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  • 「少尉…... のスレッド詳細

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    20/06/14(日)23:50:15 No.699660744

    「少尉……継国さん!危険だよ!防空壕から出ちゃさあ!」 「駄目だ善逸!臣民が危険なのだ、行かないわけにはいかん!かつての鬼殺隊員としても!帝國軍人としても!」

    1 20/06/14(日)23:50:36 No.699660887

     屋根が崩れ落ちていく。寄りかかっている柱は既に燃えかかっているのにも関わらず、熱さを全く感じない。ここが自分の死に場所と、継国は理解した。ここ数か月、東京は地獄と化している。爆撃により建物は悉く燃え、人々の命と、彼らが作り上げてきたもの全ては灰燼に帰した。後の世にて、東京大空襲と呼ばれる出来事の一部である。

    2 20/06/14(日)23:51:00 No.699661038

    きたか…!

    3 20/06/14(日)23:51:05 No.699661073

    30年ほど前のこと。継国と、彼の属する鬼殺隊は鬼の首魁とその手下を見事に滅ぼした。しかし代償は大きく、彼は現代まで存続していた親戚の少年と、部下のように目を掛けていた少年と、淡い想いを寄せていた戦友の女性を失った。彼はそれでも折れることなく、鬼殺隊の屋台骨であった産屋敷家にて働き、ひょんなことから結んだ縁から、妻と子供を得た。仲間に出来た子供たちの、幾人かの名付け親にもなった。しかし、彼には決戦の後から心に小さな、それでいて確固たる穴が空いてしまった。妻子も、仲間の幸せも、その穴を仮初に塞ぐことしか出来なかった。  故に―ーかつて心身を捧げた国が見る見るうちに腐り崩れ落ちていく様を見て、その結果として民草が苦しむのを空襲で目の当たりにすれば、彼が東京を駆け出していくのは必然であったのかもしれない。

    4 20/06/14(日)23:51:40 No.699661325

    キャ~❤︎❤︎❤︎

    5 20/06/14(日)23:52:02 No.699661477

     継国は元部下にして友人の制止する声を振り切り、燃え往く東京を奔った。誰かが家に取り残されたならば連れだし、瓦礫に足が挟まれているならば熱された瓦礫に腕が焼けるのも構わず持ち上げた。焼夷弾の小弾が降ってくれば、誰も気が付かぬうちに叩き落し、撃ち落とした。彼の顔には月のような痣が目の周りに浮かんでいた。人々は地獄の業火の中で、輝く月を見出した。  継国は多くの人々を助けた。もはや彼を軍人と見なす人はおらず、ただ感謝し、彼の行く末を心配した。だがその言葉が彼に届くことはない。憑かれたように一人助け、二人助け、その場に助けを求める者が無くなれば瞬く間に姿を消し、また次の家へと向かうのだ。そうして幾つもの家を巡り、ついに継国の脚は動かなくなった。とある家に取り残された子供を逃がした、その直後のことである。

    6 20/06/14(日)23:53:00 No.699661819

     あの子は無事に逃げられただろうか、と継国は覚束ない思考をした。家は全焼への道を急速に辿り、彼自身の身体を薪とするのはもはや秒読みだった。彼の視界はもはや現実の認識すら危うかった。焼け落ちた屋根の隙間から、有明月が彼を照らした。余りにも覚束ない光と、辺りを蝕む炎。だが彼には見えない。彼は走馬灯を見ていた。現在までの産屋敷家での仕事、産まれてきてくれた子供、出会った妻、家族の思い出が彼を包み、通り過ぎていった。  30年の思い出と幸せは瞬く間に過ぎ去り、継国は力を抜いた。ここから先は思い出したくない。仲間・上司・部下が目の前で死んでいった光景を、走馬灯という形で鮮烈に振り返りたくはない。死はすぐそこにある。もう何も感じないのだから、あとは眠るように逝きたい……

