20/10/15(木)22:11:50 必死で... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1602767510218.png 20/10/15(木)22:11:50 No.737205820
必死で立ち上がろうとするも、とうとう力尽きて倒れたミブリムをボールに戻す。僕の前に立つ長身の女…ユウリは小さく、拳を握り締める。その手持ちのバチンキーは両手でスティックを叩いて雄叫びをあげ……フラついて、片膝をついた。女が慌てて傷薬を吹き掛け、バチンキーをボール戻す。 女と一緒にいる、きっと、僕とそう変わらない年のお供…トレーナー…ホップが、この第二鉱山の入り口から駆け寄り、「やったな」と小声で話しかけ、女の勝利を心底嬉しそうに笑う。女はどこか安心した様子で「ありがとう」とお供に振り向いた。そしてすぐに、濁りを混ぜた冷たい目で、僕を睨む。 パシャリ。いつの間にか鳴った音に気付いた時には、左足が突然冷たく感じた。水溜まりを踏み靴が濡れたことに気付いた僕はここで……怖じ気づいて足を下げたことを、否が応でも理解することになった。
1 20/10/15(木)22:12:35 No.737206084
負けるなんて嘘だ。それどころか、怖くなって足を引いた? 嘘だ、有り得ない。おかしい、何故だ。同じ言葉が頭の中で何度も繰り返されるが、口には出すまいと歯を食い縛る。やがて女が、僕を睨んだまま、重々しく口を開く。 「委員長の推薦トレーナー。独活の大木に負けましたが……どうしますか?」 何度繰り返される言葉を止めても、すぐにまた繰り返される。惨めさと悔しさが吹き出す。全身が熱くなり、歯は軋むほど強く食い縛る。いつの間にか強く握っていた拳が、大きく震えている。 「あなたがまぁまぁ頑張るから……勝たせてあげようかなと……思いまして……」 相手の目だけではなく、負けた事実からも顔を背け、反射的に吐き捨てたこの言葉を、僕は一瞬で後悔した。
2 20/10/15(木)22:13:03 No.737206254
「お前なぁ!」食ってかかるお供に構わずに。自分でどうしてなのか理解が出来ない震えが止まらないまま……震えた声で、続けていく。 「失礼しました。訂正させてもらいます。独活の大木も、弱いも。弱いじゃなくてちょっと弱……」 吐き捨てて立ち去ろうとする前に、女が急に大股で歩み出た。お供が宥めようとするが「止めないでください」の一言で……僅かに震えて、引き下がった。 女が僕の目の前にまで来た瞬間、自分の足が竦んでいることに気付いた。自分の周りだけが凍りつくような空気に変わる。あの目を見るな。それだけは感じ取れた僕は……すぐに顔を背けた。だがすぐ無駄なことをした自分を恨む事になる。 「こっちを見なさいトレーナー!!」 怒り一色の瞳で僕を見下ろし、怒声を張り上げた女を前に……僕の体が、冷えていくのを感じた。 「ガラル鉱山といいこの場といい……自分が何を言いながら進んできたのか……理解していますか?」 覚えているのは、何を言われたかだけだ。
3 20/10/15(木)22:13:46 No.737206492
「委員長の推薦するトレーナーは、勝負をする相手を侮辱した挙げ句に、いざ負けたらまるで本意では無かったかのような見苦しい言い訳をする。そんな情けないトレーナーなのですか?」 「勝負をしたトレーナーを、力を尽くしたあなたのポケモンを、あなたは侮辱したんです。それともなんです、ジムリーダーにでもなったつもりですか?」 「委員長もそんな真似をするトレーナーにどうして推薦を渡したのか、見る目を疑われますよ。その推薦状を何だと思ってるのですか?」 「もし私が弱いトレーナーなのだとしたら………それに負けたあなたは、とても情けないトレーナーに感じました。同じトレーナーとして、チャレンジャーとして、恥ずかしく思いますわ!」
4 20/10/15(木)22:14:10 No.737206603
居丈高に放たれる言葉の全てが、僕を切り裂き、突き刺し、抉る。怖いのか腹が立つのか、分からない。でも、皮膚が破れそうな感覚を必死で堪える。一瞬だけ目が見え……怒り一色で染まった緑色の瞳が見えた事を後悔したが……お供が「もうやめてやれよ、お嬢!」と止めに入り……渋々と女は引き下がる。 血が、全身から吹き出しそうだ。水溜まりを踏んだのか、湿りきった靴と、第二鉱山の冷たい空気をまた感じ取る。僕は……こいつに、情けをかけられたのか? 女は、少し冷静さを取り戻したように「謝罪も撤回もしませんが?」と不服そうに尋ねると……お供の方も渋々とだが「俺もお嬢の言うことも分かるしさ」と頭を掻いて、女とも目を合わせず、答えた。
