虹裏img歴史資料館

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20/12/11(金)02:33:21 泥の深... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1607621601879.jpg 20/12/11(金)02:33:21 No.754019900

泥の深夜(真) https://seesaawiki.jp/kagemiya/ https://zawazawa.jp/kagemiya/

1 20/12/11(金)02:34:21 No.754020037

今日はなにもかきませんでした ざんげ

2 20/12/11(金)02:52:48 No.754021930

今から投げます

3 20/12/11(金)02:53:39 No.754022003

ドーゾ

4 20/12/11(金)02:55:42 No.754022221

ごめんあと300バイトくらい待って

5 20/12/11(金)02:59:22 No.754022577

時間じゃなくてバイト数で指定してくるのは初めて聞いた

6 20/12/11(金)03:02:47 No.754022885

「ようこそ。散らかっていて汚いところですが…」 ブリジットに案内されて扉を潜ったピオジアとくには同時に「わぁ…」と感嘆の溜息を漏らした。 そこは魔術師の工房というよりは芸術家のアトリエだった。 木や石の彫刻がずらりと居並ぶ。完成しているものもあれば作りかけのものもあった。 そんな作業スペースを見渡せるところに生活のための空間が申し訳程度にくっついていた。 「あまり魔術師の工房はみだりに他人が踏み込めるところではないのですけれどね。  ここはあくまでこちらで暮らす上での仮の工房なので、まあ固いことは言わないでおきます」 その生活スペースへと真っすぐ進んでいってブリジットが棚からコップを見繕う。 ぱちん、と指を鳴らしてなんでも無いことのように調理用の暖炉の薪へ魔術で火を灯すのが二人の目には格好良く映った。 「あのっ!こっちで先生の作品を見ていてもいいですかっ」 「わ、わたしも…いいですか」 「え?ああ構いませんよ。ただし触れないでくださいね」 薬缶で水を沸かし始めたブリジットが振り向いて言う。 許可も出たのでピオジアとくには作業用のスペースで精巧に作られた彫刻たちに目を通すことにした。

7 20/12/11(金)03:02:59 No.754022896

ブリジットはふたりにとっての最初の教師、ということになる。 時計塔ではあり得ない、魔術師の世界のいろはを知らない生徒へ魔術師の基礎知識を教え込む。 あるいはもう一段階進んだ立場の生徒への基礎的な範疇に留まる応用の伝授。 それがこの綺羅星の園におけるブリジットという講師の役目だ。 全体から見れば凄まじく地味な立場だが、少なくともピオジアとくににとっては今は偉大な先生だった。 たまたま話の流れでその先生の趣味である料理をご馳走になる、というのがこの訪問の趣旨である。 満遍なく作品群を見回していたくにはピオジアがいつの間にか側にいないことに気がついた。 「あれ?ピオジアさん…」 3つ歳上だが"お姉様"ではないピオジアを探してくには振り返った。 そこにはひとつの作品に目が釘付けになっているピオジアの背中があった。 「どうしたんですか?ピオジアさん」 「いや…くにちゃんはこれを見て何も感じない?私には目が離せないっていうか…凄く惹かれるというか…」 魅入られているピオジアに倣いその彫刻を見つめた。 美女の上半身の彫刻だ。布や髪を石で表現しているのは凄いとは思うが、それ以上のことは感じなかった。

8 20/12/11(金)03:03:10 No.754022917

「それはギリシャ神話における女神アルテミスを象った彫刻です。  それが余程気になるというのはピオジアさんは森に縁が深いのかもしれませんね」 投げかけられた言葉にふたりがそちらを向く。お湯を沸かしていたブリジットが近づいてきていた。 自分の工房にいるためか、教壇に立っている時より少しだけ自信のようなものがあった。 「この彫刻もまた魔術なんです。そう見えるよう計算して作ってある。  魔術師にとっての美とは突き詰めれば"見たものを美しくする"ということなんです」 「見たものを…」 「美しくする、ですか?」 「あなたたちにはまだ少し早い内容ですね。専門分野、それも創造科の存在意義のような領域ですから。  そうですね。素晴らしい絶景を見ると心が洗われる、という市井においてもよくある話は理解できますか?」 ふたりは戸惑いつつも軽く頷いた。 例えば彼方まで続く霊峰。例えば巨大な滝の凄まじい大瀑布。人工的なものなら高い塔からの景色。 11歳と14歳。それぞれ過ごしてきた環境の違いはあれど、ある程度の意識共有は可能な範疇だ。 自分の得意分野であることから普段よりも講師らしい顔つきでブリジットは話を続けた。

9 20/12/11(金)03:03:29 No.754022945

「美術とは鑑賞した者の魂を洗練させるもの。魔術師は美をそう捉えます。  であれば窮極の美さえあれば見たものの魂を高次元へ引き上げることも可能かもしれない。  そう考え、見た者の心を揺さぶるような作品作りに精を出すのが私たち美術に携わる魔術師の一生なのです」 ピオジアとくには分かったような分からないような顔で頷いた。 だって、それはあまりに気の遠くなるような話だったからだ。 あるかどうかも知れないところへ砂粒をひとつひとつ積み上げて目指す旅路だ。それだけに奇妙な感動さえあった。 ふたりの感慨を知ってか知らずか、ブリジットがふと真剣な顔をした。 「…しかし、この彫刻は恥ずかしい話ですが習作のひとつなのです。  なのにそこまで惹き付けられるというのは…ピオジアさんは相当強い感応力を持っているかもしれませんね。  ………やれやれ。前もってこういう生徒のことは言っておいて欲しいなぁ………」 「え?」 「いいえなんでも。ともかくピオジアさんに関しては今後授業内容に追加講習があるかもしれません。  是非覚えておいてくださいね」 はぁ、とピオジアが生返事をしたタイミングで薬缶が五月蝿くわめき出した。

10 20/12/11(金)03:03:40 No.754022960

いつもの気弱で頼りなさげな調子に戻りあたふたと薬缶の面倒を見に戻るブリジット。 その頼りない背中を見送りながらピオジアはくにへと問いかけた。 「ねえくにちゃん。今の話、どう思った?」 「どうって、その…。…あんまり良くない感想かもしれませんけど。  ブリジット先生が本当にちゃんとした魔術師の先生なんだなぁ、って思いました」 「だよねぇ。私もそう思ったよ。いつもぽやぽやしてるもんね」 あんまりに失礼な印象を述べるふたりの鼻先をやけにいい香りがくすぐった。 芳醇なデミグラスソースの香りだ。視線は生活スペースにある竈へと集中した。 「ああ、そうそう。今日はビーフシチューなんです。よろしければデザートまでお付き合いくださいね」 いつも通りのブリジットのふにゃふにゃした笑顔へ心半分に頷きながら、ふたりはごくりと唾を嚥下した。 結果から述べれば、夕食前のハーブティーの時点で既に美味であり、前菜のサラダ、香ばしいパン、皿になみなみと盛られたシチュー、最後に出てきたアイスクリーム。 その全てが食堂を切り盛りするスィーリーンとがっぷり四つで組み合うような美味しさであり、ふたりは大変に満足したのだった。

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