虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    20/02/06(木)01:43:25 No.660785138

    「ほれ恵方巻」 食欲さかんな七人のゾンビィ達の前へ、見せつけるようにスーパーの袋を置く。 手ごろな場所にパイプ椅子を置き、袋に手を突っ込んでパックを取り出す。 中には皆大好き恵方巻。俺もゆっくり味わうとしよう。 ふと。これを待ち望んでいた筈のゾンビィ達を見てみると、各自パックを手に止まっていた。 「なんじゃいお前等。食わんのかい」 「いや、食べるけど…」 「うーん…」 容器を開けながらアイツ等へ声をかければ、各所から不満気な声。 「なんか文句あるんかい!散々食いたいって言っとったろうが!」 「…あの」 「なんじゃい!」 「これ全部…半額ってシールが貼られてるんですけど…」 活動資金に影響が無いよう、極限にまで費用を削ったプラン。 只今深夜。この赤と黄色で彩られたシールは、そのプランが正しく遂行された証である。

    1 20/02/06(木)01:43:39 No.660785194

    「半額でも食えるじゃろがい」 「えぇ…」 「嫌ならもっともぉーっと稼がんかいこん贅沢ゾンビィー!!フン!」 グワシと口から音をそのまま読みつつ、恵方巻を手に。 アイツ等に背を向けてガブリと咥える。 (んまい。買って良かった…) 「ねぇ、今年の方向って何処よ?」 「えっと確か西南西…だったかな」 「…西南西って、どっち?」 「……」 何処ぞから他愛も無い会話が聞こえるが、俺は一切を無視してモシャモシャ。 そういえば、恵方とは神様が居る方向らしい。 …やはり、一切を無視して食べる。そんなヤツを向いて飯なんぞ食べてたまるか。 あっち?いや、こっちやなかと? 地下故に方角もわからぬ状態のゾンビィ達を横目に、恵方巻を味わう。

    2 20/02/06(木)01:44:07 No.660785271

    そんな中、不意に、俺の膝に何かが落ちた。 (恵方巻の後ろの方から零したか?) そう思い見てみると、継ぎ接ぎ塗れの手が膝に。 しゃがみこんだ純子が、俺の膝に手を置いて見上げているのに気付いた。 「ふぁんふぁい」 咥えたまま問う。 「…恵方はどちらかな、と」 笑う純子は、どうやら俺を方角探しに巻き込みたいらしい。 「わひゃひはん」 「…ぷふっ。わしゃ知らん、ですか?」 頷くと更に笑みを深くする純子。 確かに、俺は普段から抜け目無い行動を取っているため、黙って向いていてもおかしくはない。 …抜け目無い。どんな事も。絶対。 何はともあれ、俺は知らない。顔を向けて、そう訴える。 「でも、私は見つけられました」

    3 20/02/06(木)01:44:21 No.660785314

    「…?」 相も変わらず咥えたまま、純子に釘付け。 純子はしゃがんだまま俺の前へ。恵方巻を挟んだ先へ。 「こっち、ですね」 一つ笑って。純子は恵方巻を咥えた。 現在進行形で俺が齧りついている恵方巻を、咥えた。 …思考が止まった。 もっもっ。ゆっくりと、着実に食べ進む純子。 視線は俺を見つめたまま。静かに、喋る事無く、食べる。 そうして数秒経った後、ハッとした。 …いや或いは、この純子の行動に俺自身混乱しているのかもしれない。 この純子の奇行に対して俺が取った行動は、食べる事。 (この恵方巻は俺のモノじゃボケェ!) 対抗心。もしくは独占欲。 なんにせよ、食べ進む事を選んだ。

