虹裏img歴史資料館

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20/08/30(日)01:29:09 その年... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1598718549033.jpg 20/08/30(日)01:29:09 No.722783146

その年の夏は、皆特に浮かれていた。 だから、カップルたちの邪魔にならないように少しだけ別の場所にいようと考えたのも、ある意味では当たり前の話だったと思う。 だから、もしかすると必然だったのかもしれない。 あのとき、彼女と出会ったことも。

1 20/08/30(日)01:29:34 No.722783254

初めて会ったときの印象は、不思議なひとだな、というものだった。かつて自分が会ってきたどんな人間とも、彼女は違ったから。 長く伸びた艶のある髪と、咲き誇る彼岸花のような吸い込まれるように赤い瞳は、美しく造形された人形を想起させた。 幽世から迷い出たようなその儚げな姿を、何かに憑かれたように暫く見ていた。 美人には慣れたつもりでいたけれど、彼女の纏う雰囲気が、目を離すことを許さなかった。

2 20/08/30(日)01:29:59 No.722783343

幽霊だと言われても、ちっとも驚かなかった。浮世離れした彼女には、ある意味納得のいく身分だとさえ思った。 そうして暫く一緒に暮らした後、彼女は忽然と姿を消した。この世のものではないものが自分と関わりすぎてはいけないと言って。 彼女の言い分は正しかったけれど、諦めきれなかった。彼女と過ごした時間をただの思い出にしてしまうのが、どうしても嫌だった。

3 20/08/30(日)01:30:17 No.722783428

帰還する前の夜に、こっそり彼女にもう一度会いに行った。 「姉さん、俺… また、姉さんに会いたい」 思いの丈をそっと口にした。約束をしてはいけないと言われていたけれど、それでも構わなかった。 彼女は困ったように、暫く黙っていた。けれどどこか嬉しそうに微笑んで、手をこちらの手に滑り込ませた。 「…はい。いつか、きっと会いましょうね」 あのときと同じように握手をしたけれど、その意味はまるで違う。いけないことをした二人の許されざる一時の逢瀬を、月だけがそっと見つめていた。

4 20/08/30(日)01:30:36 No.722783494

そうして、それから月日が過ぎて。 カルデアを出た自分は、普通の人間に戻った。普通に働いて、特別大きくも小さくもない家で寝て起きる、何の変哲もない生活に。 ただ、ひとつだけ。 「立香さん、鍵は持ちましたか」 ちょっと特別な同居人が、部屋にいることを除いては。 彼女がもう一度現れたのはつい最近のことだった。そのときはひどく腰を抜かしたが、今ではもうすっかり、家の頼れるハウスキーパーである。虫が出ると家具ごとねじってしまうのが玉に瑕だけれど。 朝起こしてもらって、昼間は掃除をしてもらって、夜は一緒にご飯を作って。 週末は一緒に出かけて、買い物に行って、映画を見て。 日常の中に彼女がいることが、もう当たり前になっていた。 だから、今日の花火大会を彼女と一緒に見に行くことだって、きっと決まっていたことだろう。浴衣に身を包んだ彼女を見たかったというのも、偽らざる動機ではあるけれど。

5 20/08/30(日)01:30:56 No.722783564

空に光の花が咲いては散ってゆく。彼女はまるで初めて見るかのように、その光を最後まで見つめていた。 「花火を見るなんて、本当に久しぶりで… あのときも、こういうことをしたんですか?」 「うん、帰る前にみんなで打ち上げてね──」 淋しそうな顔をする彼女を見て、自然と口が止まった。 「…カルデアが、恋しくはありませんか?」 おずおずと、彼女が口にする。気を遣わせてしまっていたのだろうか。 でも、今は大丈夫。 「今の話で、ちょっとだけ思い出した… …でも、姉さんと二人で一緒にいるのは、ここでしかできないから」 ちゃんと、彼女はここにいてくれる。

6 20/08/30(日)01:31:13 No.722783647

でも、それだけじゃ嫌だった。もっと先に進みたいと、ずっと思っていた。けれど── 「姉さん、俺、姉さんのこと…!」 伝えようとした言葉は、花火の音と一緒に消えてしまった。 まだ、その勇気は出ない。 花火が終わるまで何も言わずに、ずっと二人で見ていた。 どちらから手を絡めたのかは、もう忘れてしまった。 けれど二人とも、繋いだ手を離そうとはしなかったことは、ずっと覚えている。

