虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    20/06/13(土)21:07:21 No.699213529

    「ほらマスター、見てください。とっても面白い景色よ?」 ザクリ、と彼女が雪を踏みしめる音が響く。この銀世界の中にいるのは、自分と彼女の二人だけ。静寂に包まれたこの環境では、お互いの足音も、息遣いもよく響く。 だから、そう。きっと自分が寒さで歯を鳴らしているのも、彼女には聞こえているんだろう。 「……まったく、いくらなんでも寒がりすぎじゃないかしら」 「いや、だってさ……」 そもそも今この山形を歩いている経緯を思い返す。そもそも自分は数時間前まであの色々と熱気のあふれるラスベガスに居たのだ。 それが今日、現地の新聞に懐かしき故郷のいち風景が映っていた。それが彼女の琴線に触れたのか、行ってみたいとおねだりされ。最初は反対していたダヴィンチちゃんや新所長も、彼女がカジノで稼いだ資金・資源をカルデアに寄付するという話が出ると手のひらを返した。 かくして急遽日本へのレイシフトが行われ、辿り着いたのがこの山形の蔵王樹氷だった。こんな短期間のうちに40度近い環境から氷点下15度の環境に放り込まれれば誰だって寒いだろう。

    1 20/06/13(土)21:07:53 No.699213772

    それに対し、この皇女様は。 「氷点下15度?あら、その程度?ロシアの冬は、もっと厳しいのだけれど」 「だろうね……」 確かに日本よりも緯度の高いロシアは、極寒の地なのだろう。自分の行った異聞帯のロシアは環境変化のせいで極寒という言葉でも足りないような寒さだったが、本来のロシアもあそこまででは流石になくても自分の知らないような寒さであることには違いない。 「というか、防寒が足りないのではなくて?見たところ、そんなに厚着でもないですし。寒いところに行くのなら防寒は徹底的に!これ、基本中の基本よ?」 「いや、急に支度したから防寒グッズとかは収納してて引っ張り出す時間もなかったし、冬服出すだけで精いっぱいだったから」 というか極地礼装着てくればマシになったのに……と呟いたが、それをアナスタシアに切り捨てられる。 「減点3。確かに魔術礼装は機能性に優れていますが、服装にはTPOというものがあるでしょう。私と二人で連れ立って歩くというのに、制服着用なんて許すはずがないでしょう」 そう言われてしまうと、返す言葉もない。カルデアの任務でもないのに、礼装を着込んだままというのは、確かに味気ないというか。

    2 20/06/13(土)21:08:34 No.699214094

    「そうだね、アナスタシアもヴィイも可愛くめかしこんでるのに、俺だけ魔術礼装のままっていうのも二人に悪いもんね」 「そういうことです。ところで、私たちの服装を褒めるのが今更ですか。なっていませんね。追加で減点5」 「手厳しいなぁ」 「……ですが、可愛いと言ってくれたので特別に200点差し上げましょう」 全然そんなことなかった。むしろ甘々な採点だった。でもそれを指摘すると何か言われそうだから、黙っておくけど。 「でも、寒さで景色に集中できないのはもったいないわね」 仕方がありませんか、と言ってアナスタシアが肩から提げていたカバンから何かを取り出す。ぱっと見、水筒のようだった。 「ほら。これを飲んで暖まってください」 「えっと、これは?」 「もう、暖まるために飲むものと言ったら決まってるではありませんか。 водка……つまりウォッカです。私の国ではお馴染みですね。ストレートでグイッとどうぞ」 「ちょっと!?」

    3 20/06/13(土)21:09:02 No.699214340

    ウォッカの度数って確か40近くあったはず。そんなのをストレートで飲むなんてしたら、今度は急性アルコール中毒で別の危険に晒されるのではないだろうか。いや、まあ、耐毒で聞かないのかもしれないけど。 半眼で睨んで抗議の意を示すと、彼女はとても楽しそうにくすくすと笑う。 「もう、冗談に決まってるでしょう?」 「冗談じゃないことが今まで何度かあったんだけど?」 彼女のあだ名はシュヴィブジック。小悪魔のようにこちらを翻弄したことなんて数え切れないほどある。何も彼女の行動すべてを疑うわけじゃないけど、かといってすべての行動を信じるのは危険だということは学ばせてもらった。まあ、流石に命の危険があるようないたずらはされていないが。 そう伝えても彼女は知らん風と言わんばかりに口笛を吹く。その姿が妙に可愛らしいので、追及する気も失せてしまった。 「冗談は置いておいて、それはホットジンジャーレモンのドリンクよ。体の芯から暖まると聞きましたから」 「なるほど……うん、いい香りがする」

