21/02/12(金)22:00:02 何千年... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1613134802484.png 21/02/12(金)22:00:02 No.774150345
何千年も昔から伝わる歌がある それは 恋の歌 人々は、いえポケモンも、誰かに恋をし、愛を育み、長い歴史を紡いできた シンオウにも人とポケモンが結婚したという昔話が残されてる とある地方には、神々が年一回集まって話し合う内容が恋結びという神話があるらしいのだから驚きだ こうした歌や逸話が語り継がれてきたという事実は、いつの時代も「愛」や「恋」というものが時代を席巻していたということ それは時に政治や宗教、特に現代では商業に利用されながら
1 21/02/12(金)22:00:13 No.774150429
「ムーンちゃん今日はありがとね!専門家がいると助かるわ~!」 「いえ、いつも美味しい料理を頂いてるので」 季節は2月に入ったばかりの真冬、とはいえここアローラは年中温暖な気候のため、シンオウ(故郷)のようなどこか物寂しい冬の景色はない 風土が違うとここまで景色も雰囲気も違うものかと少し驚く そんなアローラでも、シンオウでも、同じように持て囃されている風物詩がある
2 21/02/12(金)22:00:35 No.774150565
「それじゃあバレンタインに向けて、薬膳チョコ研究会始めますか!」 「いつ結成したんですかその会」 「いま!」 そう、わたしが今日アイナ食堂を訪れているのは、木の実を使ったチョコレートづくりの手伝いを頼まれたから マオさんは毎年バレンタインデーに創作チョコレートをお店で出しているらしい 料理人の彼女にとっては、バレンタインデーは腕の見せ所という日なのかも
3 21/02/12(金)22:00:50 No.774150663
「チョコレートの味はどういう風にします?」 「やっぱり薬膳だしビターな方がいいのかな?」 「でしたら、この木の実やこれなんかは…」 「ふむふむ」 色々と試行錯誤しながら創作チョコをつくるわたし達 マオさんは料理人らしい自由な発想と視点をくれるので、色々刺激をもらえる 料理だけども、こうして実験的な作業をするのは学者肌のわたしとしてはやはり楽しい 「ムーンちゃんなんだか楽しそうだね」 「そ、そうですか?」 「バレンタインは誰に渡すかもう決めた?」 「そうですね、お世話になってる方には渡そうと思ってるので、結構たくさん用意しないとですね」 「真面目だねぇ」
4 21/02/12(金)22:01:05 No.774150745
元来「好きな人へチョコを渡す」という風習として広まったバレンタインデーは、いつしかチョコレート交換会へと変貌していった おかげで「LOVE」と「LIKE」両方にチョコを渡さなければいけなくなり、「本命」と「義理」という区分が生まれ、さらにその中でも詳細な分類がなされるなど益々混迷を極めている したがって、わたしの中では「お中元」や「お歳暮」と同じ枠として扱っている 「義理」だの「本命」だのという駆け引きは面倒だもの
5 21/02/12(金)22:01:20 No.774150838
「ムーンちゃんはサンくんにはどんなのあげるの?」 「え、運び屋さんですか?……彼にチョコレート要りますかね?」 「ええ~~~~~~~!!??」 その仰天具合にこっちが驚く 「あげないつもりなの!!??」 「あ、いえ」「ただ、運び屋さんお金以外もらっても嬉しくないんじゃないかなって」 別に喜ばれもしないものに労力を掛けたくない、特に渡す人数が多いわけだし 「そんなことないよ!絶対喜んでくれるよ!!」 「そうですかね?」 1億円貯金が達成したとはいえ、本当の目標には程遠い運び屋さん いまもゼンリョクで突っ走る彼はまだまだお金しか興味がないんじゃないかしら
6 21/02/12(金)22:01:38 No.774150974
「ムーンちゃんが真心込めてつくったチョコなら絶対嬉しいはずだよ」 「はあ」 真心こめて…ね 「愛の力」というものを否定するつもりはないけど、「真心や愛情をこめれば美味しくなる・よくなる」みたいな発想は正直理解不能だ 料理が美味しくなるのは「心を込めたから」ではなく木の実や香辛料を科学的に最も美味しくなるように選択・調理した結果であり、そんなあやふやなもののおかげじゃない まあ料理人であるマオさんが言うのだから、一概に否定はできないものなのでしょうけど… 運び屋さんに真心込めてねぇ…じゃあ 「もしあげるとしたら、小判型チョコに金箔でも貼って渡しましょうか」 「おっいいね~!それなら大喜びしそうだね」 「チョコって気付いたとき凄くガッカリしそうですけどね」 そう言ってわたし達はクスクスと笑う
