虹裏img歴史資料館

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20/07/08(水)01:02:09 ゾンビ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1594137729860.jpg 20/07/08(水)01:02:09 No.706590118

ゾンビィ達が住まう屋敷は広く、部屋も多い。 その一室から、大きな物音が響いていた。 「幸太郎さーん!これ、本当にあるんですかー!?」 一室は、物置。 内側から響く音と悲鳴染みた叫びが、中だけでは収まらず外に出て行く。 「つべこべぶつくさ言わずに探さんかい!」 そして、打ち消すように外側からの叫びが響き渡る。 「で、でもぉ……全然見つからないっていうか、物多すぎてわかんないんですけどー…」 「そりゃそうじゃい!季節物やら備品やら、だいぶ前の物やら何もかも全部突っ込んでるからな!」 「えぇ…」 さくらの弱々しい声へ、さも当然のように叫び返す幸太郎。 この会話の間にも、物が置かれる音や引き摺る音が部屋からは止まない。 「うん、しょ!…ていうかこれ、幸太郎さんがやった方がぁ、良いんじゃないです、か!?」 ドスン、と鳴った一際大きな音と共に、途切れ途切れの疑問が一つ。 「それはちょっとめんどいかな…腰に来たらやだし…」

1 20/07/08(水)01:02:37 No.706590205

「え!?幸太郎さん今なんて言いました!?」 「俺は暇じゃ無いんじゃい!お前がそうしてる間にも…あっ!はい!こちらフランシュシュです!」 「……ホントかなぁ…?」 突然聞こえ出した普段よりも数段高い、状況的を鑑みるにあまりにも露骨な声。 溜め息を零しながらも、さくらはまた一つ、クリスマス用というシールが貼られた箱を退かした。 「とにかく!さっさと笹見つけんと間に合わんぞ!」 「さっさと……笹だけに?」 「達者でな」 「嘘ですごめんなさい置いてかないでくださいセット手伝ってください」 再度溜め息を零すも、一度やると決めたさくらの意志は揺るがない。 今宵は七夕。願いを込めた短冊を笹に吊るし、織姫に祈る。 生前。かつて学生だった頃に、灰色の時代を過ごしたさくら。 青春と輝きは何処へかに置いてきた彼女には、今のメンバーと盛大にしたいという、強い熱意があった。 その熱意はさくら自身を突き動かし、更にはそこら辺を歩いていたプロデューサーをも動かした。 ……まぁ、嫌々ながらも動かさせられたと言うのが、幸太郎からすれば正しいのだが。

2 20/07/08(水)01:02:48 No.706590244

いずれにせよ、協力を得たさくらは止まらない。 後の事を考えれば、血の通っていない体に力が湧いてくるのを感じ取れた。 皆と笑い合える事を思えば、目の前にある箱の山もこれっぽっちと思えた。 「……あっ!」 そうして、お目当てと出会った。 大きな箱を退かした際、それに隠されていた裏から見えたのは、七夕と書かれた古いシール。 「あった…ありましたよ!幸太郎さん!」 「え?あったんだ…」 「は?」 「いや何でもない!よくやったのぉさくらぁ!!」 扉の奥から白い目を敏感に感じ取った幸太郎は、とりあえず褒めて取り繕う逃げの一手。 「…まぁ、見つかったから良いですけど」 結果、さくらの機嫌が良かったのでギリギリではあるがセーフ。 (何はともあれ、良かったぁ…) 見つけられた事と、間に合う事に安心したさくらは、高鳴る胸をそのままに箱を開けた。

3 20/07/08(水)01:03:06 No.706590303

「……さくら?」 さくらと交わした先程のやり取りから、音が無い。声も無い。 幸太郎の方から声を掛けてみても返事が無い。 となると、好奇心を隠せず気になるのが幸太郎。 「おーい…」 小さな声を発しつつ、ゆっくりと恐る恐る扉を開けた。 「幸太郎さん!これ、すごかね!」 開けた先に居たのは、当然さくら。 自らの身長よりも高い笹の造花を抱いて、満面の笑顔を浮かべていたさくら。 「居るなら返事せんかい!」 「え?あっ…ごめんなさい…夢中になってましたぁ…」 「ったく…」 さくらの笑顔を前に幸太郎は、これ以上の悪態がつけない。 居心地の悪さのまま視線を動かすと、開いた箱が目に付いた。