5 20/10/15(木)22:14:33 No.737206728
女が、僕から離れた。腰が砕けそうな感覚を堪える。冷たい空気も湿った靴も……全身に流れる冷や汗に、ようやく気付く。何て情けない。自分が弱いばかりに。いま思えば、そんな筋違いな言葉を毒づきそうになるが……また怒りを買うだけになると思い、苦々しく飲み込む。 「お嬢は言い過ぎたと思うけど……お前もお前じゃないか?誰の推薦とか関係なく怒られると思うぞ」 呆れられたような物言いで、僕のハートは、刃物で切りつけられたように感じた。 こいつにまで言われて…僕は今まで何を…いや、もう、いい!いまだに残る震えを堪えて、二人に自分のリーグカードを渡し、立ち去った。この場でこれ以上は、何も出来ることは無いと思ったからだ。 立ち去る途上で「でもさ、本当に強いよなあいつ……俺達も頑張らないとな」とか「次も勝てるかは分かりません。この勝ちに驕ってはいけませんわね」等と言う声が聞こえたが、何かを感じることは無かった。
6 20/10/15(木)22:14:58 No.737206877
一度ポケモン達を休ませた後……足は、自然とワイルドエリアに向けて動いていた。大雨に濡れることも気にせずに、草むらに向かって進んでいく。 あんな奴等に負けた悔しさ、負けるような努力しかしなかっか愚かさ、そして、不覚にも相手を恐れてしまった情けなさ。 暗く入り雑じった衝動に任せて、乱暴に地面を蹴り進む。視界に野生のポケモンが映った。やるべきことは決めている。相手は一体。まだ気付いていない。ボールに手を伸ばして、そのまま、力任せに上手から放り投げ……ようとしたが、すぐに手を止めることになった。 ミブリムが突然ボールから飛び出したのだ。僕は一瞬、我に帰る。どうしたのか聞く前に、腹部に鈍い衝撃が走り、思わず尻餅を付く。ミブリムはが頭から突っ込んできた。 何をするんですか!声を荒くすると「何をしてるんだ」と言わんばかりに怒ったような鳴き声を聞いて……僕はようやく、落ち着いた。 二度なんて、ない。いや、あんな奴らに二度と負けてたまるか。僕は選ばれたトレーナーなんだ。
7 20/10/15(木)22:17:06 No.737207581
ミブリムは鳴き声を止めた。僕は少し考えて……一度、ボールから全てのポケモンを出す。既に傷はないが何処か、落ち込んでいる様子はある。でも、やるべきことは、分かっている。 ユニランにも、ゴチムにも、ポニータにも……情けない真似をさせてしまった。そこまで言った所で、ミブリムがまた頭から突っ込んできた。突然の痛みに呻いた後に、ミブリムにもだよ。そう僅かに絞り出すような声で伝えると、ミブリムは不満そうにそっぽを向く。それをポニータが宥めると、渋々僕の方を向き直した。 二度と負けない。あんな惨めな思いはしたくないし、させたくない。あの屈辱を、僕は忘れない。 僕は選ばれたんだ。チャンピオンになるんだ……そのためには、あの屈辱を乗り越える。あんな奴らに、負けたままでいる訳が無いんだ!!ミブリムが、ようやく笑った。それに釣られて、残りのポケモンも安心したように笑った。 一度全員をボールに戻すと、自分の意思で足を踏みしめる。エンジンシティに挑む前に、鍛え直す。それから三つ目のバッジを手に入れる。時間はまだ残っている。焦る必要なんて、ない。雨に濡れるのも、泥濘で靴が汚れるのも気にせずに、僕は、前へ進んだ。
8 20/10/15(木)22:17:27 No.737207693
そして、後に気付かされることになる。本当の意味で選ばれていたのは僕じゃなくて、あの女……ユウリだった事に。
9 20/10/15(木)22:19:06 No.737208253
昨日書いたやつの続きです とりあえずお互い言い過ぎかなって……
10 20/10/15(木)22:21:03 No.737208917
こっからホップを叩きのめしてまたお嬢の怒りを買って叩きのめされて暴走して遺跡壊して絶望するんだ ピンクにならなきゃさすがにきつい
11 20/10/15(木)22:26:39 No.737210942
いっぱいいっぱいな子の内面描写とても好き
12 20/10/15(木)22:30:17 No.737212318
少なくともジムチャレンジ中に余裕があるとは思えないかな まぁそれを言ったらどのチャレンジャーもか
13 20/10/15(木)22:43:59 No.737217421
相当言われたと思うけどよくこの後にエンジン出たあとにお嬢とホップを煽りにこれるなこいつ…