10:40 No.783227137

今日こうして一緒にレストランにいるのだってこちらが提案しなければ実現しなかったろう。 何の気なく休日の過ごし方を聞いたところ『自室で休みます』と無味乾燥とした答えが返ってくれば気にもなった。 トレセン学園に入学してから休日はずっとそう過ごしているという。なんて勿体ない、とレース場へ連れてきたのだ。 ディープインパクトは気まずそうにカトラリーを置いて縮こまった。 「よく分からないのですが、私はどうやら皆さんから浮いている…ようなのです。  仲良くしたくとも、仲良くなるのは苦手です。私には同期の皆が考えていることが察せません。  トレーナーさん。私は堅くて接しづらい異分子なのでしょうか…」 肩を落とすディープインパクトについ心が傷んだ。 彼女は誤解されやすいが孤独を好まない。どこか超然とした雰囲気が孤独を招いてしまうだけだ。 どちらかといえば人懐こいウマ娘だった。だからこそ悩ましいのだろう。 励ましたくてつい喉から言葉が溢れた。 「そんなことはないよ。食べ方が綺麗なのだって礼儀がしっかりしてるのだって良いことじゃないか。  君はそのままでいいんだよ。そんな君が好きな人だっていずれ出来るよ」

2 21/03/14(日)05:10:51 No.783227146

本心からだ。ディープインパクトはいい子だ。世間知らずではあるが穏やかで優しい。 静かな佇まいや寡黙さから勘違いされやすいだけで人から愛されるに足るウマ娘だった。 「ご飯だってたくさん食べればいい。ウマ娘にとって食事は体を作る大事な要素だろう?  食べ過ぎは良くないかもしれないけどそれを君の身体が欲しているなら我慢することはないんだ」 勢いよく伝えられたことに彼女は目を丸くして瞬きしていたが、やがてぽつりと聞いてきた。 「トレーナーさんはどう思いますか。  私のことは好ましいですか。能力を度外視した上で私はこうしてあなたに親切にされるべきウマ娘でしょうか」 「勿論だ。君のことは好きだよ。  君は何につけても折り目正しくて優しい子だ。それだけじゃない、他の色んなところだって好きだ」 そうですか、とディープインパクトは呟いた。 フォークとナイフを握り直した。切り分けられたカツレツにフォークを突き刺しながら微笑んだ。 「ありがとうございますトレーナーさん。  うまく言葉に出来ないのですが…気持ちが晴れたような気がします」 そう言って彼女は主菜を口に運び、よく噛んでから山盛りの白米を頬張った。

3 21/03/14(日)05:11:05 No.783227160

午後。 満員の観客席。コースの全貌が見渡せる一番高いところからディープインパクトはレース展開を見つめていた。 一流のウマ娘たちが繰り広げるデッドヒートは観客たちの熱気を更に盛り上げていく。 だが、ディープインパクトの隣にいると逆にどんどん冷えていくような錯覚を覚えた。 それは高まる熱にまるで感応している素振りのない彼女の冷ややかさによるものか。 あるいは───高揚すればするほど芯から冷え切っていくディープインパクトの冷たい炎のような本能のせいか。 「面白く…無かったか?」 「いいえ。とても興味深いです。これまで特に興味を持たなかった自分に呆れるほどです。  昇りつめた末に『これ』が待っている。頭で知った気になっているのと実際に目で見るのは違うと痛感しました。  そうですか。昇りつめれば『これ』と戦えるのですか」 彼女は緩やかにそう言った。その緩やかさにぞくりと寒気が走った。 他の同期のウマ娘たちならこのレースを見たところで抱くものは憧憬がせいぜいだろう。 トップレベルのウマ娘とはそのくらいの差がある。 だがディープインパクトはもう既に、彼女らと競り合うビジョンがはっきりと見えている。

4 21/03/14(日)05:11:16 No.783227177

ディープインパクトがふと言った。 「今日はありがとうございました。あなたがいなければ、私はここへ来る意味も見いだせなかった。  とても有意義な体験でした。たぶん、今日という日のことは忘れません」 「そんな大げさな。今日は君をレース場へと連れてきただけだよ」 「いいえ。それが大事なことなのです」 1着でゴールを駆け抜けたウマ娘が観客席へ手を振っている。これから程なくウィニングライブの準備に入るだろう。 そこから視線を切り、力強い眼差しで隣のこちらへと彼女は眼差しを向けてきた。 知っている。この子はいつも表情を変えず淡々としているものだから涼やかに見えるだけだ。 本当は自分自身さえ焼き焦がしそうな熱を内包していて、だからこんな目が出来るのだ。 「先に続いている道に駆け抜ける意義があると信じることが出来ました。知識で知るだけでは絶対に分からなかった。  なんて僥倖。本当にありがとう、トレーナーさん」 ───それはディープインパクトが坂路のダッシュさえ支障なくこなせるようになった頃の話。 ようやく彼女の前途に『デビュー』という競技人生最大の山場のひとつがはっきりと見えてきた時分の出来事だった。

5 21/03/14(日)05:24:34 No.783228022

朝プイプイ

6 21/03/14(日)05:26:29 No.783228127

これまで su4682468.txt

7 21/03/14(日)05:27:46 No.783228202

今日も来たか…

8 21/03/14(日)05:32:27 No.783228486

来たなプイ文書

9 21/03/14(日)08:26:23 No.783240089

プイ成分は不足しがちなのでいくら補給してもいい

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