虹裏img歴史資料館

1 20/02/08(土)23:40:33 No.661561874

彼のしたことを後悔させてやりたかった。 その気持ちに嘘はなかった。 『君、弱いね』 何もできず敗北した彼に、追い打ちをかけた時。 私は間違いなくスッキリした。 落ち込む彼の姿にザマア見ろと思った。 だけど、次の瞬間それは消え去った。 崩れ落ちるビート君と、彼に泣きそうな表情で寄り添うテブリムを見て。 私を見るお嬢様の姿を見て、その表情を見て。 私は――――なんてことをしたのだろうと、そう思った。

2 20/02/08(土)23:41:03 No.661562079

バトルを復讐の道具にした。 ポケモンを八つ当たりの道具にした。 そうしたのは間違いなく私で、お嬢様はそんな私を見て、あんな表情をした。 もしも、あそこにホップ君がいたらどんな表情をしていたのだろう。 それを考えるだけで背筋が凍った。 我慢するべきだったのだろうか。 お嬢様に任せるべきだったのだろうか。 でも、わたしはわかっていた。 八つ当たりな事も、ホップ君を理由にしたことも。 わかっていた。 だけど、我慢できなかった。 それほどまでに、私の怒りは大きくなっていた。 きっと、あそこじゃなくてもいつか私は爆発していた。 なら、どうすればよかったのか。

3 20/02/08(土)23:41:17 No.661562173

……やめよう。 私がいくら考えたところで答えなんか出ない。 やってしまった事を無かったことには出来ない。 ならもう今回の事はもう二度と繰り返さないと戒めて、私はホップ君を迎えよう。 そう、切り替えた時、スタジアムへと続く正面ゲートから見慣れた人影が現れた。 「お、待っててくれたのか！」 「ホップ君……」 ホップ君は私を見つけると笑顔でピースサインを決める。 それでもう、結果はわかった。 私は安堵の溜息を吐く。 「……どうだった？」 私が恐る恐る尋ねると、ホップ君は腕を組んで思案のポーズをする。 「んー……正直まだ改善の余地ありだなぁ。なーんかしっくりこないというか」 どうやら彼は未だに自分のやり方を模索中らしい。 現状に満足せず、高みを目指そうとするその姿勢はとても素晴らしいと思う。

4 20/02/08(土)23:41:35 No.661562291

『負けて落ち込め！そこから立ち上がれ！なぜ負けたか考えろ！』 ダンデさんが以前言った言葉が脳裏をよぎる。 ホップ君はその言葉通り敗北をバネに、より高く飛ぼうと考え、努力している。 その姿はとても眩しくて、とても……カッコいいと思う。 だから私も笑顔を向ける。 悩む彼に少しでも元気を分けられたら、と。 「そうかい。なら、また付き合ってあげるよ」 「おう！頼んだぞ！」 私と戦う事で少しでも彼の成長に繋がるのならこれ以上は無い。 私だって、彼との戦いで学ぶことがあるのだから。 少なくとも、彼やお嬢様との勝負は、私にとって勝敗以上に価値のあるものだから。

5 20/02/08(土)23:42:03 No.661562456

「それじゃあ次のジムへと向かうか！お嬢はどうしたんだ？」 「お嬢様なら多分ソニアさんと話てるんじゃないかな」 「なんだ、ソニアも来てたのか」 「ソニアさんどうもお嬢様の事気に入ってるみたいだからね」 お嬢様はソニアさんの事嫌いらしいけどね。 あからさまに邪険な態度を取られてるのにそれでも全力でお嬢様に甘えに行くソニアさんはちょっと凄いと思う。 見習うつもりはないけど。 「お嬢は色々知ってるからなぁ。ソニアも頼りがいがあって好きなんだろ」 「あの人お嬢様より年上だよね？」 「それを気にするようなやつじゃないぞ？」 なんというか、その言葉に歴史の重みを感じた。 忘れてたけどホップにとってはソニアさんも幼馴染なんだよね…… お嬢様もそれもあるからソニアさんの事気に食わないんだろうし。 一番の理由は単純にうざったいからなんだろうけど。

6 20/02/08(土)23:42:25 No.661562579

「まぁ、いいさ。ほら、お嬢様たち呼びに行こう」 「ああ、そうだな。でもその前に……なぁユウリ」 「なんだい？」 外へと出ようとする私をホップ君が呼び止める。 私が振り返ると、彼の表情は私を気遣うような、心配するかのような、そんな表情をしていた。 「何かあったのか？」 「……なにが？」 彼の言葉に私はシラを切る。 でも、彼は私の言葉を一切信じてないといった風に続ける。 「元気ないぞ」 「そんな事、ないよ」 「そんなわけないだろ」 私の強がりを即座に否定して、ホップ君は私の肩を掴み向き直らせる。 「オレが、どれだけお前と一緒にいたと思ってるんだ。お前の様子がおかしい事ぐらいわかる」

