20/08/01(土)15:06:45 【夏休... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1596262005811.jpg 20/08/01(土)15:06:45 No.713776444
【夏休み怪文書】視聴覚室でトランプ遊び 終
1 20/08/01(土)15:06:55 No.713776503
外から響いてくる蝉の声は尚一層激しさを増している。 日差しもより強くなっていたし、外の気温は一層暑くなっているだろうことを予想させる。 とはいえ、僕らの体は随分と冷えていた。朝より体も動く。すんなり帰れば、夏の暑さにそうそうやられないだろう。 最も、家に帰る前に食事がある。ランチタイムに皆で食事をしていこうというのは、キリシュタリアの提案だ。 視聴覚室には現在キリシュタリアと僕の二人だけ。カイニスは特に何も言わずに席を外し、藤丸とリリィは二人で図書館へと向かった。昼前には校門で合流する予定だ。僕もコイツも、基本的に暑いのを嫌ってここにいる。 トランプは置いていってもらったし、幾つか二人での遊び方も教えてもらった。だがなんとなく遊ぶ気にもなれず、今はキリシュタリアがトランプを弄んでいた。
2 20/08/01(土)15:07:13 No.713776573
「そういえば、カドック=ゼムルプス」 「……なんだよ、急にフルネームで呼んで」 ふと、トランプを広げていたキリシュタリアが僕を呼ぶ。 カードの所作は随分と手慣れていて、なんだか長年そういうカードに触れてきたと思えるほどだった。 ……今日のバカ……天然……アホ……何を言っても罵倒にしかならないが、要するに間抜けぶりを見ていると忘れそうになるが、コイツは天才だ。紛れもない、稀代の天才。手遊びの一つ二つ、この数時間でものにしたんだろう。 「いや、私と君がこんなにも親しくなれる特異点が、忘れ去られたあの場所以外にもあったのだと、そう思ってね。鍵はやはり、彼か」 「……?」
3 20/08/01(土)15:07:38 No.713776674
「本当に惜しい。彼があと一月……いや、一週間早く来ていて、私達と交流していてくれれば……ひょっとしたら、私は、私達は今もこうしていたかもしれないのに。少なくとも私の現状は改善されてただろうな……」 「……なぁキリシュタリア、何の話なんだ?」 「少し夢うつつの君の話さ。ふふ、君は結局最後まで、私をキリシュタリアとは呼んでくれなかったのにね」 オフェリアもそうだった。芥は、まあアレだし。ペペさんは残念だったなぁ……。ベリルはまぁしょうがない。デイビットは……ふふ。 聞いたこともない名前が出てくるたびに頭の中にノイズが走る。どうしようもない程頭が痛くなる。 「……?」 「安寧の時間だよ、カドック。けれども君たちの……君の旅はまだ、終わっていない。だから」
4 20/08/01(土)15:08:00 No.713776769
夢から醒める時だよ、カドック。 そういいながらキリシュタリアは。 ……キリシュタリア=ヴォーダイム、は。 ……嘘だろ? なんで僕は。 コイツを、気軽に。 「……ヴォーダイム」 「うーむ、やっぱり寂しい。キリシュタリアと呼んでくれ、気軽にキリシュでもいいのだよ?」 「……」 ……色々しようとした質問が吹っ飛んでいったのが自覚できた。
5 20/08/01(土)15:08:22 No.713776860
「――……なぁ」 「あまり時間は無いよ、昼前には校門に行かないとならないからね」 「……まずそこからなんだが、これはなんだ?」 「夢さ」 夢のようなものか。ああ、確かにその通りだ。 キリシュタリアが生きていて、僕が彼と対等に喋っているなんて、夢以外の何物でもない。 「とはいえ君の夢じゃない。こうやってあっさり目覚められた以上は、君が中心ではないはずだ。ああ、ちなみに私には探せない」 「……ああ、まぁアンタが探せるならとっくにこの世界は終わっているだろうな」 自嘲気味に笑う。まだすべてではないが、色々と思い出した途端コレか。我ながら本当、嫌になる卑屈さだな。 ……卑下するな、だっけか。いや、そういや彼女寮にいなかったか……。マズイ。このまま帰ったらなんか色々マズイ気がする。
