21/01/07(木)12:44:20 ティラ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1609991060217.jpg 21/01/07(木)12:44:20 No.762789548
ティラントー ジャロウデク王国の幻晶騎士である
1 21/01/07(木)12:45:11 No.762789760
ジャロウデク王国の国境はイレブンフラッグスによって侵されていた。 黒顎騎士団、青銅爪騎士団、鋼翼騎士団等の名だたる騎士団は壊滅状態だ。国土を守るべきは鉛骨騎士団。 配備された幻晶騎士ヴォラキーロはイレブンフラッグスの幻晶騎士に劣るものではない。黒鉛騎士団の騎操士は決して素人ではない。 されど広大すぎる国土が重くのしかかる。四方八方からの侵略者をある時は重要度の低い土地だからと見逃し、ある時は物量の前に敗退し、ある時は目の前の村々を見捨てるべきか判断を迷い壊滅した。 しかし、戦中にその状況は若干だが改善した。壊滅した各騎士団の人員の帰還である。 「此処が――」 ストラトフ・ティンガーの治めていた工房都市は何も残っていなかった。 ジャロウデクの行った侵略戦争はあくまで世界の父を取り戻すという大義があった。暴虐を振るうことはあっても全てを奪いつくすことまではしなかった。 高い城壁に囲まれ、内部も市街戦を考慮し城壁内の外周部は半ば迷路のように入り組んでいた。美しく黒い城壁は打ち砕かれ、都市外周部は破壊され尽くされただの道になっている。
2 21/01/07(木)12:45:21 No.762789800
ストラトフが愛した楽器や幻晶騎士の工房は跡形も無くなっていた。内部の機材から完成した楽器、家具から屋根に至るまで綺麗に奪われていたのだ。そこに住まう住民の命はそこかしこで散ったまま放っておかれていた。
3 21/01/07(木)12:45:48 No.762789929
「イレブンフラッグスめ!!!」 否。すでにイレブンフラッグス以外の国家もジャロウデクに食い込んでいる。ジャロウデク王国と敵対していた国家、潜在的な敵対国家、中立を決め込んでいた国家何国が攻め込んでいるだろう。この都市もいくつの集団に襲われたのか? この日、イシル・ローキは故郷を失ったことを知った。 瓦礫を撤去する際に動かしたティラントーは、いつもと同じように甲高い駆動音を漏らすだけだった。 イシルはもう誰も救うことはできない。諦めるしかない。悲しみ、怒り、自分が孤児だった時の憎悪が晴れ往くような感情、あらゆるものがせめぎあい不思議な調和を保っていた。何も考えられないが、淡々と故郷を検分する。 あるがままを受け入れなさいという師匠の言葉が呪いのように、救いのようにイシルの胸中に踊っていた。
4 21/01/07(木)12:46:01 No.762789981
そしてあるがままを書き記す。ストラトフは小隊全員に毎日の詳細な記録を厳命していた。それは全て彼の作曲に費やされていた。 ストラトフは温厚な性格だったが、クシェペルカ侵略を前に笑顔を見せた。きっとそこに偉大なる歌が見つかると。 「師匠、戦争に、この惨状に歌うべき歌があるのでしょうか?」 疑問が口をついて出るが、答えはとっくの昔に知っていた。
5 21/01/07(木)12:46:32 No.762790106
*** 黒顎騎士団は青銅爪騎士団の敗残兵を纏め再編されていた。敗戦で士気も練度もまるで異なる兵士達が一緒くたに再編され、中体ごとに別々の重要拠点を経由し王都を目指していた。 まだ未熟な兵が辛うじて操るボロボロのティラントーが目立つ中、黒顎騎士団出身のイシルの乗る新品のようなティラントーは目立っていた。 イシルの仲間たちは彼女の腕と機体に頼もしさを覚えるが、それはイシルにはあまりに重い。 (私とコイツがそんなに頼れるもんか!) ストラトフはイシルを逃がし鬼神に討たれた。今イシルが乗るティラントーは臆病者の騎操士が倒れ、鬼神に討たれ損なった機体である。だがそれでも再編された騎士団の中ではイシルは確かに強い方だった。 イシルでなくとも明るい気持ちの仲間などいない。誰もが敗残兵で故郷は壊滅状態だ。彼女らは太陽を背に自らの影を責めるように踏みながら歩く。
6 21/01/07(木)12:46:50 No.762790169
