20/03/07(土)02:21:32 いつも... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1583515292591.png 20/03/07(土)02:21:32 No.668955692
いつものではなくポストアポカリプスです su3703347.txt 週末だから今日は終末の世界をもうひとつ
1 20/03/07(土)02:21:56 No.668955751
大地は死んだ。 空は燃え、海は涸れ、生命は絶えてゆく。 無限のエネルギー、その代償を支払って、この世界は終わろうとしている。 ───目覚めるとそこは、上下も方角も曖昧なねじれた世界だった。 しくじったのだ。街を守るための配置で、自分の守りを疎かにした。 宛もなく歩くが、時間経過もおかしなことになっている。スマホで確認しているはずなのに、一瞬先には3分の時間が経っていたり、数えながら10分は歩いたはずだと確認すれば経過時間はほんの20秒程度だったり。 災厄はどうなった以前の問題だ。まず自分がどうにかなる寸前じゃないか。 「───!」 途方に暮れて立ち止まった俺に、何かの呼ぶ声がした。
2 20/03/07(土)02:22:13 No.668955783
瞬きの後、俺は元の場所にいた。 ただしそこは荒廃していて、赤い空と砂塵が舞うだけの廃墟となっていた。 周囲の街並みも同様に、人気がない。 災厄に負けたのか、それとも別の要因か。とにかく、この街は放棄されているらしい。 (なら、きっと) ……覚悟を決めて、正面を見る。 果たして、ムゲンダイナがいた場所の手前には───倒れ伏した亡骸がいくつもあった。 どれも骨や屑鉄の状態になっていて、時間の経過を否応なく思い知らされる。 吹き付ける乾いた砂に晒されて、削れ始めているそれらを拾い集める。判別を諦めて全てマントで包んで、しっかりと抱いた。 (……せめて、弔ってやらないと) 不注意で彼らをみすみす死なせた俺に、許してくれとは言えない。 それでも、彼らのトレーナーとして、最期をきちんとしてやらなければと思った。 無意識に近い行動だった。
3 20/03/07(土)02:22:32 No.668955820
脆く、今にも崩れそうな非常用梯子を使ってプラントを降りる。出入口の跳ね橋に積もる砂の厚さは、人の出入りが全くないことを示していた。 スマホの電波は当然のように不通。これで完全に孤立無援の状態だ。 ……さて、ならばどこに行こうか。案内もいない今、何処へ辿り着くかもわからないけれど。 「───!」 また声がした。 吸い寄せられるように、その方向へ足が向く。 どうせどこに行けばいいのかもわからないのだ。分かれ道や広場で行く先を示す声に従って、死に絶えて久しい街を歩く。 人は無事だろうか。逃げる暇はあったのだろうか。 砂だけが舞う街に、生命の気配はない。光る街灯の下で、不安が漣のように押し寄せて来る。 やがてワイルドエリアへと続く石壁に出て、俺は息を呑んだ。 「これ、は……」 壁の先には砂舞う荒野が延々と広がっている。緑も、水も、ポケモンも……そこには何もいなかった。
4 20/03/07(土)02:22:53 No.668955881
その先、どう歩いたかはよく覚えていない。喉の渇きを感じながら、それでも声が示す方へと歩き続けた。 2番道路を過ぎ、懐かしさも感じられないほど変わり果てたブラッシータウンを抜ける。途中で入口が開いている店を覗いたが、商品は勿論、自販機も破壊され、中身はとうに抜き取られた後だった。 相変わらず人もポケモンもいない。 ……本当は研究所を覗きたかったが、声が道を外れることを許してくれなかった。 『違う!そっちじゃないってば!』 そんな幻聴を聞いた気がして、懐かしさに胸が痛んだ。 1番道路の短い道を歩きながら、期待を捨てて、覚悟を育てる。 草さえ枯れる生命なき世界に、何が生きているというのか。 ハロンタウンの牧草地も、全て荒野になっていた。水場は涸れ、ウールーの気配もない。 声は町の奥へと誘う。 家に立ち入らされるのかと思ったが、そうではないようだった。 助かった。 その中にあるだろうものを見るには、まだ受け止めきれない事が多すぎる。
5 20/03/07(土)02:23:11 No.668955936
声が示すのは、もう少し奥─── 「……!?」 そこには森があった。 幻覚ではない。枯れていない、緑の森だ。 誘われるままに入った森には、ポケモンこそいないものの植物が生い茂っていた。 霧で湿った苔土の匂いがする。外の乾いて涸れた土地とはまるで別世界だ。 奥地の小川からは清水も流れてきていた。 一旦足を止めて、水を掬って飲む。冷えた水が心地いい。 気が滅入るような景色から離れて、俺はようやく、深く息を吐いた。 「──、───!」 けれど声はますます強く俺を呼ぶ。 確かに水と緑が残っているここに、何かがあるのだ。 諦めて立ち上がる。霧の深い森を、呼び声に従って進んでいった。
6 20/03/07(土)02:23:30 No.668955987
あるところで突然霧が晴れた。 石造りのアーチと建造物の向こうに、澄んだ翠の湖が広がる。 その建造物に、赤いものが見えた。 そして、見覚えある小さなポケモンが動く。 「ヌワ……」 「……ワンパチ!」 「イヌヌワン!」 思わず駆け出す。 首輪を着けたワンパチは俺を見るや、スマホロトムにパリパリと電気を送る。 『ケテーッ!』 それで休眠状態だったロトムが目を覚ました。 色々あるが、まずは涙混じりに飛んでくるスマホを掴まないと。 マントの包みを石畳に置いて、飛んでくるスマホとワンパチを抱き締めた。 生きている。独りじゃない。 その事実に安堵した。
