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ミルク... のスレッド詳細

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21/02/22(月)23:31:20 No.777426504

ミルク入れましょうか?と聞かれたが、俺はそれを断って、 ブラックのままのコーヒーに口を付けた。 目の前の少女……鳳谷菜央と出会ったのはつい先ほどのこと。 大災害の慰霊碑の前で立ち止まっていた俺に、 「竜宮礼奈」を知らないかと尋ねて来たからだ。 その場で話し込むのもなんなので、 俺は待ち合わせに使うつもりだった喫茶店に案内し、そこで話すことにした。

1 21/02/22(月)23:31:33 No.777426590

「それで…竜宮礼奈さんについて教えてもらえますか」 話を切り出した彼女に、まずは確認したいことをぶつけてみる。 「先に聞きたいんだけど、君はレナとどういう関係なんだ?妹かな」 彼女は驚いた様子を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻して「はい」と答えた。 「礼奈さんとは異父妹にあたります。…彼女に、姉にどうしても会いたくて」 鳳谷という姓はレナから聞いていたので、予想通りだった。 「お姉さんの事はどれだけ知ってるのかな」 「姉の起こした事件の事なら、大体は。…声を掛けたのもそれが理由です」 彼女は少しばかり視線を逸らしてそう答えた。 「なるほど。いい目の付け所じゃないか」 俺は意地悪く右手をひらひらとさせると、次いで重要なことを確認する。 「それで…君のご両親はそのことを知ってるのか?」

2 21/02/22(月)23:31:52 No.777426710

思った通り、彼女は声を詰まらせて、…小さく「いいえ」と答えた。 今日は平日で、一見すると私服に見える服装はよく見ると制服であり、荷物もほとんどない。 東京に住んでいる子供がそんな状態で興宮に来たとなれば、それは姉を探すのと同時に 「家出ってところか」 彼女は無言で頷く。 「となると、結局は交番のお世話になってもらうほかないんだが…」 「分かってます。…けど、その前に姉の事は教えてもらえませんか」 姉に似てしっかり者のようだ。しかしながら、俺は少しだけ不安も覚えていた。 「まぁそうだな…。今は穀倉の方に住んでるよ。後で電話番号を教えるから、家に帰ってから電話でも…」 「…っ!それじゃ、駄目」 俺を睨みつける視線はレナを彷彿とさせた。妹だけあって本当に似てるのだ。

3 21/02/22(月)23:32:03 No.777426775

「なんで?」 「それは…なんでもよ」 「まさか、近いうちに自殺でもするつもりだとか?」 だから、その奥に、悲観に暮れ絶望の底に居た頃のレナと同じものを感じて仕方なかった。 「…だったら?もしそうだったとしても、別にあなたには関係ない」 彼女は口調を荒げ、ぶっきらぼうに話し出して…俺は口の前に人差し指を立てた。 「…何?」 「何でもないさ。ただ、人が死ぬなんて寝覚めも悪いし、なにより関係ないって事もないだろ」 「赤の他人なのに?」 「他人だから死んでいいと思えるならこうはなってない」 そう言って俺は…装飾用の右手の義手を外した。 彼女はぎょっとしたような顔をして、目を逸らした。察していても、直に見るのはきついか。

4 21/02/22(月)23:32:13 No.777426835

十年前。 何日も前からレナの様子がおかしいと気づいていた俺は、レナを救おうと息巻いて…結局のところ、事件の日を迎えてしまった。 皆の協力を得て、屋上でレナと対峙した俺は、彼女の振り下ろした鉈で右手を叩き切られた。 悲鳴をあげ、苦しみもがく俺の姿を見て、…少し前から正気を取り戻しつつあったレナは、 完全に現実に引き戻されたようだった。 泣きじゃくるレナが投降し、重傷を負った俺は興宮の病院へと搬送された。 下手をすれば死ぬかもしれない事態だ。親父たちも一緒に付き添ってくれた。 そして明後日。雛見沢大災害が起きた。

5 21/02/22(月)23:32:23 No.777426897

「…結局、俺たち以外大災害でみんな死んじまったけどさ。…いや、だからだな。目の前に死のうとしてるかもしれない子が居たら、ほっとく訳にはいかない」 「あたしの、せいなのに…?」 肩を震わせて、つぶやく声が聞こえた。 「あたしが生まれたから、お姉ちゃんの人生は壊れて、それで…」 「だから最期にレナに謝りたかったんだな」 俺がそう言うと、感情をせき止められなくなった彼女は、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。 「もしつらいことがあったならさ…他人に話してくれたら、少しは楽になるかもしれないぜ」 「あたし、あたし…」

6 21/02/22(月)23:32:33 No.777426956

それから、彼女は自身の境遇を話し始めた。 正直に言えば、レナから母親のことを聞いた時点で思い描いたそれとほぼ同じだ。 決して褒められない始まりを持った家庭が、必然のように壊れていき、 少女の日常が不景気に飲み込まれて崩れていって、絶望が、幼い自死願望に変わっていく ただ、生々しく肉付けされたそれを聞くのは、予想通りでは済まないものがあった。