6 20/08/01(土)15:08:44 No.713776944
「そうでもない。探知系のものは苦手だからね。できないこともないが、君にだってできるだろう?」 「……ふん。それで、僕は一体何をすればいい?」 「さて、君は果たしてどうしたい? ここでずっと微睡んでいるというのも、選択肢の一つだよ」 「くだらないことを言うなよ、ヴォーダイム」 自然と口からそんな言葉が出たのは。 皇女の最期の姿が脳裏に浮かんだから。 「僕が生き残ったのは、微睡んで幸せな夢を見続ける為じゃない」 「ああ、そうさ。前に進み続けてくれ、カドック。それだけが全てが終わった私達からの願いだよ」 「……」
7 20/08/01(土)15:09:05 No.713777046
憧れ、嫉妬、喜び、痛み、苦しみ、悲しみ、劣等感、羨望――『胸を張りなさい』。 そういうものが、今の僕を動かしているのだから。 いまさら、立ち止まれるわけもない。 僕が生きているのは、死んでいないのは。 為すべきことを、為すためなのだと。 「さて、そんな君にプレゼントだ」 「……オイ、ソレマスターキーじゃないか。いいのか、渡して」 「ダメに決まってる。生徒会長が勝手に複製したのも問題だが、それを他人に譲渡するなど以ての外だ。あらゆるルールから見て、この特異点においてこういう行為は許されないだろうね」 ……。 そういえばここ、特異点だったのか……。 これまで一切攻略したことが無いんだけど……初の特異点が……なんだ? 学生の夏休み……?
8 20/08/01(土)15:09:28 No.713777127
「けれども私は君に謝罪しなければならない」 「……補修の件か?」 「ああ、本当に済まなかった。まさか今日、補修がないなんてね。源屋でかき氷とジュースでもよかったんだが、生憎君は甘いものが苦手だったというしな。ならば、他の物で補填するしかあるまいよ」 「……」 コイツの、こういうところが、本当に嫌いだ。 只の失敗を次に繋げる。あるいは全ての行動が次への一手へと繋がる、繋げられる。天才の所業。嘗てはそれを見て、お高く留まったエリート様だと思ったものだが。 「……お前、ひょっとして今の状態が素か?」 「肩肘張る必要がなくなったからね! 気楽なものだ。ああ、それと、リリィを頼るといいだろう。彼女は今を憂いている」
9 20/08/01(土)15:09:48 No.713777226
……なんでコイツに劣等感なんか抱いていたんだろうか。 ……そういえば、ずっとコイツは『我々クリプターは対等だ』なんて言ってたっけ。エリート様の嫌味だなとしか思っていなかったが……。 「なぁ、まさか」 「私の言葉は全部心からの言葉だったつもりだよ。少なくとも、君たちAチームにはね」 「……何一つ伝わってなかったぞ」 「それだけが心残りでしょうがないよ。信じてくれたのはデイビットだけだったんじゃないかな、全く」 大仰にため息をついて、トランプを軽く指ではじく。円状に置かれたトランプが綺麗に全部捲れた。
10 20/08/01(土)15:10:12 No.713777337
「カドック、この学校は色々な謎を孕んでいる。君と彼で――今は藤丸立香と名乗っている彼とで、見事に攻略してくれ。きっと――この特異点を攻略できるのは、今を生きる君たちだけなのだ」 「……ああ、そういやアイツマスターとか呼ばれてたな。そもそも『藤丸立香』があてはめられたのか……アイツ、本名はなんて言うんだ? ……いや、待て。僕も知っているはずだが、これは思い出せない」 「うん、知ってるが教えられない。教えないのではなく、教えられない、これが口にできる最大のヒントだ。学校を自由に探し回れば、何か見つかるかもな」 「その為だけに、僕にマスターキーを渡す為だけに朝早く来るな……他にいい方法幾らでもあっただろう?」 「私だって少しは遊びたい」 大真面目な顔で言い放ちやがった。 ……嘘だろ? 口元が歪んだのが自覚できた。コイツ相手に嫉妬や羨望は無限に感じていたが、憤怒やそれに類似する感情をを抱く日が来るとは思わなかった。
