ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
20/10/30(金)23:28:46 No.741748607
陽の当たる縁側に座っている人物は、歳相応の姿で少し笑ってしまった。 その隣へ歩み寄り、共に外を見つめながら口を開く。 「良い天気ですね」 「……」 返事は返ってこないが、そんな事はどうでもいいんだ。 青空が広がる外。優しい風が吹き、子供の遊び声が何処からか聞こえる。 「本当に良い天気だ……こんな日は、どっかに散歩なんてのも悪くないですね」 「……」 「あぁ。そういえば、聞きましたかね?」 「……」 「ウチでもよく買いに行ってる八百屋さんの若旦那、結婚するらしいですよ」 「……知っとる」 「おっと、こりゃ失礼。雛見沢の中なら、全部ご存知でしたね」 「……フンッ」
1 20/10/30(金)23:29:09 No.741748743
ジャブ程度ではあったが。少しの期待を込めた軽い牽制は、素っ気無い態度で流されてしまった。 やっぱ、一筋縄じゃいかねぇなぁ。 「流石、雛見沢を影から牛耳る園崎お魎、その人ってとこですかね!」 「……」 っとぉ。褒めてはみたが、雑過ぎたか。 仏頂面のお魎さんに、思わず苦笑いを浮かべながら頬を掻いていると、更に不機嫌になってしまわれた。 こりゃまずい。藪を突いて鬼を出す前に、さっさと避難しておくか。 ……の前に。まぁ、一応聞くだけ聞いてみよう。 「ところで、お魎さん」 「なんね」 「俺ももう5年、5年ですよ?ここで頑張ってるわけでね?」 「……」 「立場もありますし、そろそろ入れても良いんじゃないかなぁ……って思うわけなんですよ。どうです?」 「アホか。こんダラズが」
2 20/10/30(金)23:30:05 No.741749077
一蹴。お魎さんはのっそり立ち上がって、そのまま行ってしまわれた。 「はぁ……やれやれ。予想はしてたけど、取り付くシマも無いってか」 想像していた通りに溜め息を零したのなら、失笑へと向かう。 「……そういや、今日まだ顔見てねぇや。行くか」 最後に外を一瞥して、俺もまた歩き出す。 ここは広い家だ。多くの部屋があるが、5年も居れば嫌でも覚える。 そこを曲がって、ここを真っ直ぐ行って、あそこの襖だ。 前に立って声をかけてから開ければ、そこには。 「いよっす」 「……あっ」 愛しい人が、そこに居る。 「部屋に来るなんて珍しいじゃん。どしたの?」 「何もねぇよ?強いて言うなら……魅音に会いたかったから、かな」 「~~~~ッ!?け、圭ちゃん!!」
3 20/10/30(金)23:30:23 No.741749200
赤い顔をしている魅音を前に、吹き出してしまう。 こんなやり取りも5年目だというのに、いつまで経っても飽きが来ない。 ずっと愛らしい反応をしてくれる魅音が悪いのだ。そうに違いない。 「も、もぉ~!顔見に来ただけ!?」 「うーん……おっ!そんじゃあ、もう一個」 腕を振ってプンプンと怒る魅音の前に立って、そっと抱き寄せた。 「ぴっ!?」 「ははっ。なんだよ、その声」 そういえば、これもずっと変わらないな。 魅音は抱きしめられると、動きが止まってしまう。というか、フリーズする。 こういう感じに不意撃ちで攻めてやると、もうどうしようもないくらい可愛いのが、園崎魅音だ。 「な、ななな、なにって、圭ちゃ、えぇ!?」 「なぁ、魅音」
4 20/10/30(金)23:30:51 No.741749382
魅音の長い髪。優しく梳くように、頭をゆっくり撫でる。 「お前のソレを俺が背負う事。ぜってぇ諦めないからな」 「……圭ちゃん」 俺の背に、魅音の腕が回った。 その力は優しく、強く。 「無茶だけは、やだからね?」 「おう」 必要な言葉は、これで終わり。 後はただ、幾許の触れ合う時間を楽しんだ。 ……そして、少しの後。魅音を離す。 ん?離す。あれ?離れない?離す! 「ちょっ。魅音?」 「……なんか、もう、やだ。今日はずっと圭ちゃんと一緒に居る」
5 20/10/30(金)23:31:01 No.741749444
「はぁ!?おま、当主の仕事は!?」 「いい。婆っちゃに全部任せるもん」 「何言ってんだこのバカ!?ていうか、俺も仕事あんだよ!」 必死にしがみ付いてくる魅音をなんとか引き剥がして、抜け出した。 「うぅ~……けいちゃ~ん……」 う~む……恐るべき、園崎の檻……涙目で見つめられるのは、正直後ろ髪を引かれまくったぞ……。 「ったく!そんじゃ行ってくるからな!……っとと!あっぶね、忘れるとこだった」 部屋の外に数歩踏み出した後、大事な事を思い出す。 立ち止まり、振り返って数歩歩けば、元の位置。疑問符を浮かべている、魅音の目の前。 「ん」 魅音の前に左手を差し出すと、得心したように笑顔を浮かべた魅音の左手が重なった。 結びつくように、絡み合うように。俺達の手が、一つに。 ……その中に煌めく、二つの銀。 「えへへ……」 これが、俺と魅音の誓い。死が二人を分かつまで。いや、死が二人を分かつとも。二人だけの、大事な誓いだ。
6 20/10/30(金)23:31:41 No.741749683
……結局、もう一度だけ抱擁を交わしてしまった。押しに弱いのは俺もだったか……。 口づけと名残惜しい気持ちを残しながら、廊下を歩く。 向かう先は、外。待って居るのは、黒の車と……。 「お待ちしてましたよ。若頭」 「……やめてくださいよ。そう呼ばれるのも葛西さんに敬語使われるのも、なんか落ち着かないんです」 「ははっ。それなら、これが落ち着けるようになるまで続けるしかありませんね」 正直にお願いしてみても、これだ。いつまで経っても、葛西さんには敵わない。 開けて貰った扉から俺が車に乗り込んだのを確認し、葛西さんは運転席へ座り込む。 ……若頭だなんて、重い名だ。 だけど、俺は逃げない。この村の事を想っているからというのもあるが、何より。 ……惚れた女に、あんな物を背負わせて居られるか。 だから、俺が代わりに背負ってやる。俺が。変えてやる。 暗部、汚濁。過去から受け継がれてきた悪しき全てを、消してやる。 「さて、と。今日は何処から腐ったアシを切り落としていこうかね」 そのために今は、鬼と成る。正当に継ぐ者へと、成るために。
7 20/10/30(金)23:31:54 [s] No.741749757
おしまいなのです
8 20/10/30(金)23:36:17 No.741751287
ストレートな圭魅いい…
9 20/10/30(金)23:37:03 No.741751552
大作じゃないか…
10 20/10/30(金)23:37:58 No.741751888
いい…
11 20/10/30(金)23:38:24 No.741752052
ありがたい…
12 20/10/30(金)23:40:12 No.741752697
いい…
13 20/10/30(金)23:48:04 No.741755461
途中が甘ったるすぎる…!
14 20/10/30(金)23:52:00 No.741756696
まあ表の事業だけにシフトしていけたら何も問題はないもんな…
15 20/10/30(金)23:59:21 No.741759025
すばらしい...
16 20/10/31(土)00:01:34 No.741759717
入れるって婿入りの話かと思ってたけどこれってスミ...
17 20/10/31(土)00:11:06 No.741762745
まあ立場的にスミ入ってないような奴が若頭ってのもねえ…