20/09/24(木)23:30:28 王子は... のスレッド詳細
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20/09/24(木)23:30:28 No.730845198
王子は羽化を果たした蟲の姿に思わず見とれてしまいました。まさしく王子が思い描いた理想の姿。 考えていた通りです。あの醜い蟲も、時が満ちればこの姿になっていたに違いありません。 だとしたら、この神様のように美しいものの命を摘み取った自分は、何て罪深い行いをしてしまったのでしょう。 「ごめんなさい、クリシュナ。本当にごめんなさい。 ……私。私信じられない。あのような凶暴で恐ろしい感情が私の中にあるなどと。 許してくれクリシュナ。私の心を覗いたお前が怖くて憎くて、殺したくて仕方なかったんだ!」 「……。ああ、どうか泣かないで、幼き私。さあ、どうぞこちらへ。この玉座は、あなたの為に用意されたものですから」 肩を押されるままに、王子は玉座に就きました。 白い翡翠でできた玉座は広く、王子が一人で座るには大きすぎるほどでした。 「あなたが感じたのは万人にある当然の感情。あなたが人である限りは捨てきれないもの。 ……けれど、あなたはこの先、何度もその感情に苦しむことでしょう。 求められる自分の偶像と、真実の自分との差異に苦しむことでしょう」
1 20/09/24(木)23:30:48 No.730845322
「どうすればいいのですか。私は惑いたくなどない、迷いたくなどない! そんなものは、アルジュナには相応しくないんだ! ああ、誰か私の代わりに受け止めてくれればいいのに!」 尚も泣き続ける王子の、頬に流れる涙を蟲は優しく拭ってくれました。 「知っています。たった一人、人々の望みを背負い、苦しみに耐え続ける小さなあなた。その気高き心を守るために、これを」 蟲の両手が、胸の間に向かいます。指先が深く沈み込んで、青黒い液体が血のように次々に溢れていきます。 やがて、ぷちんと柔らかい肉を千切る音がしました。呆気に取られる王子の前に、蟲は両手を差し出します。 掌に乗った肉の塊は、青黒い液体に塗れていました。ぬめぬめと柔らかく、息づく小鳥のようにぶるぶると震え、脈打っていました。 「これは、何です」 「私の心臓ですよ」 何でもないように蟲は言います。大事な心臓を抉り出しても、蟲の笑顔は一つも変わってはいませんでした。 「さあ、どうぞ。呑み込んで。私の命を、あなたへ差し上げましょう」 むかしむかし。零れる青黒い液体が玉座を汚す夢の中でのお話です。
2 20/09/24(木)23:31:02 No.730845437
童話 むしめずる王子のお話です
3 20/09/24(木)23:35:23 No.730847070
アポのすまないさんが心臓渡すシーンを思い出した
4 20/09/24(木)23:36:47 No.730847549
この姿になっても赤い血じゃないのか…
5 20/09/24(木)23:46:18 No.730851048
蛮神の心臓…
6 20/09/24(木)23:52:04 No.730853262
クリシュナがアルジュナの中で黒になるのか
7 20/09/25(金)00:04:20 No.730857406
憎しみも愛情もむしゃむしゃと…
8 20/09/25(金)00:08:02 No.730858747
>憎しみも愛情もむしゃむしゃと… そういえば蟲だった頃見境なく丸呑みしてたね…