7 20/03/07(土)02:23:50 No.668956040
───スマホの中には俺がねじれた世界に入ってからの話が日記のように書かれていた。 俺が知りたがるであろう事、彼女が知り得た事をなるべく客観的に、なるべく分かりやすく。 「……ソニア」 ワンパチの首輪───そこに付けられたハート型の髪留めを外す。 彼女のカレーが食べたい。そう思った。 まどろみの森で水を補給しながら、滅びた世界を少しずつ見て回っている。 ホップやユウリくん、ソニア……他にも、最後まで残っていた人達の手で、俺の身近な人達はきちんと葬られていた。 今は家族の隣に仲間達も眠っている。手向ける花がないので、時折森の青葉を供えている。 ワンパチは置かれていたボールに納めて、旅の道連れになってもらった。 世界が死んでもエネルギーは生きている。水はないが電力は変わらず使用可能だし、大体の家が正常に機能している。 スマホロトムやワンパチという話し相手がいるのもありがたかった。 赤い世界での日々は、穏やかに過ぎていった。
8 20/03/07(土)02:24:22 No.668956113
ある日、懐かしい研究所の枯れ果てた草木の中に……枯れた花を見つけた。 散らず、咲いた時のそのままに枯れる花。 橙色の可憐な花をいくつもつけていたであろうその姿を思い描く。 『たらふく食べたムゲンダイナはもう巨大になりすぎて手がつけられないって感じなんだけど……それでも皆で何とか方法を考えたから、ムゲンダイナを止めるつもり。 ……もう私たちの方も食い尽くされるギリギリって感じで、だから皆、生き残る可能性は期待してない。でも、全てが終わればキミが帰ってくる可能性だけはあるから、一番最後まで無事なまどろみの森にこれを遺すことにしました。 ま、キミが案内なしでそこまで辿り着けるとはちっとも思わないから、そこまでは伝説の英雄に道案内を頼んでおくね。幼馴染に感謝してよ?』 文書の最後に書かれた、彼女らしい言葉に胸が詰まった。 彼女も、最期はこの鉢植えのように静かに枯れていったのだろうか。 それとも、彼女は戦い抜いて散ったのだろうか。 それを知る術はもう、ない。
9 <a href="mailto:s">20/03/07(土)02:25:33</a> [s] No.668956291
サンダーソニアは散らずに枯れる
10 <a href="mailto:おまけ">20/03/07(土)02:26:19</a> [おまけ] No.668956388
『こっちはライスのみ。冷凍装置にカレーあります』 冷蔵庫にメモが貼られている。中には非常食用のライス類がびっしり入っていた。 指示の通りに研究用の装置を開けると、これまた大量のカレーが厳重に冷凍されている。 トングで拾い上げると、密閉式のビニールバッグに、一食分ずつ丁寧に詰められているようだった。 温めて一口。メモに残るもうひとつのメッセージに込められた願いごと、噛み締めた。 『残さず味わって食べなさい』
11 20/03/07(土)02:32:59 No.668957418
なん………ムゲンの力をぶつけられてダンデさん時間跳躍しちゃった感じだろうか… 変わり果てた世界と変わり果てたかつての仲間や知り合いや愛した人たち… 何を求めてダンデは旅をするのだろうなあ…
12 20/03/07(土)02:36:54 No.668957898
カレーは食べれた…それだけが俺の救い…
13 <a href="mailto:s">20/03/07(土)02:45:00</a> [s] No.668959106
最近眩しい話ばっかり書いてたから楽しかったです ちなみにおまけの最後は『カレーを食べきるまでは生きなさい』の意です 余談ですがこの冷凍カレーはそれなりに差し迫った事態の中で作ってたものなので具が少ないです よろしくお願いします
14 20/03/07(土)02:45:55 No.668959213
ずっと一緒だったイヌヌワン一匹だけを滅んだ世界に遺していったソニアさんの心境考えたくもないな… 何年経ってるのかわからないけど置き去りにされたボールも結構あったんだろうか
15 20/03/07(土)02:47:23 No.668959401
なんでこんなに非情に書けるんですか…どうして…
16 20/03/07(土)02:50:51 No.668959822
やっぱり長く追ってたりして愛着ある世界が滅ぶとぐえーってなるね…
17 20/03/07(土)03:01:15 No.668960952
夕方辺りのソニアさんが遺された方も同じ人…?
18 <a href="mailto:s">20/03/07(土)03:02:03</a> [s] No.668961029
>なんでこんなに非情に書けるんですか…どうして… 非情な話は半端な情とか入れず非情な方がいいこともある 今回はおまけにほのかな救いを感じて欲しいからそこまでは決断的に地獄を生成した
19 <a href="mailto:s">20/03/07(土)03:02:36</a> [s] No.668961090
>夕方辺りのソニアさんが遺された方も同じ人…? 左様
20 20/03/07(土)03:15:19 No.668962425
読み終わった ダンデ…ワンパチ…