虹裏img歴史資料館

1 21/02/03(水)16:00:46 No.771254426

　きっかけは一月ほど前のこと。 「ア゛ル゛マ゛ン゛～～～～！！」 　涙と鼻水をズルズル垂らしたシャーロットが、図書室で優雅に読書を楽しんでいたアルマンに抱きついてきたのが始まりだった。

2 21/02/03(水)16:01:06 No.771254482

　ハロウィンパークの騒動で、人間達がそこでしてきたことと、それによってダッチガールが負った心の傷を知ったシャーロットは深く落ち込んだ。 　最近はそこからもようやく立ち直ったと思っていたが、折悪しく今度はどこからかLRLの生い立ちを聞かされたらしい。 　見た目は幼い子供の彼女が、実は滅亡前の時代から生きているオルカ最年長組の一人であり、その小さな体に見合わぬ過酷な半生を送ってきたことは、アルマンも聞き知っていた。もちろん気の毒には思うが、あの時代、あの世界には無数にあった悲劇の一つにすぎないとも言える。 「あんな……あんな、たった一人で、孤独に、ずっと……私っ、わたくし、もう……！」 　しかし、この馬鹿で放埒で淫乱で、そして子供好きで底抜けに善良な銃士隊長は、そんな風に割り切っては考えられないようだった。

3 21/02/03(水)16:01:25 No.771254519

「あの子達に何か、何かしてあげたくて……このままでは私、陛下との夜伽も落ち着いて楽しめません……」 　ハンカチで盛大に鼻をかみ、すすり上げながら言うシャーロット。夜伽はさておき、何かしてあげたいという気持ちはわからないでもない。 「とはいえ、ですねえ」アルマンは頬に指を当てて首をかしげる。「ダッチさんもLRLさんも、今は別に不幸せではないと思いますよ？　仲間もいるし、陛下もいらっしゃるし、ご飯もお腹いっぱい食べているし。殊更してあげることと言っても……」 　ない頭をうんうん捻っていたシャーロットがぱっと顔を上げて、「お話の読み聞かせとか！」 「モモさんがすでに毎週朗読会をやっていて、大人気ですね。貴方、彼女より上手に読めまして？」 「うう……」 　しょんぼりとうなだれるシャーロット。と、そこへ本をかかえた陛下が入ってきた。借り出していた本を返しに来たのだろう。

4 21/02/03(水)16:01:44 No.771254593

　陛下は人間にしては珍しく、データベースでなく紙の書籍を読むことを好む。アルマンが図書室に常駐するようになったのも、彼がしばしばここを訪れるから、という理由が大きい。 「へい゛が～～～」 　そして当たり前のように陛下にも泣きつきにいくシャーロット。あの直截さはちょっと羨ましくもある。 　彼女から話を聞いた陛下はしばし考えて、 「劇なんか、どうだ」 「劇、ですか……？」 「本当の演劇だ。案外、やったことがないんじゃないか？」 「！？……」

5 21/02/03(水)16:02:08 No.771254670

　それは確かに、今のこの身が劇場に立ったことはないが。俳優バイオロイドとして生み出され、数千回におよぶ様々な公演の経験がプリインストールされているこの自分に向かって「本当の演劇をやったことがない」とは何事かと一瞬カッとなったが、すぐに気がついた。陛下が言っているのはそういうことではない。 「それはつまり……」 　アルマンの問いかけに、陛下は我が意を得たり、というように深くうなずいた。

6 21/02/03(水)16:02:31 No.771254758

　方針が決まれば、後は早かった。 　LRLの愛読書である竜殺マガジンを借りてきて読み込み、アルマンのライブラリに蓄えてある膨大な脚本データベースからテイストの近い話を探して翻案する。 　独特な言葉遣いのセンスに多少戸惑ったが、晦渋な固有名詞の根底にあるいくつかのキーフレーバーを押さえてしまえば、調子を合わせるのはそれほど難しくない。アルマンが相手をしてきた観客の中には、こういう「こじらせた」性格の子供達も結構いたのだ。どうしてもつかめない所は陛下に頼った。 　フォーチュンに手伝ってもらって大道具小道具をつくり、スカディーに声をかけてプログラムを組んでもらう。二人とも子供好きなので、協力は二つ返事で得られた。

7 21/02/03(水)16:02:44 No.771254798

　エキストラには暇そうなグレムリンとウェアウルフを何人か引っ張ってきた。馬鹿だがセリフと振り付けだけは抜群に飲み込みが早いシャーロットは心配ないとして、他の出演者にはそれなりにきちんとした読み合わせと練習が必要だ。並行して演出、照明、音楽のプランも考えなくては。頭の中の、長いこと使っていなかった回路がフル回転する心地よい緊張感をアルマンは味わっていた。

