20/01/14(火)19:29:58 連休明け泥 のスレッド詳細
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画像ファイル名:1578997798222.jpg 20/01/14(火)19:29:58 No.654841505
連休明け泥
1 20/01/14(火)19:32:18 No.654842165
戦士の休息
2 20/01/14(火)19:33:42 No.654842584
残業を終えて泥時間だ
3 20/01/14(火)19:34:05 No.654842715
『蒸留所?持っているわよ?』 ………というウルトラ金持ち発言を先日ルクレツィアが零したものだから、その日のテーブルの上にはボトルが1本あった。 「いやスゲぇわ、我がデ=ヴェステマー家も地元じゃ随一の富豪だがよ、さすがに自前で一からスピリッツは作れねぇ。 まさかとは思ったがやっぱルーシーん家くらいになると持ってるもんだな」 と、卓上で光る瓶を前にして大笑いしたのはディナンドリである。 「私からするとふたりとも雲の上のお金持ちなんですけれどもね………」 と、ラベルを舐めるようにじっくりと眺めるディナンドリに苦笑したのは私である。 「とりあえず1本持ってきたけど、だいぶ余らせてるらしいから遠慮なく飲んでしまっていいわよ」 と、ボトルを前に目を輝かせる私たちを前にしてなんでも無いことのように言うのがルクレツィアである。 いつもの店に集ったこの3人こそ、アヴァローロ家謹製のスピリッツの試飲会に集った面々であった。 より正確には、話に最も食いついてきたディナンドリとそれを受けてボトルを持ってきたルクレツィア、そしておまけの私という構図だ。
4 20/01/14(火)19:34:22 No.654842807
早速栓を開け始めたディナンドリの作業を観察しつつ、ナッツを齧りながら私は聞いてみる。 「それにしても、どうして古い魔術師の家だとアルコールの蒸留所を持っていることになるんですか?」 「そりゃな、必要だからさ。魔術とアルコールは切っても切り離せねぇ関係にある。 水でありながら燃えるもの。水の属性でありながら火の属性でもあるもの。 即ち二律背反の体現、&ruby(Aqua vitae){生命の水}という神秘………なんてのは当たり前すぎて魔術師にする話じゃねぇな。 服用し酩酊することでより深く精神と神秘を結びつけるためでもあったし、それにアルコールは飲むだけが出番じゃねぇ。 &ruby(ウィッチクラフト){魔女術}の溶剤、錬金術の触媒、魔術師にとっての使い道の例を挙げりゃキリがねぇ。 てなわけで自前で用意できるならそれに越したことはねぇってこった。それも魔術と科学がまだ同一だった頃の魔術師の家なら、尚更だ」 「なるほど………」 「こういう話は俺が今いる教室の&ruby(マエストロ){先生}ならもっと突っ込んだ話をしてくれるんだろうけどな」 「はあ、そうなんですか」 「………ああ、噂の………」
5 20/01/14(火)19:34:57 No.654843004
ディナンドリの師の話を聞いてルーシーがぽつりと呟いた頃、傾けられたボトルからグラスに琥珀色が満たされようとしていた。 透き通るような透明感を持った、とろりとした飴色の酒が照明の光を受けてきらきらと光っている。 まるで宝石のようだという第一印象を持った。何処からどう見ても液体なのに不思議とそんなふうに思えたのだ。 酒好きなディナンドリは待ちきれないという様子でグラスを握り、うっとりと香りを嗅ぎ、少しずつ噛むようにして味わっている。 「アルマニャックに近いな…輪郭のはっきりしたブランデーだ…この鬱陶しいくらいに迫ってくる押しの強さはルーシーそっくりだ…」 「どういう意味かしら、ディー」 ディナンドリは憮然とした顔をしたルクレツィアに応じるよりも手元のリキュールに集中したかったらしく、半ば無視した。 「遠慮のない重さ…ああ、ヘヴィ級だこいつは…売る気がないからって一切妥協せず作りやがったな、クソったれの古臭い貴族主義の大金持ちめ…。 いい…マジでスゲェいいわこれ…マジ美味い…こいつは相当美味いブランデーだぜ畜生…」 「けなすか褒めるかどっちかにしなさいな」
6 20/01/14(火)19:35:28 No.654843168