7 20/08/30(日)01:31:31 No.722783734

あのときと同じように手を繋いで、二人だけの帰り道をそっと歩く。 「ねえ、姉さん。 これからも、一緒にいてくれる?」 不安を打ち消すように、絡めた指で彼女の手をぎゅっと握る。やはり、彼女は困った顔だ。 でも、やはりあのときのように、嬉しそうに微笑んでくれた。 「…はい。きっと、ずっと一緒です」 彼女はそう言って、体をそっとこちらに預けた。 幽霊のはずなのに、触れた肩から伝わる温度と重さが、ひどく心地よかった。

8 20/08/30(日)01:32:07 No.722783871

再会したあの日、彼女はこんなことを言っていた。 「…だめですよ、あんなことを言っては。 あんなに忠告したのに、もう忘れてしまったんですか? あなたが許してくれるから、私、また会いにきてしまいました」 剣呑な話し振りとは裏腹に、耳元で囁く彼女の笑顔は、どことなく安心したようにも見えた。 彼女の言う通り、きっと自分は間違っているのだろう。彼女がここではっきりと存在を保てるのも、自分という個人にそれだけ強く憑いているからなのだから。

9 20/08/30(日)01:32:31 No.722783948

一緒に帰った部屋で、彼女はこうこぼした。 「私、きっといつかあなたを連れていってしまいます。どこにもいられなかった私に、居場所をくれたあなたを、もう離したくないと、思ってしまったのです。 でも、ああ、なるほど── あのときのあなたも、きっと同じ想いだったのですね」 その赤い瞳から目が離せなくて、黙って彼女を抱きしめた。 喜んではいけないのだろうけど、嬉しさの方が勝ってしまったから。 今はただ、彼女とずっと一緒にいられることが、例えようもなく幸せだから。 今年の夏はきっと、忘れられない思い出になると思う。 だって、ずっと好きだった人と、またもう一度逢えたのだから──

10 20/08/30(日)01:33:39 No.722784205

ふじのんが憑いてきちゃったルート怪文書です

11 20/08/30(日)01:33:55 No.722784264

いい…

12 20/08/30(日)01:36:12 No.722784834

街で楽しい思い出いっぱい作ろうねぇ…

13 20/08/30(日)01:39:43 No.722785602

この後めちゃくちゃ

14 20/08/30(日)01:41:10 No.722785940

ただのお嫁さんでは?

15 20/08/30(日)01:43:22 No.722786460

最期まで一緒にいて看取ってくれるやつじゃん

16 20/08/30(日)01:44:39 No.722786748

>この後めちゃくちゃ 一緒に暮らした

17 20/08/30(日)01:45:10 No.722786856

ひと夏のあやまち続けちゃったか

18 20/08/30(日)01:45:37 No.722786967

永遠の夏休みいいよね……

19 20/08/30(日)01:46:01 No.722787056

甘酸っぱいのとしっとりしたのが同時に押し寄せてくる

20 20/08/30(日)01:47:58 No.722787490

お姉ちゃんと関係持っちゃダメだよ!

21 20/08/30(日)01:50:02 No.722787951

姉(公認)

22 20/08/30(日)01:51:03 No.722788166

姉さんいいよね…

23 20/08/30(日)01:52:13 No.722788463

仕事で疲れた日にはマッサージもしてくれるお姉ちゃん

24 20/08/30(日)01:52:18 No.722788478

ちょっとあのミニシナリオで心奪われた弟が多すぎでは?

25 20/08/30(日)01:53:40 No.722788737

失敬ならっきょ時代からふじのん好きだわ

26 20/08/30(日)01:55:09 No.722789062

ピックアップ召喚はいつなのですか…

27 20/08/30(日)01:55:29 No.722789147

>ちょっとあのミニシナリオで心奪われた弟が多すぎでは? 年の近い美人にお姉さん風を吹かされたいマスターは多いと聞く

28 20/08/30(日)01:58:33 No.722789773

自称じゃないのも大きい

29 20/08/30(日)02:01:03 No.722790267

>不安を打ち消すように、絡めた指で彼女の手をぎゅっと握る。 ねえこれ恋人繋ぎ…

30 20/08/30(日)02:02:17 No.722790528

公式夏休み特異点きたな…

31 20/08/30(日)02:09:05 No.722791835

同意しちゃったかぁ

32 20/08/30(日)02:13:35 No.722792696

>ピックアップ召喚はいつなのですか… 待て

33 20/08/30(日)02:19:45 No.722793801

カルデアのふじのんと幽霊のふじのん 二人に挟まれたマスターの運命やいかに

34 20/08/30(日)02:26:29 No.722794957

また素麺啜りながら町の風景一緒に眺めててほしい

35 20/08/30(日)02:28:00 No.722795188

洗脳して姉にしてくる奴とは違って公認の姉

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