ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
20/10/10(土)00:09:58 No.735357011
生まれたときからそうだった。 自分の手の中に、欲しくもないものが山のように積み上がっている。 羨ましい、と周りは言う。 その度にいつも、忌々しいと毒づいた。 彼は機械だった。家を継ぎ、国を守り、戦場に出るために製造された機械だった。 造られた理由を果たさない彼を、両親は当然のように満たしてはくれなかった。
1 20/10/10(土)00:10:14 No.735357112
結局自分という人間は、負わされた荷物を支えるための道具に過ぎない。その荷物がどれほど美しい宝石であろうと、どんなに貴重な絵画であろうと、道具にとっては重石に過ぎない。 他人が見るのは、上に乗せられた地位や家督という名の荷物だけ。道具のことを顧みる者など、誰もいないのだ。 それが嫌で、荷物を放り出した。同じように生まれた自分の片割れに、負うべき責任を全部放り投げて、逃げ出した。 けれど、だれもわかってくれなかった。 手に入ったのは、名家の放蕩息子という肩書と、要りもしない称賛だけだった。 彼は有能だった。賢く、大胆で、誰からも頼りにされた。 けれどだれも、彼を支えてくれなかった。
2 20/10/10(土)00:10:30 No.735357202
弟は、自分とは違った。 押し付けられた期待と責任に、文句ひとつ言わずに応え続けた。同じように育ったのに、自分と違って他人を思いやることができた。 だから弟は必要とされた。自分はそうじゃない。 諦めた方がいい。 期待するだけ虚しいだけだ。 お前を見てくれる人など、どこにもいないのだから。 お前は、誰にも──
3 20/10/10(土)00:11:03 No.735357364
なにここ
4 20/10/10(土)00:11:04 No.735357375
「大佐、起きてください、朝です」 玲瓏な声が、正確に起床時刻を告げてくる。朝に弱いディートフリートを起こすのは、彼女が目覚めて最初にやらねばならない仕事だった。 船室の窓を開けると、爽やかな潮風がカーテンを静かに揺らした。彼女の金糸のような髪が風に吹かれて顔をそっと撫でると、彼は擽ったさで目を擦った。 「…お前の顔を見ると、一日の仕事のことを思い出させられる」 「では、もっとよくご覧になってください。本日は特に予定が立て込んでおりますので」 鼻先が触れそうなほど顔を近づけた彼女を見て、彼は恥ずかしそうに顔をそらした。 「…そういうことじゃない。お前を見ると仕事のことを思い出して憂鬱になる、と言っているんだ」 毛布を手繰って二度寝の構えに入った彼を見て、彼女は引き留めるでもなく呟いた。
5 20/10/10(土)00:11:35 No.735357536
「…大佐がお望みなら、明日からは他の者をお呼びしますが」 「…」 彼を起こすのは彼女だけの仕事である。 彼女以外が部屋に入ると、彼は著しく機嫌を損ねるからだ。 「…なぜだ」 「…私が起こすと、大佐は不快な思いをされるようでしたので。大佐を起こすという任務に、不適格と判断しました。 ですので、また捨てられてしまうのもやむを得ません」 顔色をぴくりとも変えずに、彼女はそう口にした。 出会った頃の何も知らないが故の無表情ではない。わかっていて言っているのだ。 彼女と過ごすうちに、無表情にも種類があると気づいた。心底どうでもいい知識だが、動かない顔色から少しでも内心を推し量ろうと思うとこんなことも覚えてしまう。 今はきっと自分が折れるのを待っているのだろう。真顔で応対され続けてはこちらが根負けするだけだ。
6 20/10/10(土)00:11:41 No.735357563
スレッドを立てた人によって削除されました ちんちんまんまんマン参上!
