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20/11/02(月)00:09:05 No.742455352
あの夏を越えて、秋も越えて、至った季節。 そんな季節も、もう半ば。そんな頃。 「はろろ~ん、圭ちゃん!」 詩音が、突拍子も無く襲来した。 まだ朝6時だぞ?アポ無しにいきなりチャイム連打とか何考えてんだこいつは。気狂いか。 「今とんでもなく失礼な事考えませんでした?」 「考えてねぇって……どうしたよ、こんな朝っぱらから」 冬の朝。空気は、肌を突き刺すように冷たい。 つまり。寝間着で玄関に向かった俺へ、開けている扉の外から吹く何の容赦も無い寒さ。 さっさと用件を聞いて、さっさと閉じよう。そうしよう。 「え~?一体なんだと思います~?当ててみてくださいよー」 こ、こいつ……。
1 20/11/02(月)00:09:41 No.742455582
身体を震わせる俺に気付いていないのか。詩音はニコニコ笑って俺の返事を待っている。 「ヒントは~……今日!」 歯をガチガチと噛み合せながら、どうにか問題に頭を使う。 「今日は確か……さぶっ……2月の……うぅ……」 ……無理!寒い!無理!凍死しちまう! そもそもこんな状況で何を考えろってんだよ!?何のデスゲームやらされてんだ俺は! 自分を抱きしめるように、両腕で震える身体を押さえるが、やはり詩音は気付いていない。 「……ぶっぶー!時間切れですよ、圭ちゃん!」 「は、はいぃ……」 「ほんっと圭ちゃんは鈍感ですね!ニブチンにもほどがあるんじゃないですか!?」 お、お前……目の前に居る人間の状態に気づかないのに、言えた言葉かそれは……。 やはり詩音はニコニコしている。俺の恨みが篭った視線にも気付かない。
2 20/11/02(月)00:10:03 No.742455720
「ですが!今日はそんなどうしようもない圭ちゃんに、プレゼントがあるんです!はい!」 唐突に、詩音が何かを差し出した。 ハート型のそれを受け取って、マジマジと見つめてみる。 蝶結びに結ばれたリボンに、手触りの良い包装紙。 どうも力が入っている。とても可愛らしい、その形状に相応しい包装。 ……そしてうっすらと漂う甘い匂いでようやく、今日が何の日なのかを思い出した。 「もしかして……バレンタインか?」 「当たりです!」 なるほど。そういや、今日は2月14日。 女子が男子にチョコを送る日だった。 「そっか……へへっ、ありがとな!」 まぁ、俺も所詮男子の一人。女の子からチョコを貰えて嬉しくならないわけも無く。 我ながら単純に、笑ってお礼を返してしまった。
3 20/11/02(月)00:10:30 No.742455883
俺の言葉を受けて、詩音はケラケラと笑う。 「圭ちゃんの事だから貰えないなんて事無いでしょうけど、万が一があったら可哀想ですし!」 「それにお姉とかちゃんと作れてるか怪しいですから!今日学校行ったら大変ですよほんと!」 「あーあ!私ってなんて健気で寛大なんでしょうね!ねっ?圭ちゃん!」 ……言いたい事は色々あるが、まぁこのチョコに免じて黙っておいてやろう。 それにしても。チョコの甘い匂いが、起きたてな俺の胃袋を妙に刺激する。 「なぁ、詩音。これ今食べていいか?」 「……はい?」 聞いてみると、固まる詩音。が、答えを聞く前に包装を解いていく。 優しく、なるべく紙を破かないように。 そして現れたのは。凹凸なんて歪みは無い、見目麗しい甘美の化身。 包装越しにすら漂っていた魔性の色香が、俺を、俺の胃袋を襲う。 もう、我慢できない。 「美味そうだな!いっただきます!」 「えっあっちょっ」
4 20/11/02(月)00:11:00 No.742456055
脳と胃袋が出す命令に逆らう事無く、ハートのチョコに被りついた。 パキッと小気味良い音共に、一部が俺の口の中に消えていく。 「むぐむぐ……」 「……」 何時の間にか、あれだけ騒がしかった筈の詩音が黙っている。 俺がチョコを食べている様を、じっと見つめていた。祈っているみたいに、両手を握り締めたりなんかして。 なんだ?感想でも求めているのか? 正直、食欲に任せてさっさと全部食べてしまいたいのだが。落ち着かないし、仕方ないか。 「……詩音」 伝えるために名を呼ぶと、跳ねる肩。 何度も目線を逸らす詩音を、真正面から見つめて。全力に笑ってやる。 「すっげぇ美味い!ありがとな!」
5 20/11/02(月)00:11:19 No.742456145