7 21/02/22(月)23:32:44 No.777427036

全てを話し終えると、彼女の目に少しばかり生気が戻ったように思えた。 「…ごめんなさい。こんなことで、あたし…死のうだなんて」 「そう思えるようになったならいいさ。思いとどまるだけでいい」 俺は、ちらり、と彼女の後ろの方を見た。 「実際、自分の何もかもが壊れるように変わるっていうのはキツいからな」 「けど、前原さんやお姉ちゃんの苦しみに比べたら、あたしなんて…甘えてたのかも」 …頃合いだと思った俺は、少しだけ口角をあげつつ、こう言った。 「そうだな…。レナ!どう思う?」 俺の言葉に菜央ちゃんは一瞬あっけにとられ、 レナは、後ろからそっと、何も言わずに妹を抱きしめた。

8 21/02/22(月)23:32:59 No.777427141

「菜央ちゃんに会えて本当に良かったよ」 菜央ちゃんを最寄りの交番に送った帰り。レナがそう呟いた。 「そうだな。偶然会うことも無ければ、そのまま…」 今日は、なんてことの無い平日。たまたま、俺があの慰霊碑の前で佇んでいたのは本当に偶然で、 そして彼女が俺の右手に気が付かなければ、何もかもをあの世に持って行ったのだろう。 「それもだけど、正直言って私も救われたんだ」 「救われた、か」 ほんの数十分。一時間にも満たない時間。たったそれだけの間に、二人は互いがあるべき関係を 見出し、望んで、他愛も無い言葉一つ一つで絆を結び付けていた。 そこに居たのは、間違いなく年の離れた姉妹だった。 「…私なんかがあの子のお姉ちゃんになれてたのは、嬉しかったよ」 竜宮礼奈で良かった、とレナは滅多に見せないような笑顔を見せた。

9 21/02/22(月)23:33:12 No.777427226

とはいえ、去り際に俯いた彼女の顔を思うと、よぎる考えもある。 「…菜央ちゃん、どうなるんだろうな」 家に戻れば大目玉だろう。それはいい。だが、変わったのは学校だけではなく、家庭もなのだ。 「大丈夫だと思うよ。…あの人は、別に子供が嫌いって訳じゃないはずだから」 そうだとは思うし、思いたかった。金銭的な話も絡むなら、 俺たちには、彼女をどうこうするのは難しい。おそらくは、心の支えになるのが関の山だろう。 もっとも、俺としては、恐らくはレナも必要とあらばそこから一歩を踏み出すつもりではあるが。

10 21/02/22(月)23:33:22 No.777427287

「そう言えば圭一くん。なんであの喫茶店に呼び出したの?」 …あの喫茶店は、退院したレナと一緒に最初に訪れた場所だった。 要するに、何か重要な用事があったのは明白な訳だ。 「あー…まぁ、その、家に帰ったら話すよ」 「そっかぁ。ふふっ。じゃあ、楽しみにしとくね」 ひとまず俺は先送りにした。レナは察してるかもしれないが。 …それでも帰り道や車内で渡すものじゃないよな。

11 21/02/22(月)23:33:36 No.777427370

結果論ではあるが、俺と両親の命を救ったのはレナだ。皮肉なことに、俺が救えなかったレナが、 俺の腕を切り落としたお陰で、俺たちは救われたのだ。 分校の皆は死に、村の人たちも死に、…レナも親父さんを失ったというのに。 だから…俺はレナを見捨てたくは無かった。あの日から何年もの間、何度もあの日を夢に見た。 その度、失った腕の痛みを思い出し、…涙を流して、何度も謝るレナの顔を、何度も。 これは…取り返せないミスなんだ。だから、俺だけでも許すべきだと思った。 俺はバットを握る手と同時に、引き金を引いた指が無くなったのだと考えることにした。

12 21/02/22(月)23:33:49 No.777427446

紆余曲折あり、レナが退院して娑婆に出てくるとなった時、 俺は両親を説得…というか、背中を後押しし、前原家に竜宮レナを居候として迎え入れた。 それから、まぁ波乱あり涙あり笑いありの日々を3人と1人で過ごしてきたのだが、 ずっと続いたそれも、今日で一区切りになるかもしれなかった。 …いや、厳密には何日後かの話だが。 義妹とは違う理由で、レナも同じように名前が変わるだろう。 左手が残ってて良かった…なんて意地悪を思いついたが、まぁこれは言わぬが花だ。 作業用の義手で車のエンジンをかけつつ、俺は取り留めもないことを考えていた。

13 21/02/22(月)23:34:06 [終わり] No.777427535

家に帰ったらひとまずコーヒーを入れてもらおう。 苦いブラックが当然かもしれないが、ミルクのやさしさも、捨てがたいんだ。

14 21/02/22(月)23:34:33 No.777427709

竜騎士07への反骨に満ちた圭レナ+菜央の罪滅しIF怪文書です。 うそです… 命8章が出ても070怪文書が出てこなくて俺は…ガッカリした。ので少し違うけど自分で書きました。

15 21/02/22(月)23:36:25 No.777428339

いいね…

16 21/02/22(月)23:39:58 No.777429644

良かったね…

17 21/02/22(月)23:40:59 No.777430048

自分で書くのえらい

18 21/02/22(月)23:51:01 No.777433650

命シナリオ好きだから読み耽ってしまったよ

19 21/02/22(月)23:56:18 No.777435480

前原夫妻に頻繁に会いに来そうだな70ちゃん

20 21/02/22(月)23:59:35 No.777436710

素晴らしい…

21 21/02/23(火)00:00:58 No.777437302

すごいよかった… 0770いいよね

22 21/02/23(火)00:03:18 No.777438322

美しい…

23 21/02/23(火)00:15:30 No.777444185

よかった…