8 21/02/03(水)16:02:55 No.771254831

「奏剣よ、我が歌声に乗り、闇の終わりを示せ！　ノクテュルヌ・ド・ロワゾオ・ブルー！」 「ぐわあああああ！　ま、まさか貴様が……光と闇の血を引く者だったとはな……だが一人では死なん、貴様も……道連れだ……！！」 　満身創痍のアルマンがシャーロットに飛びつくと同時に、まがまがしい閃光が走り、舞台が爆炎に包まれる。観客が固唾を呑んで見守る中、青いマントがひらめき、輝く剣を手にシャーロットが炎の中から現れると、パイプ椅子を並べた観客席は力一杯の拍手と歓声で満たされた。

9 21/02/03(水)16:03:07 No.771254869

　爆炎エフェクトにまぎれてこっそり抜け出し、舞台袖でBGMのボリュームを調整していたアルマンに、舞台を下りたシャーロットが全力で飛びついてきた。 「アルマン！　ああ、なんて素晴らしいの。どれだけ斬っても、戦っても、誰も傷つかない。舞台を下りれば皆で笑っていられるなんて！　こんな演劇を考え出すなんて、あなたは天才ですわ！」 「私が考えたわけではないのよ、シャーロット。ずっと昔、バイオロイドが生まれるより前の演劇は、こういうものだったの」 　頭より大きい肉球二つに激突されてちょっとクラクラしたが、アルマンはどうにか答える。

10 21/02/03(水)16:03:20 No.771254910

　トレーニングルームの精巧な半実体ホログラフに、シャーロットの剣の腕前と、アルマンが緻密に練り上げた殺陣が加われば、本物の戦いにしか見えない迫力ある戦闘シーンを演出することはたやすい。炎や雷、血しぶきだって自由自在だ。陛下が発案し、アルマンが準備した「本当の演劇」とはすなわち、戦闘まで含めたすべてが演技であるような劇のことだった。 「最前列にいたLRLちゃんとダッチちゃん達を見た？　あの笑顔！　ああ、私は！　ああいう顔が！！　見たかったのですわ！！！」 「ええ、そうね。……本当に、そうね」 　テンションが絶頂に達して感極まっているシャーロットほどではないが、アルマンもまた深い驚きと喜びに打たれていた。 　演じる楽しみ、舞台に立つ喜びとは、こういうものだったのか。過去に製造されたどのアルマンも知らなかった経験を、今自分はしているのかもしれない。

11 21/02/03(水)16:03:35 No.771254950

「さ、行きますわよ」アルマンの手をシャーロットが取った。 「えっ、どこへ？」 「決まっているでしょう、カーテンコールですわ！　私とあなたが並んでカーテンコールを受けるなんて、滅多にないことよ！」 　ぐいぐいと舞台へ引っ張られ、戸惑いとうれしさが半々の頭で、アルマンは考えていた。 　さて、これだけ人気が出たからには、続編の構想も練らなくては。次はマジカルモモにも協力してもらって、ストーリーにもさらなる展開を……。

12 21/02/03(水)16:03:36 No.771254951

ピョンテなんだからこんなどうでもいい話よりピョンテしてるシーン書いてくれよ！

13 21/02/03(水)16:04:05 No.771255041

　かくて、シャーロットの鼻水と思いつきから始まった創作劇「時のドラゴンと歌う剣」第一回公演は大成功に終わった。 　大人気を受けて本作はシリーズ化し、やがて伝説組全員とそれ以外の相当数の面々を巻き込んだ一大ロングランとなる。それにライバル心を燃やしたモモも新しい魔法少女シリーズを立ち上げ、さらに助っ人として参加するうちに演じる楽しさに目覚めた他企業組による第三勢力も勃興してきて、オルカ演劇界は戦国時代を迎えるのだが、それはもう少し先の話である。 End

14 21/02/03(水)16:05:50 No.771255393

そうですか

15 21/02/03(水)16:06:58 No.771255624

先日のスレで話に出た「LRLを正しい意味で可愛がる馬鹿イエロー」を書こうとしたが 途中であれアルシャロって良くね…？と気づいたらこんな風になっていた まとめ su4567648.txt

