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20/12/08(火)22:34:55 泥のTRP... のスレッド詳細

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20/12/08(火)22:34:55 No.753381203

泥のTRPG https://seesaawiki.jp/kagemiya/ https://zawazawa.jp/kagemiya/

1 20/12/08(火)22:38:38 No.753382613

塾長がちょっと挨拶するだけの簡易な終業式を終えてふたりは寮の301号室へやってきていた。 つい先日までいかにも貴人の住まいという様相だった雨萱の部屋は今やがらんどうになっていた。 「すっかり片付いちゃいましたね」 「そうですね。手伝っていただきありがとうございました」 雨萱がぺこりと一礼するのでくには恐縮してしまった。 片付けたくて片付けたわけではない。この部屋を片付けるというのは雨萱が去るのを肯定する作業だ。 ただそれは物と一緒にくにの心もある程度整理してくれた。 明日ここを雨萱が出ていったら二度と帰ってこないということも、もう覆らないことなのだと実感出来た。 この空っぽの部屋のように胸にぽっかりと空いた穴は鈍い痛みをずっと発していて、くにを催促している。 明日は雨萱の親族が雨萱を迎えに来るという。気持ちを伝えるなら今しか無い、と。 …結局あの夜以降くには雨萱の部屋へ1週間の外出禁止が終わっても引き続き泊まり込んだ。 いつの間にかベッドは2つ用意されていて(それをくには残念に思ったが)今まで以上にいろんな話をした。 2週間と少しほど。くには雨萱と寝食を共にした。甘い夢を見ている気がした。

2 20/12/08(火)22:38:50 No.753382684

共同生活は気持ちを諦めさせるどころか、ますます恋慕の思いを強くさせた。 日常の中でさり気なく現れる、くにが知らなかった雨萱の一面は何度も惚れるのに十分な威力を持っていた。 これが人を好きになるということなんだと12歳にしてくには理解した。 「…あ、あのっ!ユィお姉様っ!」 だから、言わなきゃ。伝えなきゃ。 雨萱がわたしのことをこれっぽっちもそういう目では見ていないのは分かっているけれど。 それでもこの気持ちは伝えておかなきゃ、雨萱がいなくなった後にわたしはどうにかなってしまう。 くには誇張抜きでこれまでの人生最大の勇気を振り絞った。 ただ雨萱に呼びかけるだけで全ての体力を使い果たした気がした。 この2週間、伝えようとして伝えられなかったことを今ここで。 「はい。何でしょう、くにさん」 人へ雑に応じるということをしない雨萱はくにに対しても最初から最後まで折り目正しく接してくれた。 ちっぽけなくにをひとつの人格として認め、こうしてわざわざ向き直った上で返事をしてくれる。 その佇まいの麗しさこそ最も強くくにの心を惹き付けたものだった。 なんて綺麗な人なんだろう、と改めてくには激しく感動した。

3 20/12/08(火)22:39:03 No.753382768

「わ、わたしっ!ユィお姉様は気持ち悪いって思うかもしれないけど…。  迷惑だなぁって思うかもしれないけど…」 嘘だ。絶対にそんなことあり得ない。この心の美しい人は真剣に受け止めてくれる。 そんなことは分かっていたから、前置きをするのはわたしの心が意気地なしなだけだ。 「…わたしのこと、嫌いになるかもしれないけど…」 わたしはこの人に気持ちを伝えて、きちんとお別れをするんだ。 言え。言うんだ。普済くに。 「…あなたのことが好き、ですっ!恋してるって意味で、好きなんです…!」 ───とうとう言ってしまった。 顔を真っ赤にしながらも、涙の雫がぷくりと目の端で膨れても、俯かずに雨萱の目を見て言えた。 それだけでくににとっては奇跡のような行いだった。そんなことが出来る人間だなんて思ってもみなかった。 すぐに意味を飲み込めなかったのか、雨萱は一瞬きょとんとするも、すぐにはっと何かに気付いた顔をした。 とても重大な告白を受けているということを察したようだった。 「…すみません、即座に返答するべきなのでしょうが、少しだけ待ってください」 そう言って雨萱は今まで見たことないような真剣な顔で考え出した。

4 20/12/08(火)22:39:13 No.753382846

くには一生懸命思考する雨萱の前で目を腫らしながら理解していた。 伝えた気持ちは受け入れられない。雨萱にはくにに対してそんな気持ちは存在しない。 それでもどう答えるべきなのか最善を尽くし必死で考えてくれている。くににはそれが有り難かった。 「…申し訳ありませんくにさん。そこまで想ってくださるのは嬉しく思います。  ただ、そう、くにさんを傷つけるとしてもはっきり申し上げるべきなのでしょう。  今のわたしの中にくにさんの想いと通じる気持ちが無いのです。  ここであなたの想いに応えたとしてもそれは欺瞞となりあなたを余計に傷つける。  だから…あなたのお気持ちを私はお受けすることが出来ません」 そう言って雨萱はぺこりと頭を下げた。不思議とくにの胸中は静かだった。 幼心の勘違いだとせず真面目に向き合ってくれた。これできっと諦められる。これで…。 「…ですので、くにさんがよろしければ文通から始めませんか。ロンドンからお手紙を必ず送ります。  こうしたことは私も初めてで、それでいいのかはよく分からないのですが…」 そう言って雨萱は微笑んだ。 ───何でそういうことを言ってしまうんだろう。この人は。

5 20/12/08(火)22:39:24 No.753382930

とうとうくにの涙腺が決壊した。ぽろぽろと涙が頬を伝う。 辿々しい足取りで雨萱へと近寄り、思わず正面から抱き締めた。 くにの大好きな雨萱の香りがした。夏の夜明けに吹く風のような清涼感がある、甘い匂い。 「書きます…わたしも書きますから…!いっぱい書きますから…!  う、うう…でもやっぱり行っちゃやだ…行っちゃやだよ、ユィお姉様…!」 「すみません、くにさん。…ずっと私によくしてくださって、ありがとうございました」 雨萱がくにの背中に手を回して包み込むように抱き締め返してくれた。 優しく背中を擦られるがままに、くにはずっと雨萱の胸の内で泣きじゃくっていた。 …そうして次の日、雨萱が綺羅星の園を去っていくと同時にくにの夏季休暇が始まった。 親元に帰らないくにはまず売店で一等高い便箋を買ってきて、寮の自室の机に広げた。 雨萱の最初の手紙はいつ来るのだろう。どんなことが書かれているのだろう。 心の底から待ち遠しい。気が逸って、くにはまだ手紙も届いていないのに便箋の一行目をもう綴ってしまった。 『大好きなユィお姉様へ』 12歳になったくにはそうして苦い失恋の味と共に、ほんの少しだけ、大人になった。

6 20/12/08(火)22:39:42 No.753383063

次スレでエピローグ

7 20/12/08(火)22:41:12 No.753383644

すぐに見せてくれよぉ…!

8 20/12/08(火)22:46:59 No.753386313

おつおつ いやあ美しい失恋だなぁ

9 20/12/08(火)23:06:27 No.753393192

いい…

10 20/12/08(火)23:09:38 No.753394256

塩が復活した… でももうすぐ死ぬのか

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