「あ……」 俺の言葉を聞いて、詩音は胸に手を置いてホッと一息。 もう十分だろう。我、食事任務、続行。 「よかった……時間かけて、本当によかった……」 バリバリモグモグとチョコを貪っていると、詩音の独り言が耳に届いた。 ふと、詩音の顔を盗み見る。 なんだか、疲れているような。いつも快活な詩音らしくない調子だ。 ……というか。よく見たら、クマが出来ている。 「……詩音。お前もしかして、寝てないのか?」 「ッ!?は、はぁ!?」 軽い気持ちで問いかけてみたが、どうやら正解だった様子。 慌てふためく詩音は、両腕を振ってあーだこーだ。まるで、魅音みたいだ。
6 20/11/02(月)00:11:39 No.742456265
「そ、そんな事!」 「違うのか?」 「あ、ああ、あったりまえじゃないですか!」 「ほーん」 「圭ちゃんに渡すから納得行くまで試行錯誤重ねてたら何時の間にか朝になってたなんて、そんな!……あっ」 ちょうど、俺がチョコを食べ終わったのと同時に、捲くし立てる詩音が静かになった。 ……うん。盛大に、自爆したな。 もう目も当てられないくらいに、真っ赤な顔の詩音。言葉が出ないのか、口をパクパクさせている。 かける言葉が見つからない。というか、かけない方が有情か。 それにしても、なるほど。さっきから妙にテンションが高かったのは、徹夜明けだからだったのか。 なるほど、なるほど。へぇ、そうなのか。ふーん。 「詩音」 「……な、なんです?」 「そんだけ俺の事考えてくれてたんだな。めちゃくちゃ嬉しいよ」 圧倒的に有利な状況から繰り出す、笑顔と言葉で、詩音を穿つ。
7 20/11/02(月)00:12:19 No.742456486
ボムッ!! そんな音が聞こえそうなくらいに、詩音の顔が紅潮した。 「な、は、はぇ」 詩音が狼狽するのは、とても珍しい。そんなモノを見てしまったら、もっとさせてみたくなるモノで。 「ごちそーさん!詩音がかけてくれた時間の事考えたら、今全部食べちまったのちょっと勿体無かったな!」 「~~ッ!?」 語る言葉は、あくまで、感謝。あくまで、善意。 されど!それらが純粋なナイフとなって、詩音に突き刺さるッ!! 「……ら」 「ら?」 「らら、来月ぅ!百倍返し、ですからねぇーーー!?」 叫びながら、詩音は寒空の下を走って行ってしまった。 ……ちょっといじめすぎたかもな。だがまぁ、ダメージで言うなら俺も、その、なんだ。 初めはどうしようもなく寒かった冬の風。だけど、今なら。 開いている扉から入る風が、熱い顔を冷ますから。これに見合うお返しを考えるのには、ちょうどよかった。
8 20/11/02(月)00:12:33 [s] No.742456583
おしまいなのです
9 20/11/02(月)00:13:02 No.742456719
身構えてたがそんな必要はなかった 素晴らしい圭詩だった
10 20/11/02(月)00:14:58 No.742457414
圭ちゃんの無神経さがプラスに働いた回
11 20/11/02(月)00:17:41 No.742458305
かわいい…
12 20/11/02(月)00:18:04 No.742458451
圭ちゃんは揶揄えるチャンスがきたらどんな歯の浮くようなセリフでも言えるからな
13 20/11/02(月)00:19:42 No.742458971
>圭ちゃんは揶揄えるチャンスがきたらどんな歯の浮くようなセリフでも言えるからな …レナの、匂いがしたから。を言えるのは凄すぎる
14 20/11/02(月)00:21:10 No.742459510
やっぱり圭詩なんですよね わかっちゃいます
15 20/11/02(月)00:24:46 No.742460803
部屋に戻ったらいるんだろ?裸にリボンの女の子が
16 20/11/02(月)00:25:19 No.742460986
一番乗りやっちゃうとは相当愛があるなこれは!
17 20/11/02(月)00:30:52 No.742462716
圭詩いい…
18 20/11/02(月)00:31:28 No.742462900
ひゅーひゅーなのです
19 20/11/02(月)00:31:56 No.742463054
行動力の化身すぎる
20 20/11/02(月)00:40:07 No.742465648
詩音は行動力あるし 魅音の恋のためとか言いつつ圭一に言い寄れるのが強いと思う
21 20/11/02(月)00:51:10 No.742469079
火照ってたと見るに圭ちゃんも照れてるな!
22 20/11/02(月)00:53:47 No.742469860
大丈夫? おじさんが照れたあまり入れ替わってるやつじゃない?
23 20/11/02(月)01:08:35 No.742474378
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