虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    21/01/03(日)01:06:24 No.761451390

    ずっと、ずっと、夢の世界に生きていたのかもしれない。 四つ葉の結びは希望の証。海の水は涙の味。全部知っていたけど、見たことなんてなかった。だから、海の色だって知らなかった。 そんな空想が、キャンバスの上に浮いては弾けて、泡になって消えていく。そんな風に、私も消えていくのだろうと思っていた。あの日までは。 心の海が色づいた、あの日までは。

    1 21/01/03(日)01:06:57 No.761451509

    「…嘘や」 そう呟いた彼女の顏は、晴れ渡った春の空に似合わぬ不機嫌なものだった。 「ん、どうしたん?」 彼女が機嫌を損ねるのはそう珍しいことではない。それなりに長い付き合いになっているので、彼女のほうを向くのはずれていた眼鏡を直してからになった。 「夢に知ってる奴が出てくんのは、そいつのことが恋しいからやって、書いてあんの。この本、嘘ついとる」 誰が出てきたか言わなかったのは、最低限の理性が働いたということだろうか。最も、彼女がむきになってこんな話をするというだけで、誰が出てきたかは想像に難くないのだが。 繰り返すようだが、彼女と私はそれなりに長い付き合いである。それ故、誰のことを話しているのかを言わない配慮も、ある種暗黙の了解となっていた。

    2 21/01/03(日)01:07:19 No.761451586

    「でも、昔の人はそう思うとらんかったみたいよ。夢に誰かが出てくるのは、その人が夢を見た人のことをずっと考えてるからって、何かの本で見たなぁ」 そう言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。 「…仕方ないやつやな、ほんとに。アタイがおらんと、夢に出てくるくらい考えてるんか」 その理屈が正しいなら、あの人の夢にもジョゼちゃんが出てきてるのではなかろうか。そういうことを言わないのも、長い付き合いの賜物だろう。 彼女の顏が春の海のように移ろうのを、少しだけ楽しませてもらったのも、内緒の話だ。

    3 21/01/03(日)01:08:04 No.761451749

    心はまるで海のようだ。 青く澄み渡る日もあれば、灰色に曇る日もある。今日の私の空模様は、どうやら後者らしい。 何のことはない。仕事でミスをして、上司に苦言を呈された。そのお陰で帰りが遅くなって、今は雨に降られている。 キーボードを打つのは未だに慣れない。絵筆を持つ方がよほど大変だと同僚は言うが、私にとってはそちらの方が知らない世界だった。 当たり前に生きていくというのは、思っていたよりずっと苦しい。外に出てから何度も味わってきた筈なのに、つまづいたときの苦しみはいつまで経っても慣れなかった。

    4 21/01/03(日)01:08:26 No.761451841

    こういうときに限って、あいつの顔を思い出す。 「…出てくんな」 今頃、メキシコは夜だろうか。あいつの夢に、今の私が出てきていないだろうか。 こんな景色は見せたくない。あいつの海は、もっと綺麗な、晴れ渡った空の筈だから。 あいつの夢は、綺麗なままでいてほしい。 そうしたら、私も少しだけ頑張れるから。 今日の心の海は、やはり冬の灰色だった。 ああ、やっぱりかと思って、意識を閉ざす。せめてあいつの夢には、この景色が映りませんようにと願いながら。 夢の中にまで、出てこなくたっていいじゃないか。この海は息苦しくて、溺れそうになる。

    5 21/01/03(日)01:08:38 No.761451889

    必死にもがいた手を、誰かの手が掴んだ。その手を握り返そうとしたけれど、するりと逃げてゆく。掌にあたたかい何かを、そっと握らせて。 それを見て、自分が何をするべきか、わかった。 掌の色彩を、思う様塗り拡げる。 青の絵の具は海の色。 紅の絵の具は夕焼けの光。 橙色は、そして── 精一杯描いて辺りを見渡すと、灰色の雲は青い海に変わっていた。これならきっと相応しいだろう。けれどまだ、足りないものがある。描き加えようと絵の具を絞り出そうとするが、もう空っぽになってしまっていた。 落ちた絵の具を拾い上げる手は、きっと命が尽きるまで忘れられないだろう。私が捨てたものを拾えるのは、あいつしかいないだろうから。 あいつが触ったチューブが、泳ぎ出して魚になる。色とりどりの魚が、空想の海を泳ぎ出す。 「…遅いわ。どんだけ待たせん」 あいつと一緒に、その海に揺蕩う。 そんな幸せな夢を見て、私は目を覚ますのだ。

    6 21/01/03(日)01:09:07 No.761452018

    ドアの隙間から覗いた光が、ベッドの上をなぞっている。 自分以外の誰かが家にいる証拠だが、怖くはない。むしろ、此方が驚かせてやらなくては。 キッチンに立つ少しだけ大きくなった背中に、指を這わせた。 「…びっくりした。フライパンひっくり返したらどうすんだよ」 「そんなん、管理人が埋め合わせするに決まっとるやろ、なぁ」 一番欲しいものが、そこにあった。

    7 21/01/03(日)01:09:38 No.761452129

    彼と食卓を囲むのも、この前の休み以来だ。 「新しい絵本描こうと思ってるんよ」 「…どんな?」 こんな彼を見るのも随分と久しい。あくまで静かに、けれどはっきりと期待に満ちた声を聞くのも。 それを聞くと、私の口は嬉しくて回り出すのだ。 「…あのな、絵の具があってん。描いたものがそのまんま形になる、魔法の絵の具や。 それを使って、灰色の国のお姫さまが綺麗な花とか、森とかを描くんよ。でも、途中で絵の具がなくなってな──」 私の口は語り続ける。もう描けないと悲しむ姫を助けた王子が木を切って、二人の家を造るのを。もう行かなくてはと嘆く王子が、泣いて海へと帰るのを。愛を知った姫が最後に、彼の国まで繋がった、大きな海を描くのを。 そんな私の話を、彼は優しいと言ってくれた。すっかり機嫌をよくした私は、彼をつつき回して、海の向こうの話をせがんだ。 彼の海と、私の海。 それがいつか繋がることを願いながら。 でも、今は。 この部屋の中に、二人の想い出を詰め込もう。

    8 21/01/03(日)01:12:08 No.761452710

    ジョゼ見てきたので書いた 春休みにいちゃつく二人のアフターが見たいと思って書いたけど難しいね…本編でいっぱい描写されてるから足すものがない

    9 21/01/03(日)01:26:33 No.761455700

    ちょうどレイトショーで見てきたところだったから寝る前にいいものを見れて得した気分だ 地の文が作品の雰囲気に合っててとても素敵 2人には存分に幸せになってほしいよね…

    10 21/01/03(日)01:44:32 No.761459195

    しーっそのままで聞くんぬ… ジョゼは今お前にベタ惚れなんぬ…

    11 21/01/03(日)01:48:45 No.761459934

    アニメの二人は将来籍入れるんだろうなっていうのが想像に難くない

    12 21/01/03(日)02:55:44 No.761470582

    すき