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    20/04/08(水)00:50:48 No.677779325

    舞い散る桜の花びらの中で、遠くに想いを馳せていた。 郷愁を感じるような、胸が痛くなるような、そんな景色。 あれは、何時だっただろうか。それは、確か、十年……? 「幸太郎さん?」 思い出そうと過去を弄る思案の手が届きそうだった。だが誰かの声が、今の隣から。 「……なんじゃい」 「ほんっとに綺麗ですけど……なんで屋敷に植えてあるんです?」 「趣味が盆栽だからつい」 「えぇ……?盆栽ってレベルじゃ無い気が……?」 困ったように眉根を上げるさくらを見て、俺の認識も今へ。 そうだ。俺は今、屋敷の裏庭に植えた桜の下でさくら達と花見をしていたんだった。 なんなら、今日花見をしようと言い出したのも俺だった。 手にしていたワンカップに視線を落とせば、鏡面に桜の花びらが一枚落ちる。 一口呷れば、唇に触れる柔らかな感触。一息吐いて、再度アイツ等の喧騒を肴に桜を仰いだ。

    1 20/04/08(水)00:51:02 No.677779398

    「なーなーグラサン。この桜がば立派っちゃけど、何年物なんだよ?」 「十年」 「十年でここまで立派な桜が出来る物なんですか?」 「さくらの遺骨撒いてやったら、そりゃあもうぐんぐん育ったわい」 「……えぇ!?私ってそんな、花咲かじいさんならぬ花咲か少女みたいな力あったんですか!?」 「呼んだ~?」 「愛の事じゃないわい」 「あっそ~」 ……?何か、愛の様子がおかしい気が。 穏やかな風に揺れる枝から視線を下ろす。 愛だ。顔が赤い。手には……俺が持っているのと同じワンカップ。中身は空。 「愛お前……呑んだな?」 「あによ~?わるい~?」 「面倒事っぽいからさくら頼んだ」 「うえぇ!?」

    2 20/04/08(水)00:51:29 No.677779523

    喧騒が一層騒がしくなる中、桜を見つめる。 それにしても。何故今日なのだろうか。何故四月七日なのだろうか。 「……ハッ」 答えが見え透いた自問に、思わず鼻で笑ってしまった。 態々今日を選ぶ理由なんて決まっている。 「愛ちゃ~ん!ほらこっち~!焼肉あるとよ~?」 「いく~」 愛を介抱するさくら。困ったように笑うさくら。 そうだ。今日はさくらの命日だ。 さくらからは、気にしていないと言われていたが。 『俺がやりたいんだからやるんじゃバカタレェ!』 なんて言い、この花見を強行したのは他でもない俺。 本人以上に気にしてどうするのか。我ながら馬鹿らしい行動だ。 だが、まぁ。 笑い合うアイツ等を見れば、無駄じゃない事だけは確かだろう。

    3 20/04/08(水)00:51:39 No.677779572

    「幸太郎さん!」 名を呼ばれた。向けば、愛に箸で肉を食べさせている途中。 「今度はなんじゃい」 「えーっとですね。あのですね」 さくらは俺の顔を見ながら言葉を濁す。 口をまごつかせるのと同時に身体の動きもまごついているせいで、愛の顔に肉が何度もぶつかっていく。 「何やっとんじゃお前は。ハキハキ喋らんかい」 そうやって煽ってやると、肉が愛の頬にめり込むのと同時にさくらが俺を見据えた。 「今日って、私の命日じゃないですか」 「……そうだな」 「死んじゃってから、今日まで色んな事ありましたよね」 「懐かしむにはまだ早いじゃろがい」 「あはは……それもそうですね!」 右の頬に押し込まれるのを読んだ愛が顔を動かした瞬間、今度は左の頬に肉が捻じ込まれた。 頭を掻いて笑うさくらは、まだ愛の惨状に気付いていない。

    4 20/04/08(水)00:51:54 No.677779658

    「それでも、やっぱり。色々な事があって、こうして私はここに居て」 「……」 瞼を閉じて今までを回想しながら、さくらは笑う。 あんな事があった、こんな事もあったんですよ。そんな風に語りながら、笑う。 「だからですね!伝えたい事があるんです幸太郎さん!」 開かれた目が、真っ直ぐに俺を見る。きっと自分が逃げないように、きっと俺を逃がさないように。 意識せずとも、身体が強張った。何を警戒しているのか、自分でもわからない。だが、微動だにできない。 「アイドルにしてくれて、ありがとう!!」 そんな身体を崩すように、一際強い風が吹いた。俺とさくらの間を、数え切れない程の花びらが吹き抜ける。 止まる思考。幸せそうに笑うさくら。呆然としている俺。 ……何故だか、無性に、泣きたくなった。 「さくらぁ~」 「あっ!?愛ちゃん!?その汚れどやんしたと!?」 「さくらよ~」 「……ごめーん!!」