7 20/02/08(土)23:43:31 No.661562963

まっすぐ見つめられて、そんな事言われて、私がどう思うかなんて、きっと彼は気づかないのだろう。 私がどれだけ、君に心乱されてきたのかなんて、彼は知らないのだろう。 私がもしも、君の事をただの友達だと思えていたのならば、きっと私の胸の内をさらけ出せていたのに。 そうしたら、もっと君に甘えられたかもしれないのに。 私は、君のことが好きだから。 大好きだから。 だから、 「……君には言えない」 「……そうか」 私の拒絶にホップ君は悲しそうな顔をする。 罪悪感が、胸を絞めつける。 「……ごめんね」 それでも、言えない。言いたくない。 私のしたことを、私が何を思ってやったのかを。知って欲しくない。 ホップ君は私の謝罪に笑顔で答える。

8 20/02/08(土)23:43:45 No.661563048

「何言ってるんだ。お互い様だろ？」 「……あははっ、そう、だね」 違うよ。 君は私たちの事を色々考えて私たちから逃げたじゃないか。 それに、私は失望して、君に怒ったけど。 私はただ、君に失望されたくないから、拒絶されたくないから、話したくないんだ。 全然、まったく、違うんだよ。 私はただ、ワガママで、傲慢なだけなんだよ。

9 20/02/08(土)23:44:04 No.661563154

固まった笑顔のほぐし方がわからないまま、私は彼と見つめ合う。 一瞬が永遠に感じる。 「ここにいましたか」 それを、聞き知った声が砕いた。 振り返ると、入り口でいつも通りの憮然とした表情でこちらを見つめるお嬢様がいた。 その隣にはソニアさんも。 「ホップ、その様子だと見事勝利を収めたようですね」 「おう！これで次のジムに一緒に行けるな！」 「元よりそのつもりですよ」 お嬢様はホップ君の言葉に微笑んで頷く。

10 20/02/08(土)23:44:33 No.661563348

「ねえねえ今日はもう泊まらない？みんな疲れたでしょ」 ソニアさんがお嬢様の袖をクイクイと引いて上目遣いをしてくる。 それを、お嬢様は冷たく見下ろす。 「……なぜあなたが指図するのですか」 「だってあの像の事もっと話したいし。ユウリちゃんだって気になるでしょ？」 「それは……そうですが」 「なら決定！」 私たちの了承を得ずにソニアさんは決議案を可決したようだ。 お嬢様はもう反論する気も失せたようで呆れたようにため息を吐く。 「像ってなんだ？」 「なんか見つかったの？」 私とホップ君が口々にお嬢様に尋ねる。 「わたくしが説明しますわ。とりあえず……宿を探しましょうか」 そう言って、お嬢様が先陣を切ってスタジアムから出ていき、私たちは雛のようにその後を付いて行った。

11 20/02/08(土)23:44:53 No.661563472

前回までの su3634508.txt

12 20/02/08(土)23:45:28 No.661563673

まぁやっちまったするよね炎

13 20/02/08(土)23:53:46 No.661566576

炎さんはやっぱり直情的だね

14 20/02/08(土)23:59:37 No.661568862

でも繊細なところもあってめんどくさい！

15 20/02/09(日)00:00:50 No.661569404

あれホップ見てたら「やりすぎだぞ！？」とか言われてたのかな……

16 20/02/09(日)00:02:18 No.661570000

>あれホップ見てたら「やりすぎだぞ！？」とか言われてたのかな…… 言われるだろうな お嬢ですら目を背けるレベルのバトルだもん

17 20/02/09(日)00:07:01 No.661571811

>>あれホップ見てたら「やりすぎだぞ！？」とか言われてたのかな…… >言われるだろうな >お嬢ですら目を背けるレベルのバトルだもん そもそも勝ち負け自体は気にしてないからなホップ

18 20/02/09(日)00:10:00 No.661572930

負けたことはまぁ悔しいには悔しいけど言われたことが悔しいだったはずだし……

19 20/02/09(日)00:13:14 No.661574133

勝ち負け気にしてたら主人公とのバトル全敗で心折れるからな…

20 20/02/09(日)00:20:20 No.661576873

ビートが憎いというより俺が兄貴の足引っ張ってるのか？な方向だったし ビート目の前でズタズタにされてもスッキリはしないだろうね むしろ炎の圧倒的な実力見せられて更に迷走するかも知れん

21 20/02/09(日)00:27:54 No.661579383

今更チャンピオンの強さを証明してなんになるっていうポプラさんの発言が少し刺さる