7 21/02/12(金)22:02:06 No.774151159
========= 「あらムーンちゃんじゃない、アローラ~」 「ライチさん、こんにちは」 マオさんと別れた後、ライチさんと遭遇した 「今日は確かアイナ食堂でチョコづくりだったね、マオが張り切ってたよ」 「ええ、今はその帰りです」 「いいねえ懐かしいなぁそういう女子会…ウフフ、上手くできた?サンくんに無事渡せると良いわね」 …… 「いえ、皆さん用に配布するチョコの試作でして」 「分かるわかる、木を隠すなら森って言うからね」 何が分かるのだろう 「ふふ、ジョーダンよジョーダン!けどサンくんも喜ぶと思うわよ」 「そうですか」 …ライチさんは良い人だけど、このノリは前からちょっとニガテだ
8 21/02/12(金)22:02:28 No.774151327
「おっムーンよく来たね」 「お邪魔します」 メレメレ島に戻り、ククイ博士の研究所を尋ねる 「頼まれていたデータです」 「ありがとう!…ん?なんだか甘いいい匂いがするな」 「ああごめんなさい、さっきまでマオさんとチョコレートづくりをしていたので」 「ああ、そうかもうすぐバレンタインデーだしね」「ハハッ、アイツが大喜びする姿が思い浮かぶな」 「アイツって?」 「ん?サンにあげるチョコ作ってたんじゃないのかい」 何故そうなる 「ダーリン、今のは失言よ」 「おっと済まない」 まったくです 「そういう言い方すると、つい否定したくなっちゃうでしょ、年頃の乙女の気持ちを分かってあげなきゃ」 いや全然分かってない
9 21/02/12(金)22:02:47 No.774151473
「マオさんの創作チョコの手伝いと皆さんに渡すチョコの試作をしてたんです」 「へえ、それはバレンタイン当日が楽しみだな」 「ムーン、ダーリンのは滋養強壮たっぷりのチョコにしてあげて、どうも最近疲れてるみたいだから」 「わかりました」 「オイオイ、注文が多くてごめんなムーン」 そう言って苦笑するククイ博士 「いえいえ」 相変わらずのバカップルっぷりを見せつけられた後、ようやく帰宅の途につく
10 画像ファイル名:1613135072902.png 21/02/12(金)22:04:32 No.774152198
自宅へ向かって歩きながら、とある疑問を悶々と抱えていた …なんで揃いも揃って運び屋さんの名前を? 正直、運び屋さんも無難にパパっと渡して終わりにするつもりだったけど…妙に意識してしまう ただでさえ田舎はこういう話が尾ひれをついて広まりやすい―ましてバレンタインデーとなれば尚更 人はいつの時代も恋愛話が大好きなのだ だけど、わたしと運び屋さんは別にそういうのじゃない こういう雰囲気に流されてギクシャクする方がイヤ うん、予定通り無難にパパっと渡すのがいいわねそうしましょう
11 画像ファイル名:1613135154590.png 21/02/12(金)22:05:54 No.774152803
『ムーンちゃんが真心込めてつくったチョコなら絶対嬉しいはずだよ』『サンくんも喜ぶと思うわよ』『アイツが大喜びする姿が思い浮かぶな』 …本当に喜んでくれるのかな? 真心を込めて…か、それで美味しくなるならどれだけ楽だろうか どうやったら運び屋さんが喜んでくれるようなチョコになるのかしら…? ん~…と考えながらなんとなく空を見上げると 運び屋さんが降ってきた
12 21/02/12(金)22:06:27 No.774153060
「うおおおおおおおおおおおおおお!!??」 「運び屋さん!?」 ガサガサガサッゴッ…ドシンッ 木に引っかかりながら私の目の前に落下する運び屋さん 「うぅ~イテテテ…」 「ちょっと大丈夫?」 「あっ…お客さん、へへっ余所見してたらリザードンから落っこっちまった」 「へへっじゃないわよ全く…どこか折れてるところはない?」 「足捻ったっぽいけどあとは大丈夫」 相変わらずボロボロの姿で私の前に姿を現す彼に、思わずため息が出る
13 21/02/12(金)22:06:48 No.774153242
「ほら、治してあげるから見せて」 「サンキュー」 申告通り足の捻挫以外は打撲、切り傷、擦り傷くらいで内臓や骨への異常はなさそうね 「今クスリ塗ってあげるから手を出して」 「おっ用意が良いねぇお客さん」 「どっかの誰かさんがいっつも大怪我するからね」
14 21/02/12(金)22:07:05 No.774153402