    5 20/04/08(水)00:52:07 No.677779715

    ティッシュを取りに立ったさくらは、近くに纏めた荷物の元へ。 その様をただ、黙って見つめる。 ……あぁ、そうだ。十年前から変わらぬ思いが、十年を経て果たした悲願が。 伝えたい事がある。あったんだ。さくらが俺に伝えたように、俺もさくらに伝えたい事が。 「……俺も、さくらに伝えたい事がある」 だけど、それをさくらに告げる勇気は無い。そんな臆病者が俺だ。 だから、届かぬ内に告げてしまう。それで満足してしまおう。 「……アイドルになってくれて、あり「んすぅ!」ぶぅうううううう!?」 瞬間視点が回転。天地が何度も入れ替わって、花びらの絨毯に着地。 「幸太郎はん!何か面白い事しなんし!!」 元凶を見ると、愛と同じように顔が赤いゆうぎりの姿。同じくワンカップを所持。 「なーんーかーしーなーんーしー!!」 「おまっ……なぁーんで俺がそんな事しなきゃいかんのじゃい!大体芸人のお前の方が向い」 「今呟いた事一言一句違わずさくらはんに言いんすよ」 「一番!巽幸太郎!一発ギャグしまーっす!!」

    6 20/04/08(水)00:52:18 No.677779769

    「おぉ!?グラサンがなんかやりよっつか!」 「タツミー、ゆぎりん完全に酔っ払ってるからって……手遅れだったかぁ」 「ひっく……私はぁ、紺野純子ですよぉ……たのしませてくらはい……ひっく……」 「そうよ~。私水野愛よ~。お肉~……ぐぅ……」 「ごめん愛ちゃん!今拭……く……何事?」 「ヴァウア?アーン」 「あー!たえちゃんいけんって!それ飲んじゃだーめ!」 「お見事!いよっ!幸太郎はんは都一の大道芸人!さぁさぁもう一枚脱ぎなんし!!」 「わぁああ!?幸太郎さん!?ちょっ、み、見え……隠してぇええええ!!」 「ワォーン」 何時の間にか、とんでもない状況になっている気がする。 だが、俺はそんな今がどうにも好きらしい。 喧騒と困惑と、呆れたようなロメロの遠吠えが入り混じり、それ等を桜が全てを包んでいく。 例え全てが咲き散ろうが、また芽吹く。花見はまだまだ終わらない。 さくらは決して、終わらない。

    7 20/04/08(水)00:52:50 [sage] No.677779910

    さくらはんの命日故にシリアスでありんす… ご冥福をお祈りしんしょう…

    8 20/04/08(水)00:58:56 No.677781532

    よか…

    9 20/04/08(水)00:59:03 No.677781571

    よか… しかし何故そんな大量のワンカップを用意したんだ

    10 20/04/08(水)00:59:11 No.677781600

    命日にふさわしいしっとりとしてかつ楽しい作品でありんした…

    11 20/04/08(水)00:59:47 No.677781770

    巽がシリアスになる日きたな

    12 20/04/08(水)00:59:51 No.677781787

    >「……アイドルになってくれて、あり「んすぅ!」ぶぅうううううう!?」 わっち!!!!

    13 20/04/08(水)01:04:19 No.677782845

    本人より巽がさくらの命日にこだわってるのいいよね…

    14 20/04/08(水)01:05:24 No.677783077

    こいついつも過去に縛られよんな

    15 20/04/08(水)01:13:58 No.677784887

    今年で13回忌でありんす

    16 20/04/08(水)01:23:42 No.677786795

    >「アイドルにしてくれて、ありがとう!!」 エモか…

    17 20/04/08(水)01:25:15 No.677787138

    さくらが死んだ日でもあり巽幸太郎が生まれた日 かもしれない

    18 20/04/08(水)01:33:51 No.677788729

    幸太郎はん! 切ないでありんす!

    19 20/04/08(水)01:39:10 No.677789631

    愛ちゃんが愛ちゃんでなんかホッとするとよ

    20 20/04/08(水)01:42:25 No.677790167

    よか…

    21 20/04/08(水)01:47:01 No.677790951

    乾くんの何かを変えた日