    7 20/06/14(日)23:54:27 No.699662365

    「継国さん」  不意に、懐かしい声がした。彼は色を失った景色の中で、かつて失った女を見た。何故か口が開き、声が出た。 「甘露寺殿」

    8 20/06/14(日)23:54:46 No.699662470

    「なあに?」 「済まなかった。君を守れなかった……」  甘露寺は首を振り、継国を労わるかのように微笑んだ。 「そんなことないわ。あなたは頑張ったわ!ほら!行きましょう!」  甘露寺は継国に手を差し伸べた。彼は笑って彼女の手を取り、立ち上がって共に歩き出した。甘露寺は繋いだ手を放さず、彼岸への長い長い道を先導する。仲間が待っていることを告げると、継国は驚き、また笑った。もう誰も傷つくことない世界がどのようなものなのか、浮き立つような気持ちになりながら。

    9 20/06/14(日)23:55:02 No.699662582

     焼夷弾で燃える家は今にも崩れ落ち、全てを灰へと変えようとしていた。ついに焼け始めた柱には、先と同じく継国が寄りかかり、目を閉じている 。彼の魂は此岸にはない。身体は動かず、建物諸共焼け落ちるのを待つばかり。しかしそれでも、彼の顔は待ち人をようやく得ることができたかのように安らかであった。

    10 20/06/14(日)23:55:31 No.699662771

    こんなこと考えてたらさっきの感想スレが落ちてたわ

    11 20/06/14(日)23:57:21 No.699663476

    辛い…でもこれも一つのifだな…!

    12 20/06/14(日)23:59:48 No.699664284

    湿度が高い…

    13 20/06/15(月)00:00:19 No.699664504

    身近な誰かを振り切って命がけで世のため働く道を選んだわけだ

    14 20/06/15(月)00:01:12 No.699664807

    駆け出さない訳にはいかなかった それだけなんだろう

    15 20/06/15(月)00:01:21 No.699664865

    本当関わったキャラが悉く退場したからな

    16 20/06/15(月)00:01:45 No.699664985

    そっか本編軸からたった30年で太平洋戦争か… おつらい…史実がおつらい…

    17 20/06/15(月)00:02:52 No.699665342

    おい待てェ 炭次郎も善逸もカナヲも関わったけど生き残ったじゃねえかァ ちゃんと天寿を全うしろォ

    18 20/06/15(月)00:03:01 [s] No.699665389

    人の力に滅される兄上と人の力に弾圧されかける少尉殿で対照的だったので 目的のために全てを振り切ってしまう部分を兄上とシンクロさせてみました

    19 20/06/15(月)00:05:53 No.699666313

    いやあ…ほんとそういうことしそうだが…辛い…

    20 20/06/15(月)00:06:47 No.699666600

    関東大震災にスペイン風邪に太平洋戦争に 史実の死亡フラグイベントが多い…!

    21 20/06/15(月)00:08:09 No.699667066

    この怪文書だと蒲公英は生き残ってるの確定だから……

    22 20/06/15(月)00:09:15 No.699667410

    お辛いけど本当良い... 少尉の魂に幸あれ

    23 20/06/15(月)00:10:32 No.699667790

    少尉殿最初のプロローグから最後までかっこよかったよなあ… 今までで一番愛着湧いたわ

    24 20/06/15(月)00:14:17 No.699669031

    じーんと来たわ…

    25 20/06/15(月)00:20:04 No.699670868

    >関東大震災にスペイン風邪に太平洋戦争に >史実の死亡フラグイベントが多い…! なんなら自分のご先祖もよく生き残ったな…と思ってしまう

    26 20/06/15(月)00:23:46 No.699672036

    辛い…異常者どもめ… 何が楽しくてお前たちは殺し合っているのだ

    27 20/06/15(月)00:25:50 No.699672713

    ずっときゃーきゃー言ってた気がする すごいたのしかった

    28 20/06/15(月)00:27:58 No.699673458

    女性陣が普通に生きて誰かとFFするのも見たかったですよ俺は…なんで皆死ぬんですか!!??!??

    29 20/06/15(月)00:28:22 [s] No.699673597

    仲いい人が目の前で死+軍法会議なら幸せの箱にもほんの少し穴が空くよねと思いました そういう意味ではいくら強くても無惨を逃がして兄上が鬼になった縁壱にも通じるね!

    30 20/06/15(月)00:34:43 No.699675736

    いい…辛い…好き…癖に刺さる…