20/05/24(日)23:00:23 「ハハ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1590328823126.jpg 20/05/24(日)23:00:23 No.692823536
「ハハハハ、見るがいい! マナストーンのエネルギーを解放したよ!」 仇敵の哄笑が、火炎の谷に響き渡る。 …けれど、彼の耳には届いていないように見えた。 「封印の解除には禁呪とその媒体が必要だったんだけどねえ。あんた達がきっちりあの小娘を殺してくれたおかげで、なにもかも目論見通りになったよ。礼を言っておこうか」 挑発するような美獣の言葉に、彼の表情がぴくりと動いた。 いや、表情だけじゃない。彼は無言のまま、美獣に向かって踏み込んでいた。一瞬で距離を詰め、宿敵の首筋へと短刀を振り抜く。 ――その瞬間に、美獣の姿は消え失せていた。彼女の声だけが響く。 「聖域への扉は我が主、黒の貴公子様が開く! 坊や達は大人しく見ていな!」 彼はなにも反応を見せなかった。空振りした武器を納めることすらせず、どこを見ているのかもわからない。 ……なにを考えているのかも、私にはわからなかった。 火の精霊の力を借りるべく、訪れた灼熱の砂漠で。 私達を待ち受けていたのは――美獣によって操られ、虚ろな瞳を宿したジェシカさんだった。
1 20/05/24(日)23:00:56 No.692823762
ホークアイは必死に声を投げかけていた。彼女は美獣に洗脳されているだけだ、なにがあっても手を出さないでくれ――私達にそう懇願し、たった一人でジェシカさんと対峙した。 でも、彼の言葉は届かなかった。何度も何度も、どれだけ彼女の振るう刃にその身を刻まれようとも、繰り返し彼女の名を呼んでいたけれど…それでも、届かなかったのだ。 見かねた私達が止めに入ろうとしたところで、彼は決心したようだった。誰かに詫びるような言葉を小さく吐いた後、ジェシカさんの胸に――短刀を突き立てた。 倒れた彼女とホークアイは、少しだけ言葉を交わしたようだった。最後の最後で、僅かにジェシカさんの意思が戻ったらしい。 ホークアイはそのまましばらく、彼女の亡骸の隣にうずくまっていたけれど――やがて立ち上がり、振り返ったその顔には、涙の跡が見えた。 そして決然と、行こう、とだけ言ったのだ。 それからというもの、目に見えて彼の様子は変わった。変わってしまった。 こちらから話しかけない限りまともに口を開くことはほぼなくなり、返事も最低限の短いものだ。街で休息を取ろうとしても、宿屋から出てこない。
2 20/05/24(日)23:01:26 No.692823961
「…ひょっとして、こっちがアイツの本性なのかも」 ある街でぽつりとアンジェラがそう漏らすのを聞いて、私は心臓がすくみ上るような感覚に陥った。 じゃあ、以前私達に見せていたあの顔は――あの人懐こい笑顔と態度は、仮面に過ぎなかったということなのだろうか。 私はいたたまれなくなった。同時に、彼から目を離すのがたまらなく不安になってしまった。少しでも見失ってしまったら、そのまま彼がどこかへ消えそうな――そんな妄想に囚われてしまったのだ。 実際のところ彼がどんな自棄を起こすかわからないというのは仲間達の間でも共通認識だったらしく、常に誰かが見張っておくべきだろうという話になり、そしてそれは自然と私の役目になった。反対の声は上がらなかった――当然、私自身からもだ。 それでも、旅は続けた。続けるしかなかったのだ。 そして――私にとっても彼にとっても仇敵であるその女を、仕留める時が来た。 「……哀れな女だな」 あらゆるものを利用し、ただ愛する者のためだけに生きた彼女の最期を見届けて、彼はそう口にした。ぞっとするほどの冷淡な声音で。
3 20/05/24(日)23:02:05 No.692824204
――それだけだった。 仇を討ったにも関わらず、彼はその快哉を口にはしなかったのだ。私と違って。 …イーグルさんとジェシカさんの名を、口にはしなかったのだ。 それからほどなくして、私達の旅は終わりを告げた。 私達はそれぞれの故郷へと戻り、何か月かが過ぎたところで―― その報せが、私の元に届いたのだ。 「…いなく、なった?」 ナバールからの使者としてやって来た見覚えのある二人組を前にして、私は呆然と呟いた。 確か最後に見たのは、この城の玉座の間の手前で、美獣に操られ私達の足止めをした時だったろうか。無論、今は二人とも正気に戻っている。 私達ローラントの人間にとっては全ての発端ともいえる相手なのだが、それでもこうして堂々とやって来たのは、彼らなりのけじめなのだろう。 ――私に、彼の事を伝えるために。
4 20/05/24(日)23:02:30 No.692824351
「…最後に姿を見たのは、イーグルさんとジェシカさんの墓前でした。それで、その次の日には、もう――」 「旅から帰ってきてからも、明らかに様子が以前と違っていました。なにかがあったのだろうとは、皆が察していたのですが」 申し訳なさげな口調で言ってくる。 私は――ああ、そうか、と。 なんとなく、納得してしまっていた。 ジェシカさんの顛末に関して、私達はナバールの関係者には一言も話していない。明かすも明かさないも、すべて彼に委ねたのだ。 知っているのはニキータさんくらいだろうけれど、そのニキータさんも、恐らく話していなかった。無論、私達に彼を責める筋合いなどない。 そうして、この時を迎えてしまった。 私はそれ以上、なにも考えられなかった。体から力が抜け落ち、その場に膝をついて―― 「リース王女!?」 慌てた様子で声を上げる二人を見ることもなく、ただ、涙を流すしかなかった。
5 20/05/24(日)23:02:47 No.692824453
それから数年後。 エリオット新国王の即位と共に、ローラントの王女は姿を消した。一枚の書置きだけを残して。 それにはただ一言、彼を探しに行きます、とだけ書き記されていた。 関係者達はその一文のみで全てを察し、それ以上言及することはなかったという――
6 20/05/24(日)23:03:09 No.692824606
洗脳ジェシカのイラストを見て思わず怪文書を思いついてしまった 反省はしている
7 20/05/24(日)23:08:53 No.692826885
お辛いお辛すぎる
8 20/05/24(日)23:20:51 No.692831657
本当に怪文書で困る 死闘の末に当身で気絶させて 不思議パワーで洗脳解除 正気に戻って自分の格好に羞恥を覚えるも 心の中で何かの扉が開いてこの後ちょいちょいこの格好でホークアイを誘惑しにくるも察知したリースに妨害されて枠外で女の闘いが始まる… 位のハッピーエンドでお願いします
9 20/05/24(日)23:22:55 No.692832507
>位のハッピーエンドでお願いします 聖剣3世界は基本殴ってすべてを解決するスタイルだからそれくらいでいいよね…