ふと、重低音がティラントーを震わせた。イシルはティラントーの歩みを止める。 「各員可能な限り散開、一か所に固まるな! 上空に注意しつつ大盾構え、背面武装を用意しろ!」 「隊長っ、なんですか!?」 「危険な相手だ、私が敵を引き付ける。敵の動きが止まり次第戦術級魔法を撃ちこめ!!」 イシルはこの大気の唸りを知っていた。イシルは音のする方を見上げると、まばゆく輝く鬼相の死神が、黄金の鬼神がティラントーを見下ろしていた。 「ふへ、ふへっへへへへ!!!」 イシルの口からは歪な笑いがこみ上げる。
7 21/01/07(木)12:47:12 No.762790281
黄金の鬼神は以前と異なり、小型の飛空船のような物に乗っていた。 腕はどこで落としたのか二本しかないが、片手には銃装剣をしっかりと握っている。もう一方の手は飛空船から延びる操縦桿のようなものを握っていた。 飛空船ごと高速で中隊へと突っ込んでくる。逆光も相まってまともに見ることができない。 銃装剣がティラントーに叩きつけられる。それを受けたティラントーは大地を抉りながら数十メートル後退した。 たまらずティラントーは背面武装の紋章術式を起動したが、魔法の炎は既に鬼神の去った宙を燃やしただけだった。 鬼神は大空へと舞い戻り、勢いをつけ今度は別のティラントーの元へと向かった。その速度にイシルのティラントーは反応しきれない。 再びティラントーは吹き飛ばされ、装甲が大きく凹む。
8 21/01/07(木)12:47:29 No.762790349
「直撃しなければなんでもないっ、守りを固め反撃の瞬間を待て!!」 いくらティラントーが重装甲であろうと、いや、だからこそ鬼神の一撃はティラントーの下半身へ膨大な負荷を与えていた。 ティラントーに対応できない一撃離脱の前に瞬く間に中隊の殆どは一撃を受け、機動性をほとんど失っていた。 周囲のティラントーを足止めしたことに満足したのか、鬼神は上空からイシルのティラントーを見下ろし再び舞い降りた。 イシルは歌う。 イシルのティラントーは他の機体よりわずかに機敏に動き、銃装剣をメイスで受け止める。メイスがわずかに輝き、暴風を鬼神へ叩きつける。 一瞬、鬼神の動きが完全に停止した。 「全機、撃てぇえええええええっ!!!!!!!」
9 21/01/07(木)12:52:29 No.762791525
鬼神の装甲はボロボロになり、銃装剣も刃がかけている。驚異の防御力である。飛空船は辛うじて直撃を免れたようだが、次の一撃を与えれば間違いなく飛行できなくなる。 「鬼神の姿を模しただけの機体で勝てると思ったの? あるがままの鬼神をちゃんと再現せずに、あの時の結果を再現しようとしたのぉ?」 歌うようにイシルは語る。答えるようにティラントーは機敏に動き、再び鬼神にメイスを振り下ろす。
10 21/01/07(木)12:58:39 No.762792897
メイスが鬼神を打ち据えることはなかった。ティラントーの機動力には限界がある。そして相手がイシルのティラントーの能力を見誤ったことで辛うじて一撃を受け止めただけなのだ。 メイスをすり抜けて再び大空へと逃げる鬼神を相手に、ティラントーのメイスも背面武装もなんの役にも立たなかった。 ストラトフの残したものが無ければイシルは逆に討たれていただろう。 一つはストラトフの工房の地下より発見された術式を刻まれた特注のメイス。イシルの親友である女ドワーフが作ったそれは監査が入ったときに厳重に隠されていた。 もう一つは幻晶騎士の特定の動きを潤滑に動かす歌。 最後に、ありのままを受け入れという救いにして呪いの言葉。
11 21/01/07(木)13:17:28 No.762796289
ティラントーの夢女子初めて見た
12 21/01/07(木)13:39:02 No.762800097
何この…何?
13 21/01/07(木)13:47:36 No.762801599
>何この…何? ティラントー