7 20/10/10(土)00:12:03 No.735357676
「…わかったよ。 …誰が捨てるものか」 「はい、ありがとうございます。予定より10分ほど遅れておりますので、可及的速やかにご準備をお願い致します」 寝間着を脱いでシャツに着替えようとする彼に、彼女は一枚の紙を手渡した。 「それと、ご実家から大佐宛てに電報が」
8 20/10/10(土)00:12:17 No.735357795
「暫くはここにいる」 錨を下ろしたばかりの船の上で、独り言のようにぼそりと呟いた。しかし彼女は、それが自分に向けられた連絡事項であることを把握していた。 「はい、お供します」 「…降りたくはないのか」 「構いません。大佐がここに留まられるなら、私もここにおります」 何度も繰り返したやりとりだった。だから、彼女に返す言葉もいつもの通りだった。 「…好きにしろ」
9 20/10/10(土)00:12:39 No.735357944
『婚約者を連れてきた』 電報の内容は、ディートフリートの心にざらざらと引っ掛かり続けている。 陸に降りたくないと思うことは何度もあったが、今回は甲板に足を縫い止めてしまいたくなるくらいだった。 見合いの話など真っ平御免だが、今回は向こうも本気らしい。こちらの任務がないときを調べて話を出してきたのだから。 放蕩息子へのなけなしの親心か、それとも逃げた飼い犬に首輪をつけておきたいのか。 ──考えても意味はない。そんな価値もない。 家族について考えることは、ディートフリートの中で一種の禁則事項になっていた。それをするといつも、心が重苦しくなるから。 だが離れた家族の話を懐かしそうに、楽しそうに語る兵たちを見ているのは、それ以上につらかった。 自分が普通ではないと、思い知らされるから──
10 20/10/10(土)00:12:49 No.735357991
暗い感情を振り払うように、隣にいる彼女に視線を移す。 糸の解れた水兵帽を、風に飛ばされないようにしっかと手で押さえていた。彼女の小さな顔には大きすぎるせいで、時折ずり落ちてくるのを片手を上げて直すのも、もう見慣れた光景だった。 「…俺が子供の頃の使い古しだろう、それは。ぼろぼろな上に寸法だって目茶苦茶だ。 いい加減買い換えたらどうだ、みっともない」 自分で与えておいて酷い言い種もあったものだと思ったが、どうしてそんなものを寄越したかを言うよりはましだった。 潮風で髪が傷むからと心配したなどとは、口が裂けても言いたくない。 「…申し訳ありませんが、できかねます」 思案するようにうつむいた彼女は、静かに、けれどはっきりと、主の言葉に反論した。 「金がないのか?」 「いえ、貯蓄は十分量を確保しています」 「…なら、なぜ」 落ちてきた帽子を胸の辺りで抱きかかえるようにして、もう一度彼女はディートフリートを見つめた。 「…初めて、大佐にいただいたものですから」
11 20/10/10(土)00:13:05 No.735358074
スレッドを立てた人によって削除されました うんちブリュブリュブリュぶりりゅりゅりゅりゅ
12 20/10/10(土)00:13:49 No.735358296
そう言って彼女は、古ぼけた帽子をそっと撫でた。 ──そんなものが、お前は大切なのか。 そう言いかけた言葉を押し込んで、ディートフリートも彼女を見つめ返した。 慈しむようにそれに触れる彼女に、一時にせよいつもの皮肉を忘れてしまった。 こんな感情が、自分にもあったのか。 ──誰かを見て、心が温かくなるなんて。
13 20/10/10(土)00:14:18 No.735358423
「…大佐。 ありがとう、ございました」 いつもの無表情を崩して、彼女は彼に微笑んだ。礼をした彼女の頭には、大きなつばの白い帽子が乗っていた。 海を眺める彼女を思い出して、生地に一条の青いリボンを張った。細い指が風に吹かれたそれを直す仕草も、品がありながらもいじらしい。 ──よかった。やはり似合っている。 彼らしからぬ考えが、一瞬だけ頭をよぎった。 「…いや、いい。大したことじゃない」 「そんなことはありません。 …とても、嬉しい、です」 顔を見て渡す気にはなれなかった。 どんな顔をして、何を言えばいいのか、見当もつかなかったから。 受け取ったときに彼女がなんと返すのか、わからなかったから。
