虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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20/03/06(金)23:11:24  ───そ... のスレッド詳細

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20/03/06(金)23:11:24 No.668902988

 ───それは、有り得てしまった可能性の話。  ムゲンダイナによるダイマックスエネルギーの異常干渉、明けない夜《ブラックナイト》事件。ガラルリーグ実行委員長ローズの暗躍によって成し遂げられたそれは、果たしてすべてのエネルギー不足問題を解決した。  解決、してしまった。  エネルギーの「無限化」、それはすなわちエネルギーの自己複製能獲得。ダイマックスエネルギーは1が2に、2が4に、4が8に。延々と膨張を繰り返し、繰り返し、そして呆気なくメルトダウンした。  ガラルから発生したこの異常な現象は、溢れ出しながら自己複製を続けるエネルギーの津波として全世界に波及。各地方の首脳が対策を講じる前に、電撃戦の速さで全世界を覆ってしまった。  逃げ場を求め荒れ狂う純粋なエネルギーの奔流に、草木も、建物も、人も、ポケモンも、すべてが飲み込まれる。全方位から押し寄せる力に押し潰され、亡骸すらも残らない。

1 20/03/06(金)23:11:59 No.668903171

 最終的に世界を覆ったダイマックスエネルギーが対消滅を起こし、綺麗に0に戻るまで、僅か141時間39分11秒。  かくして、人とポケモンが手を取り合い、ゆっくり歩みを進めてきたこの星の歴史は、創世記よりも短い期間で終焉を迎えたのだった。 「…ふぅ。このくらいにしておくか……」 「ホップ。…大丈夫?」    かの惨劇、ブラックナイトから数年。私とホップはガラル全土を巡る、当て所のない旅をしていた。  私たちが力尽き倒れ、ローズ委員長の野望が完遂したあの時。爆心にいた私たちは、分裂を始めたエネルギーの衝撃に吹き飛ばされて気を失い…次に目が覚めた時にはもう、世界は滅ぶ一歩手前だった。

2 20/03/06(金)23:12:30 No.668903334

 塔の上には既に、ムゲンダイナもローズ委員長もいなかった。…いや、「無かった」と表現するのが正しいだろう。  辺りにあったのは乾いた血溜まり、毒と熱で融解した瓦礫、そして、バラバラに砕け散ったムゲンダイナだったもの。  エネルギーの暴走は、その現象をもたらしたムゲンダイナにとってすら、耐えられないものだったのだ。  私たちが生きていたこと自体、どうにも説明がつかないことではあるが。エネルギーの波及、その中心にいながらにして現象そのものに影響していたわけではないため、圧殺を免れたと考えるほかない。どうせ誰か、答え合わせをしてくれる人がいるわけではないのだから。

3 20/03/06(金)23:12:43 No.668903422

 崩れた瓦礫がさらなる圧力によって磨り潰され、街はどこも石片と砂の山と化していた。砂をかき分けても地面には乾いた血溜まりが残るばかりで、人々の亡骸を弔うことすらできない。  あの時、私たちが止められていたら。力ずくで止められなくても、委員長を説得できていたら。  後悔の念は、あの日から常に胸にあるけれど…それよりも、現状に対する無力感の方が、ずっと大きかった。  目に見える範囲でしか情報を集められていないにしても、既に思い知っている。この世界には既に、私たち以外の生き残りはいないのだということを。  人もポケモンも、すべてが死に絶えた世界。瓦礫の中から缶詰などを引っ張り出して貪り食う毎日。  今すぐにでも死んでしまいたいと、何度思ったか知れない。

4 20/03/06(金)23:12:55 No.668903500

 けれど、私が───少なくとも私が、死なずに済んでいるのは。  こうして懸命に、隣で歩き続けるホップの存在と。 『────』  懐が、淡く光り輝く。  取り出したそれは、モスノウの翅。  塔の頂上で、私たちが喪ったのは世界だけではなかった。  手持ちのポケモンたちも皆、無惨な…あぁ、思い返すも遣る瀬無い、無惨な死を迎えていた。  ほとんどのポケモンが、エネルギーに押し潰され息絶えていた。そうでなかったポケモンも口や鼻から血を流し、ひと目見て既に助からないことが見て取れた。  あの時の光景が、今も瞼に焼き付いて離れない。心通わせたポケモンたちの呻きが、嘆きが、苦しみが、夜毎に私を苛むのだ。  胴体から切り離されたまま、体積が小さいことと鱗粉に守られたことで、辛うじて砕けずに済んでいたモスノウの翅を、そっと手で包み込む。  今私の足を動かしているのは、生存本能などではない、彼らの無念の、私の無念の遣り場を探している、ただのそれだけだった。

5 20/03/06(金)23:13:37 No.668903748

『────』 「…? ユウリ、それ…」 「うん…こんなの、初めて」  手の中の翅が、もう一度光り輝く。まるで、マスター《わたし》になにかを伝えようとしているかのように。  淡い燐光は明滅を繰り返し、いつしか翅は手の中をすり抜け、宙に浮かんでいく。  その光の導く先にあったもの。それは、 「…祠?」 「そう…だけど、おかしい。この潰れた世界で、こんな、木造の祠なんて…」  怪訝な目を向ける私たちに構わず、宙に浮かんだ翅がそのまま、すぅっと祠に吸い込まれていく。 「っ、ダメ!」 「…!? おいユウリ、危ない! 不用意に近付くな!」 「やだっ、行かないで、行かないで! モスノウちゃん!!」 「ユウリ…!」  矢も楯もたまらず飛び出した私と、そんな私を追いかけたホップは。  一層輝きを強める祠の中に、飲み込まれた。