「…あら、あの薬がないわね」「ちょっと待っててね運び屋さん、確かあの近くに必要な木の実があったはず」 「……」 あったあった 弓で木の実を確保して早速調合、他にも擦り傷にも効くものも混ぜておきましょうか (ゴリゴリゴリ) 「お客さん何か悩み事でもあんのかい?」 調合中に運び屋さんが急にそんなことを問いかけてくる 「なにが?」 「さっき小難しい顔して歩いてたろ?」 どこで誰に見られてるかなんてわかったもんじゃないわね
15 21/02/12(金)22:07:25 No.774153567
「そんなに心配されるような顔してた…?」 「いやちょっとうわの空っていうか、声かけたのに気付かれなかったし、大丈夫かなって」 えっそうなの、全然気付かなかった 「それは、運………」 ………あなたのことで悩んでた、なんて言えるか! 「ん?」 「…えっと、『真心を込めて』って言葉があるじゃない?あの意味がよく理解できなくて」 「あんだよそんなことであんなぼーっとしてたのかよ、変わってんなぁお客さん」 誰のせいだと思って…コイツ…という怒りを堪える 「そのまんま思いを込めてって意味だろ?何が気になんだよ」 「例えば『真心を込めてつくった料理だから美味しい』って説明されても、そんな抽象的なものじゃ美味しさの説明になってないじゃない、レシピにも載ってるわけでもないし」「となると、『真心を込める』っていうのは具体的にどういう意味なのかなって」 ???という表情の運び屋さん、小難しい話過ぎたかしら
16 21/02/12(金)22:07:46 No.774153741
「言ってることはよく分かんねえけど、お客さんいつもやってんじゃん」 「はあ?」 またいい加減なことを… 「わたしがいつやってるの?」 「いま」 いま?
17 21/02/12(金)22:08:05 No.774153901
「だってそうだろ?お金にもなんねえのに治療してくれたり、足りない材料をわざわざ採りに行ったり、それって『真心こめて』なきゃできないことじゃねえか?」 「それは好きでやってることで…“好き”っていうのは治療行為をね!」 慌てて言い直すわたし 「けど、手を抜いて治療したことはねえだろ?」 「当然………あぁ!」 ようやく腑に落ちた 「真心を込める、愛情を込める」という言葉は、それを作るうえでかけた時間と手間、工夫―「食べる人に美味しいと思ってほしい」「相手に喜んでほしい」それを実現するために行う“努力”を表した言葉 どうやらわたしはその響きの先入観から「曖昧な言葉だ」と決めつけて、言葉の本質を捉え切れていなかった…反省しなきゃ 「お客さんがいつも真剣に治してくれてるのは知ってるからさ、そんな変に思い詰めなくて良いと思うぜ?」 自分だとよく分からないけど、わたしの治療行為には真心が込められている、少なくとも運び屋さんにはそう感じてくれていた そっか、運び屋さんはわたしのことそんな風に思ってくれてたんだ 知識が本物になったことへの喜びと、気恥ずかしい嬉しさが同時に押し寄せてくる
18 21/02/12(金)22:08:43 No.774154179
「どうしたお客さん、顔赤いぜ?」 「えっ」 ハッと我に返る 「いえ、変な理屈をこねくり回してた自分が恥ずかしくて…ありがとう運び屋さん」 「へへ、お客さんもサンキューな!じゃっ!」 そう言って運び屋さんは帰っていく 「あ、待って運び屋さん」 あなたはどんなチョコレートが好き?折角だから聞いてみよう 「ん、なんだい?」 「…あんまり無茶しちゃダメよ?」 「次から気をつけるよ、んじゃ!」 今聞いて変にお互い意識しすぎてギクシャクするのも嫌だし、バレンタインの話をするのは止めておこう …決して聞くのが怖くなったとか弱腰になったという訳じゃない、断じて
19 21/02/12(金)22:09:02 No.774154366
家に帰って早速チョコづくりの計画を立ててみる お世話になった人たちへ真心を込めてつくるために 「…運び屋さんにはどんなチョコがいいかしら」 別に特別扱いという訳ではないけど、博士からもオーダー受けてるし、今日のお礼という意味でも、ちょっと違うチョコでもいいかな 別に「義理」とか「本命」とかじゃなくて、単純に気持ちの問題ってだけよ そう自分を納得させながら、あーだこーだと考えてみる どんな味が好きかな?形は?大きさは?どうやって渡す?どうすれば喜んでくれるかな?真心、伝わるかな?わたしは…どう思われたいのかな? 答えの出ない問いが無尽蔵に沸いてきて大変だけど、今までで一番ウキウキしたバレンタインの準備だった つづく
20 <a href="mailto:s">21/02/12(金)22:09:14</a> [s] No.774154485
以上です