20/12/01(火)23:03:08 ブラッ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1606831388471.png 20/12/01(火)23:03:08 No.751320058
ブラッシータウンは現在午後10時。 駅の大きさだけは立派な田舎街の灯りは、ひとつ、またひとつと消え始めている。 改札に定期券をかざし閑散としたエントランスに出ると、出入り口から入り込む冷たい空気に疲れた身体が震えた。 来週には雪が降るらしい。子供の頃なら指折り数えて待っていたのだろうが、この歳になると雪なんて邪魔なだけだ。 ……そういえば昔、雪を食べてお母さんに叱られた事があったな。 大して美味しくもないだろうに、子供の頃の私はお腹を壊すくらい夢中になって食べていた。 思い返してみると、大人になってからは何かを夢中で食べた事なんてなかったかもしれない。 吐いた息が白くなって消える。それはまるで時間は巻き戻らない事を忠告されているようで、少し心が痛くなった。 「大人として過ごす時間の方が長いだなんて、人生は意地悪だ…」 そんな事を呟きながら、駐輪場に留めた自転車にカギを差し込もうとして、ふと気が付く。 ───あぁ、そうか。私、今日は何も食べていないんだった。 「お腹、すいたな……」
1 20/12/01(火)23:03:42 No.751320243
自転車に乗って、私は夜の街を走る。 時刻はまだ午後10時。夜ご飯には遅いけれど、辛うじて飲食店は開いている。 さあ、何を食べようか。ゆっくりと、道端を物色しながらペダルを漕ぐ。 どうせなら、初めて入る店がいい。毎日が冒険だったあの頃みたいに、自分の世界を広げてみたい。 「むっ……」 目に留まったのは、ガラス張りの入り口がある小さなお店。『お好み焼き』と一文字ずつ区切られた小さなのれんが掛けらている。 店内にテーブルはなく、大きな一枚の鉄板を囲んだカウンターと、簡素な丸椅子が置かれている。 「そういえば、こういう物をお店で食べた事はなかったな…」 邪魔にならないよう、道の端に自転車を止める。崩れた前髪を整えてから、私はガラス戸を横に引いた。
2 20/12/01(火)23:04:51 No.751320645
いらっしゃいませ、とラフな格好をした店員が挨拶をし、好きな席に座るように促す。 店内はとても暖かく、生地の焼ける香りが食欲をそそった。 じゅうじゅうと音を立てて焼かれる他人の注文品を横目に、カウンターの隅に座ってメニューを眺める。 (……そば、またはうどん…?) 全てのメニューに、見慣れない具が記載されている。たしか、ホウエン辺りのお好み焼きには麺が入るんだっけ…? 困ったな、経験がないからどっちがいいのかわからない… 店内を見回すと、どうやらそばで注文している人が多いようだ。 (あれ…?あの人、具だけ食べてる…) お好み焼きの横に、エビやイカといった具材がそのまま焼かれている。メニューの裏を見ると、【鉄板焼き】と書かれた欄を見つけた。 なるほど…お好み焼き以外にも色々楽しめそうだ。 しばらくして水の入ったグラスを持ってきてくれた店員に、そのまま注文を伝える。 「えっと…イカ玉をそばで1つと、ホタテの香草バター焼き…それと……」 どうしよう。いくら朝昼抜きとはいえ、これを頼んでもいいものだろうか。 「…生ビールをください。」 いいのだ。私が許す。自転車は押して歩けばいい。もう今日は飲む。
3 20/12/01(火)23:05:15 No.751320754
しばらくしてビールが、そしてビールを二口飲んだ頃にホタテがやってきた。 バターを絡めて鉄板で焼いたあつあつのホタテは、予想通りの、そして期待通りの美味しさだった。 ギラリと光る表面のバターは脂っこくはなく、散らされた香草と混ざってむしろ爽やか。 けれど決して物足りないというわけではなく、むしろ噛めば噛むほど旨味が増す。濃い味付けに甘えず、ホタテもきっと上等な物を使っているのだろう。 その口の中の美味しさが消えないうちに、キンキンに冷えたビールを流し込む。 「~~~!!!」 ああ、ここが店の中じゃなければ小躍りするのに。そんな風に思えるくらい、脳が喜んでいるのを感じる。 少し前まで昔に戻りたいだなんて考えていたのが嘘みたいに充実している。どうだ子供の頃の私。これが大人だぞ。
4 20/12/01(火)23:05:45 No.751320896
……あそこで焼かれているの、絶対私のだな……ほらきた。 3杯目のビールが運ばれてきた直後。鉄板の上を滑るようにして、私の前に焼きたてのお好み焼きが提供された。 えっとまず、コテで一口サイズに切って…現地の人はコテでそのまま食べるらしいけれど、火傷したりはしないのだろうか? 「あっっ…あっふ…!!」 箸で食べたのに火傷した。少しでも熱さを和らげようと、口の中の空気を必死に入れ替える。 呼吸をする度に柔らかい生地からふわりと香る出汁と濃厚なソースの匂いが鼻腔を抜けていく。 しばらくして口の中が熱さに慣れたら、ようやく食感と味を楽しむ番だ。 一口噛むごとに、シャキッとしたキャベツとパリパリの蕎麦がふんわりたした生地の中で主張してくる。 そして満を辞して登場するのがイカだ。主役は遅れてくるとはよく言った物で、その存在はまさにお好み焼きの要。 香ばしいイカの風味と柔らかさを堪能したら、口内の熱さをかき消すように、冷たいビールを流し込む。 ───ああ、きっとこれで、明日も頑張れる。
5 20/12/01(火)23:06:03 No.751320975
「ごちそうさまでした」 湯気の向こうに見える店員に軽く頭を下げて、私はガラス戸を横に引いた。 表に出ると、冷えた空気が火照った身体を包み込んで気持ちがいい。 うぅーん、と軽く背筋を伸ばすと、黒く透き通った空に星が見えた。 ───たまにはこうして、大人の寄り道をするのも悪くないものだ。 吐いた息が、白くなって消える。それはまるで楽しい時間が終わった事を伝えているようだったけれど。 「もう少し、もう少しだけ…楽しい大人に浸らせて。」 ガラス戸から漏れる暖かい光を背に、私は自転車を引きながら、背筋を伸ばして歩き始めた。 おわり
6 20/12/01(火)23:07:37 No.751321426
孤独のグルメ来たな…
7 20/12/01(火)23:07:39 No.751321439
OLウリの疲れた姿が増えていく…
8 20/12/01(火)23:10:56 No.751322441
> 少し前まで昔に戻りたいだなんて考えていたのが嘘みたいに充実している。どうだ子供の頃の私。これが大人だぞ。 この独白好き
9 20/12/01(火)23:12:35 No.751323009
疲れてるけどなんだかんだで充実してる
10 20/12/01(火)23:14:42 No.751323707
お腹すいたんだが?
11 20/12/01(火)23:20:34 No.751325610
ポケモン要素ねぇな!
12 20/12/01(火)23:22:23 No.751326176
ハロンタウン周辺は見覚えのある料理を出す店が多いな…
13 20/12/01(火)23:42:43 No.751333052
ハロンは海も近いしこういう居酒屋も…居酒屋?