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    20/12/08(火)23:36:30 No.753402695

    泥の更新 https://seesaawiki.jp/kagemiya/ https://zawazawa.jp/kagemiya/

    1 20/12/08(火)23:38:35 No.753403316

    ふう、と雨萱は一息ついて額の汗を拭った。 視界にはフィンランドの勇壮なる大自然が見渡す限りに広がっていた。耳にはぶんぶんと羽ばたくミツバチの羽音。 森の中や野山にいくつも設置したミツバチの巣箱を管理するのは一苦労だ。それだけに感慨もある。 19歳になった雨萱の側でミツバチたちは元気よく蜜集めのために野原へ飛んでいった。 「今年はどこまでのことが出来るでしょうね」 呟いた独り言には確かな満足と手応えが含まれていた。 ───雨萱が綺羅星の園を去って3年の年月が流れていた。 時計塔に赴いた雨萱を待っていたのは予想だにしない運命だった。 当初は動物科で堅実に学ぶ予定だったのが、髪が長くて目付きが悪いとっても偉い人に捕まってこう言われたのだ。 『ミス雨萱。君は何故自分に向いていない魔術を無理に修めているのだね。  君の家柄の魔術特性を鑑みれば君の姉が専攻する支配魔術や変身術ではなく薬学を是非学び給え』 それは雨萱の魔術師としての人生を決定づける勧めだった。 半信半疑でそちらに舵を切ったところ、突然雨萱も知らなかった自分の才能が開花した。 綺羅星の園で学んだ魔女術は何一つ無駄になっていなかった。

    2 20/12/08(火)23:38:49 No.753403392

    以来、ミツバチに縁の深い神話系統を持つフィンランドと時計塔を往復する日々を過ごしている。 雨萱が李家の刻んできた魔術に囚われず作った蜂蜜酒は独特の効能を持っており、父母や姉からは驚きを以て讃えられた。 歩んできた道にはきちんと価値があった。私は"李雨萱"という魔術師になれる。 その確信を持ったあの日ほど感動で涙した日は無い。 あの時培われた自信と共に心地よい疲労感に包まれながら雨萱は山道を下っていった。 このようにふとした間隙の時間が出来ると思い出されるのはいつもくにのことだ。 自分に恋慕の情を懐き、涙と共に私を見送った彼女とは3年の間ずっと手紙の交換が続いていた。 綴られている内容は大抵雨萱があの園で経験したような変わらぬ日常であり、そして稀に劇的なことであったりした。 あれから綺羅星の園ではいろいろあったらしい。存亡の危機に関わるような大事件が起き、魔女がひとり誕生したとか。 そんな変化の中をくにが逞しく過ごしたというのは文面から伝わってきた。 だが、雨萱の胸中ではそんなくにの姿と自分の中のイメージが一致しない。 雨萱にとってくにはいつまでもあの日のまだ幼い少女の姿のままだった。

    3 20/12/08(火)23:38:59 No.753403447

    その少女が去り際にあらん限りの勇気を振り絞って私に想いを伝えてくれた。 いろいろなことを思い出し、そのひとつひとつを再確認した。だとするなら、くにはどんな思いでいたのだろう、と。 くにと直接出会うことの無い日々が逆に雨萱の心の中でくにの存在感を増させていた。 手紙に曰く、近々くには綺羅星の園を出て私に会いに来るのだという。 私はそれをどのように迎えるべきなのだろう。彼女になんと言えばいいのだろう。 いくら考えても答えは出ること無く、雨萱は日々の忙しさの中でその疑問を持て余していた。 ───と。 「あら…?」 山道を下る雨萱の視界、その遠くに小さな点があった。 道の中途にあったその点は同じタイミングで雨萱に気付いたのか、急にスピードを速めてこちらに近寄ってくる。 人だった。ミツバチを管理している都合、現地に雨萱の協力者はそれなりにいる。 だが走ってくるほど雨萱に対する急な用が彼らにあるとは思えなかった。だから雨萱にはある予感があった。 人影が近づいてくる。本当に速い。どんどん視界の中で姿が大きくなって、大きくなって、大きくなって───。 「───え?」 ───変だ。大きくなり過ぎでは?