16 21/02/03(水)16:06:58 No.771255627

ピョンテしてないピョンテ怪文書初めて見た

17 21/02/03(水)16:08:44 No.771255984

むっ…むぅ…

18 21/02/03(水)16:09:02 No.771256044

アルマンって元々ヴィラン側だから最後に喝采を浴びるとかまず無いだろうからなぁ…

19 21/02/03(水)16:09:50 No.771256212

力作怪文書がどんどん出てくる

20 21/02/03(水)16:10:33 No.771256353

それでピョンテシーンは？前置きだけで話が終わってしまったんだが

21 21/02/03(水)16:14:33 No.771257087

いい話だった

22 21/02/03(水)16:18:36 No.771257868

良い話じゃ…

23 21/02/03(水)16:20:27 No.771258223

ピョンテの2次創作には曇らせとほっこりしか望んでいない俺にはご馳走だった

24 21/02/03(水)16:21:25 No.771258417

おおいつぞやの渋くカッコいいマリー隊長の怪文書の人だ まとめも出来ててありがたい…

25 21/02/03(水)16:24:40 No.771259075

ピョンテが足りなかったので今度からは合間合間にピョンテしてるシーン挟むとかしてほしい

26 21/02/03(水)16:25:33 No.771259251

まとめありがたい… 伝説は皆キャラ立ってて動かしやすそうよね

27 21/02/03(水)16:27:32 No.771259674

バカみたいな水着のスレ画からは到底結びつかないようないい話だった

28 21/02/03(水)16:29:56 No.771260180

スレ画のせいで演劇中もずっとこの格好だとばかり…

29 21/02/03(水)16:31:03 No.771260409

>ピョンテなんだからこんなどうでもいい話よりピョンテしてるシーン書いてくれよ！ 頭旧人類かよ

30 21/02/03(水)16:33:58 No.771261067

つまりこれが上手くいったことで夜伽を心置きなく楽しめるってことだろ！

31 21/02/03(水)16:43:56 No.771263123

>つまりこれが上手くいったことで夜伽を心置きなく楽しめるってことだろ！ そこを主題として書くべきだろ！！！！！！！！

32 21/02/03(水)16:49:59 No.771264323

>>つまりこれが上手くいったことで夜伽を心置きなく楽しめるってことだろ！ >そこを主題として書くべきだろ！！！！！！！！ 次の怪文書を書くのは君だ！！！！！！1！11！！

33 21/02/03(水)16:50:14 No.771264389

バイオロイドが本物の演劇してるところ初めて見た

34 21/02/03(水)16:52:25 No.771264790

前も後もなくおピョンテシーンだけを書いた怪文書だっていいんだ！ さあ書こう！

35 21/02/03(水)16:53:30 No.771265008

そういやアルマン君もシャーロットの相手やれるくらい演技出来るんだよな あんまりアピールしないから忘れてた

36 21/02/03(水)16:55:25 No.771265346

シャーロットさんいいよね

37 21/02/03(水)17:07:14 No.771267833

>前も後もなくおピョンテシーンだけを書いた怪文書だっていいんだ！ 「ある夜のオルカ」とでもタイトル付けとけばそれだけでも立派に成立するしな…

38 21/02/03(水)17:08:16 No.771268037

>そういやアルマン君もシャーロットの相手やれるくらい演技出来るんだよな >あんまりアピールしないから忘れてた というか三銃士とリシュリューなんてアムロとシャアみたいなもんなのに ゲーム中で全然絡んでねえ！

39 21/02/03(水)17:13:40 No.771269217

夜伽まだですか！！！！！！！！ パンツ脱いでから読んだんですが！！！！

40 21/02/03(水)17:18:55 No.771270224

アルと聞いてアルヴィスかと思ったが そう言えばアルマン卿が公式でシャロの相方だったか

41 21/02/03(水)17:23:58 No.771271240

シャロの相方するために未来予知じみた能力持たされてるからな…

42 21/02/03(水)17:24:43 No.771271384

日本語のピョンテ怪文書が着実に増えてて俺によし タラバのやつも翻訳すれば読めるけど翻訳精度がね…

43 21/02/03(水)17:29:01 No.771272249

>「LRLを正しい意味で可愛がる馬鹿イエロー」 このレスを書いたんだけど俺はこっちも好きだよ ありがとう いいものをありがとう

44 21/02/03(水)17:31:37 No.771272799

この「」のLRLちゃんのお話で迂闊にも泣いちゃったから次の話も大変期待してたらまたこれは良いものを… ここらでラビアタお姉様が活躍する話も読みたいな！

45 21/02/03(水)17:35:06 No.771273527

ほっこりするピョンテもいいね！

46 21/02/03(水)17:35:07 No.771273529

あいつ