14 20/10/10(土)00:14:38 No.735358532
そのとき、彼女はどんな顔をしていたろうか。 喜んだのか。失望したのか。 それとも、いつもの無表情を崩すほどの価値もない、些末なことだったのか。 それを確かめる勇気が持てなかった。 「…近いうちに人と会う」 「お客様ですか。どなたでしょう」 「…いや、こちらから行くんだ。 婚約者に、会いに行く」 そう言ったとき、彼女はどんな顔をしていたろうか。 もう、思い出せない。 彼女に伝えるのだけで、精一杯だったから。
15 20/10/10(土)00:15:29 No.735358806
「…大佐。先方への贈り物はこちらでよろしかったでしょうか」 言葉が耳から入って、そのまま抜けてゆく。彼の心は、そこに行くことを全力で拒絶していた。 ただ鬱陶しいだけではこうはならない。このまま行ってしまったら、大切なものをなくしてしまうような気がした。 彼の心を支配する重苦しい感情の名前を、まだ彼は知らなかった。 「…大佐、ひとつだけ質問をさせて頂けないでしょうか」 淡々と作業を処理していた彼女が、視線を止めて彼を見る。 意識が少しだけ、浮き上がってきたような気がした。
16 20/10/10(土)00:15:42 No.735358879
「…何だ」 「…結婚する、とは、どういう意味があるのでしょうか」 彼女の質問に、ディートフリートは驚いていた。任務と日常の生活を生きるだけだった彼女が、こんなことを訊いてくるなんて。 「…知るか」 彼女が、結婚という行為の説明を求めているのではないことくらい、自分にもわかっていた。 ──自分には、彼女の問いに応える資格はない。 本当は幸せを分かち合うためのもののはずなのに。 自分はどうしても、そう思えない。 「わからなくても、できるものなのですか」 「…やらなくてはいけないこともある」 「大佐は、嫌、なのですか」 ──もし、ここで本当のことを言ったなら。 彼女は、俺を引き留めてくれるだろうか。 行ってほしくないと、言ってくれるだろうか。 それを試せるほど、彼は強くない。
17 20/10/10(土)00:16:05 No.735358985
「…何かあったのか」 「…いえ、なにも。 …本日は同行できません。ギルベルト少佐のところへ用事がございますので」 振り向いた彼女は、いつもの無表情に戻っている。 変わらない冷静な姿を見て、ここになかった心が戻ってくる。 言いようもなく、怒りと悲しみが湧いた。 何かないのか。 自分の主人が、妻を迎えるかもしれないのに。 自分以外の女を、傍に置くかもしれないのに。 お前は、それでいいのか。 ──もう、俺は要らないのか。
18 20/10/10(土)00:16:47 No.735359188
「…ディートフリート様?」 何も聞こえない。 何も聞きたくない。 口が勝手に、当たり障りのない言葉を返してくれたらいいのに。目の前の女は、それで満足するのだから。 もし逆だったら、どうだったろうか。 彼女がもし、誰かの所へ嫁ぐとしたら。 ──首に縄をかけてでも、絶対に止める。そうして、もう二度と家から出さないだろう。 どんなに後ろ暗いことでも、平気でできるという確信があった。 きっと他の男と結ばれても、彼女は自分と一緒にいてくれるだろう。 それでも、誰にも渡したくない。 あの薄紅色の柔らかい唇が、自分以外の男に寄り添う言葉を紡ぐと思うと、それだけで心が欠けそうになる。
19 20/10/10(土)00:17:09 No.735359290
どれほど歪かなんて、とうの昔に判っている。 だから、お前が悪いんだ。 こんな歪な人間を認めてしまったから、俺はここまで来てしまった。 お前がいないと、もう生きていけないくらい。 でも、お前はきっとそうじゃない。 俺の隣に誰がいようと、怒りもしなければ悲しくもないんだろう。 俺は、彼女の、何だ? 一度は殺してやろうと思った。 今度は使い潰そうと思った。 何も与えてこなかった。思いやることすらしてやらなかった。 武器を持たせ、戦いを教えて、殺すか死ぬかを選ばせた。
20 20/10/10(土)00:17:27 No.735359388