    4 20/06/13(土)21:09:24 No.699214507

    蓋を開けると、瓶の中から優しい香りが立ち上る。魔法瓶でしっかりと保温されたからか、カップに注がれたそれはまだまだ温かいままだった。 一口、口の中に流し込む。ショウガの刺激とレモンの酸味が、はちみつの優しい甘みに包まれて、とても飲みやすい。火傷しないように、ちびちびと飲み進める。温かいものを飲んだからかそれとも薬効か、体の奥がじんわりと温まっていくのを感じた。 「ありがとう、お陰で少しは暖まったよ」 「なら良かったです。この後は温泉が待っていますから、それまで少しの辛抱よ」 「温泉、温泉かあ……」 ほわほわと夢想する。冷えた体で熱々の温泉に入る。観光で歩き回った疲れが溶け出して、心行くまでリフレッシュできる。 しかも、温泉から出たらそこには湯上りのアナスタシア。彼女の白い肌が湯上りでほんのりと赤くなるさまはとても色っぽいだろう。浴衣姿であればなお言うことなし。うん。 「そんなに温泉が楽しみなの?日本人はみんなお風呂が好きなのね」 「え?あ、ああ。うん」

    5 20/06/13(土)21:09:42 No.699214649

    変な想像をしていたところで、アナスタシアの声によって現実に引き戻される。いけないいけない。こんなこと考えてることが知られたら彼女に何を言われるやら。 「でも、少し温まったということは、まだ寒いってことよね?じゃあ、はい」 そういって、アナスタシアは手を差し伸べてくる。どういう意図かなんて聞くまでもない。俺はその白魚のよう綺麗な手を傷つけないように優しく、でも離さないよう、離れないようにしっかりと捕まえる。 二人の指はどちらからともなく絡まり合い、より深く結びつく。お互いがお互いを離さないように。 「こうして触れ合っていたほうが、暖かくなるでしょう?それこそ、身も心も、というやつです」 「うん、そうだね。とても、とても暖かい」 「なら良かった。あ、それなら、もっと身を寄せ合った方が暖かいかしら」 こんなふうに、と言いつつ俺の腕に抱きついてくる。アナスタシアの体温を、より鮮明に感じる。それと、彼女の鼓動が少し速くなっているのを。きっと、それは俺も同じだろうけど。

    6 20/06/13(土)21:09:59 No.699214787

    ふと、今までずっと曇っていた空の切れ間から光が差し込んだ。その陽光は雪面や樹氷に反射し、辺り一面を輝かせた。 「……綺麗」 ぽつりと呟く君の、頭一つ分低い位置にある顔を見やる。目の前に広がる幻想的な風景に、これでもかと魅了されているようだった。 「うん、そうだね。とっても綺麗だ」 確かにこの風景はとても素敵なものだ。でも、今の自分がそう感じるのは、きっと、隣に君が居るから。君と二人で見る景色だから、きっと何倍も美しく見える。 ああ、でも。自分が一番綺麗だと感じたのは、目の前に広がる景色に目を輝かせている君なんだ。……なんて、流石に恥ずかしいから口には出せないけど。

    7 20/06/13(土)21:11:12 No.699215341

    under the same skyで蔵王樹氷を旅行する皇女いいよね…な怪文書です

    8 20/06/13(土)21:16:23 No.699217838

    地元民ですがここ数年樹氷出来てないんです…

    9 20/06/13(土)21:17:24 No.699218306

    私こういう目の前の景色より君のが綺麗とかいう 歴史上アホ程使われまくったシチュ好き!!!1

    10 20/06/13(土)21:30:53 No.699225020

    いい…皇女様可愛い…

    11 20/06/13(土)21:56:20 No.699236942

    マスターが寒がっているのを口実に引っ付いてる… あざとかわいい