20/10/08(木)23:46:12 キメラ... のスレッド詳細
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20/10/08(木)23:46:12 No.735061778
キメラの筋張ったもも肉を噛み締めて、口に広がる懐かしい味わいに感動した。 当たりだ。牛肉の味がする。 ご存知だろうか。キメラの肉は一口ごとに味が変化する。 外見はライオンと蛇とヤギの三体しか混ざっていないように思えるが、合成獣の名の通り、中身はいろんな獣が混じり合っているのだろう。 故に食肉の種類も色々と混じっていて、大変なことになっている。当たり外れが大きいちょっとしたガチャだ。 現に調子に乗ってもう一口食い付いたら、さっきまで牛肉の味がしたはずのそれは、歯ブラシを噛んだような食感と水っぽい味に変わってしまっていた。
1 20/10/08(木)23:46:42 No.735061971
とはいえ、今回の特異点はローマ。なんといってもローマ、美食の国だ。 肉に世界樹の種の中身をすり潰した、まろやかなソースを添える。 凶骨と竜の牙、ワイバーンの骨を煮込んだスープも、深みがあって実に美味しい。 焼いた肉に飽きたなら、揚げ粉に虚影の塵を用いたフライもある。たかが塵と侮るなかれ、舐めてみたらうま味の塊のような味がした。 果実の搾り汁に八連双晶を砕いて合わせたものを、ゴーストランタンで炙ったのはデザートだ。ランタンの焔にいかなる効果があるのか、果汁は凍り付きシャーベット状になっている。 「美味しいですね、先輩」 最初は素材とキメラ肉を食べることに抵抗を見せていたマシュも、今や目をキラキラ輝かせて頬張っていた。 やはりレーションではお腹が膨れても、食べ物を食べたという満足は得られないのかもしれない。 ……単にゲテモノ食に慣れ始めたのではないか、という疑問には目を瞑った。頼むからマシュに変なことを教えないでくれ、と向こうでドクターが悲鳴を上げている気がしたけれど無視した。 復唱。倫理が怖くて人理は救えない。人は無垢なままでは生きられない。生きることは汚れることだ。
2 20/10/08(木)23:47:12 No.735062130
一緒に行軍している薔薇の皇帝陛下は、キメラ肉はあまり気に召さなかったらしい。 「ふつうの肉の方が美味であり、安全であろう?」それは確かに。とはいえ素材で出来たソースやスープの方はお口に合ったようで、花のような笑顔で何度も何度もお代わりしていた。 「……」 カルデアに来てから一番豪華な食事を美味しく頂きながら、少しばかり不安になってくる。 この贅沢さに慣れてしまってはいけない。ドラゴンの肉やキメラの肉、各種素材の美味しい調理法を編み出し、カルデアへ供給を始めたが、まだまだ安定しているとは言い難い。 いつか、食べられるものが何もない場所に行くことがあるかもしれない。都合よく食料になるものが手に入り続ける、そんな幸運がいつまでも続くとは限らない。 自分の肩には人理だけでなく、カルデア職員たちの食糧事情までが重くのしかかっているのだ。いずれ、ひもじい思いをする覚悟をしておかなければ。 「あの、先輩」 呼ばれて顔を上げる。ワイバーンの手羽元フライ、虚影の塵風味を食べ終えたマシュが口元を拭って、 「そろそろデザートを食べませんか」
3 20/10/08(木)23:47:50 No.735062393
シャーベットなんて本当にいつぶりだろう。 焔で炙られたはずの果汁は凍えてしゃりしゃりになっていて、口の中で甘く解けていく。細かく砕いた双晶は飴のようにぱちんと弾けた。 マシュの顔がふにゃっとする。たぶん、自分も同じ顔をしている。食べることの幸せを味わっている。 ……忘れていた。何よりもまずするべきなのは、感謝だ。 素材を落とし、美味しい肉を提供してくれた者たちに。 視えない未来を恐れるのではなく、今の一期一会の幸福を噛み締めていくべきだ。 それが勝者として、今を生きるものとして。糧になった者にできる唯一のことなのだから。 カルデア飯。ああカルデア飯。
4 20/10/08(木)23:48:17 No.735062568
終わり セプテムでキメラ肉フルコースを食べる話
5 20/10/08(木)23:49:51 No.735063175
たくましい…
6 20/10/08(木)23:51:39 No.735063874
1からスタートで黒い森キメラに勝てる今の環境は良いものだ…