陶酔するディナンドリを半目で睨みながらルクレツィアがボヤく。フォークで皿の上のローストビーフを突き刺してややつっけんどんに口に運んだ。 私もご相伴に預からせてもらい、グラスに注いだアヴァローロ家のブランデーを恐る恐る舌の上に乗せてみる。 私にこの酒の良し悪しは判断しきれないが、ディナンドリが褒める理由はなんとなく分かる気がした。 情報量が多い、とでも言うべきか。味覚が反応する風味の複雑さ、重厚さが普段口にしている酒と段違いだ。 地中海の太陽と海風をなんとなく連想した。それはアヴァローロ家の蒸留所が彼らの総本山、シチリア島にあるからかもしれない。 と、結界で仕切られた私たちのテーブルの上で唐突に電子音がじりりと響く。 すぐさま私のものではないと気づく。私の端末で設定している音とは違う。古い黒電話のベルを模した着信音。 正体を探さずとも、視界の中で懐からルクレツィアが自前の端末を取り出しているのが見えた。 「………失礼、少し席を外すわ。すぐ戻ってくるけれど、このスピリッツは好きに飲んで構わないわよ」
7 20/01/14(火)19:35:48 No.654843261
「おう、言われなくても飲むぜ。こんな上等なブランデーを好き放題飲める機会なんざそうそう無ぇからな!」 「ふん。卑しいこと」 陽気に答えたディナンドリに軽く憎まれ口を叩きながら、瀟洒な身のこなしで席を立ったルクレツィアが速やかに店外へと去っていく。 ばたん、と木製の扉の閉まる軽くて重い音を耳にしながら、いそいそと手酌で2杯目をグラスに注ぐディナンドリへなんとなく疑問をぶつけてみた。 「ディーは、ルーシーと仲良いですよね。今みたいに遠慮のない会話をするし」 「そうかぁ?ま、そうかもな。結構よく喋る方だとは思うぜ」 「でも、ディーは前に『貴族主義者は嫌いだ』と言っていましたよね。 ルーシーは、その、変わり者ですけれどそれはそれとして割とそういう魔術師だと思うのですが………なんだか不思議で」 「………んー」 やや言い淀み、ブランデーを軽く口に含ませた後、ディナンドリはさほど迷いのない口調で言った。
8 20/01/14(火)19:36:02 No.654843327
「確かに、あの女は根っこの部分はかなり&ruby(ウナス・カサス){貴族主義者}だ。俺の嫌いな人種だ。生まれ持ったものだけで人間に物差しを当てる奴らだ。 だが俺の嫌いな貴族主義者どもとひとつ違うところがある。そういう物差しでさも自慢げに偉ぶらねぇところだ。 ルーシーにとって“違う”ことは『誇り』であって『他人を見下す材料』じゃねぇ。だからかもな。 きっと頭蓋骨の中で脳みその代わりに&ruby(ブリサ・マリナ){潮っ辛い風}でも詰まってるんだろうよ。シチリア生まれだしな!」 「………そうですか。私もそう思います」 ディナンドリの屈託ない笑顔に対し、つい私は微笑んでしまう。 ルクレツィアの話なのに、なんだか我が事のように嬉しくなってしまったのだ。そうだ。ルクレツィアはそういう魔術師だ。 その認識が他者と一致していたことが私にとってとても喜ばしいことのように感じられたのだ。
9 20/01/14(火)19:36:14 No.654843395
「ま、そもそも毎日新しい飛行魔術の開発に血道上げてる阿呆がまともな貴族主義の魔術師なわけがねぇってのもあるがな! それに、そら。このアヴァローロの家が作ったブランデーと一緒さ」 「…?どういう意味です?」 要領を得ず、首を傾げた私にディナンドリはにやりと笑って言った。あの飛行魔術狂に乾杯、とグラスを掲げながら。 「根っこの部分がそいつの全てだと誰が決めた? &ruby(トップノート){第一印象}、その後に来る複雑な味わい、一番最後に訪れる余韻………。 ルーシーだけじゃねぇ。人間ってのはひとりひとり本質なんて言葉がそもそも存在しねぇから面白ぇのさ、&ruby(セニョリータ){お嬢さん}!」
10 20/01/14(火)19:42:42 No.654845526
Qに
11 20/01/14(火)19:43:15 No.654845685
連休なんてなかった泥
12 20/01/14(火)19:46:08 No.654846653
市民、連休とは何ですか?
13 20/01/14(火)19:49:14 No.654847697
いい…
14 20/01/14(火)20:22:58 No.654859226
俺もローストビーフ食べたい