『あの子がかわいそうだと思わないのか』 自分が与えてこなかったものを、どうして自分が与えてもらえるだろうか。 ──ああ、なんだ。 心配してもらう権利なんて、はじめから俺にはなかったじゃないか。
21 20/10/10(土)00:17:48 No.735359509
「その帽子、素敵じゃないか」 白のブラウスに、すらりと伸びたロングスカート。その上に被った白い帽子は、清楚な佇まいの彼女の美しさをより引き立てていた。 「自分で買ったのかい?」 彼女はそっと目を細めて、首を横に振った。 「…いえ。大佐にいただいたものです」 その答えに、ギルベルトは少なからず驚いているようだった。 ──兄が彼女に、贈り物をするなんて。 「…ギルベルト少佐。ひとつ、ご質問をさせていただけないでしょうか」 「…ん、何かな?」 そっと目を合わせたギルベルトに、彼女は問いを投げた。 「…誰かと結ばれるというのは、どういうことなのでしょうか」 「…」 ギルベルトは暫く答えなかった。何を答えればいいのか、己の中で探しているようだった。
22 20/10/10(土)00:18:19 No.735359699
「おっ、恋愛相談かい?そういう年頃だもんねぇ、もう。 よーし、こういうのはそこのお堅い坊っちゃんより俺のほうが…」 「ホッジンズ、少し黙っていてくれ。彼女は真面目な話をしているんだ」 「…おい、それって俺の答えは真面目じゃないってこと?」 抗議するホッジンズを尻目に、ギルベルトはもう一度彼女に向き合って、そっと話し始めた。 「…誰かと一緒に生きることを決める、ということかな。自分が一緒にいたいと思う、特別な誰かを」 碧い瞳が、迷うように揺れた。 「…結ばれる、は、特別でしょうか」 「…うん」 「…特別は、ひとりだけ、でしょうか」 「…そう、だね」
23 20/10/10(土)00:18:40 No.735359825
「もし、誰かがもうそこにいたら… …私は、もう特別にはなれない、でしょうか」 固く拳を握りしめて、彼女はもう一度問うた。 誰も、それに答えるものはなかった。 一葉の写真が静寂を破るように、風に吹かれて机の上から落ちた。 「…おいギルベルト、あれってお前の兄貴の──」 写真に写っていたものとその言葉が繋がったとき、彼女は何かが切れる音を聞いた。 自分を繋ぎ止めていたものがぷつんと切れて、闇の中に堕ちていく気がした。
24 20/10/10(土)00:18:40 No.735359826
スレッドを立てた人によって削除されました ゲロ吐いてあげるオェぇェェエエ工(ビチャッびちゃびちゃびちゃァ)
25 20/10/10(土)00:19:05 No.735359940
男がいて、少女がいた。 獣のように育った少女は、人の心を知らなかった。 男は皆に慕われていたが、誰にも理解されなかった。 彼等は、孤独だった。 独りと独りが出会って、ふたりになった。 足りないもの同士が一緒にいると、気持ちが楽になった。 だから、これからもずっと一緒にいる。 そう、思っていた。 「…ディートフリート様」 紙切れを持ってこちらに来た店のボーイから、嫌々手を伸ばしてそれを受けとる。もう、何もかも嫌なのだ。 「──!」 ──鈍っていた心が、一気に現実に引き戻された気がした。 「失礼。急用ができた」 困惑する相手の女の声も、自分を引き留める執事の声も、ディートフリートには届かなかった。
26 20/10/10(土)00:19:54 No.735360189
「──!!」 形にならない言葉が、浮かんでは消えていく。 けれど埋もれていた想いは、どんどん鮮明になっていった。 一緒にいたかった。 顔を見て、声を聞きたかった。 何も言えなくても、どんなに怖くても、ただ、彼女のそばにいたかった。 それは、きっと──
27 20/10/10(土)00:20:24 No.735360355