6 20/03/06(金)23:14:42 No.668904155

「……。う…ん」 「ユウリ! よかった…目が覚めたんだな」  意識が覚醒する。ぼやけた視界の先、見えてきたのはいつもの、ホップの優しい笑顔と。その背後に輝く、蛍光灯の優しい光。  ………蛍光灯? 「っ!? えっ、ここは何処…!?」  飛び起きた私がついた手の先に、沈み込むようなクッションの感触。ベッドサイドには木製の化粧台、窓から吹き込んでくる砂埃を含まない涼風。  そして、 「───あら、目が覚めたのね! よかったぁ…ポケモンセンターの前で倒れているんですもの、心配したのよ?」  優しげに微笑む、ジョーイさんの姿。  信じがたいものが次々に目に飛び込んできて、頭の整理が追いつかない。  視線を向けたジョーイさんの背後、カレンダーに記された数字は。  不可思議なことに、私たちが旅に出る、その数ヶ月前の年月日を示していて。  客間に備え付けの古びたラジオが、ノイズ混じりの時報を響かせた。 『…イッシュ国営放送、この時…のお相手は……でした。間……く、正午です』

7 20/03/06(金)23:15:31 No.668904464

 かつてすべてを喪った少年少女は、異国の地にて何を見る。  悲劇を止めるため、大団円を取り戻すため、彼らは何を『やり直す』べきか。  星の涙の堕つる場所、大いなる虚ろにて、その答えは彼らを待つ───。 「───行こう、キュレム。皆を助けに。世界を救いに」 ポケットモンスター ソード・シールド;If/ENCORE EXTRA.『こごえるせかい』 つづかない。

8 <a href="mailto:s">20/03/06(金)23:19:04</a> [s] No.668905795

おしまいでーす 流れに乗るついでにいつか消化したいなと思ってた氷伝説ネタを拾いました 本編の氷は実は伝説を入手せずにエピローグを迎えているのでせっかくだから伝説も氷に…と思った結果彼に白羽の矢が立ちました というか前回のアペンドに引き続きまたプロローグで終わってますねごめんなさい続きは書けません

9 20/03/06(金)23:20:53 No.668906465

書くんだよ!

10 20/03/06(金)23:24:12 No.668907770

なんかすごく濃いのがきた!?

11 20/03/06(金)23:24:19 No.668907818

キュレムはいまいち影が薄いから活躍できるとありがたい… >つづかない。 クソァ!!

12 20/03/06(金)23:26:36 No.668908678

そうかモスノウも死んだか…つらいな…

13 20/03/06(金)23:30:38 No.668910116

終末描写が本気すぎません?

14 20/03/06(金)23:32:27 No.668910733

読み終わってからスレ画見返したらモスノウの羽なのに気づいてこれは…辛い…

15 20/03/06(金)23:33:09 No.668910971

>「やだっ、行かないで、行かないで! モスノウちゃん!!」 つらい

16 20/03/06(金)23:39:32 No.668913100

死して羽1枚になってもなおご主人を想うモスノウ…

17 <a href="mailto:s">20/03/06(金)23:53:20</a> [s] No.668917559

本当は欠損世界リスペクトで各手持ちの死に様を描写するのも考えたんですけど あっちと違ってポケモンバトルですらないエネルギー波に押し潰されただけでドラマ性がなかったのでボツにしました なお蛇足ですが仮にまだ息があった子たちを救おうとしてもポケモンセンターが物理的に潰れているので救えませんでしたね ところで主に看取られて逝くのと主を思い悩ませずひっそり逝くの、ポケモンにとってはどちらが本懐なのでしょうか ポストアポカリプスという主題とはズレますが人に飼われるポケモンの死生観というのも面白いテーマなのではないかと思います

18 20/03/06(金)23:55:22 No.668918220

ポケモンは結構な意思疎通ができるから悩みどころだな…

19 20/03/06(金)23:55:45 No.668918349

猫が死期迫るとーみたいな

20 20/03/06(金)23:59:31 No.668919512

おっちゃんとか盛るペコとかマスコット枠みたいな子たちにも寿命は訪れるんだよな…と思うと切ない気持ちになる いつまでも生き続けることが幸せとは限らないってのは分かるけど…

21 20/03/07(土)00:03:30 No.668920739

旅したり忠実に命令聞いて戦ったり現実のペットよりも密な関係だもんな…人より長命なポケモンだっているだろうし

22 20/03/07(土)00:06:04 No.668921537

>旅したり忠実に命令聞いて戦ったり現実のペットよりも密な関係だもんな…人より長命なポケモンだっているだろうし たぶん伝説以外にもラプラスとかコータスとかは逆に人を看取る側のポケモンだよね 親から子に譲り渡されるケースでない場合マスターを喪った彼らはどうなるのか…野生に帰って生きていけるのか

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