    4 20/12/08(火)23:39:10 No.753403503

    「ユィお姉様っ!」 「きゃ…っ!?」 向かってくるなり雨萱に真正面から抱きついた人影の腕は、その勢いに負けて倒れそうになった雨萱をがっちりと支えていた。 黒髪の長い女性だった。雨萱と同じくらいの背丈、いや少しだけ高いか。 女性は雨萱を抱きとめたまま満面の喜色を表情に湛えて間近から顔を覗き込んでいた。 その顔つきは精悍で、男女を問わず見つめられればどきりとしてしまうような溌剌さを放っていた。 「ユィお姉様!やっと…お会いできました!」 「え、まさか、くにさん…?」 「はい!私です!普済くにです!」 気付いてもらえたことが心底嬉しいとばかりに、にっこりとくにが笑う。 雨萱は激しい混乱の中にあった。これまでの想像の中のくにと、今目の前に立っているくにの像が結びつかない。 雨萱の知るくには自信なさげで俯きがちで、どちらかといえばあまり元気のない少女だった。 少なくとも目の前の快活とした女性とは似つかない。15歳のくには雨萱がびっくりしてしまうほど───。 明るくて鮮やかで美しくて、誰もが魅了されてしまうような格好良さに満ちていた。 東雲色の瞳に真っ向から見つめられ、どきんと雨萱の胸が高鳴った。

    5 20/12/08(火)23:39:23 No.753403570

    妙だ。鼓動が早くなっていく。痺れたようにくにの腕に支えられた身体が動かない。 うっとりと雨萱の顔を見つめていたくにはやがて柔らかく微笑んだ。 「ああ…3年ぶりにお会いできて実感しました。やっぱり気持ちは変わりません。  私は今でもユィお姉様のことを愛しています。あなたに恋しているんです」 「あ、愛し…っ!?」 自分の顔に血が昇って赤く染まっていくのが鏡を見なくても雨萱には分かった。 生まれて始めての感覚に戸惑ってしまう。急速にくに以外の世界の全てが視界から遠ざかっていく。 想像と実像の間で線が結べず戸惑う雨萱の心の中を、物凄い勢いでくにが占領していっていた。 ぱくぱくと言葉を発せず開閉する雨萱の唇へくにの人差し指が触れて動きを止めさせた。 嫣然と一笑したくにが息を感じられるほどの近さで囁いた。 「大丈夫です、今すぐお返事はいりません。今度は私があなたを惚れさせてみせますから」 「…っ…!?」 「3年待ちました。もう逃しません。あなたを私のものにするまでは」 そう言ってくには雨萱を再び強く抱き締めた。 フィンランドの山中にあって、それは雨萱にとって何度めかの運命の出会い、いや再会だった。

    6 20/12/08(火)23:39:44 No.753403668

    まとめ su4415328.txt

    7 20/12/08(火)23:40:18 No.753403840

    >当初は動物科で堅実に学ぶ予定だったのが、髪が長くて目付きが悪いとっても偉い人に捕まってこう言われたのだ。 まーた女の子口説いてるよ… その内刺されるぞ

    8 20/12/08(火)23:41:49 No.753404347

    結構重要な情報も書いてある

    9 20/12/09(水)00:01:40 No.753410575

    > 私は今でもユィお姉様のことを愛しています。あなたに恋しているんです」 >「大丈夫です、今すぐお返事はいりません。今度は私があなたを惚れさせてみせますから」 >「3年待ちました。もう逃しません。あなたを私のものにするまでは」 これは完全に悪い子

    10 20/12/09(水)00:03:27 No.753411054

    くにちゃんイケメンになっちゃって…

    11 20/12/09(水)00:09:44 No.753412814

    >あれから綺羅星の園ではいろいろあったらしい。存亡の危機に関わるような大事件が起き、魔女がひとり誕生したとか。 !?