彼女の居室のドアを、入ってきた勢いのままに乱暴にこじ開けた。 「…大佐」 ベッドに横たわる彼女の声に、いつものような透明さはない。そこにいたのは、つい先刻まで臥せっていた病人だった。 「…何があった」 息を乱してか細く問う彼の声にも、いつものような覇気はなかった。 「…申し訳ありません。数日間から、全く眠れていなかったのです。大佐のお心を煩わせると思い、報告を怠っていました。 …本当に、申し訳ありません」 無表情が常の彼女がその鉄面皮を崩す数少ない瞬間。任務に失敗したときが、それだった。 自分の居場所がなくなってしまうと思っている。俺と、同じように。 「馬鹿が…病人がなぜ謝る」 「…大佐は、役に立たなくなった私を、罰しに来たのですよね」 頭を思い切り殴られたような気がした。違う、と大声で叫びたかった。 ──そんなことしか彼女に教えてこなかったのは、ほかでもない自分のくせに。
28 20/10/10(土)00:20:42 No.735360467
長いからtxtにまとめて塩辛にあげてほしい
29 20/10/10(土)00:21:03 No.735360623
「…そんなことをしに来たんじゃない」 「では、なぜ…!」 今の彼は、少しだけ純粋で。 それを口にする勇気が、確かにあった。 「…お前に会いたかった」 だから、聞きたかったことを、聞けなかったことを、問うてみることにしたのだ。 「…俺があの話を承けると言ったら、お前はどうする」 うつむいた顔を上げることなく、彼女は沈黙を破った。 「…大佐が例えどのような選択をなさっても、私は大佐のご命令があるかぎり、ずっとお傍におります」 静かな声で、彼女は告げる。 そうじゃない。それじゃ嫌だ。 子供のような我儘が、胸に浮かんでは泡のように弾けて消える。 そんな言葉を言いながら、必死に何かをこらえるように唇を引き結んだ彼女の表情にも、きっと彼は気づかない。
30 20/10/10(土)00:22:00 No.735360970
俺は、彼女にどうしてほしいのだろう。 もう、彼女は兵器じゃない。 憎い敵でもない。 あの日を境に、二人は互いに足りないものを見つけた。足りないもの同士で寄り添って、歪な心を認め合って、支えあって。それで十分なはずだった。 ──でも、それじゃ足りない。 「お前は、それでいいのか」 「…」 「…俺は、嫌だ。 お前じゃなきゃ、嫌なんだ」 口から漏れ出た言葉は、風に吹かれて飛んでいってしまうほど弱々しくか細い。普段の彼を知る者なら、こんな言葉は一顧だにしなかったろう。 ただ、一人の例外を除いては。
31 20/10/10(土)00:22:22 No.735361066
人形のように完璧な造形が、感情という絵の具でぐちゃぐちゃに塗りつぶされていく。 「…おい」 碧い瞳が、涙を湛えて揺れていた。 「…大佐。私、どうなってしまったのでしょうか。 ギルベルト少佐のところへ行ったときに、大佐が会われていた方の写真を見ました。 それからずっと、胸の痛みが治まらないのです。 …私は、おかしいでしょうか。でも、原因が、わかりません」 精巧な戦闘機械は、いつしか深刻な不調を抱えるようになった。きっと主が悪かったのだろう。 ──だれよりも彼女に想いを注いで、狂わせてしまった、悪い主が。 「…厚かましいとは、わかっております。 でも、まだ私は使えます。例え万全でなくとも、これまで通りに働きます。大佐のお役に、立ちます…! …奥様のする仕事も、精一杯覚えます…!!ですから…! 私では、だめ、でしょうか。他の方でなくては、だめ、でしょうか…!!」
32 20/10/10(土)00:22:50 No.735361237
まだまだ、ぎこちないけれど。 もう彼女は、立派に人間だ。 大切な人がいて、他の誰にも渡したくない。 そんな想いを、言葉にできるくらい。 「…俺でいいのか」 「…はい。 他の方には、大佐のそばに、いてほしく、ありません。 大佐の、特別に、なりたい、です…! たいさ、は、私の、私だけの──」
33 20/10/10(土)00:23:34 No.735361517
もう、言葉は用を為さない。 なら、伸ばされた手をとるのに、理由なんていらない。 背に回した手はまだぎこちないけれど、二人が積み上げてきた時間には、きっと報いることができたろうから。 「…もういい。 お前の気が済むまで、こうしていてやるから」 抱きしめあった二人の温度が、融け合ってひとつになっていく。 それでいい。 ずっと、こうしたかった。
34 20/10/10(土)00:23:44 No.735361572