4 20/07/08(水)01:03:21 No.706590356

「…さくら、それは」 「あ!そうだ幸太郎さん!」 静かな声を遮って、さくらの陽気な声が部屋を照らす。 「箱の中に短冊が入ってたんですよ!色んなの!今出しますね!」 笹を近場に立てかけた後、箱に体ごと頭を突っ込んださくらが、ガサゴソと音を立てる。 その音を聞きながら、幸太郎は徐々に思い出していた。 「……いや、それはいい、俺がや」 「えーっと確か…あった!」 箱から出たさくらが手に握っていたのは二つ。 一つは、色鮮やかな短冊の束。 もう一つは、少しヨレた黒の短冊。 「…あ」 さくらには裏面、幸太郎には表面が向いていた黒の短冊。 それを、その文を目にしてようやく、幸太郎は完全に思い出した。 「こっちの黒いのなんでしょうね!えっと…?」

5 20/07/08(水)01:03:53 No.706590476

文を読もうとするさくらの手から、一瞬にして黒の短冊が消えた。 「これは、俺のだ」 幸太郎がさくらから奪い取った。 さくらがそれを理解するのには、振り切った腕と発した言葉を持ってしても少しの時間が必要だった。 「…あーっと…昔書いたの、ですよね」 「…」 黙りこくる幸太郎に、上手く言葉が出て来ないさくら。 しかし。普段ならこのまま流れに身を任せるさくらであるが、今は違う。 箱を見つけた達成感のままに!もうじき訪れる楽しみへの高揚感のままに! 今ならば、なぁなぁで聞けるのではないか!と判断した! 「幸太郎さん、何をお願いしてたんですか!?」 「くぉんのプライバシー侵害ゾンビィー!!笹持って早く行けボケェー!!」 「ごめんなさいぃー!!」 瞬殺されたさくらは、怒号に背を押されるように物置を走って出て行った。 途中で笹を忘れた事に気づいて戻り、手にしっかりと掴んで今度こそ仲間達の下へ走って行った。

6 20/07/08(水)01:04:25 No.706590597

一方、幸太郎は物置を出て外へ。 数多の星が瞬く夜空の下、一人。 さくらからもぎ取った黒の短冊を見やり、空を見上げる。 強く握り締めてしまったせいで皺塗れになってしまったそれは、もはや織姫には届かないだろう。 (…だが、それでいいさ) フッと笑った幸太郎は、握った手を空に放った。 皺だらけにも関わらず、風に乗った黒の短冊を見る事無く。幸太郎は屋敷に戻っていった。 ユラユラと揺れながらも、黒の短冊はゆっくりと夜空へ。 星々が輝く空の一部を黒で遮りながら、揺蕩う短冊は確かに空へと舞い上がる。 『もう一度、君に会いたい』 表面の白地に記されていたのは、叶うはずのない願い。 しかし、今は。 やがて黒の短冊は、役目を終えたように。 成った事を織姫へ伝えに行くように、空に溶けた。

7 <a href="mailto:sage">20/07/08(水)01:04:43</a> [sage] No.706590647

七夕だったでありんす 一時間遅刻しんした

8 20/07/08(水)01:13:58 No.706592669

幸太郎はんの願いは祈るんじゃなくて自分自身でどうにか足掻いた結果叶ったと考えると胸にくるでありんすな…

9 20/07/08(水)01:14:14 No.706592738

>「とにかく!さっさと笹見つけんと間に合わんぞ!」 >「さっさと……笹だけに?」 >「達者でな」 >「嘘ですごめんなさい置いてかないでくださいセット手伝ってください」 夫婦漫才でありんす!

10 20/07/08(水)01:16:39 No.706593263

切なか…

11 20/07/08(水)01:22:48 No.706594486

>「それはちょっとめんどいかな…腰に来たらやだし…」 巽アラサーだもんな…

12 20/07/08(水)01:26:42 No.706595347

よか…

13 20/07/08(水)01:33:13 No.706596598

切ないけどやりとりがやーらしかなのでほっこりもする

14 20/07/08(水)01:57:42 No.706601028

よかったい!

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