11 20/08/01(土)15:10:35 No.713777415
「……あのな、僕はこれでもお前には嫉妬してたし、憧れてもいたんだ。こんな風に気軽に喋るなんて考えてもいなかったんだぞ、エリート様」 「私もだよ。君が羨ましかったし、その在り方に憧憬を抱いていた」 「はぁ?」 「君は君が思うよりもずっと――」 僕に何を嫉妬するってんだ? そんな僕の有様を見てか、ヴォーダイムは心底から楽しそうに笑って、トランプをしまう。 そしてから立ち上がった。トランプを懐にしまい込み、視聴覚室を出ようとしていた。 「時間だ。そろそろ行かないとな」 「……ああ、まあ、そうだな。なぁところでヴォーダイム……キリシュタリア」
12 20/08/01(土)15:10:56 No.713777505
そう呼ぶと、キリシュタリアが目を丸くする。 答える気が無いコイツからこういう表情を引き出せただけでも、こう呼んだ甲斐があった。それでも気恥ずかしさが残り、僅かに目をそらして苦笑いを浮かべる。 「なんだよ。言っておくが、校門でいきなりお前をヴォーダイムと呼んだら周りが変に思うだろうって話だぞ」 「それでもとても嬉しいのだよ、カドック。それで、なんだろう」 「いや、ここのカギはどうするんだ。僕が閉めればいいのか?」 「ん? それは問題ないとも、ほら」 言いながらキリシュタリアは別のカギを取り出す。タグがついていた。『視聴覚室』。 ……ああ、マスターキー以外複製してないとは言ってなかったな、コイツ……。
13 20/08/01(土)15:11:21 No.713777599
「……一応聞いていいか? お前、後幾つ鍵を持ってるんだ」 「ん? 視聴覚室、音楽室、理科室、家庭科室、職員室までは複製したな。ほら、ここ昼間は魔術的防御もかかってないしディンプルキーでもないじゃないか。5つもあるとパターンが見えてきてね、実はそのマスターキーは複製じゃなくて自作なんだ」 何言ってんだコイツ。 ああ、いや、そうか。言ってたな。コイツ。誰がマスターキー複製の許可を出すのだとかなんとか。そうか、自作か。誰も止められないな。納得したくない。 外に出ると茹だる様な熱気が襲ってくる。 校門前には既に藤丸たちを含む3名が揃っていた。 夏はまだ続く。けれど、いつかこの夏は終わるのだ。 そしてそのカギはきっとこの学校にある。学校を自由に歩き回る為の鍵を、僕は託された。 前に進め。俯くな。 そろそろ……夢から醒めないとな。
14 20/08/01(土)15:11:34 No.713777653
「精々、うまくやるさ、キリシュタリア=ヴォーダイム。Aチームのリーダー」 「君ならばやれる。君は私が自慢するに値する、素晴らしい友なのだから」
15 20/08/01(土)15:12:05 No.713777786
というわけでトランプは終わりです 最後だけなのにまた長くなった。許して 最終的にリリィとキリシュタリア以外勝ってないっていう中々の戦果。この後カイニスはさんざん弄られることでしょう 次回予定は未定ですが、幾つかゲームを考えています キリシュタリアとカドックは多分続投です。書きやすすぎるこのバカと被害者 というわけでまた次回、どこかでお会いしましょう
16 20/08/01(土)15:16:37 No.713778866
キリ様は今を生きる人じゃないんだよな…
17 20/08/01(土)15:20:50 No.713779841
【GET】学校のマスターキー いつであろうと学校を自由に歩き回れるマスターキー。 譲渡は許されていないので、学校に行くならカドックを誘ってみよう。 自由に使ってください。現場からは以上です
18 20/08/01(土)15:23:53 No.713780489
譲渡不可を律義に守るんだ…
19 20/08/01(土)15:33:32 No.713782596
>……卑下するな、だっけか。いや、そういや彼女寮にいなかったか……。マズイ。このまま帰ったらなんか色々マズイ気がする。 カドック。
20 20/08/01(土)16:03:45 No.713789331
>譲渡不可を律義に守るんだ… キリ様だし…