お前はずっと、俺のそばにいた。俺もお前も、こうする他に何も知らない。 だからきっとお前は、これからもずっとここにいるのだろう。 ──だがな、俺は歪んでるんだ。そこまでしてもまだ足りない。 お前にも同じくらい、俺を求めてほしい。 俺はもうずっと、お前に狂っている。 お前も、同じでいてほしい。 同じように、俺に狂っていてほしい。 俺が誰かと一緒にいると、何も手につかなくなってしまうくらい、俺のことだけを想っていてほしい。 俺が、そうであるように。
35 20/10/10(土)00:24:35 No.735361829
「俺がいないと生きていけない」 それじゃ、もう足りない。 俺のことしか、考えられないようにしたい。 彼女のことしか、考えられないようにしてほしい。 もうお前のことしか見えなくなるくらい、俺のことを── 「お見合いは、どうされたのですか」 「放り出してきた。俺の得意技だ」 まだ秘書の気分が抜けきっていないのか、腕の中の彼女は、どこか心配そうだった。 「先方に謝罪すべきでしょうか」 そんなことは考えないでいい。やっと、願いが叶ったのだから。
36 20/10/10(土)00:25:17 No.735362026
「…いいから、こうしていろ」 ただ、俺のそばにいてほしい。 「…はい」 その表情は窺えないけれど、抱きしめる腕にこもる温もりが、少しだけ近づいた気がした。 このまま、顔を上げないでいてほしい。 泣いている姿を、見せたくないから。 「…変です。 大佐のことを想うと、胸が苦しくなるようになりました。でも、こうしていると、とても幸せなのです。 矛盾しているはずなのに、それさえも、心地よくて──」 「…俺もそうだから安心しろ」 何も知らない彼女は、繕うことも覚えていない。ありのままの心をぶつけられることが、こんなにも気恥ずかしいなんて。
37 20/10/10(土)00:25:34 No.735362112
彼女はまだ、何も知らない。 ──それでもいい。そばにいてくれ。 すれ違うかもしれない。傷つけ合うかもしれない。 ──構わない。俺とあいつが向き合った、確かな証だから。 まだ、大事なことを言っていない。 ──それは困る。俺も、あいつも、ずっとそれを伝えたかったのだから。 「この想いは、何と呼べばいいのでしょう」 「…なんだ、そんなことも知らなかったのか」 何よりもうらはらで、つかめなくて。 ──けれど、とてもいとおしい。 この想いを、きっと── 愛してる、と言うのだろう。
38 20/10/10(土)00:26:23 No.735362354
スレッドを立てた人によって削除されました スーパームキムキワイ「───ッッッッシャァアアッ!!!!」ッパーンドゴオオオ 肉塊ディートフリード「」? ?つい勢い余って殺しちゃった♥♥♥♥♥
39 20/10/10(土)00:26:30 No.735362384
以上です あまりにも長くなってしまった ご指摘のあった通り塩にまとめました su4266490.txt
40 20/10/10(土)00:34:10 No.735364796
大佐✕■■■■ちゃんの怪文書初めて見た
41 20/10/10(土)00:34:13 No.735364813
お疲れ様 とりあえず保存した
42 20/10/10(土)00:38:26 No.735366185
映画見てif読むとベクトルは違うけどブーゲンビリア兄弟めんどくせぇな…ってなる
43 20/10/10(土)00:40:01 No.735366695
流石になっがいわ! あとこんなスレで放り捨てる文章じゃねえな!
44 20/10/10(土)00:42:48 No.735367517
もうちょっと自分(の作品)を大切にしたほうがいいと思う
45 20/10/10(土)00:49:27 No.735369546
>流石になっがいわ! >あとこんなスレで放り捨てる文章じゃねえな! 映画見て特典貰ってあれも書きたいこれも入れたい…って衝動でやってたらいつのまにかこんなんなってました 処理に困るけどこのまま眠らせとくのもな…
46 20/10/10(土)01:05:38 No.735374307
どうせ捨てるんだろ… あなた次第ですよ のやりとりは湿度高かった