    4 20/02/06(木)01:45:06 No.660785440

    俺が買って来た恵方巻は所詮スーパーで売っている…言ってしまえば程度が知れているレベルの代物。 安い故に味はそこそこ。大きさもそこそこ。成人男性からすれば物足りない程の量。 つまり、あっさりと食べ切れる。食べ切られてしまう。 焦りから、動く、食べる、食べ進む。 静かな空間。たまに純子が息を漏らす以外は音も無く、二人共に恵方巻を喰らう。 無限にも感じる時間。しかし、恵方巻は有限。 少しした後、ちょうど半分の地点へ辿り着いた。 純子は大体4割程を食べ進めており、残る恵方巻は僅か1割。 (ここまで来れば十分だ。間違いなく元は取った) そう確信し、最後に玉子を咥えて引き抜く。 …つもりで頭を後方へ動かそうとしたのだが、後頭部から伝わる力で動けない。 純子が腕を回しているのだと気付くのに時間はかからなかった。 間近に迫る純子。目を細め、ゆっくり近寄ってくる。 不味いと思いながらも動けない。純子から逃れられない。 ……頼りない1割の牙城は呆気無く崩れ去り、持っていくつもりであった玉子を引っこ抜かれた。

    5 20/02/06(木)01:46:19 No.660785636

    「ご馳走様でした」 口を拭きながら立ち上がり、礼を告げる純子。 呆然とする俺を余所にいつも通りの様相。 正直もっと食べたかったし、足りるわけがない。 だが、今の状況でおかわりを要求する程の勇気は持ち合わせていなかった。 まぁ一時はどうなる事かと思ったが、最悪の事態に発展する事は無かったので良しと…しよう…? 「巽さん」 不意に名前を呼ばれた。向けば、再度俺の前でしゃがみこんでいる純子。 俺の両頬に冷たい物が触れた…純子の手が添えられている。 (なにをするつもりだ) …思考を言葉へと変える筈が、唇を塞がれた事で出来なかった。 おおよそ四秒。離れて、うふふ、と微笑む。 「やっぱりこちらが、幸せの恵方です」 …幸せとかけただけか、だとか、何を考えとるんじゃ、だとか。 今の混乱した俺の頭と、恵方巻を持ち真っ赤な顔をして純子の隣に立つさくらが、叫ぶ事を許さなかった。

    6 20/02/06(木)01:50:07 No.660786271

    全部読んだ

    7 20/02/06(木)01:51:33 No.660786517

    恵方巻でポッキーゲーム

    8 20/02/06(木)01:52:27 No.660786664

    恵方巻ゲームしなんし!

    9 20/02/06(木)01:55:23 No.660787230

    強すぎる…

    10 20/02/06(木)01:58:39 No.660787790

    股間の恵方巻はいつ咥えるのかな?と少し思いながら読んでたのは秘密

    11 20/02/06(木)02:04:59 No.660788708

    つえーきのこつえー…

    12 20/02/06(木)02:06:32 No.660788939

    ワタシ昭和アイドル 強いネ…

    13 20/02/06(木)02:22:50 No.660790866

    >おおよそ四秒。離れて、うふふ、と微笑む。 >「やっぱりこちらが、幸せの恵方です」 強い…

    14 20/02/06(木)02:33:04 No.660791996

    >(この恵方巻は俺のモノじゃボケェ!) >対抗心。もしくは独占欲。 >なんにせよ、食べ進む事を選んだ。 阿保でありんす!

    15 20/02/06(木)02:34:03 No.660792110

    なんともシュールな光景だ…

    16 20/02/06(木)02:36:24 No.660792350

    このキノコ色っぽい…!

    17 20/02/06(木)02:37:17 No.660792432

    どやんす!?

    18 20/02/06(木)02:42:46 No.660792940

    つよつよキノコばい…

    19 20/02/06(木)02:45:47 No.660793189

    隣にいたさくらはいったいどんな心境で見ていたんだ…

    20 20/02/06(木)02:50:23 No.660793575

    恵方巻きは黙って食べないと駄目だよ!

    21 20/02/06(木)03:01:54 No.660794591

    イガイトクチデカイジュンコチャン…

    22 20/02/06(木)03:02:57 No.660794676

    ファーストキスの味は恵方巻きでした

    23 20/02/06(木)03:05:37 No.660794900

    >ファーストキスの味は恵方巻きでした ロマンチックさが欠片も無いな…